【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清

文字の大きさ
19 / 129
第一章 社畜と女子高生と湾岸タワマンルームシェア

19.地元の女の子と新しい幸せ

しおりを挟む


「付き合うって……そんな……そんな簡単に言っちゃっていいんですか?」


 突然告白した俺を、篠田は真っ赤な顔で見つめている。

 嬉しいとか悲しいとかではなく、とにかく驚いているだけのようだ。


「……突然なのはわかってるけど。お前とは会社でいつも一緒にいるから、言い出すタイミングがわからなかった」

「じゃあ、宮本さん、私のこと、昔からずっと、好きだったんですか」


 いい大人なんだから、好きだとか好きじゃないとか、どっちかが告白なんてもうガラじゃない。

 自然に意気投合して付き合い始めればよかったのだが。

 奥手な篠田の動きを待っていたら、いつまでも話が進まない。

 ここは男の俺からリードするしかなかった。


「ああ……一目惚れとはいわないが、いい女だとは思ってたよ」

「いい女……!」


 普段の俺は篠田を褒めたりせず、むしろ邪険に扱うくらいだった。

 『いい女』という言葉が俺の口から出てきたことを、篠田は信じられないらしい。

 俺は最後のとどめを刺す。


「俺じゃ、嫌か?」

「い、い、嫌なんかじゃないです!私も!私も宮本さんのこと!ずっと前から好きでした!」


 人間、目の前にだされたものをさっと片付けられそうになったら、引き止めたくなるもの。

 結果は予想できていたことだが。

 俺は、篠田と付き合うことになった。


「……おめでとうございます」


 無事に告白を終えたと思っていたら、 黙って見ていた理瀬がそう言った。

 ふと理瀬の顔を見ると。

 恐ろしいほどに冷静で、何かを疑っているような理瀬の表情があった。


* * *


 俺と篠田は付き合い始めたわけだが、とにかく今は仕事の修羅場を抜けなければならない。

 俺は会社に戻り、篠田はあと数日休むことになった。

 大人の恋愛関係だから、高校生みたいにちまちまデートを続けるだけじゃなく、同棲や、いずれ結婚も考えなければならない。

 篠田との関係を進めよう、という気持ちは少し前からあった。しかし昨日は勢いで告白してしまったから、そのあたり具体的なプランはない。

 一度社畜というルーチンに戻り、気持ちを整理したかった。

 大炎上した案件の他に、通常業務のルーチンもこなさなければならない俺は、会社に行けば無限に仕事を渡される。

 俺は社有車を飛ばし、外回りに出かけた。

 一人で外回りに出るのは好きだ。

 会社にいながら、会社から解放されたような気持ちになれる。

 社畜はいい。

 会社にいる間は、仕事以外のことを考えずに済むのだから。

 それでいて、決して多くはないものの給料も貰える。仕事で頭と身体を使い潰せば、土日にちょっとした贅沢をして、また平日に戻れる。

 社畜、社畜と世間では蔑むように言ううが、社畜の九割は自分の環境を気に入っていると思う。

 なにせ会社による拘束を受け入れるだけで、不自由なく生きていけるのだ。

 こんなに豊かな世の中でも、生きていくということは意外に難しい。

 皆、そう言わないだけで。

 俺みたいに大した才能のない人間は、社会の歯車としてその役目を果たすのが一番なのだ。

 そんなことを考えていたら、カーラジオからどこかで聞き覚えのある曲が流れてきた。

 新井賢。

 俺が中学生くらいの頃から有名な、高音のよく伸びる男性歌手の声。

 先日、薬王寺照子が俺にアドバイスを頼んだ曲だった。

 俺が聞いたときと比べ、曲の大筋は変わらなかったが、サビのメロディラインが改良されていた。

 より高音が長く、しっかり声を張らなければならないように。

 

