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第一章
ハンブルの町で、お買物
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やっと、ギルドでの用事が済んで、宿に戻ると、居酒屋は遅めのランチを取る人で、そこそこ賑わっていた。
そのまま2階に上がって、ミミア達の部屋の扉をノックする。
「はぁ~い」
「開いてるからどうぞ~」
二人の声に、そのままドアを開けて部屋の中に入ると、ハクとミルクがブンブンと尻尾を、お尻ごと左右に振りながら出迎えてくれる。
「おつかれさま~、結構かかったね~」
「大変だったでしょう~? ココちゃんとマナちゃんの、お昼ご飯とっておいたよ~」
見ると、テーブルの上にサンドイッチや飲み物が置いてある。
「ありがとう、くたびれたよ」
「まぁまぁ~、まずは座って食べて~」
「ココちゃんは、こっちでリムがあげるよ~。 アニタさんが、かぼちゃと肉のお団子、作ってくれたからね~」
ココが、美味しそうな黄色いお団子を食べさせてもらうと、ついでとばかりに、ハクとミルクも食べようとするが、
「きゃ~、だめだめ、ハクちゃんもミルクちゃんも、さっき自分の分は食べたでしょう~?」
と、大騒ぎである。
リムに拒否されて、2匹は、しょんぼりとしている。
わたしも椅子に座ると、ハムときゅうり、トマトとタマゴのサンドイッチをいただく。
飲み物は、冷たいミルクティーだった。
食事を終えると、やっと、ひと心地がつく。
「ごちそうさま、おいしかったぁ」
「さて、じゃあ、午後からの予定はどうする~? 少し休む~?」
「休みたいのは、山々なんだけど、お買い物がしたいんだよね。 例の、魔法バックも買わなきゃいけないし」
「あ~、いいね~。 私達も、身の回り品、少し買いたいから一緒に行こう~」
「うん、助かる。 それで、ギルドのお姉さんに魔法バッグの相場を聞いたら、お店を紹介してくれるって、紹介状までくれたんだけど」
そう言って、書いてもらった地図を見せる。
「どれどれ~? あ~、これなら、交易ギルドのすぐ近くだよ~。 割と、高級なお店の並びだ~」
「その辺なら、間違いないね~。 いい物、買えると思うよ~」
「紹介だから、割引も利くって言われたけど」
「お~、それはラッキー」
「あと、犬達とパーティ登録したら、みんなにリボンが貰えたの」
そう言いながら、エコバッグに入れてきた箱を取り出して蓋を開ける。
「どれどれ~、わ~素敵なリボン」
「さっそく付けちゃおうよ~、お~名前入りだ~」
そう言って、それぞれの首に、首輪を外してリボンを結ぶ。
わたしの分は、手首に結び付けた。
「みんな似合ってる~、可愛い、可愛い」
褒められて、わんこ達も嬉しそうだ。
リードが、必要な場面では、リボンに直接つけさせてもらおう。
そこで、ココから、頭の中に話しかけられる
(マナ、ココたち逃げたりしないから、リードつけなくてもいいよ)
(そう?)
(そう、上手に、ついて歩けるから大丈夫。 こっちの世界では、つながれている方が、ヘンみたいだし)
(そっか、じゃあこれからは、基本ノーリードで行こうか?)
(うん)
そうして、ココと頭の中で会話していると、
「さて、じゃあさっそく出かける~?」
と、ミミア、
「あ、でも犬達が、もう疲れてるだろうからなぁ」
「それは大丈夫~、みんな大人しいから、アニタさんが、部屋にワンちゃんだけで、置いて行っていいって。 下のランチが落ち着いたら、見ておいてあげるって言ってたし~」
「そうなの? 助かる。 ココ達は、お留守番でいい?」
(寝てるからいい。 ハクもミルクも、おとなしくさせておく)
「じゃあ、お願いしようかな。 ハク、ミルク、おりこうさんで待っててね」
2匹は無言だが、キラキラのお目目とブンブン振られる尻尾で、お返事をしていた。
取りあえず、魔宝石については、夕飯の時にでも、コータも交えて相談しよう、と自分の部屋のクローゼットに、荷物をしまっていると、ココ達は、ベッドに敷いた寝袋の上でくつろぎだす。
あとで、アニタさんも様子を見に来てくれるから、大丈夫だろうけど、あまり遅くならないようにしよう。
ミミアとリムと、宿から出た頃には、もう2時を回っていた。
昨日、窓から見た商店街は、ほぼ食べ物のお店だったようで、今は、ほとんどのお店が開店していたが、お腹が空いていないので、あまり興味が沸かない。
だが、揚げたてのコロッケを、食べ歩き出来るお肉屋さんや、串焼きの屋台、小さな小粒のパンに、色んな味のパウダーが振りかけられている、カップ入りのお菓子など、あとで、小腹が空いたら覗いてみたいかも。
朝の、ギルドに行く時と同じように商店街を突っ切ると、その後は、ギルドと反対方向の南に向かって進む。
こちらの道は、さらに、色んなお店が立ち並んでいる。
少し進むと、やっと雑貨屋さんや、服屋が見え出した。
魔法バッグを購入予定のお店は、もっと奥の、高級店の並びにあるそうなので、まずは、この辺のミミアとリムお薦めのお店を見てみる事にする。
2人もそうだが、この町でも割と着ている人が多い、ディアンドルという服。
民族衣装だそうだが、これを一揃い買っておこうと思う。
ブラウスはベージュ、胴衣はデニムのようなブルーで、前はボタンで留めるタイプ、エプロン部分は赤にした。
それと、編み上げの黒いブーツが可愛かったので、それも一足購入。
あとは、普通にシャツを何着か、動きやすいパンツに7分丈のパンツ、タンクトップタイプとTシャツタイプのインナーと靴下、タイツ、下着も何セットか。
雑貨屋に移って、今度はハンカチやハンドタオル、化粧品の類はあまりないようで、シャンプーも残念ながらなかった。
