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028 新たな友人
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藍はしばらく胸元を押さえ、泣いていた。
そして、涙で濡れた頬を隠すように俯いた。
「……お見苦しい姿を見せてしまい、申し訳ありません……」
その声音は恥じらいと自嘲の入り混じったものだった。
だがルシェルは首を横に振り、柔らかな笑みを浮かべる。
「いいえ、見苦しくなんてないですよ。私だって泣きたい時はあります…泣ける時にめいいっぱい泣いたらいいんです」
思いがけない言葉に、藍ははっと顔を上げる。
涙の縁に揺れる瞳と、ルシェルの澄んだ瞳がまっすぐに重なった。
二人は自然と、ほっとしたように微笑み合った。
「実は…皇后陛下に謝罪するようにと、アンダルシアの王子殿下に言われてきたのです。…自分の意思ではなくて申し訳ありません…」
「王子殿下が?」
「…はい、それはもう恐ろしい剣幕で…。王子殿下は…皇后陛下のことを、とても大切に思っていらっしゃるのですね」
「そうかしら…」
「ええ、きっと」
藍は微笑み、そして再び真剣な表情でルシェルを見た。
「皇后陛下…私に何か償いをさせて下さいませんか?」
「…償い、ですか?…そうですね…どうしてもということでしたら…私と友人になりませんか?」
「……え?」
藍は思わず目を瞬く。
「実は、私は皇后という立場もあって、本音を話せる友人が少ないのです。だから、あなたが私の友人になってくれたらとても嬉しいです」
「…それでは償いではなく、褒美になってしまいますよ…」
藍は微笑みながら言う。
「ですが…ありがとうございます。皇后陛下さえよろしければ是非私の友人になって下さい…」
ルシェルはほっとしたように微笑んだ。
「ええ、ありがとう」
「私の本来の名は……藍 丁香 《ディンシャン》と言います。皇后陛下にだけは…私の本当の名を知っていてほしいです」
「ありがとう。素敵な名前ですね。”丁香” …とはどういう意味があるのですか?」
「…私は暖かな春の日に生まれました。今は亡き私の母は、ライラックの花がとても好きでした。”春を告げるライラックの香り”という意味を込めて”丁香”と名付けたそうです」
「…とても素敵ですね。実は、ライラックは私が一番好きな花なのですよ。あなたと私はやはり縁があるようです」
ルシェルは優しく微笑みかける。
「ええ、皇后陛下」
藍は恥ずかしそうにしながら、ルシェルに微笑見返した。
「二人きりの時は丁香様とお呼びしてもよろしいですか?」
「…はい。その名を呼ぶのはきっともう皇后陛下だけですので…」
「では、私のことはルシェルと呼んでください」
「そんな…畏れ多いです…」
「何を言ってるんですか。私たちは友人でしょう?」
「…はい…ルシェル様」
二人は再び顔を合わせて微笑みあった。
「そういえば、気になっていたのですが…丁香様はどうして私が王子殿下から髪飾りを贈られたことを知っていたのですか?」
「あぁ、それはですね…たまたま王子殿下がルシェル様のお部屋に入られるのを見かけて、扉の前で聞き耳を立てていたのです…ごめんなさい」
「なるほど…では、イザベルにこの話をしたのもあなたですか?」
「…はい。申し訳ありません」
「もういいのですよ。ただ、気になっていただけですから」
ルシェルは「気にしないで」と苦笑した。
「…ルシェル様、こんな私が言うのもなんですが…イザベル様にはどうか、お気をつけください」
藍が神妙な面持ちで言う。
「…どうして?」
「彼女、きっと何か…人にはいえない秘密があると思います。私は自分が長い間人を欺いてきたので…なんとなくわかるのです。嘘のニオイ…みたいなものが」
(人にはいえない秘密…)
「そうですか…。ご忠告ありがとう、気をつけておきますね」
「何かあれば私が必ず力になります。これでも璃州ではそれなりに力があるのですよ?」
