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仇討
四十八.渡河の秀吉
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同じ頃・・・。
淀川沿いを北上してきた池田元助隊が東側から中央の斎藤隊めがけて切り込む。これを阻止せんと、明智方の津田信晴隊もまた中央へ寄せる形で元助隊の横を突こうとするが、それを中村一氏の狙撃隊に狙い撃ちされ、怯んだところを密かに渡河した池田勢の分隊、加藤光泰隊が東側から津田隊を急襲する。ほぼ真横から襲撃を受ける形となった津田隊は一挙に崩壊し、光秀本陣への道がまっすぐ拓かれる。加藤隊はそのまま残党を蹴散らしながら直進、その後を池田恒興隊、さらに織田信孝隊が後を追うように光秀本陣へ駆け出す。津田隊の崩壊は瞬く間に戦線の西側へ波及し、中央の斎藤隊、伊勢隊も総崩れとなり、池田元助と高山右近は渡河を果たす。中川隊は敵勢を東の方へ追いやり、官兵衛らを襲った並河隊と松田隊も散り散りとなる。秀吉勢の止まらぬ攻勢により、明智本隊はろくに戦わずに勝竜寺城方面へ撤退する。秀吉は敵陣突破の報せを受けるとともに、本軍を宝積寺から北上させ、円明寺川を渡河する。伊勢隊が中川隊に攻撃を仕掛けてから、わずか一刻ほどの合戦であった。
雨はやや小降りとなるが、辺りの視界は暗くなる。光秀の本陣があった御坊塚には新たに数台の篝火が立てられ、そこへ主だった将兵たちが集い始める。秀勝、小一郎、秀政、元助、右近、頼隆・・・。そして秀吉の一際甲高い声が周辺に響く。
「秀勝殿ぉぉっ、何ちゅう無茶なことするんじゃぁっ。もしものことがあったらどないするんじゃあ。」
秀吉は秀勝に抱きついては放し、抱きついては放し、を何度も繰り返す。
「もっ、申し訳ございません、義父上。義叔父上や官兵衛殿たちが狙われてると知ったら、居ても立っても居られなくなり申して、ついぞ飛び出してしまいました。」
秀吉はまた秀勝に抱きついて放す。
「じゃからっちゅうて、何も云わんで勝手に飛び出すなんぞ、命令違反じゃぞぉ・・・。小六ぅっ、お主がついていながら、どういうこっちゃぁ。」
「義父上、小六殿を責めないでくだされ。わたしが命じたのです。わたしが責めを追うべきです。」
秀吉はまた秀勝に抱きつき、小六を睨みながら小声で云う。
「いやっ、小六が悪いっ・・・。」
そこへ例の大柄の間者に背負われた官兵衛が、大笑いしながら寄って来る。
「はっ、はっ、はっ、はっ・・・。何だか騒がしいのぉ。」
官兵衛は間者から降り、秀勝の側の床几に座る。
「秀勝殿ぉ、御義父上の御命令なしで飛び出したとは真かっ・・・。それはいかんのぉ。勝三郎殿が云った通り、実質の総大将は御義父上じゃ。総大将の命無しで勝手に動くのは宜しくないのぉ。それにたとえ義理とはいえ、親は子を心配するものじゃ。御義父上が怒るのも無理はない。しばらく御義父上から懇々と説教を食いなされ・・・。」
秀勝は、はぁと溜息をつきながら俯く。
「じゃが、わしは秀勝殿とは血のつながりはない。ただ共に戦に臨んだ者として一言云わせてもらう。」
秀勝は眼を丸くしながら、ごくりと唾を呑む。
「此度の戦ぶり、お見事でした。秀勝様に御加勢いただかなければ、わしらはとうに総崩れになっていたでしょう。秀勝様が勇敢に闘う御姿にわしらは救われました。一同に代わって御礼申し上げます。」
頭を下げる官兵衛に秀勝は慌てる。
「おやめ下されっ、官兵衛殿っ。わたしはただ無我夢中だっただけです。それに傷を負って馬から落ちてしまう始末なのに・・・何だか恥かしゅうござる。」
そこへ小一郎も加わる。
「いやいやっ、わしからも礼を申す。秀勝殿の檄が聴こえると、皆の眼の色が俄然変わって、立ち振る舞いまで変わりましたぞぃ。御立派でございました。」