仕方ないので、オリーブの質の良さそうな石鹸と、おしろいのお粉があったので買う。
ちょっと、荷物が多くなってきた所で、魔法バッグを購入予定のお店に着いた。
高級店らしく、他のお店と違って、大きなガラス張りのショーウィンドウが入り口の左側にあり、クラシカルな乗馬服のような服装に膝下のブーツ、さらに、その上にマントを羽織ったトルソーが飾られ、その周りに、バッグや小物が並べられたテーブルと椅子が置いてある。
少し緊張しながらもドアを押し開けると、扉の上にベルが付いていて、澄んだチリンリンという音を立てる。
「ようこそ、いらっしゃいませ」
そう言って店の奥から現れたのは、カイゼル髭の恰幅のいい中年男性だった。
ピンストライプのダブルの三つ揃いを着ており、胸ポケットにはグレイのチーフを入れている。
靴もピカピカに手入れされており、ちょっと、自分が薄汚れて見えるような気がしてしまう。
「あ、あの、冒険者ギルドからの紹介で参りました。 こちらが紹介状です」
慌てて、エコバッグから紹介状を取り出して手渡すと、
「拝見致します」
と、封筒の中身をついっと眺める。
「かしこまりました。 ギルドのご紹介で、魔法バッグをお探し、と言う事でよろしいでしょうか?」
カイゼル髭さんは、にこやかに続ける。
「はい、他にお財布なども、いい物があればと考えているのですが」
「なるほど。 では、わたくしどもが、お手伝い出来ると存じます。 まずは、奥のお部屋にご案内致しましょう。 そちらで、お飲み物など楽しまれながら、じっくり商品を見ていただきましょう」
そう言って、先に立つと、奥へと案内してくれる。
店内は、少し薄暗く、照明は昔の白熱灯の間接照明の様な感じだ。
店の奥には、クラシックで大きなレジがカウンターに置いてあり、その左側の扉を開けると、サンルームの様な気持ちのいい空間が広がっていた。
広さとしては40平米位だろうか、温室のように植物がそこかしこに飾られ、大きなテーブルに白い藤の椅子が6脚と、カウチが2つしつらえてある。
「どうぞ、こちらにお掛けになってお待ちください。 すぐに飲み物をお持ちしますので」
「ありがとうございます」
3人で、それぞれに椅子に腰掛ける、と、しばらくしてショートカットの、白髪に白いスーツ姿の女性が、冷たい飲み物を運んで来てくれる。
「アイスティーでございます。 お好みで、シロップとミルクをお使い下さい」
買い物三昧で喉が渇いていたので、ありがたく頂く。
「では、まず、わたくしの名刺をお渡し致します。 わたくし、当店の店主をしております、エリオット・シャーペイと申します」
そう言って、カイゼル髭さん改め、エリオットさんは、名刺をそれぞれに渡してくれる。
「この度は、魔法バッグや財布をご入用との事ですが、少々、お好みなどをお伺いしてよろしいですかな?」
「はい、どうぞ」
「まずは、魔法バッグですが、一般向けと業務用にも出来る、いわゆるプロ御用達、とがございますが、どちらのタイプをお考えでしょうか?」
「それは、業務用で、お願いしたいと思っています」
大は小を兼ねるというし、お高くて、買い直しは、なかなか出来ない代物だろうから、最初から、きちんといい物を買っておきたいのだ。
「なるほど、業務用ですな。 では、クラシックなタイプと、最近流行の光沢のある革を使った、モードタイプとでは?」
「あ、それは、クラシックな方がいいです、落ち着いた感じの」
「なるほど、なるほど。 特に、お好きな色などはございますか?」
「んー、これといってないかなぁ。 いつも茶色や黒の無難な物ばかりなので、少しは違った色味のものも持ってはみたいですけど」
「ほうほう、かしこまりました。 では、わたくしどもの方で、いくつかお勧めのものを持って参りますので、今しばらくお待ち下さい」
「はい、あの、よろしくお願いします」
エリオットさんが、店に戻っていって、ミミアが感心したように口を開く
「すっごいね~、高級店なんて初めて入ったけど、こんな、姫扱いしてくれるんだね~」
「うんうん~、わたし、緊張しちゃって~」
「ごめんね、付き合わせちゃって。 でも、この後、一緒に選んでもらえると心強いの」
「大丈夫よ~。 結構楽しんでるから、気にしないで~」
「わたしも、どんなバッグやお財布が、お勧めされるのか興味津々~」
そんな事を話していると、エリオットさんが、さっきの白髪のお姉さんと、たくさんの商品を抱えて入って来た。
そして、どんどん大きなテーブルの上に並べていく。
ひとしきり並べ終わると、更に、白髪のお姉さんに何やら指示を出している。
エリオットさんの指示を聞き終えたお姉さんは、一礼すると部屋を出て行った。
そして、エリオットさんは、こちらに向き直ると、ひとつひとつ商品を見せてくれながら説明を始める。
「まずは、こちらのクラシックな旅行カバンタイプ。 少々、使い込んだ感じの味のある仕上がりになっております。 こちらはトランクタイプで、下に車輪が付いていますので、取手を持って引いて運ぶ事が可能になっております」
「こちらは、世界地図がデザインに施されておりまして……」
「こちらなどは、頑丈でメンズライクな趣が……」
などなど。
立て板に水のごとく説明が続くが、わたしは、最初のクラシックな旅行カバンタイプ、茶色で、ちょっと使い込んだ味のある感じ、が気に入った。
あれ、肩から下げても素敵だと思う。
ただ、エリオットさんの説明があまりに流暢で、途中で遮る事がはばかられてしまって止められない。
何度も言葉を挟もうとするのだが、エリオットさんは、そのままお財布の説明に突入してしまう。
「こちらなどは、長財布でクロコダイルの型押しが……」
「三つ折りタイプの中では、これほど使い勝手のいい物はなかなか、お色もこのように……」