藍は少し恥ずかしそうに微笑んだ。
「ええ、ありがとう。とても心強いです」
そして、涙で濡れた頬を隠すように俯いた。
「……お見苦しい姿を見せてしまい、申し訳ありません……」
その声音は恥じらいと自嘲の入り混じったものだった。
だがルシェルは首を横に振り、柔らかな笑みを浮かべる。
「いいえ、見苦しくなんてないですよ。私だって泣きたい時はあります…泣ける時にめいいっぱい泣いたらいいんです」
思いがけない言葉に、藍ははっと顔を上げる。
涙の縁に揺れる瞳と、ルシェルの澄んだ瞳がまっすぐに重なった。
二人は自然と、ほっとしたように微笑み合った。
「実は…皇后陛下に謝罪するようにと、アンダルシアの王子殿下に言われてきたのです。…自分の意思ではなくて申し訳ありません…」
「王子殿下が?」
「…はい、それはもう恐ろしい剣幕で…。王子殿下は…皇后陛下のことを、とても大切に思っていらっしゃるのですね」
「そうかしら…」
「ええ、きっと」
藍は微笑み、そして再び真剣な表情でルシェルを見た。
「皇后陛下…私に何か償いをさせて下さいませんか?」
「…償い、ですか?…そうですね…どうしてもということでしたら…私と友人になりませんか?」
「……え?」
藍は思わず目を瞬く。
「実は、私は皇后という立場もあって、本音を話せる友人が少ないのです。だから、あなたが私の友人になってくれたらとても嬉しいです」
「…それでは償いではなく、褒美になってしまいますよ…」
藍は微笑みながら言う。
「ですが…ありがとうございます。皇后陛下さえよろしければ是非私の友人になって下さい…」
ルシェルはほっとしたように微笑んだ。
「ええ、ありがとう」
「私の本来の名は……藍 丁香 《ディンシャン》と言います。皇后陛下にだけは…私の本当の名を知っていてほしいです」
「ありがとう。素敵な名前ですね。”丁香” …とはどういう意味があるのですか?」
「…私は暖かな春の日に生まれました。今は亡き私の母は、ライラックの花がとても好きでした。”春を告げるライラックの香り”という意味を込めて”丁香”と名付けたそうです」
「…とても素敵ですね。実は、ライラックは私が一番好きな花なのですよ。あなたと私はやはり縁があるようです」
ルシェルは優しく微笑みかける。
「ええ、皇后陛下」
藍は恥ずかしそうにしながら、ルシェルに微笑見返した。
「二人きりの時は丁香様とお呼びしてもよろしいですか?」
「…はい。その名を呼ぶのはきっともう皇后陛下だけですので…」
「では、私のことはルシェルと呼んでください」
「そんな…畏れ多いです…」
「何を言ってるんですか。私たちは友人でしょう?」
「…はい…ルシェル様」
二人は再び顔を合わせて微笑みあった。
「そういえば、気になっていたのですが…丁香様はどうして私が王子殿下から髪飾りを贈られたことを知っていたのですか?」
「あぁ、それはですね…たまたま王子殿下がルシェル様のお部屋に入られるのを見かけて、扉の前で聞き耳を立てていたのです…ごめんなさい」
「なるほど…では、イザベルにこの話をしたのもあなたですか?」
「…はい。申し訳ありません」
「もういいのですよ。ただ、気になっていただけですから」
ルシェルは「気にしないで」と苦笑した。
「…ルシェル様、こんな私が言うのもなんですが…イザベル様にはどうか、お気をつけください」
藍が神妙な面持ちで言う。
「…どうして?」
「彼女、きっと何か…人にはいえない秘密があると思います。私は自分が長い間人を欺いてきたので…なんとなくわかるのです。嘘のニオイ…みたいなものが」
(人にはいえない秘密…)
「そうですか…。ご忠告ありがとう、気をつけておきますね」
「何かあれば私が必ず力になります。これでも璃州ではそれなりに力があるのですよ?」
藍は少し恥ずかしそうに微笑んだ。
「ええ、ありがとう。とても心強いです」
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