「義叔父上までぇ・・・。」
一同が暖かな眼差しで秀勝を讃える中、秀吉が嫉妬する。
「小一郎っ、官兵衛っ、お主らがそげなこつ云うたら、わしゃこれから秀勝殿に説教できんようになるじゃろうがぁ。ええ加減にせぇぃ。」
秀吉の小言で場が一段と明るくなるが、こういう折に調子に乗った元助は抜け目ない。
「それにしても秀勝殿は少々無謀なところがありますなぁ。これは御側に見張りを付けねばなりません。よしっ、今からでも輝政をここへ呼び寄せましょう。」
秀勝が眼を輝かせ、一同が笑顔でほぉほぉと納得するところ、秀吉だけが拗ねる。
「何で、そんな話になるんじゃぁ。」
篝火で照らされたところだけが和やかな雰囲気となる。そこへ清秀が入ってくる。
「伊勢貞興を討ち取ったぞぉぃ・・・。」
「おぉっ、瀬兵衛殿っ、でかしたぞぉ。」
右近が清秀に気付き、床几に座らせる。
「あぁっ、じゃが彼奴らに邪魔されて、日向守に勝竜寺城に入られてしもうたわぃ。」
すると頼隆がずっと気になっていたことを尋ねる。
「三七殿は如何されたか、ご存じか。」
「既に城を攻めとるようじゃが、日向守めっ、どうもあの城を改築しとる。ちぃと手こずりそうじゃ。」
秀吉の判断は早い。
「勝三郎と五郎左殿がおるから信孝殿も無茶はせんじゃろう。なぁに。囲んでしまえばこっちのもんよぉ・・・。段取りを云うぞぃ。摂津衆は勝竜寺城を囲んでくれ。わしらと頼隆殿は淀の城を攻める。官兵衛も秀勝殿を御連れして一緒に来いっ。久太郎と小一郎は勝竜寺城の北に陣取って、坂本からの連絡を絶ってくんろ・・・。あぁっ、小六っ、おめぇ、もうえぇから久太郎らと行けっ。」
最後に秀吉は一同を労う。
「皆、手負いの兵も多かろうし、日も暮れちょるんで急いて攻めんでもえぇ。油断こそならんが、ここからは皆が無事であることも肝要じゃぁ。・・・よぉっしっ、こん仇討の仕上げにかかるぞぉぃ・・・。」
淀川沿いを北上してきた池田元助隊が東側から中央の斎藤隊めがけて切り込む。これを阻止せんと、明智方の津田信晴隊もまた中央へ寄せる形で元助隊の横を突こうとするが、それを中村一氏の狙撃隊に狙い撃ちされ、怯んだところを密かに渡河した池田勢の分隊、加藤光泰隊が東側から津田隊を急襲する。ほぼ真横から襲撃を受ける形となった津田隊は一挙に崩壊し、光秀本陣への道がまっすぐ拓かれる。加藤隊はそのまま残党を蹴散らしながら直進、その後を池田恒興隊、さらに織田信孝隊が後を追うように光秀本陣へ駆け出す。津田隊の崩壊は瞬く間に戦線の西側へ波及し、中央の斎藤隊、伊勢隊も総崩れとなり、池田元助と高山右近は渡河を果たす。中川隊は敵勢を東の方へ追いやり、官兵衛らを襲った並河隊と松田隊も散り散りとなる。秀吉勢の止まらぬ攻勢により、明智本隊はろくに戦わずに勝竜寺城方面へ撤退する。秀吉は敵陣突破の報せを受けるとともに、本軍を宝積寺から北上させ、円明寺川を渡河する。伊勢隊が中川隊に攻撃を仕掛けてから、わずか一刻ほどの合戦であった。
雨はやや小降りとなるが、辺りの視界は暗くなる。光秀の本陣があった御坊塚には新たに数台の篝火が立てられ、そこへ主だった将兵たちが集い始める。秀勝、小一郎、秀政、元助、右近、頼隆・・・。そして秀吉の一際甲高い声が周辺に響く。
「秀勝殿ぉぉっ、何ちゅう無茶なことするんじゃぁっ。もしものことがあったらどないするんじゃあ。」
秀吉は秀勝に抱きついては放し、抱きついては放し、を何度も繰り返す。
「もっ、申し訳ございません、義父上。義叔父上や官兵衛殿たちが狙われてると知ったら、居ても立っても居られなくなり申して、ついぞ飛び出してしまいました。」
秀吉はまた秀勝に抱きついて放す。