お財布は、赤い革製で口金が金色の、がま口が可愛いな。
結局、持って来てくれた商品、全ての説明が終わるまで、エリオットさんの口が止まる事はなかった。
「で、このように素晴らしいお品になっております。 いかがでしょうか? 何か、お気になるような物はございましたでしょうか?」
「はい、こちらのバッグとこちらの赤いお財布にします」
「左様でございますか、いや、お目が高くていらっしゃる。 こちらは、当店自慢の逸品でして……」
また、説明が始まる。
エリオットさん、商品愛が凄い。
決めてから、更に10分程は説明を聞かされる羽目になったが、おかげで、とてもいい買い物をしたような気にさせてもらえる。
「さて、では盗難防止の為にも、名入れをさせて頂いてよろしいですか? ご存知のように、名入れをする事によって、ご本人様にしか魔法バッグとしての機能が働かなくなりますので。 是非に、お薦め致しております」
「はい、それは、こちらも是非お願いしたいです」
「では、一旦お預かりして名入れを致します。 名入れのお名前は、紹介状にあった通りに、マナ様でよろしかったでしょうか?」
「はい、それでお願いします」
すると、扉をノックする音がして、白髪のお姉さんが、今度は一揃いの服を持って入って来た。
それをテーブルに置くと、名入れの指示を受けて、わたしの選んだ魔法バッグを持って店内に戻っていく。
「実は、こういった大きなお取引でございますので、お客様に、わたくしどもから記念のプレゼントをさせていただきたく思いまして。 こちらの冒険者用のコーディネート一式を、是非お贈りさせていただきたいのです」
「ええっ、そんな悪いです」
「いえいえ、お客様のような、お若くて素敵な女性に、わたくしどもの商品を身に着けていただければ、大変名誉な事ですので、是非」
「マナちゃん、くれるっていうんだから、もらっちゃおうよ~」
「そうだよ~。 この服、すっごく可愛いじゃない~」
そうなのだ、この一揃いの服、合わせて着たらきっと凄く可愛い。
クラシカルな白いブラウスに、ウエストを絞った胸の下まで編み上げのコルセットが付いた、ヒラヒラとした膝上の黒いスカート。
それに、膝下までの品のいい茶色のブーツ。
上に羽織れるように、フード付きの茶色のマントも付いている。
胸元に飾るリボンも、豪華なレースがあしらわれて、凄く、ゴスロリっぽいのだ。
これが冒険者の服? どう見ても原宿界隈のゴスロリっ娘。
これって、着て歩いて宣伝しろって事なんだろうなぁ。
エリオットさんは、にこやかに、服についての機能性やら、デザイン性やらについての説明をし始めた。
……また、長くなるだと?
「わ、分かりました! では、ありがたく受け取らせて頂きますので、あの、お代の方はいかほどで?」
「おぉ、そうでございますか。 いや良かった、お客様のような、お綺麗な方に着て頂けるとは実にありがたい。 おー、それでお代でしたな。 今回は、ギルドからの紹介という事もありますし、財布と名入れの手数料はサービスにさせて頂きましょう。 お代は、このカバンの代金のみ、丁度、100万クベーラでいかがでしょうか?」
「え、財布もサービス……。 あ、いえそれで結構です、ありがとうございます」
「はい、では、お取引成立と言う事で。 お代は、現金でよろしいですか?」
「はい、ではこちらで」
前もって、茶封筒に100万だけにして持って来ていたので、封筒のまま、テーブルの上にあった、銀色のトレイの上に置く。
「ありがとうございます。 こちらのバッグや財布は、すぐお使いになりますか?」
「そうですね。 荷物も増えたので、すぐに入れて行きます」
「かしこまりました。 では、少々お待ちくださいませ」
しばらくすると、白髪のお姉さんが、名入れの終わったバッグを持って入って来た。
「お待たせ致しました。 名入れは、バッグの取手、内側部分に施しておりますので、ご確認下さい」
「はい、大丈夫です」
取っ手部分に、うっすらと「 Mana 」と光って見えている。
そうして、魔法バッグと、がま口を受け取り、現金を乗せたトレイを持って店内に戻って行く、エリオットさんと店員さんの後ろ姿を見送りながら、何気なく、魔法バッグを開けてみると、
……………………………………………………………
バッグの中に、とんでもない広さの異空間が存在していた。
( え、え、え? )
(何、今の、バッグの中? なんであんな、だだっ広い空間が延々と続いてるの? 怖い)
「どしたの~、マナちゃん? くたびれた~?」
「ちょっと、顔色悪い~?」
「いや、えっと。 思いのほか、バッグの中が広くて、びっくりっていうか」
「あ~、魔法バッグ初めてだよね~」
「びっくりしちゃう位、広かったんだ~。 マナちゃん魔力多いんだね~」
「ちなみに、二人の使ってるバッグの広さって?」
恐る恐る、尋ねてみる、
「ウチは、ミミアが一番魔力が多いから、ミミアが代表で持ってるけど~。 バッグの容量の10倍くらいは入るかな~」
「普通の魔力量で、一般向けのバッグだと、せいぜい2~3倍がいい所みたいだから~。 まぁまぁってとこ~?」
「そ、そうなんだ」
異空間の事は、言えないな、うん。
「それにしても、マナちゃん、パパって決めちゃうからびっくり~」
「ね、結構思い切りいいね~」
「う、うん。 ごめんね、相談に乗ってもらうつもりだったんだけど、一目で気に入っちゃって」
「いいの、いいの~。 気に入った物が、見つかって良かったよ~」
「そうそう~、バッグもお財布も素敵なの選べたと思う~」
話しながら、取りあえず買い物して来た荷物と、こちらで貰った服などを異空間に、もとい、魔法バッグに放り込む。
後で、棚とか買って入れて整理しよう。
