生残の秀吉

Dr. CUTE

文字の大きさ
48 / 201
仇討

四十八.渡河の秀吉

しおりを挟む
同じ頃・・・。

淀川よどがわ沿いを北上してきた池田元助隊いけだもとすけたいが東側から中央の斎藤隊さいとうたいめがけて切り込む。これを阻止せんと、明智方あけちがた津田信晴隊つだのぶはるたいもまた中央へ寄せる形で元助隊もとすけたいの横を突こうとするが、それを中村一氏なかむらかずうじの狙撃隊に狙い撃ちされ、ひるんだところをひそかに渡河とかした池田勢いけだぜいの分隊、加藤光泰隊かとうみつやすたいが東側から津田隊つだたいを急襲する。ほぼ真横から襲撃を受ける形となった津田隊つだたいは一挙に崩壊し、光秀みつひで本陣への道がまっすぐひらかれる。加藤隊かとうたいはそのまま残党を蹴散けちらしながら直進、その後を池田恒興隊いけだつねおきたい、さらに織田信孝隊おだのぶたかたいが後を追うように光秀みつひで本陣へ駆け出す。津田隊つだたいの崩壊はまたたく間に戦線の西側へ波及し、中央の斎藤隊さいとうたい伊勢隊いせたい総崩そうくずれとなり、池田元助いけだもとすけ高山右近たかやまうこん渡河とかを果たす。中川隊なかがわたいは敵勢を東の方へ追いやり、官兵衛かんべえらを襲った並河隊なみかわたい松田隊まつだたいりとなる。秀吉勢ひでよしぜいの止まらぬ攻勢により、明智あけち本隊はろくに戦わずに勝竜寺城しょうりゅうじじょう方面へ撤退する。秀吉ひでよしは敵陣突破のしらせを受けるとともに、本軍を宝積寺ほうしゃくじから北上させ、円明寺川えんみょうじがわ渡河とかする。伊勢隊いせたい中川隊なかがわたいに攻撃を仕掛けてから、わずか一刻いっこくほどの合戦かっせんであった。

雨はやや小降りとなるが、辺りの視界は暗くなる。光秀みつひでの本陣があった御坊塚ごぼうづかには新たに数台の篝火かがりびが立てられ、そこへ主だった将兵たちが集い始める。秀勝ひでかつ小一郎こいちろう秀政ひでまさ元助もとすけ右近うこん頼隆よりたか・・・。そして秀吉ひでよし一際ひときわ甲高かんだかい声が周辺に響く。

秀勝殿ひでかつどのぉぉっ、何ちゅう無茶なことするんじゃぁっ。もしものことがあったらどないするんじゃあ。」

秀吉ひでよし秀勝ひでかつに抱きついては放し、抱きついては放し、を何度も繰り返す。

「もっ、申し訳ございません、義父上ちちうえ義叔父上おじうえ官兵衛殿かんべえどのたちが狙われてると知ったら、ても立ってもられなくなり申して、ついぞ飛び出してしまいました。」

秀吉ひでよしはまた秀勝ひでかつに抱きついて放す。

「じゃからっちゅうて、何も云わんで勝手に飛び出すなんぞ、命令違反じゃぞぉ・・・。小六ころくぅっ、お主がついていながら、どういうこっちゃぁ。」

義父上ちちうえ小六殿ころくどのを責めないでくだされ。わたしが命じたのです。わたしが責めを追うべきです。」

秀吉ひでよしはまた秀勝ひでかつに抱きつき、小六ころくにらみながら小声で云う。

「いやっ、小六ころくが悪いっ・・・。」

そこへ例の大柄の間者かんじゃに背負われた官兵衛かんべえが、大笑いしながら寄って来る。

「はっ、はっ、はっ、はっ・・・。何だかさわがしいのぉ。」

官兵衛かんべえ間者かんじゃから降り、秀勝ひでかつそば床几しょうぎに座る。

秀勝殿ひでかつどのぉ、御義父上おちちうえ御命令ごめいれいなしで飛び出したとはまことかっ・・・。それはいかんのぉ。勝三郎殿かつさぶろうどのが云った通り、実質の総大将そうだいしょう御義父上おちちうえじゃ。総大将そうだいしょうの命無しで勝手に動くのはよろしくないのぉ。それにたとえ義理とはいえ、親は子を心配するものじゃ。御義父上おちちうえが怒るのも無理はない。しばらく御義父上おちちうえから懇々こんこんと説教をくらいなされ・・・。」

秀勝ひでかつは、はぁと溜息ためいきをつきながらうつむく。

「じゃが、わしは秀勝殿ひでかつどのとは血のつながりはない。ただ共にいくさのじんだ者として一言云わせてもらう。」

秀勝ひでかつは眼を丸くしながら、ごくりとつばむ。

此度こたびいくさぶり、お見事でした。秀勝様ひでかつさま御加勢ごかせいいただかなければ、わしらはとうに総崩そうくずれになっていたでしょう。秀勝様ひでかつさまが勇敢に闘う御姿おすがたにわしらは救われました。一同に代わって御礼おんれい申し上げます。」

頭を下げる官兵衛かんべえ秀勝ひでかつあわてる。

「おやめ下されっ、官兵衛殿かんべえどのっ。わたしはただ無我夢中むがむちゅうだっただけです。それに傷をって馬から落ちてしまう始末しまつなのに・・・何だか恥かしゅうござる。」

そこへ小一郎こいちろうも加わる。

「いやいやっ、わしからも礼を申す。秀勝殿ひでかつどのげきが聴こえると、皆の眼の色が俄然がぜん変わって、立ち振る舞いまで変わりましたぞぃ。御立派ごりっぱでございました。」