「じゃからっちゅうて、何も云わんで勝手に飛び出すなんぞ、命令違反じゃぞぉ・・・。小六ぅっ、お主がついていながら、どういうこっちゃぁ。」
「義父上、小六殿を責めないでくだされ。わたしが命じたのです。わたしが責めを追うべきです。」
秀吉はまた秀勝に抱きつき、小六を睨みながら小声で云う。
「いやっ、小六が悪いっ・・・。」
そこへ例の大柄の間者に背負われた官兵衛が、大笑いしながら寄って来る。
「はっ、はっ、はっ、はっ・・・。何だか騒がしいのぉ。」
官兵衛は間者から降り、秀勝の側の床几に座る。
「秀勝殿ぉ、御義父上の御命令なしで飛び出したとは真かっ・・・。それはいかんのぉ。勝三郎殿が云った通り、実質の総大将は御義父上じゃ。総大将の命無しで勝手に動くのは宜しくないのぉ。それにたとえ義理とはいえ、親は子を心配するものじゃ。御義父上が怒るのも無理はない。しばらく御義父上から懇々と説教を食いなされ・・・。」
秀勝は、はぁと溜息をつきながら俯く。
「じゃが、わしは秀勝殿とは血のつながりはない。ただ共に戦に臨んだ者として一言云わせてもらう。」
秀勝は眼を丸くしながら、ごくりと唾を呑む。
「此度の戦ぶり、お見事でした。秀勝様に御加勢いただかなければ、わしらはとうに総崩れになっていたでしょう。秀勝様が勇敢に闘う御姿にわしらは救われました。一同に代わって御礼申し上げます。」
頭を下げる官兵衛に秀勝は慌てる。
「おやめ下されっ、官兵衛殿っ。わたしはただ無我夢中だっただけです。それに傷を負って馬から落ちてしまう始末なのに・・・何だか恥かしゅうござる。」
そこへ小一郎も加わる。
「いやいやっ、わしからも礼を申す。秀勝殿の檄が聴こえると、皆の眼の色が俄然変わって、立ち振る舞いまで変わりましたぞぃ。御立派でございました。」
「義叔父上までぇ・・・。」
一同が暖かな眼差しで秀勝を讃える中、秀吉が嫉妬する。
「小一郎っ、官兵衛っ、お主らがそげなこつ云うたら、わしゃこれから秀勝殿に説教できんようになるじゃろうがぁ。ええ加減にせぇぃ。」
秀吉の小言で場が一段と明るくなるが、こういう折に調子に乗った元助は抜け目ない。
「それにしても秀勝殿は少々無謀なところがありますなぁ。これは御側に見張りを付けねばなりません。よしっ、今からでも輝政をここへ呼び寄せましょう。」
秀勝が眼を輝かせ、一同が笑顔でほぉほぉと納得するところ、秀吉だけが拗ねる。
「何で、そんな話になるんじゃぁ。」
篝火で照らされたところだけが和やかな雰囲気となる。そこへ清秀が入ってくる。
「伊勢貞興を討ち取ったぞぉぃ・・・。」
「おぉっ、瀬兵衛殿っ、でかしたぞぉ。」
右近が清秀に気付き、床几に座らせる。
「あぁっ、じゃが彼奴らに邪魔されて、日向守に勝竜寺城に入られてしもうたわぃ。」
すると頼隆がずっと気になっていたことを尋ねる。
「三七殿は如何されたか、ご存じか。」
「既に城を攻めとるようじゃが、日向守めっ、どうもあの城を改築しとる。ちぃと手こずりそうじゃ。」
秀吉の判断は早い。
「勝三郎と五郎左殿がおるから信孝殿も無茶はせんじゃろう。なぁに。囲んでしまえばこっちのもんよぉ・・・。段取りを云うぞぃ。摂津衆は勝竜寺城を囲んでくれ。わしらと頼隆殿は淀の城を攻める。官兵衛も秀勝殿を御連れして一緒に来いっ。久太郎と小一郎は勝竜寺城の北に陣取って、坂本からの連絡を絶ってくんろ・・・。あぁっ、小六っ、おめぇ、もうえぇから久太郎らと行けっ。」
最後に秀吉は一同を労う。
「皆、手負いの兵も多かろうし、日も暮れちょるんで急いて攻めんでもえぇ。油断こそならんが、ここからは皆が無事であることも肝要じゃぁ。・・・よぉっしっ、こん仇討の仕上げにかかるぞぉぃ・・・。」
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