って言うか、後々、倉庫とか一戸建てとか、入れてもいいんじゃないかという気がして来た。
どうしよう、あんなだだっ広い空間。
悩みつつ、残ったアイスティーを飲んでいると、エリオットさんが戻って来た。
一応、魔法バッグや財布の箱を持って来てくれたそうで、今更だったけど、それも魔法バッグに放り込む。
このまま、ただ放り込み続けたら、無茶苦茶な乱雑空間になってしまいそう。
後で、部屋に戻ったら、ちゃんと整理整頓しよう。
エリオットさんに、お世話になったお礼を言いつつ、お店を出ると、交易ギルドが、その2軒先だと言うので、覗いて見る事にする。
交易ギルドの建物自体は、シンプルな3階建てで、左横に、馬車も通れる私道が通っており、奥には、巨大な倉庫が3棟ある。
そのうちの1棟に、コータとイシュリーがいるはずだ、と言うので訪ねて行くと、もう荷下ろしは済んで、本部内で清算作業に入っているという事だった。
「どうする~? 本部の中入っても、別に面白くないけど~」
「あ、じゃあ、わたし食料品を扱ってるお店とか、見たいかも」
「じゃあそうしようか~? マーケットと、輸入食材店があるから、そっちに行こう~」
元来た道を戻りつつ、マーケットと1軒隣の輸入食材店まで歩く、よく見ると、その斜め向かいに家具屋さんがある、後で、ちょうどいい棚があるか見に行ってみよう。
マーケットでは、ワンコ用に、お肉を多めに購入しておく、あとは、通常冷蔵庫に常備したい物、ジャガイモ・人参・玉ねぎなどの野菜類や、サラダ用にレタスやキャベツ、トマトにきゅうりなどの新鮮野菜。
塩・胡椒などの調味料、パスタの麺やマカロニなど、茹でるだけで食べられる炭水化物。
小麦粉や調理用の油、あと、クッキーやチョコレート、飴なども多めに買っておく。
更には、美容オイル代わりに使う、エクストラヴァージンの、お高いオリーブオイルとリンス代わりにする、レモン果汁の瓶も購入する。
取り合えず、洗顔後の保湿がしたいのだ。
日本の、有名女流作家さんは、オリーブオイルを塗っていた、とCMで見た事があるし、たぶん大丈夫だと思う。
次に、輸入食材店に移動すると、なんとそこには味噌や醤油、めんつゆまであった。
ちょっと興奮しながら、それらの日本の調味料類も買いまくる。
裏面を見てみると、製造国はジパングと表記されていた。
これは、後で聞いてみなくては。
お米も置いていたので、10kgの袋を3つ購入する。
その横に、土鍋も置いてあったので、大きめの土鍋も一つ購入、これで土鍋ご飯が炊ける。
あとは、タッパー容器も、セットで沢山購入しておく。
魔法バッグに、どんどん入るので、遠慮なく買い物出来てしまうのが恐ろしい。
あんこの真空パックと、白玉粉も見つけたので、それも多めに購入。
あと、出汁パックなる物もあったので、大量に。
挙げ句には、カレー粉まであったので、これも買いだ。
ちょっと、息切れするほどに興奮してしまったので、まだ、ゆっくり買い物しているミミアとリムを店に残して、先ほどの家具屋さんに移動する。
中に入ってみると、テーブルや椅子などの並んだ奥に、食器棚や飾り棚、タンスのような引き出しの付いた棚などがある。
取りあえず、服を入れる為のタンスっぽい棚とクローゼット、食料を収めるのに、良さそうな収納棚、一応、食器棚も購入する。
お届けは~? と聞かれたが、持ち帰ります、と断って、店員さんが、会計で後ろを向いている時に、魔法バッグに入れてしまう。
入れる時に、しゅっ、と吸い込まれるのだが、きちんと並ぶように調整して収納したので、あちこちに、散らばって置かれる事はないだろう。
帰ったら整頓、と思いながらも、だんだん、非常識さに慣れて来たかもしれない。
輸入食材店に戻ると、ミミア達も充分に買い物が出来たようで、そのまま帰路に就く。
途中、気になっていた、小さいパンをカップに入れて、いろんなフレーバーの粉が振りかけてあるお菓子を、おやつにしようと立ち寄る。
これはそのまま 【パンカップ】 という商品だそうだ。
シナモンシュガー・苺ミルク・ココナッツシュガー・チョコバナナ・メロン、のフレーバーを買って、帰ったらみんなで食べ比べしよう、と話しながら、途中でハッと気が付いて、苺ミルクを追加で買い足す。
アニタさんへの、お土産だ。
宿に帰り着くと、ココ達は一階の居酒屋で、アニタさんお手製の、堅焼きの犬用クッキーをもらって食べていた。
ぶんぶんと尻尾を振って、お迎えしてくれる犬達を引き取ると、アニタさんにお礼を言って、お土産の苺ミルクフレーバーのパンカップを渡す。
「あらぁ、そんな気を使わなくってもいいのに、ありがとね」
そして、お返しにと、大量の犬用堅焼きクッキーをいただいてしまった。
夕飯前に、小腹が空いているので、さっきのパンカップを部屋でつまもうと、アニタさんに、コーヒーをポットで頼む。
「はいよ、じゃあ部屋まで持って行ってあげるから、先に、上に行っといで」
と、言ってもらったので、お願いして、そのままミミア達の部屋に戻る。
はぁー、くたびれた。
「疲れたねぇ~」
「駆け足だったもんね~」
そう言いながら、買って来たパンカップを、ずらりとテーブルの上に並べる。
言わば、パンカップの試食会だ。
疲れた体に、甘い物は染みるよね、などと言いながら、途中、アニタさんがコーヒーポットとカップを持って入って来る。
アニタさんも、興味深げに、いくつかつまんで行った。
ブラックコーヒーをいただきながら、パンカップを食べ比べ。
「苺ミルク甘~い」
「メロン、めっちゃ高級感~」
などと、大騒ぎしながら楽しむ。
わたしは、ココナッツシュガーのフレーバーが、一番好きかもしれない。
楽しいな、ふとOL時代の、洋子さんに、仲良くしてもらっていた日々を思い出す。
