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討たれる名将たち
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「撃て! どんどん撃て! 柵に寄り付かせるな!」
僕の命令で鉄砲足軽が武田家の兵に銃弾を放つ。
相手は竹束――銃弾を防ぐ竹の盾だ――を使ってゆっくりと近づいていく。
「竹束は火に弱い! 火矢を放て!」
「鉄砲は正確に狙わなくていい! 撃つのをやめるな!」
島や雪隆くんも状況に合わせて指示をする。
逆茂木を取り除くことに着手し始める武田家の兵を狙うように指示を出すと、一斉射撃により倒れていく。
よし、やった!
「絶対に柵まで辿りつかせるな! 火薬や弾丸は山ほどある! 惜しむことなく使え!」
いつも参加している戦と違うと気づいたのは早かった。
殺し合うのが普通だった。集団で、あるいは個人で敵兵を殺すのが従来の戦だ。
しかし――これは一方的だった。
一見すると野戦のようだが、こちらは土塁と逆茂木と柵がある。言うなれば篭城戦に近い。
篭城戦は援軍なしに戦うのは愚の骨頂だが――これもまた違う。
なんと評せばいいのか分からないが、相手を死地に誘い込む、もしくは自分が有利な状況に持ち込むという戦になっている。
要は戦にどれだけ準備と努力を重ねたのかが重要なのだ。
この状況になるまでに、織田家は近畿を押さえることで鉄砲や火薬を十二分に確保し、尽きることのない物量で圧倒している。今までの内政によって、それが可能になっている。
そうだ。戦国乱世において内政は重要なのだ。
もちろん戦働きをする武将は必要だ。それに付随する兵も必要である。
しかし――下準備である領地の経営が無ければ水泡に帰すのだ。
兵を雇う金。武具や弾丸、火薬を買う金。そして武将の恩賞。
これらを過剰なまでに用意し、野戦においても自分に有利な状況を作ることができれば、容易く勝てるのだ。
敵方が戦国最強の軍隊であっても、味方が雇われ者の多い弱兵でも。
土木で支えて、一方的に倒せる武器さえあれば。
数刻後、伝令が僕の陣に出入りしてくる。
「鳶ヶ巣山砦から、火の手が! おそらく陥落したと思われます!」
「長篠城の包囲網が解けました! これで武田の退路は絶たれました!」
次々と上がるこちらの戦果。
「武田家の武将、土屋昌次、討ち死に!」
同時に武田家の崩壊も知らされる。
ここで武田家が勝つ可能性があったのならば、それは織田家ではなく徳川家を集中して狙うことだっただろう。この戦は織田家と武田家の戦ではなく、徳川家の防衛戦なのだ。織田家はあくまでも援軍でしかない。
だから徳川家を壊走させてしまえば、徳川さまを討ち取ってしまえば。
この戦の勝者は――武田家になる。
だけど、それは起こり得なかった――
「――山県昌景、討ち死に!」
徳川家を攻めていた、あの武田家四名臣の一人、山県昌景が、銃弾に倒れたという知らせが入った。
「殿! 山県が――」
島がこっちに歩いてくる。雪隆くんもこちらに来る。
持ち場を離れてはいけないけど、それはもういい。
武田家の兵が、退いていく――
「――勝った! 島、次はどうする?」
「もちろん、追撃に決まっている!」
僕は「秀吉のところへ行く! その間に追撃の準備を!」と言い残して本陣に向かった。
早足で向かうと秀吉は陣の外に居た。
いつになく興奮していて、まるで猿のようにはしゃいでいた。
「雲之介! 勝ったな!」
「ああ! 勝ったんだ! 追撃しよう!」
「無論だ! 各隊に追撃の指令を出す!」
僕は自分の隊に戻り「追撃するぞ!」と命じた。
「相手は戦意を無くした敗残兵だ! 思う存分手柄を立てよ!」
おう! と兵たちは応じる。
僕は馬に乗って指揮を執る!
