まだまだこれからだ!

九重

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第一章 異世界の住人はとても個性的でした。

ただし、イケメンに限ります!

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「ああ、そこじゃ。そこを強く」

「ココ?」

 気持ち良さそうに頷くディアナの様子を見ながら、うららは手に力を入れる。

「うっ、………… ん~」

 一瞬息を止めたディアナは、次の瞬間気持ち良さそうに長い息を吐き出す。
 体の力をダラリとぬいて、フニャリと蕩ける老婆の顔を、暖は複雑な気分で見つめた。


 あろうことか、暖が温泉の召喚に巻き込まれたという、とんでもない事情で異世界に来てから一ヶ月。
 暖は最近の日課になった、ディアナへのマッサージの最中だった。
 どうなることか不安だった異世界の暮らしも、ようやく慣れてきた日々だ。
 言葉も少しずつだが、話せるようになってきた。

「ああ、もういいぞ。そろそろ出かける時間じゃろう? 早くしないと遅刻するぞ。 ……… 今日は、あのボケ竜のところからか?」

 シッシッと、暖を追い払うみたいな手つきをしながら、老いた魔女はあくびをする。
 遅刻しそうな時間になってしまったのは、長々とマッサージをさせていたディアナのせいだろうとか、色々言いたい事はあるのだが、まだそこまで話せない暖は、黙って頷く。

(相手が何を話しているかは、だいたいわかるようになったんだけど、喋るのは難しいのよね)

 言いたい事が言えないのは結構ストレスがたまる。

「行ッテキマス」

 確かに、遅刻しそうな時間なので、暖は慌ててディアナの家を飛び出した。




 ディアナの家に住み、生活を保証してもらったり、アルディアに言葉を教えてもらったりする代わりに、暖は診療所の手伝いをしている。
 主な仕事は、診療所の外で暮らしている患者の定期的なお世話だ。
 暮らしてみてわかったのだが、ここは村全体が療養所のような所だった。

「そんな立派な所じゃない。ようは世間で役にたたなくなった”モノ”を一ヶ所に押し込めている廃棄場のようなものだ」

 辛辣にアルディアは、そう話す。 
 喘息持ちの王子さまは唇を歪めて笑った。――――役立たずな”モノ”の中には、彼自身も入っているのだ。

 年老いて関節痛がひどい魔法使いの老婆。
 長年の激務により腰を痛めてしまった女騎士。
 認知症の竜やその他諸々……

 ここには普通に暮らさせるには、本人にも周囲にも問題の有る者達が集められている。

「療養などと聞こえはいいが、不要品を集めただけだ」

 アルディアは、吐き捨てるようにそう言った。
 暖には、かける言葉もない。
 この世界に来て日も浅い暖が、何をどう言ったとしても、アルディアの考えが変わるはずもないだろう。
 だから、暖は、アルディアをしっかり見つめる。


「でも、あなたがここに居てくれて、私はとっても助かったわ」


 何の役にも立たない人間など居ないのだと、暖は伝えたい。
 彼女の言葉を聞いて、綺麗な紫の瞳が、わずかに見開かれた。
 一瞬の内に、白い頬を赤く染めたアルディアは、プイッと顔をそむける。

「お前のような異世界人の役に立ってどうなる」

 どうにも素直じゃない王子さまだった。
 暖は、そんなアルディアの様子に、頬をゆるめる。

(可愛いのよね)

 多分暖より年上だろうアルディアだが、美しく可憐な容姿のせいもあり、暖には年下の美少年にしか思えない。

(喘息も同じだし、…… 妹みたい)

 高飛車な発言も病弱ゆえの甘えと思えば、さほど腹も立たない。
 暖は、お姉ちゃん気質なのだ。

(それに何より美形だし!)

 姿を見れば、眼福。声を聞けば、耳が喜ぶレベルの人間などそうそういない。
 アルディアのすることなら、多少のことは許せる気持ちになるのだから、不思議だ。
 ”ただしイケメンに限る!” というのは、本当にあるのだなと、実感した暖だった。




 そんなことを考えながら歩いていた暖の真上から、突如大きな声が降ってくる。 

『知らぬ顔だな、何者だ!?』

 自分の頭の上を見上げた。

 そこにあったのは、絵本の挿し絵か、はたまた最近流行りのカードゲームのビジュアルカードなのかというような巨大竜の顔だった。
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