が、ぷるぷるっと頭を振って、感傷に浸りそうになるのを吹き飛ばす。
さぁ、これから自分の部屋に戻って、魔法バッグの中身を片付けよう。
そのまま2階に上がって、ミミア達の部屋の扉をノックする。
「はぁ~い」
「開いてるからどうぞ~」
二人の声に、そのままドアを開けて部屋の中に入ると、ハクとミルクがブンブンと尻尾を、お尻ごと左右に振りながら出迎えてくれる。
「おつかれさま~、結構かかったね~」
「大変だったでしょう~? ココちゃんとマナちゃんの、お昼ご飯とっておいたよ~」
見ると、テーブルの上にサンドイッチや飲み物が置いてある。
「ありがとう、くたびれたよ」
「まぁまぁ~、まずは座って食べて~」
「ココちゃんは、こっちでリムがあげるよ~。 アニタさんが、かぼちゃと肉のお団子、作ってくれたからね~」
ココが、美味しそうな黄色いお団子を食べさせてもらうと、ついでとばかりに、ハクとミルクも食べようとするが、
「きゃ~、だめだめ、ハクちゃんもミルクちゃんも、さっき自分の分は食べたでしょう~?」
と、大騒ぎである。
リムに拒否されて、2匹は、しょんぼりとしている。
わたしも椅子に座ると、ハムときゅうり、トマトとタマゴのサンドイッチをいただく。
飲み物は、冷たいミルクティーだった。
食事を終えると、やっと、ひと心地がつく。
「ごちそうさま、おいしかったぁ」
「さて、じゃあ、午後からの予定はどうする~? 少し休む~?」
「休みたいのは、山々なんだけど、お買い物がしたいんだよね。 例の、魔法バックも買わなきゃいけないし」
「あ~、いいね~。 私達も、身の回り品、少し買いたいから一緒に行こう~」
「うん、助かる。 それで、ギルドのお姉さんに魔法バッグの相場を聞いたら、お店を紹介してくれるって、紹介状までくれたんだけど」
そう言って、書いてもらった地図を見せる。
「どれどれ~? あ~、これなら、交易ギルドのすぐ近くだよ~。 割と、高級なお店の並びだ~」
「その辺なら、間違いないね~。 いい物、買えると思うよ~」
「紹介だから、割引も利くって言われたけど」
「お~、それはラッキー」
「あと、犬達とパーティ登録したら、みんなにリボンが貰えたの」
そう言いながら、エコバッグに入れてきた箱を取り出して蓋を開ける。
「どれどれ~、わ~素敵なリボン」
「さっそく付けちゃおうよ~、お~名前入りだ~」
そう言って、それぞれの首に、首輪を外してリボンを結ぶ。
わたしの分は、手首に結び付けた。
「みんな似合ってる~、可愛い、可愛い」
褒められて、わんこ達も嬉しそうだ。
リードが、必要な場面では、リボンに直接つけさせてもらおう。
そこで、ココから、頭の中に話しかけられる
(マナ、ココたち逃げたりしないから、リードつけなくてもいいよ)
(そう?)
(そう、上手に、ついて歩けるから大丈夫。 こっちの世界では、つながれている方が、ヘンみたいだし)
(そっか、じゃあこれからは、基本ノーリードで行こうか?)
(うん)
そうして、ココと頭の中で会話していると、
「さて、じゃあさっそく出かける~?」
と、ミミア、
「あ、でも犬達が、もう疲れてるだろうからなぁ」
「それは大丈夫~、みんな大人しいから、アニタさんが、部屋にワンちゃんだけで、置いて行っていいって。 下のランチが落ち着いたら、見ておいてあげるって言ってたし~」
「そうなの? 助かる。 ココ達は、お留守番でいい?」
(寝てるからいい。 ハクもミルクも、おとなしくさせておく)
「じゃあ、お願いしようかな。 ハク、ミルク、おりこうさんで待っててね」
2匹は無言だが、キラキラのお目目とブンブン振られる尻尾で、お返事をしていた。
取りあえず、魔宝石については、夕飯の時にでも、コータも交えて相談しよう、と自分の部屋のクローゼットに、荷物をしまっていると、ココ達は、ベッドに敷いた寝袋の上でくつろぎだす。
あとで、アニタさんも様子を見に来てくれるから、大丈夫だろうけど、あまり遅くならないようにしよう。
ミミアとリムと、宿から出た頃には、もう2時を回っていた。
昨日、窓から見た商店街は、ほぼ食べ物のお店だったようで、今は、ほとんどのお店が開店していたが、お腹が空いていないので、あまり興味が沸かない。
だが、揚げたてのコロッケを、食べ歩き出来るお肉屋さんや、串焼きの屋台、小さな小粒のパンに、色んな味のパウダーが振りかけられている、カップ入りのお菓子など、あとで、小腹が空いたら覗いてみたいかも。
朝の、ギルドに行く時と同じように商店街を突っ切ると、その後は、ギルドと反対方向の南に向かって進む。
こちらの道は、さらに、色んなお店が立ち並んでいる。
少し進むと、やっと雑貨屋さんや、服屋が見え出した。
魔法バッグを購入予定のお店は、もっと奥の、高級店の並びにあるそうなので、まずは、この辺のミミアとリムお薦めのお店を見てみる事にする。
2人もそうだが、この町でも割と着ている人が多い、ディアンドルという服。
民族衣装だそうだが、これを一揃い買っておこうと思う。
ブラウスはベージュ、胴衣はデニムのようなブルーで、前はボタンで留めるタイプ、エプロン部分は赤にした。
それと、編み上げの黒いブーツが可愛かったので、それも一足購入。
あとは、普通にシャツを何着か、動きやすいパンツに7分丈のパンツ、タンクトップタイプとTシャツタイプのインナーと靴下、タイツ、下着も何セットか。
雑貨屋に移って、今度はハンカチやハンドタオル、化粧品の類はあまりないようで、シャンプーも残念ながらなかった。
仕方ないので、オリーブの質の良さそうな石鹸と、おしろいのお粉があったので買う。
ちょっと、荷物が多くなってきた所で、魔法バッグを購入予定のお店に着いた。