「まずは馬場信春の隊を狙う! 行くぞ!」
馬場は武田の四名臣の一人だ。ここで討ち取っておけば武田家の力は衰退する。
正勝の兄さんも長政も同じことを考えていたらしく、僕たち三つの隊は共同して馬場を追い詰める――
「雨竜さま! 馬場信春率いる一隊が殿として抵抗しています!」
物見の報告は聞かずとも分かった。
老将とは思えないほどの活躍をしている馬場信春が、奮戦しているのが見えたからだ。
周りには兵がほとんどいない。
しかし槍を振るい、こちらの兵を寄せ付けない。
「馬場! もう終わりだ! おとなしく投降するか自害せよ!」
長政が呼びかけるけど馬場は「笑わせるな!」と一喝する。
「若……いや殿が、無事と分かるまで、ここできさ、まらを……」
もう息も絶え絶えで、それでも戦うのをやめない。
いや主君を逃がすのをやめない。
「……雪隆くん。馬場を討ち取ってくれ」
情けではなかった。優しさなんてとんでもない。
ここで馬場を討ち取らなければ、勝頼を逃がすことになるからだ。
「……承知」
雪隆くんが野太刀を携えて、馬場に大声で名乗る。
「雨竜雲之介秀昭が家臣、真柄雪之丞雪隆、参る!」
そのとき、馬場は嬉しそうな顔をした――見間違えだろうか?
雪隆くんが唸り声を上げて――馬場に突貫した。
槍で防ごうと構えたが、槍の柄ごと斬ってしまった。
「……見事!」
そう馬場が言ったように聞こえた。
どたんと仰向けに倒れる馬場。雪隆くんは脇差で馬場の首を取った。
「よし! 次は勝頼だ――」
「駄目だ。殿。もう逃げられた」
島が指差す方角には、もう勝頼の部隊どころか武田家の兵は居なかった。
「大したジジイだ。見事に殿を果たしやがった」
島の言葉に、ようやく笑みの真意が理解できた。
武田家の武将で討ち死にしたのは、以下のとおり。
山県昌景。
馬場信春。
内藤昌豊。
四名臣のうち、三名討ち死に。
土屋昌次。
原昌胤。
甘利信康。
真田信綱。
真田昌輝。
その他数多の武将。
名将が多く死に、これによって武田家の力は弱まることが予想される。
しかしまだ戦国乱世は終わっていない。
太平の世もまだ訪れていない。
まだまだ、戦をしなければいけない――
僕の命令で鉄砲足軽が武田家の兵に銃弾を放つ。
相手は竹束――銃弾を防ぐ竹の盾だ――を使ってゆっくりと近づいていく。
「竹束は火に弱い! 火矢を放て!」
「鉄砲は正確に狙わなくていい! 撃つのをやめるな!」
島や雪隆くんも状況に合わせて指示をする。
逆茂木を取り除くことに着手し始める武田家の兵を狙うように指示を出すと、一斉射撃により倒れていく。
よし、やった!
「絶対に柵まで辿りつかせるな! 火薬や弾丸は山ほどある! 惜しむことなく使え!」
いつも参加している戦と違うと気づいたのは早かった。
殺し合うのが普通だった。集団で、あるいは個人で敵兵を殺すのが従来の戦だ。
しかし――これは一方的だった。
一見すると野戦のようだが、こちらは土塁と逆茂木と柵がある。言うなれば篭城戦に近い。
篭城戦は援軍なしに戦うのは愚の骨頂だが――これもまた違う。
なんと評せばいいのか分からないが、相手を死地に誘い込む、もしくは自分が有利な状況に持ち込むという戦になっている。
要は戦にどれだけ準備と努力を重ねたのかが重要なのだ。
この状況になるまでに、織田家は近畿を押さえることで鉄砲や火薬を十二分に確保し、尽きることのない物量で圧倒している。今までの内政によって、それが可能になっている。
そうだ。戦国乱世において内政は重要なのだ。
もちろん戦働きをする武将は必要だ。それに付随する兵も必要である。
しかし――下準備である領地の経営が無ければ水泡に帰すのだ。
兵を雇う金。武具や弾丸、火薬を買う金。そして武将の恩賞。
これらを過剰なまでに用意し、野戦においても自分に有利な状況を作ることができれば、容易く勝てるのだ。
敵方が戦国最強の軍隊であっても、味方が雇われ者の多い弱兵でも。
土木で支えて、一方的に倒せる武器さえあれば。
