まだまだこれからだ!

九重

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第二章 平穏な日々ばかりではないようです。

魔族の目的

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「ほほう、それは初耳じゃな」

 情報通のディアナでも、知らないことはあるようで、魔女は小さな目を大きく見開く。

「絶対、その事を外に漏らさぬようにと、父が――――魔王が、魔法をかけたからな」

 神妙な顔で、ダンケルは話した。
 どんなに規制をしたとしても機密は必ず漏れる。過去の数多の歴史がその事実を物語っている。
 それを危惧した魔王は、魔族全員に対し秘密を明かそうとした途端その者が死ぬ魔法をかけたそうだ。


「……それはまた、バカな魔法をかけたものじゃな」

 ディアナは、顔をしかめてそう評した。

「ナンデ?」

 うららは不思議そうにディアナにたずねる。
 秘密を漏らさないために魔王がかけた魔法は、この上なく有効な手段だろう。
 聞かれたディアナはバカにするかのように鼻で笑った。

「そんなことをすれば、魔族はその問題を必ず内部だけで解決しなければならなくなる。――――愚の骨頂じゃ」

 知識はどうしても生まれ育った環境によって偏る。解決できない問題に面した時、発想の転換をはかることは常識であり、その際同じような考え方の者ばかり集まっても結果は期待できない。

「そうでなくとも、エルフや竜族のように永くを生きて知識を蓄えたものに助けを求めないなど、気がしれんな」

「魔族だって長命種だ!」

 嘲るディアナに憤慨し、ダンケルが怒鳴り返す。

「ムダに大きい闘争本能で、殺しあいを繰り返さなければな。――――年を取り弱った者を獲物としか見なさず端から殺す種族が、どんな知恵を蓄えられる?」

 ディアナは蔑んだ笑いを浮かべた。
 言い返せずにダンケルは唇を噛む。
 老いた魔女は、小さなため息をこぼした。


「……まあよい。今は、魔族の愚かさをあげつらっておる場合ではないからの。それで、いよいよ行き詰まった魔族が外から解決策を探そうとして、治癒魔法の噂に行き着いたんじゃな?」

 ディアナの確認の言葉に、ダンケルは渋い顔で頷く。

「戦いを起こせば、戦場に治癒魔法の使い手が現れると思ったんだ」

 人間の治める国のひとつに治癒魔法の使い手がいるという噂がたったのは、ほんの少し前のことだった。
 信憑性も何もない、小さなこぼれ話みたいな噂。
 しかし万策尽きて藁にも縋る思いだった魔族は、そんな噂に縋りついた。
 隣国トクシャを操り、戦争を仕掛ける。

 ……ところが戦いを起こしたものの肝心な治癒魔法の使い手はさっぱり現れなかった。
 それでも微かな噂の痕跡をたどれば、戦場に出てきた王子の一人が以前では考えられないほど元気になっているという事実に突き当たった。

「王子の過去を探って、この村を見つけたんだ」

 ダンケルは、そう言った。

「やっぱり、あのクソ王子は一度潰した方がいいですね」

 ボソッとリオールが呟く。

「リ、リオール?」

「あぁ、ウララ心配しないでください。冗談ですから」

 顔を青くした暖に、リオールは美しく微笑んだ。
 ちっとも安心できないのは何故だろう。

「あんな、何時でも潰せるような王子のことは後じゃ。それより――――」

「ツ、潰シチャ、ダメ!」

 物騒なディアナの発言に、暖は焦って声を上げる。

「冗談だと言っておろうが! お前はちと黙っておれ!」

 たちまちディアナに叱りつけられて、暖は渋々口を噤んだ。
 冗談に聞こえないのは、絶対ディアナのせいだと思う。しかしここで文句を言えるほど、暖は強くなかった。
 彼女を黙らせた魔女は、今度は視線をダンケルに向ける。
 睨み付けられた体格のよい魔族は、小さく体を震わせた。

「それより、今問題なのは、魔族、お前じゃ! お前は、この話を我らにしてどうするつもりじゃ? この場で生きて話ができているからには、お前の行動は魔王の意向をくんだものと考えてよいのじゃろうな?」

 魔王は秘密を洩らした魔族が直ちに死ぬ魔法をかけたのだと、ダンケルは言った。
 しかし彼は生きてここに立っている。
 ならば、彼だけ特別に秘密を話せる許しを得ているということなのだろう。

 ディアナの問いに、ダンケルは神妙に頷く。

「俺は、父王からの密命を受けてこの村に来たんだ」

 やっぱりそうだったのかと全員が思う中、魔族の王子は言葉を続ける。

「俺の受けた命令は、二つ。一つは、治癒魔法の使い手を突き止めること。そしてもう一つは……その者を拉致することだ」
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