「……バカだな、あいつは」


 俺は独り言を吐き捨ててから、社有車を近くのコンビニに停めた。

 夕方四時すぎ。俺は照子にLINE通話をかける。数秒で出た。


『も、もしもし、剛?』

「そうだよ。今大丈夫か?」

『あ、今レコーディング中やけど別にええよ』

「いや、それはダメだろ」

『ええよ!剛から通話来たんや何年ぶりかわからんもん!それで、何?』


 照子は喜んでいた。良いニュースだと信じているらしい。


「この前俺に歌わせた曲、新井賢が歌ってるの聞いたぞ」

『ほうなん?うまいことまとまっとうだろ」

「ああ。上手くまとまってたよ。俺が歌いやすいようにサビの高音上げただろ」


 照子は黙った。心当たりがあるらしい。


「お前、ずっと前から言ってたよな。新井賢の高音は綺麗だけど、Gより上になるとかすれてくるからあんまり高い音を伸ばすと微妙だって。実際、あの曲の新井賢が歌ってるやつ、サビがきつそうだったぞ」

『……ほなって、うちにはそういうイメージしかなかったんやもん』

「俺に聞かなかったら、もともとの高音をそこまで伸ばさないサビのままだったんだろ?だったら、俺なんかに聞くより、お前だけのイメージで曲書いたほうがいい」

『ほれは、ほうなんかもしれんけどなあ……うち、今でも曲書くときは剛のために書きよる気持ちのままなんよ。有名になってもそこは変えれんかった』

「俺はもう、人前で歌なんか歌わないのに?」

『うちと剛だけわかったら、それでええけん』

「……今後、いや一生、お前の曲作りにアドバイスはしない。試し歌いもしない」

『えっ!?なんで!?』

「俺だって一応、アマチュアの歌手だったんだ。曲を書くときに、別の歌手のことを考えながら書くなんてその人に失礼だろ」

『でも実際、うちはそうやって書いて有名になれたんやし、何も困っとらんよ……もしかして、剛、うちの書いた曲が気に入らんの?』

「いや。今でもお前が書いた曲が一番歌いやすいよ」

『ほな、なんでほんなこと言うん?』

「……彼女ができたんだ」


 照子は言葉を失った。

 俺は、虫の息になった照子へとどめを刺すように、言おうと思っていたことを続ける。


「前から話してた、うちの会社の後輩だ。今まで男女の関係じゃなかったが、この前会社でちょっと大変な仕事があってな。その時にいろいろ助けられて、あいつへの考えが変わった。俺から告白して、付き合うことにした。曲作りの手伝いとはいえ、彼女がいるのに他の女と二人で会うのは、不誠実な気がする」

『なん、で……』

「なんでって、お前と別れてもう五年も経つんだぞ。新しい彼女くらいできるだろ」

『ほんな……この前会った時、剛が誰かを好きになったような感じ、なかったもん』


 今度は、俺が黙りそうになる番だった。

 篠田や理瀬と違い、高校生の頃から一緒に過ごしている照子は、俺の些細な表情の変化も見逃さない。

 ハッタリは通用しない相手。

 だがもう、引くという選択肢はない。


「なんで俺が誰かを好きになったかわかるのかは知らんが、ここ数日で劇的に変わったんだよ」

『剛がおらんかったら、うち、もう曲書けんかもしれんよ』

「それがお前の、作曲家としての限界ってことだろ」

『ほんまにお仕事のためだけで、ちゃんと報酬も払うって言ったら?』

「一曲につき百万だな」

『ほんな……』


 ひどいことを言っているのは、よくわかっている。

 だが俺には、過去と決着をつけるべき時が来ている。

 二十八歳の社畜という俺に、残された選択肢は少ないのだ。


『……どうしても、うちと会いたくないんやな』

「……そういう事だよ」

『わかった。わかったよ。わかったけん。その子と幸せにな』


 最後、照子は選ぶべき言葉がわからず、迷った末にそう言い残して向こうから通話を切った。

 何もなしで照子と縁を切れるとは思っていなかったが。

 『幸せにな』という言葉は、意外にも重く俺の心にのしかかった。

 俺は、幸せになるためにこんなことをしているのだろうか?

 自分で自分に問いかけても、答えは返ってこなかった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。

エース皇命
青春
 高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。  そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。  最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。  陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。  以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。 ※表紙にはAI生成画像を使用しています。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

処理中です...