数刻後、伝令が僕の陣に出入りしてくる。
「鳶ヶ巣山砦から、火の手が! おそらく陥落したと思われます!」
「長篠城の包囲網が解けました! これで武田の退路は絶たれました!」
次々と上がるこちらの戦果。
「武田家の武将、土屋昌次、討ち死に!」
同時に武田家の崩壊も知らされる。
ここで武田家が勝つ可能性があったのならば、それは織田家ではなく徳川家を集中して狙うことだっただろう。この戦は織田家と武田家の戦ではなく、徳川家の防衛戦なのだ。織田家はあくまでも援軍でしかない。
だから徳川家を壊走させてしまえば、徳川さまを討ち取ってしまえば。
この戦の勝者は――武田家になる。
だけど、それは起こり得なかった――
「――山県昌景、討ち死に!」
徳川家を攻めていた、あの武田家四名臣の一人、山県昌景が、銃弾に倒れたという知らせが入った。
「殿! 山県が――」
島がこっちに歩いてくる。雪隆くんもこちらに来る。
持ち場を離れてはいけないけど、それはもういい。
武田家の兵が、退いていく――
「――勝った! 島、次はどうする?」
「もちろん、追撃に決まっている!」
僕は「秀吉のところへ行く! その間に追撃の準備を!」と言い残して本陣に向かった。
早足で向かうと秀吉は陣の外に居た。
いつになく興奮していて、まるで猿のようにはしゃいでいた。
「雲之介! 勝ったな!」
「ああ! 勝ったんだ! 追撃しよう!」
「無論だ! 各隊に追撃の指令を出す!」
僕は自分の隊に戻り「追撃するぞ!」と命じた。
「相手は戦意を無くした敗残兵だ! 思う存分手柄を立てよ!」
おう! と兵たちは応じる。
僕は馬に乗って指揮を執る!
「まずは馬場信春の隊を狙う! 行くぞ!」
馬場は武田の四名臣の一人だ。ここで討ち取っておけば武田家の力は衰退する。
正勝の兄さんも長政も同じことを考えていたらしく、僕たち三つの隊は共同して馬場を追い詰める――
「雨竜さま! 馬場信春率いる一隊が殿として抵抗しています!」
物見の報告は聞かずとも分かった。
老将とは思えないほどの活躍をしている馬場信春が、奮戦しているのが見えたからだ。
周りには兵がほとんどいない。
しかし槍を振るい、こちらの兵を寄せ付けない。
「馬場! もう終わりだ! おとなしく投降するか自害せよ!」
長政が呼びかけるけど馬場は「笑わせるな!」と一喝する。
「若……いや殿が、無事と分かるまで、ここできさ、まらを……」
もう息も絶え絶えで、それでも戦うのをやめない。
いや主君を逃がすのをやめない。
「……雪隆くん。馬場を討ち取ってくれ」
情けではなかった。優しさなんてとんでもない。
ここで馬場を討ち取らなければ、勝頼を逃がすことになるからだ。
「……承知」
雪隆くんが野太刀を携えて、馬場に大声で名乗る。
「雨竜雲之介秀昭が家臣、真柄雪之丞雪隆、参る!」
そのとき、馬場は嬉しそうな顔をした――見間違えだろうか?
雪隆くんが唸り声を上げて――馬場に突貫した。
槍で防ごうと構えたが、槍の柄ごと斬ってしまった。
「……見事!」
そう馬場が言ったように聞こえた。
どたんと仰向けに倒れる馬場。雪隆くんは脇差で馬場の首を取った。
「よし! 次は勝頼だ――」
「駄目だ。殿。もう逃げられた」
島が指差す方角には、もう勝頼の部隊どころか武田家の兵は居なかった。
「大したジジイだ。見事に殿を果たしやがった」
島の言葉に、ようやく笑みの真意が理解できた。
武田家の武将で討ち死にしたのは、以下のとおり。
山県昌景。
馬場信春。
内藤昌豊。
四名臣のうち、三名討ち死に。
土屋昌次。
原昌胤。
甘利信康。
真田信綱。
真田昌輝。
その他数多の武将。
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しかしまだ戦国乱世は終わっていない。
太平の世もまだ訪れていない。
まだまだ、戦をしなければいけない――
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