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第18話 共に生きましょう。
しおりを挟むセリーナが法令状をしまい、もう一枚の紙を静かに広げる。
それは、王族にのみ許された絶対の書。
《王族特権状》
「王族特権状──この状は、いかなる法令であっても王族の名において棄却、または改定を行うことを許すものです。」
ガットは息をのむように、セリーナを見上げた。
「……読み上げます。」
「王族特権状により、同日。セリーナ=ナビルの名において改定。」
「法令による罪状は、すべて破棄。」
「ガット=ローウェル、コビー=ハンクス──両名を無罪とします。」
牢内に静寂が満ちる。 ガットは、涙を堪えきれず目頭を押さえた。
「なお、身代金三千万ウィルは回収。改めて、ラスの村復興のための譲渡金として三千万ウィルを贈呈します。また、穀物の種五十種、苗三十種を合わせて送付します。」
(お父様が…昨夜、私に言ってくれた。)
──昨夜。
「あやつの罪は、法的には裁かねばならない。国で決めたことだ。」
セリーナは顔を横に振る。 ナビル王の目が、再び父の優しさを宿す。
「……ただ、改定はできる。王族である私と、お前ならな。」
「改定……ですか?」
「ああ。それが“王族の特権”だ。」
ナビル王はゆっくりと頷いた。
「ガット=ローウェル、コビー=ハンクスの件──セリーナ、お前に任せる。」
──そして、今。牢獄。
(だから私は……)
「以上すべての物を、ラスの村に──」
(王族としてしかできないことを……)
「譲渡いたします。」
(私らしく……)
「……以上です。ガットさん。これが今、私にできる精一杯のことです。」
「ああ……充分だよ……」
ガットは涙が止まらなかった。
「……釈放します。」
(あなたが気づかせてくれた……わたしにできること。)
(ガットさん……コビーさん……あなたたちに出会えて、よかった……)
牢獄を出て、長い通路を歩く。 セリーナが前を、ガットが後ろを。
その背中を見つめながら、ガットは心の中でつぶやく。
(ずいぶんと大きくなったな……たった一日で……)
──城を出て。
「ガット!」
コビーが走り寄り、ガットに抱きつく。
「コビー……」
「よかった……ほんとによかった……王女さん……ありがとう……!」
セリーナは静かにうなずいた。
──その頃、王城の上。
ナビル王が静かに立ち、遠くに見える三人の姿を見下ろしていた。
(ガット=ローウェル……まだ野にこれほどの男がいたとはな……)
微かに口元を緩め、王はゆっくりと背を向けた。
「コビー……すまなかった。俺が勝手にやったことだ……」
「ガットなら、そうすると思ってた。」
馬車には三千万ウィル、そして種や苗が積まれている。 荷の上には、ナビル王国の旗がはためいていた。
刻は、夕暮れ。 橙の光が三人を包み込む。
「王女さん……」
コビーがセリーナを抱きしめた。
「ありがとう……」
「……はい。」
続いてガットが、ぎゅっとセリーナを抱きしめる。
「ガットさん……く、くるしいです……」
「ん? ああ、すまない……」
夕陽が、セリーナの笑顔を柔らかく照らす。
「セリーナ……ありがとう。」
「はい。」
「これからも、私は王族として──自分にできることをしていこうと思います。」
ガットは笑みを浮かべ、ゆっくりとうなずいた。
「ああ。セリーナ……お前ならできるよ。」
兵士の声が響く。
「門、開けーっ!」
ゴゥン……ゴゥン……ゴゥン……。
城門が開き、外の光が差し込む。
(誘拐されたあの時……)
ボン!
「煙幕だ!」
馬車の中に煙が充満する。
「ごほっ…ごほっ」
その時、後ろの扉が開いて煙の中から大きな手が…見えた…
「こい!」
(私は……自らガットさんの大きな手を掴んだ……)
(あの時は何も考えていなかった……)
(私を助けてくれるの?)
(私を遠いところに連れていってくれるの?)
(そんな想いがあったのかもしれない。)
荷台上のコビーが大きく手を振っている。 セリーナも大きく手を振り返す。
(囚われていた私を……見つけてくれた……)
(ふふっ。こういうこと言うのはおかしいけど……ガットさん……コビーさん……私を誘拐してくれてありがとう。)
「お元気で……ガットさん、コビーさん。」
──半年後。
とある村。
「ナビル王国からの物資が来た!」
セリーナが馬車から降り立つ。
「こちらが、今回の物資です。」
「ありがとうございます……感謝しかありません……」
「よかった……これで冬が越せる……」
「いえ。困った時は、いつでも声をかけてください。」
セリーナが優しく微笑む。
「そして──共に生きましょう。」
(これが、わたしにできること。 王族としての、わたしの役目。みんなを……幸せにするために。)
【本編・了】
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