義叔父上おじうえまでぇ・・・。」

一同が暖かな眼差まなざしで秀勝ひでかつたたえる中、秀吉ひでよし嫉妬しっとする。

小一郎こいちろうっ、官兵衛かんべえっ、お主らがそげなこつ云うたら、わしゃこれから秀勝殿ひでかつどのに説教できんようになるじゃろうがぁ。ええ加減にせぇぃ。」

秀吉ひでよし小言こごとで場が一段と明るくなるが、こういうおりに調子に乗った元助もとすけは抜け目ない。

「それにしても秀勝殿ひでかつどのは少々無謀むぼうなところがありますなぁ。これは御側おそばに見張りを付けねばなりません。よしっ、今からでも輝政てるまさをここへ呼び寄せましょう。」

秀勝ひでかつが眼をかがやかせ、一同が笑顔でほぉほぉと納得するところ、秀吉ひでよしだけがねる。

「何で、そんな話になるんじゃぁ。」

篝火かがりびで照らされたところだけがなごやかな雰囲気となる。そこへ清秀きよひでが入ってくる。

伊勢貞興いせさだおきを討ち取ったぞぉぃ・・・。」

「おぉっ、瀬兵衛殿せひょうえどのっ、でかしたぞぉ。」

右近うこん清秀きよひでに気付き、床几しょうぎに座らせる。

「あぁっ、じゃが彼奴きゃつらに邪魔されて、日向守ひゅうがのかみ勝竜寺城しょうりゅうじじょうに入られてしもうたわぃ。」

すると頼隆よりたかがずっと気になっていたことを尋ねる。

三七殿さんしちどの如何いかがされたか、ご存じか。」

「既に城を攻めとるようじゃが、日向守ひゅうがのかみめっ、どうもあの城を改築しとる。ちぃと手こずりそうじゃ。」

秀吉ひでよしの判断は早い。

勝三郎かつさぶろう五郎左殿ごろうざどのがおるから信孝殿のぶたかどのも無茶はせんじゃろう。なぁに。囲んでしまえばこっちのもんよぉ・・・。段取りを云うぞぃ。摂津衆せっつしゅう勝竜寺城しょうりゅうじゅじょうを囲んでくれ。わしらと頼隆殿よりたかどのよどの城を攻める。官兵衛かんべえ秀勝殿ひでかつどの御連おつれして一緒に来いっ。久太郎きゅうたろう小一郎こいちろう勝竜寺城しょうりゅうじじょうの北に陣取って、坂本さかもとからの連絡をってくんろ・・・。あぁっ、小六ころくっ、おめぇ、もうえぇから久太郎きゅうたろうらと行けっ。」

最後に秀吉ひでよしは一同をねぎらう。

「皆、手負いの兵も多かろうし、日も暮れちょるんでいて攻めんでもえぇ。油断こそならんが、ここからは皆が無事であることも肝要じゃぁ。・・・よぉっしっ、こん仇討あだうちの仕上げにかかるぞぉぃ・・・。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

マルチバース豊臣家の人々

かまぼこのもと
歴史・時代
1600年9月 後に天下人となる予定だった徳川家康は焦っていた。 ーーこんなはずちゃうやろ? それもそのはず、ある人物が生きていたことで時代は大きく変わるのであった。 果たして、この世界でも家康の天下となるのか!?  そして、豊臣家は生き残ることができるのか!?

if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜

かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。 徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。 堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる…… 豊臣家に味方する者はいない。 西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。 しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。 全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

【アラウコの叫び 】第1巻/16世紀の南米史

ヘロヘロデス
歴史・時代
【毎日07:20投稿】 1500年以降から300年に渡り繰り広げられた「アラウコ戦争」を題材にした物語です。 マプチェ族とスペイン勢力との激突だけでなく、 スペイン勢力内部での覇権争い、 そしてインカ帝国と複雑に様々な勢力が絡み合っていきます。 ※ 現地の友人からの情報や様々な文献を元に史実に基づいて描かれている部分もあれば、 フィクションも混在しています。 また動画制作などを視野に入れてる為、脚本として使いやすい様に、基本は会話形式で書いています。 HPでは人物紹介や年表等、最新話を先行公開しています。 公式HP:アラウコの叫び youtubeチャンネル名:ヘロヘロデス insta:herohero_agency tiktok:herohero_agency

【アラウコの叫び 】第3巻/16世紀の南米史

ヘロヘロデス
歴史・時代
【毎週月曜07:20投稿】 3巻からは戦争編になります。 戦物語に関心のある方は、ここから読み始めるのも良いかもしれません。 ※1、2巻は序章的な物語、伝承、風土や生活等事を扱っています。 1500年以降から300年に渡り繰り広げられた「アラウコ戦争」を題材にした物語です。 マプチェ族とスペイン勢力との激突だけでなく、 スペイン勢力内部での覇権争い、 そしてインカ帝国と複雑に様々な勢力が絡み合っていきます。 ※ 現地の友人からの情報や様々な文献を元に史実に基づいて描かれている部分もあれば、 フィクションも混在しています。 動画制作などを視野に入れてる為、脚本として使いやすい様に、基本は会話形式で書いています。 HPでは人物紹介や年表等、最新話を先行公開しています。 公式HP:アラウコの叫び youtubeチャンネル名:ヘロヘロデス insta:herohero_agency tiktok:herohero_agency

対ソ戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。 前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。 未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!? 小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!

処理中です...