高級店らしく、他のお店と違って、大きなガラス張りのショーウィンドウが入り口の左側にあり、クラシカルな乗馬服のような服装に膝下のブーツ、さらに、その上にマントを羽織ったトルソーが飾られ、その周りに、バッグや小物が並べられたテーブルと椅子が置いてある。
少し緊張しながらもドアを押し開けると、扉の上にベルが付いていて、澄んだチリンリンという音を立てる。
「ようこそ、いらっしゃいませ」
そう言って店の奥から現れたのは、カイゼル髭の恰幅のいい中年男性だった。
ピンストライプのダブルの三つ揃いを着ており、胸ポケットにはグレイのチーフを入れている。
靴もピカピカに手入れされており、ちょっと、自分が薄汚れて見えるような気がしてしまう。
「あ、あの、冒険者ギルドからの紹介で参りました。 こちらが紹介状です」
慌てて、エコバッグから紹介状を取り出して手渡すと、
「拝見致します」
と、封筒の中身をついっと眺める。
「かしこまりました。 ギルドのご紹介で、魔法バッグをお探し、と言う事でよろしいでしょうか?」
カイゼル髭さんは、にこやかに続ける。
「はい、他にお財布なども、いい物があればと考えているのですが」
「なるほど。 では、わたくしどもが、お手伝い出来ると存じます。 まずは、奥のお部屋にご案内致しましょう。 そちらで、お飲み物など楽しまれながら、じっくり商品を見ていただきましょう」
そう言って、先に立つと、奥へと案内してくれる。
店内は、少し薄暗く、照明は昔の白熱灯の間接照明の様な感じだ。
店の奥には、クラシックで大きなレジがカウンターに置いてあり、その左側の扉を開けると、サンルームの様な気持ちのいい空間が広がっていた。
広さとしては40平米位だろうか、温室のように植物がそこかしこに飾られ、大きなテーブルに白い藤の椅子が6脚と、カウチが2つしつらえてある。
「どうぞ、こちらにお掛けになってお待ちください。 すぐに飲み物をお持ちしますので」
「ありがとうございます」
3人で、それぞれに椅子に腰掛ける、と、しばらくしてショートカットの、白髪に白いスーツ姿の女性が、冷たい飲み物を運んで来てくれる。
「アイスティーでございます。 お好みで、シロップとミルクをお使い下さい」
買い物三昧で喉が渇いていたので、ありがたく頂く。
「では、まず、わたくしの名刺をお渡し致します。 わたくし、当店の店主をしております、エリオット・シャーペイと申します」
そう言って、カイゼル髭さん改め、エリオットさんは、名刺をそれぞれに渡してくれる。
「この度は、魔法バッグや財布をご入用との事ですが、少々、お好みなどをお伺いしてよろしいですかな?」
「はい、どうぞ」
「まずは、魔法バッグですが、一般向けと業務用にも出来る、いわゆるプロ御用達、とがございますが、どちらのタイプをお考えでしょうか?」
「それは、業務用で、お願いしたいと思っています」
大は小を兼ねるというし、お高くて、買い直しは、なかなか出来ない代物だろうから、最初から、きちんといい物を買っておきたいのだ。
「なるほど、業務用ですな。 では、クラシックなタイプと、最近流行の光沢のある革を使った、モードタイプとでは?」
「あ、それは、クラシックな方がいいです、落ち着いた感じの」
「なるほど、なるほど。 特に、お好きな色などはございますか?」
「んー、これといってないかなぁ。 いつも茶色や黒の無難な物ばかりなので、少しは違った色味のものも持ってはみたいですけど」
「ほうほう、かしこまりました。 では、わたくしどもの方で、いくつかお勧めのものを持って参りますので、今しばらくお待ち下さい」
「はい、あの、よろしくお願いします」
エリオットさんが、店に戻っていって、ミミアが感心したように口を開く
「すっごいね~、高級店なんて初めて入ったけど、こんな、姫扱いしてくれるんだね~」
「うんうん~、わたし、緊張しちゃって~」
「ごめんね、付き合わせちゃって。 でも、この後、一緒に選んでもらえると心強いの」
「大丈夫よ~。 結構楽しんでるから、気にしないで~」
「わたしも、どんなバッグやお財布が、お勧めされるのか興味津々~」
そんな事を話していると、エリオットさんが、さっきの白髪のお姉さんと、たくさんの商品を抱えて入って来た。
そして、どんどん大きなテーブルの上に並べていく。
ひとしきり並べ終わると、更に、白髪のお姉さんに何やら指示を出している。
エリオットさんの指示を聞き終えたお姉さんは、一礼すると部屋を出て行った。
そして、エリオットさんは、こちらに向き直ると、ひとつひとつ商品を見せてくれながら説明を始める。
「まずは、こちらのクラシックな旅行カバンタイプ。 少々、使い込んだ感じの味のある仕上がりになっております。 こちらはトランクタイプで、下に車輪が付いていますので、取手を持って引いて運ぶ事が可能になっております」
「こちらは、世界地図がデザインに施されておりまして……」
「こちらなどは、頑丈でメンズライクな趣が……」
などなど。
立て板に水のごとく説明が続くが、わたしは、最初のクラシックな旅行カバンタイプ、茶色で、ちょっと使い込んだ味のある感じ、が気に入った。
あれ、肩から下げても素敵だと思う。
ただ、エリオットさんの説明があまりに流暢で、途中で遮る事がはばかられてしまって止められない。
何度も言葉を挟もうとするのだが、エリオットさんは、そのままお財布の説明に突入してしまう。
「こちらなどは、長財布でクロコダイルの型押しが……」
「三つ折りタイプの中では、これほど使い勝手のいい物はなかなか、お色もこのように……」
お財布は、赤い革製で口金が金色の、がま口が可愛いな。
結局、持って来てくれた商品、全ての説明が終わるまで、エリオットさんの口が止まる事はなかった。
