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第六章 社畜と女子高生と二人の選んだ道
13.社畜と結婚休暇
しおりを挟むそう言うと理瀬は、何十枚もの紙束を俺たちに見せた。
パワーポイント形式で、もし和枝さんが亡くなった時、理瀬がとるべき行動をすべて書いていた。
葬儀の手配は、すでに料金を収めてある葬儀屋に行けば、家族葬としてやってくれること。
その後、保護者がいなくなった理瀬が向かうべきところは、和枝さんの遠縁の親戚の家。都内ではなかったが、一時的な滞在先としては仕方ないことだった。
落ち着いたら、和枝さんが生前手配していた弁護士へ連絡し、古川の親権取得を阻止する。前田さんがリークした内容とは違う、古川の過去の悪行が羅列されていた。証拠も、和枝さんの信頼できる友人たちに分散して預けてあるとのこと。
親権喪失の手配をしながら、理瀬はアメリカに渡る。そこには和枝さんと昔、一緒に仕事をした親友がいる。理瀬の家は、ハイスクール卒業までホームステイという形で、とある家に滞在できるよう、すべて約束してある……
完璧な作戦だった。伏見が考えた親権喪失の作戦よりも、証拠が整っているぶんずっと確度が高い。何より、理瀬のその後の人生、少なくとも大学を出るまでの保護者がすべて設定されていて、ちゃんと生きられるよう丁寧に設定されていた。
「……アメリカへ行くのか」
「はい。お母さんが亡くなる前から、約束していたことですよ」
「どうして……どうしてこんな完璧な作戦、今まで黙っていたんだ?」
「……ごめんなさい」
「宮本さんのバカ!」
横から、篠田の平手打ちを食らった。けっこう痛かった。篠田は怒っても手をだすような性格ではないが、真剣に怒っている顔で、俺は面食らった。
「そんなの……そんなの決まってるでしょ。少しでも長く、宮本さんと一緒にいたかったから。そうでしょ、理瀬ちゃん」
理瀬は目を伏せ、また泣きそうになった。
「ああ、ごめんなさい、泣かないで」
篠田が背中をさすって、理瀬はなんとか嗚咽をとどめた。俺は自分の言葉をとても後悔した。結果的に、理瀬を責める言葉になってしまったからだ。
「いいんですよ……私が、優柔不断なのが、いけないんですよ」
理瀬は最後まで、俺ではなく自分を責めていた。
俺は動揺していた。
頭のいい理瀬にとって、海外留学は最適な道の一つだ。しかし、今理瀬がアメリカに行ってしまえば、俺とは会えなくなる。近くで見守ることはできない。
和枝さんの信頼する人が理瀬の保護者をしてくれるなら、親代わりとしての俺は必要ない。
この作戦が実行されれば、理瀬と俺は完全に離れてしまう。
「いつまでも、宮本さんのお世話になるのは迷惑なので」
そんな俺の考えを見透かすように、理瀬は小さな声で、しかし強く呟いた。
理瀬はもう、覚悟を決めている。
俺と、しばらく離れるのだと。
「ただ……私、アメリカに行ったことないんですよ。というか、ほとんど関東から出たことがないので、飛行機にも乗ったことがなくて……ちょっと不安なんですよ。だから、日本からアメリカへ行って、ホームステイ先のドリスさんの家に着くまで、一緒に行ってほしいんですよ。それ以降は、私のことはもう、本当に放っておいてくれていいですよ。飛行機のチケット代やアメリカで滞在する時のホテル代は、全部私が負担しますよ」
「いや……それは確かに不安だろうが、一週間も休みをとるのはまず無理だ」
俺は脳梗塞の一件で二週間くらい休んでしまった。有給をほとんど使う暇がなかったからちょうどよく消化できたのだが、短期間に一週間以上の休暇を二回も取るのは、サラリーマンには不可能だ。友達の女子高生をアメリカまで送る、なんていう説明を会社にしても、まず聞いてくれないだろう。脳梗塞で頭がイカれてしまったのかと思われかねない。
しかし、理瀬を一人旅させるのも不安だ……
「宮本さん。休み、取れるでしょ」
俺が悩んでいると、篠田がなぜか嬉しそうな顔で言った。
「何? お前、俺の職場の有給取得率知ってるだろ」
「知ってますよ。普通休暇じゃなければいいんですよね?」
「何? 勤続十年目のリフレッシュ休暇はまだ先だ。まさか仮病で傷病休暇でも使えって言うのか?」
「結婚休暇ですよ」
「……あっ」
一瞬、うちの会社のローカルな話題になって、伏見と理瀬はきょとんとしていた。
俺と篠田だけが、その意味を理解した。
結婚休暇。
結婚した者の結婚式や新婚旅行のために、連続五日間与えられる特別休暇だ。
「どうせ結婚するんだから、取得しないと損でしょ」
「お、おう。それはそうだが……お前はいいのか?」
「いいですよ。理瀬ちゃんの一大事なんですから」
「いや、そうじゃなくて、結婚式とか新婚旅行とか、できなくなるかもしれないぞ」
「は? 何言ってるんですか。私も一緒に行くんですよ」
「一緒に?」
「そう。新婚旅行。私、もともと新婚旅行でどこ行きたいとか決めてなかったんで、この際アメリカでいいです」
理瀬がきょとんとしている。
多分、理瀬は最後に俺と二人で行きたかったのだろうが、篠田が間に入ってきた。
しかし、結婚休暇でなければ長い休みをとることは不可能なので、一緒にアメリカへ行きたければそれしかない。一生に一度の結婚休暇を理瀬のために使う、と言われたら、理瀬も篠田を避けることはできないだろう。
「篠田さん、策士ですね……」
伏見がぼそり、と呟いた。
「ちなみに、行くのはアメリカのどこなんだ?」
「……コロラド州、みたいです。私も詳しいことはまだ知りません」
「コロラド州って、旅行で行くようなところなのか?」
「んー、まあ聞いたことない名前の州じゃないからいいんじゃないですか」
篠田はスマホでコロラド州のことを調べはじめた。ロッキー山脈の下にある高地の州で、大自然を楽しむために訪れる人もいるらしい。一応観光地のようだ。
「じゃあ、決まりですね。理瀬ちゃんもそれでいいよね?」
「……は、はい」
結局、理瀬が押し切られてしまった。
「ご愁傷様です」
伏見がまたぼそりと呟いたが、俺はもう聞かないことにした。
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