溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~

紅葉山参

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悪役令嬢追放と、甘美なる夜の始まり

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 私の名前はリーシャ。第一王子ビヨンド殿下の正式な婚約者であり、もうすぐこの国の妃となる身だ。私は控えめな侯爵令嬢として育ち、自分から目立つことを好まない。その性格が、きっとあの悪役令嬢に付け入る隙を与えてしまったのだろう。

 ある夜、王宮で盛大な夜会が開かれていた。ビヨンド様はいつものように、多くの貴族たちからの挨拶を受けながらも、その鋭い青い瞳は時折私を見つめてくる。彼が私に向けてくれる優しい眼差し、それは私の宝物だった。

 その時、一人の女性が私たちの間に割って入った。伯爵令嬢ユーリーよ。彼女は派手なドレスを纏い、まるで舞台女優のように大仰な仕草でビヨンド様に話しかけた。

「ビヨンド様、リーシャ様は最近お体の調子が優れないと聞きました。どうかお妃教育など一時お休みさせて差し上げてはいかがでしょう?私でよろしければ、政務に関する書類整理などのお手伝いを…」

 ユーリーの言葉は、まるで私を病弱で役立たずな存在だと貶めているようだった。そして、自分が王子の隣に立つにふさわしいと暗に主張しているのだ。周りの貴族たちも、ユーリーの大胆な行動に注目し、ざわめき始めている。

 私は思わず顔を俯かせた。反論しようにも、もともと口達者ではない上に、注目されることに慣れていない私の足は、地面に縫い付けられたかのように動かない。

 しかし、私の愛しい婚約者殿下は、ユーリーの浅はかな策になど、微塵も動じなかった。彼はただ静かに、その美しい顔に冷たい笑みを浮かべる。

「ユーリー伯爵令嬢、私の婚約者の体調は私が一番よく知っている。リーシャは私の隣に立つべく、日夜努力を重ねてくれているのだ。それに、政務は私の職務であり、あなたが口を挟むべき領域ではない」

 ビヨンド様は、私リーシャの手を取り、優しく握りしめた。その温もりが、私の不安を打ち消してくれる。

「愛しいリーシャ、気分を害しただろうか」

 彼は周りの目も気にせず、私にだけ聞こえる声でそう囁いた。私は首を横に振る。彼が信じてくれるのなら、何も怖くない。

 ユーリーはなおも諦めない。彼女は用意周到に、次の手を打ってきた。

「ですが殿下!リーシャ様は今朝、私にひどい侮辱の言葉を浴びせました!侯爵家とはいえ、その品格のなさは、王妃となるべきお方としていかがなものか…」

 彼女は涙を流す演技まで始めた。しかし、その涙はどこか乾いていて、私にはただの芝居に見えた。

「侮辱?私の妻となる者が、そのような無様な振る舞いをするはずがない」

 ビヨンド様の声は氷のように冷たかった。彼は一歩踏み出し、ユーリーをまっすぐに見据える。その威圧感に、ユーリーはたじろいだ。

「ユーリー令嬢、きみの小細工はもう見飽きた。きみがリーシャを陥れようとしているのは明白だ。数カ月前にも、きみはリーシャのドレスを破ろうとしただろう。あれは証拠隠滅に失敗していたな」

 ビヨンド様は、私さえ知らなかったユーリーの過去の悪行までも、すべて把握していたのだ。彼は、私の知らないところで、私を守るために動いていてくれた。その事実に、私の胸は熱くなる。

「王子殿下、わ、私は…」

 ユーリーは顔面蒼白になり、言葉を失う。

「弁解は聞かない。王子の婚約者、そして将来の王妃を陥れようとした罪は重い。ユーリー・アルフレッド伯爵令嬢、きみを本日をもって社交界から追放する。明朝、きみの実家は領地を没収され、一族もろとも国外へ追放となる」

 王子の言葉は、容赦のない断罪だった。ユーリーは悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちたが、誰も彼女に手を差し伸べなかった。

 騒ぎが収束した後、ビヨンド様は再び私リーシャの手を取る。

「さあ、愛しい人。こんなつまらない夜会はもうおしまいだ。私室に戻ろう」

 彼は私の腰に手を回し、周囲の視線から私を庇うように歩いていく。彼の側を歩いていると、世界で一番安全で、愛されていると感じる。

 私室に戻ると、彼はすぐに扉を閉め、私を抱きしめた。

「怖かっただろう、リーシャ。ごめん、きみに嫌な思いをさせてしまった」

 ビヨンド様は私の頬にそっと触れ、親指で優しく撫でる。彼の大きな手が、私リーシャの小さな顔を包み込む。

「いいえ、ビヨンド様。あなたが、私を信じてくださったから。それが、何よりも嬉しいのです」

 私の胸は、安堵と愛情でいっぱいで、今にも張り裂けそうだ。私は背伸びをして、彼の首に腕を回した。

「私の可愛い妻よ…」

 彼は、私を抱き上げ、寝室へと向かう。私の身体は、彼の力強い腕の中にすっぽりと収まり、その体温に包まれる。

「今日から、きみは完全に私のものだ。もう誰も、私たちを邪魔することはできない」

 寝台に優しく降ろされ、私は彼の真剣な眼差しを受け止めた。彼の瞳は、夜会の冷たさとは一変し、情熱的な炎を宿している。

「私は、あなたのために生きています、ビヨンド様」

 そう告げると、彼は満足そうに微笑み、私の唇を塞いだ。それは、長く深く、そして甘いキスだった。ユーリーの起こした騒動など、もう遠い過去のこと。

 この夜から、私リーシャと愛しい夫との、誰にも邪魔されない甘い日々が始まるのだ。私は、彼がくれた幸福に身を委ね、心から彼を愛する。
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