「で、このように素晴らしいお品になっております。 いかがでしょうか? 何か、お気になるような物はございましたでしょうか?」
「はい、こちらのバッグとこちらの赤いお財布にします」
「左様でございますか、いや、お目が高くていらっしゃる。 こちらは、当店自慢の逸品でして……」
また、説明が始まる。
エリオットさん、商品愛が凄い。
決めてから、更に10分程は説明を聞かされる羽目になったが、おかげで、とてもいい買い物をしたような気にさせてもらえる。
「さて、では盗難防止の為にも、名入れをさせて頂いてよろしいですか? ご存知のように、名入れをする事によって、ご本人様にしか魔法バッグとしての機能が働かなくなりますので。 是非に、お薦め致しております」
「はい、それは、こちらも是非お願いしたいです」
「では、一旦お預かりして名入れを致します。 名入れのお名前は、紹介状にあった通りに、マナ様でよろしかったでしょうか?」
「はい、それでお願いします」
すると、扉をノックする音がして、白髪のお姉さんが、今度は一揃いの服を持って入って来た。
それをテーブルに置くと、名入れの指示を受けて、わたしの選んだ魔法バッグを持って店内に戻っていく。
「実は、こういった大きなお取引でございますので、お客様に、わたくしどもから記念のプレゼントをさせていただきたく思いまして。 こちらの冒険者用のコーディネート一式を、是非お贈りさせていただきたいのです」
「ええっ、そんな悪いです」
「いえいえ、お客様のような、お若くて素敵な女性に、わたくしどもの商品を身に着けていただければ、大変名誉な事ですので、是非」
「マナちゃん、くれるっていうんだから、もらっちゃおうよ~」
「そうだよ~。 この服、すっごく可愛いじゃない~」
そうなのだ、この一揃いの服、合わせて着たらきっと凄く可愛い。
クラシカルな白いブラウスに、ウエストを絞った胸の下まで編み上げのコルセットが付いた、ヒラヒラとした膝上の黒いスカート。
それに、膝下までの品のいい茶色のブーツ。
上に羽織れるように、フード付きの茶色のマントも付いている。
胸元に飾るリボンも、豪華なレースがあしらわれて、凄く、ゴスロリっぽいのだ。
これが冒険者の服? どう見ても原宿界隈のゴスロリっ娘。
これって、着て歩いて宣伝しろって事なんだろうなぁ。
エリオットさんは、にこやかに、服についての機能性やら、デザイン性やらについての説明をし始めた。
……また、長くなるだと?
「わ、分かりました! では、ありがたく受け取らせて頂きますので、あの、お代の方はいかほどで?」
「おぉ、そうでございますか。 いや良かった、お客様のような、お綺麗な方に着て頂けるとは実にありがたい。 おー、それでお代でしたな。 今回は、ギルドからの紹介という事もありますし、財布と名入れの手数料はサービスにさせて頂きましょう。 お代は、このカバンの代金のみ、丁度、100万クベーラでいかがでしょうか?」
「え、財布もサービス……。 あ、いえそれで結構です、ありがとうございます」
「はい、では、お取引成立と言う事で。 お代は、現金でよろしいですか?」
「はい、ではこちらで」
前もって、茶封筒に100万だけにして持って来ていたので、封筒のまま、テーブルの上にあった、銀色のトレイの上に置く。
「ありがとうございます。 こちらのバッグや財布は、すぐお使いになりますか?」
「そうですね。 荷物も増えたので、すぐに入れて行きます」
「かしこまりました。 では、少々お待ちくださいませ」
しばらくすると、白髪のお姉さんが、名入れの終わったバッグを持って入って来た。
「お待たせ致しました。 名入れは、バッグの取手、内側部分に施しておりますので、ご確認下さい」
「はい、大丈夫です」
取っ手部分に、うっすらと「 Mana 」と光って見えている。
そうして、魔法バッグと、がま口を受け取り、現金を乗せたトレイを持って店内に戻って行く、エリオットさんと店員さんの後ろ姿を見送りながら、何気なく、魔法バッグを開けてみると、
……………………………………………………………
バッグの中に、とんでもない広さの異空間が存在していた。
( え、え、え? )
(何、今の、バッグの中? なんであんな、だだっ広い空間が延々と続いてるの? 怖い)
「どしたの~、マナちゃん? くたびれた~?」
「ちょっと、顔色悪い~?」
「いや、えっと。 思いのほか、バッグの中が広くて、びっくりっていうか」
「あ~、魔法バッグ初めてだよね~」
「びっくりしちゃう位、広かったんだ~。 マナちゃん魔力多いんだね~」
「ちなみに、二人の使ってるバッグの広さって?」
恐る恐る、尋ねてみる、
「ウチは、ミミアが一番魔力が多いから、ミミアが代表で持ってるけど~。 バッグの容量の10倍くらいは入るかな~」
「普通の魔力量で、一般向けのバッグだと、せいぜい2~3倍がいい所みたいだから~。 まぁまぁってとこ~?」
「そ、そうなんだ」
異空間の事は、言えないな、うん。
「それにしても、マナちゃん、パパって決めちゃうからびっくり~」
「ね、結構思い切りいいね~」
「う、うん。 ごめんね、相談に乗ってもらうつもりだったんだけど、一目で気に入っちゃって」
「いいの、いいの~。 気に入った物が、見つかって良かったよ~」
「そうそう~、バッグもお財布も素敵なの選べたと思う~」
話しながら、取りあえず買い物して来た荷物と、こちらで貰った服などを異空間に、もとい、魔法バッグに放り込む。
後で、棚とか買って入れて整理しよう。
って言うか、後々、倉庫とか一戸建てとか、入れてもいいんじゃないかという気がして来た。
どうしよう、あんなだだっ広い空間。
悩みつつ、残ったアイスティーを飲んでいると、エリオットさんが戻って来た。
