まだまだこれからだ!

九重

文字の大きさ
92 / 102
第四章 選んだ先の未来へ向かいます!

親子喧嘩がはじまってしまいました

しおりを挟む
(……移動?)

 ようやく意識がはっきりしたうららが目を開ければ、そこには呆れた表情のダンケルの顔があった。

「そんなこと、できるはずがありません。ウララの意思を無視して彼女を隠したりしたら、ギオルやディアナだちの怒りを買うだけです! ……そもそも、ウララが魔界にいるのはあくまで彼女の好意ゆえ。それを裏切るような真似をするのは自殺行為です!」

 ダンケルは、父王を睨みつけた。

 その瞬間、魔王の纏う雰囲気が怒りで膨張する。
 比喩ではなく、本当に魔王の体は大きくなった。


「では! お前は、このまま娘を奴らに渡すつもりか!? 後宮の病の本格的な治療はこれからなのだぞ!」


 怒鳴る姿は恐ろしく、空気がビリビリと震動する。
 憤怒の表情を浮かべたまま、魔王は正妃やモノアの方にチラリと視線を向けた。

 ――――暖のおかげで後宮の女性の意識は変わりつつある。
 彼女のマッサージを受けた侍女や下女は癒され、女性としての機能を取り戻してもいる。
 しかし、それはまだほんの一部。
 今、暖がいなくなれば全てが元の木阿弥に戻る可能性は限りなく大きい。
 何より正妃に対する治療は、はじまってもいなかった。


「――――我らは、まだ、その娘を、失えないのだ」


 魔王の言葉は、魔族全体の正直な思いだろう。心の叫びと言ってもいい。
 しかし、ダンケルは必死で魔王に対し首を横に振った。

「だから! それはウララの意思次第なのです! ……大丈夫です。彼女は呆れるほどの。いったん彼女を人間界に返したとしても、ウララは魔族を絶対見捨てません!」

 魔王に対し、キッパリと言い切った。
 それはそれで、暖としては複雑な評価だ。

(……お人好しって、魔族にとって褒め言葉じゃないわよね?)

 ムスッとしてダンケルを睨むが、必死なダンケルは気づきもしない。

「どこに、そんな保証がある!?」

 魔王は不信そうに怒鳴った。

「彼女を知る者なら全員保証してくれるはずです。――――そうですね、正妃様?」

 ダンケルは、話を正妃に振る。
 問われた正妃は、不承不承頷いた。

「ダンケル殿と意見を同じくするのは不本意なのですが……ウララが、魔族の我らにとっては考えられないほどに素直で、お人好――――コホン、優しい娘であることは会ったばかりの私にもわかります」

 正妃の言葉も、なんというか微妙な内容だ。
 正妃とダンケルの二人から、お人好し認定をされた暖はなんだか釈然としない。

 しかし、それでも魔王は納得しなかった。


「人の好意など、信じられるか!」


 大声で叫ぶ。
 その言葉に、


「……魔族の好意よりは、信じられるわよね」


 ついつい暖は言い返してしまった。
 日本語で話された言葉は今までであれば通じない。
 しかし、魔王は翻訳魔法を持っていた。
 ただでさえ怒っていた魔王は、ギロリと暖を睨みつける。イケメンの怒り顔は、迫力万点である。

(……若作りのくせに)

 その顔に、暖は無性に腹が立った。


「他人を信じられない者は、他人からも信じてもらえなくなる者よ。王として、それはどうなの?」


 気づけば、彼女はそう口走っていた。
 一瞬目を見開いた魔王は、次の瞬間ニヤリと笑う。

「よく回る口だ。……どうやら遠慮は、いらないようだな」

 言うなり、暖に手を伸ばしてくる。

「お止めください! 父上! 魔界が滅んでしまいます」

 焦ったダンケルが立ち塞がるが、魔王の手は止まらなかった。

「安心しろ。私の魔力で少しの間なら防御魔法を無力化できる。その間に地下牢に放り込めば、奴らも手出しできまい!」

 それは、最低最悪な悪手だ。
 そんなことをしてしまったら、魔界の全てが壊滅するまでギオルやディアナたちを止めることができなくなる。

「……バカなの?」

 思わず暖は呟いた。
 ダンケルも、大きく顔をしかめる。


「逃げろ、ウララ! 父は俺がくい止める! 無事に逃げて俺が迎えに行くのを待っていてくれ! ……お前は、また魔界に来てくれるだろう?!」


叫ぶなりダンケルは魔王に対し、攻撃を放った。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...