一応、魔法バッグや財布の箱を持って来てくれたそうで、今更だったけど、それも魔法バッグに放り込む。
このまま、ただ放り込み続けたら、無茶苦茶な乱雑空間になってしまいそう。
後で、部屋に戻ったら、ちゃんと整理整頓しよう。
エリオットさんに、お世話になったお礼を言いつつ、お店を出ると、交易ギルドが、その2軒先だと言うので、覗いて見る事にする。
交易ギルドの建物自体は、シンプルな3階建てで、左横に、馬車も通れる私道が通っており、奥には、巨大な倉庫が3棟ある。
そのうちの1棟に、コータとイシュリーがいるはずだ、と言うので訪ねて行くと、もう荷下ろしは済んで、本部内で清算作業に入っているという事だった。
「どうする~? 本部の中入っても、別に面白くないけど~」
「あ、じゃあ、わたし食料品を扱ってるお店とか、見たいかも」
「じゃあそうしようか~? マーケットと、輸入食材店があるから、そっちに行こう~」
元来た道を戻りつつ、マーケットと1軒隣の輸入食材店まで歩く、よく見ると、その斜め向かいに家具屋さんがある、後で、ちょうどいい棚があるか見に行ってみよう。
マーケットでは、ワンコ用に、お肉を多めに購入しておく、あとは、通常冷蔵庫に常備したい物、ジャガイモ・人参・玉ねぎなどの野菜類や、サラダ用にレタスやキャベツ、トマトにきゅうりなどの新鮮野菜。
塩・胡椒などの調味料、パスタの麺やマカロニなど、茹でるだけで食べられる炭水化物。
小麦粉や調理用の油、あと、クッキーやチョコレート、飴なども多めに買っておく。
更には、美容オイル代わりに使う、エクストラヴァージンの、お高いオリーブオイルとリンス代わりにする、レモン果汁の瓶も購入する。
取り合えず、洗顔後の保湿がしたいのだ。
日本の、有名女流作家さんは、オリーブオイルを塗っていた、とCMで見た事があるし、たぶん大丈夫だと思う。
次に、輸入食材店に移動すると、なんとそこには味噌や醤油、めんつゆまであった。
ちょっと興奮しながら、それらの日本の調味料類も買いまくる。
裏面を見てみると、製造国はジパングと表記されていた。
これは、後で聞いてみなくては。
お米も置いていたので、10kgの袋を3つ購入する。
その横に、土鍋も置いてあったので、大きめの土鍋も一つ購入、これで土鍋ご飯が炊ける。
あとは、タッパー容器も、セットで沢山購入しておく。
魔法バッグに、どんどん入るので、遠慮なく買い物出来てしまうのが恐ろしい。
あんこの真空パックと、白玉粉も見つけたので、それも多めに購入。
あと、出汁パックなる物もあったので、大量に。
挙げ句には、カレー粉まであったので、これも買いだ。
ちょっと、息切れするほどに興奮してしまったので、まだ、ゆっくり買い物しているミミアとリムを店に残して、先ほどの家具屋さんに移動する。
中に入ってみると、テーブルや椅子などの並んだ奥に、食器棚や飾り棚、タンスのような引き出しの付いた棚などがある。
取りあえず、服を入れる為のタンスっぽい棚とクローゼット、食料を収めるのに、良さそうな収納棚、一応、食器棚も購入する。
お届けは~? と聞かれたが、持ち帰ります、と断って、店員さんが、会計で後ろを向いている時に、魔法バッグに入れてしまう。
入れる時に、しゅっ、と吸い込まれるのだが、きちんと並ぶように調整して収納したので、あちこちに、散らばって置かれる事はないだろう。
帰ったら整頓、と思いながらも、だんだん、非常識さに慣れて来たかもしれない。
輸入食材店に戻ると、ミミア達も充分に買い物が出来たようで、そのまま帰路に就く。
途中、気になっていた、小さいパンをカップに入れて、いろんなフレーバーの粉が振りかけてあるお菓子を、おやつにしようと立ち寄る。
これはそのまま 【パンカップ】 という商品だそうだ。
シナモンシュガー・苺ミルク・ココナッツシュガー・チョコバナナ・メロン、のフレーバーを買って、帰ったらみんなで食べ比べしよう、と話しながら、途中でハッと気が付いて、苺ミルクを追加で買い足す。
アニタさんへの、お土産だ。
宿に帰り着くと、ココ達は一階の居酒屋で、アニタさんお手製の、堅焼きの犬用クッキーをもらって食べていた。
ぶんぶんと尻尾を振って、お迎えしてくれる犬達を引き取ると、アニタさんにお礼を言って、お土産の苺ミルクフレーバーのパンカップを渡す。
「あらぁ、そんな気を使わなくってもいいのに、ありがとね」
そして、お返しにと、大量の犬用堅焼きクッキーをいただいてしまった。
夕飯前に、小腹が空いているので、さっきのパンカップを部屋でつまもうと、アニタさんに、コーヒーをポットで頼む。
「はいよ、じゃあ部屋まで持って行ってあげるから、先に、上に行っといで」
と、言ってもらったので、お願いして、そのままミミア達の部屋に戻る。
はぁー、くたびれた。
「疲れたねぇ~」
「駆け足だったもんね~」
そう言いながら、買って来たパンカップを、ずらりとテーブルの上に並べる。
言わば、パンカップの試食会だ。
疲れた体に、甘い物は染みるよね、などと言いながら、途中、アニタさんがコーヒーポットとカップを持って入って来る。
アニタさんも、興味深げに、いくつかつまんで行った。
ブラックコーヒーをいただきながら、パンカップを食べ比べ。
「苺ミルク甘~い」
「メロン、めっちゃ高級感~」
などと、大騒ぎしながら楽しむ。
わたしは、ココナッツシュガーのフレーバーが、一番好きかもしれない。
楽しいな、ふとOL時代の、洋子さんに、仲良くしてもらっていた日々を思い出す。
が、ぷるぷるっと頭を振って、感傷に浸りそうになるのを吹き飛ばす。
さぁ、これから自分の部屋に戻って、魔法バッグの中身を片付けよう。
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