吸血鬼だって殺せるくせに、調査と謎解きばっかりじゃん

大野原幸雄

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旧友と傀儡

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次の日…

俺は誰よりも早く目が覚めて、とある用事をするためにほんの少しの間家を出た。
決してジェイスから逃げようとしたわけじゃない…その点については、俺はもう諦めていた。

俺が家にいない間…
起きたジェイス達はカーラとこんな会話をしていたらしい。


「おはよう」

「おはようございます!」

「あいつは…?」

「バージニア様は…お手紙をだしにいきました」

「手紙…?」

「はい…毎朝…誰かに手紙をだしているんです」


ここでジェイスは…
机の上にあった書きかけの手紙を見つける。

しまっておけばよかった。

ジェイスはそれをただじっと見つめた。


「これは…」

「カーラ…この手紙を読んだか?」

「いえ…私…字が読めないから…」

「…」


ジェイスは…その手紙の一枚を胸ポケットにいれる。
すると、ディページが起きてくる。


「ふぁ~あ…おはよ…ジェイス…カーラ」

「おはようございます!お寝坊さんです!」

「ごめんって…悪魔はたくさん寝るものなんだよ?覚えておきな」

「そうなんですか?新しいことを教えていただき、ありがとうございます!」

「ヘンなこと教えんな…こいつは飛びっきりだらしねぇだけだ」

「ディページさんは飛びっきりだらしない悪魔…」

「あー!ジェイスこそ余計なこと教えてないでよ!」


その後は俺が帰るまで…
三人はここまでの旅の話をまたしたのだそうだ。

カーラは表情を変えなかったが…本当に楽しそうに語ったらしい。


「そしたら、おっきな虫がでてきたんです!足がいっぱいあって…」

「ムカデかなぁ…俺虫だめなんだよねぇ…」

「興味があって、食べてみようと思って口に入れたら、バージニアさんに怒られてしまいました」

「ムカデ食べようとしたの!?」

「はい…でもバージニアさんが教えてくれたんです!『女の子は虫を見たら怖がった方が可愛い』って…」

「いや、そこはなんていうか…『普通は虫を食わない』っていう常識的な観点から教えた方が…」

「悪魔が常識を語るか」



カーラは、学ぶことが本当に好きなんだろう。
俺もこの旅を通して感じていたし、ジェイス達もそれはわかったようだ。

カーラは旅の最中…まるで赤子のように何にでも興味を示した。
家、村、食べ物、武器、魔法、人間、悪魔。

荒廃したオロール連邦を超える時でさえ…
彼女は本当に楽しそうにしていた。

彼女が見てるこの世界は…
俺達が見ている世界よりもずっとキラキラ輝いているのだろう。

「…けwす」




俺が家へ帰ってくると…
ジェイスが家の前で俺のことを待っていた。

その手には…
俺が書きかけで置いてあった手紙が握られていた。


「手紙を読んだ」

「書きかけの手紙を読むなんて…趣味悪いなぁ」

「置いていく方が悪い…」

「…」

「全て…フュリーデントの外国境管理局へ書かれたものだ…」

「…」

「カーラをどこかの国に亡命させようとしていたのか…?」

「…」

「…」

「ヴィンドールだ…あそこは人間の法がない…カーラでも安全に暮らせるだろう?」


俺は毎日、フュリーデント外国境管理局へ手紙を書いていた。
ヴィンドールへの出国許可を得るために。


「返事は来たのか?」

「一介の吟遊詩人が許可を得るのは難しいのさ…ただでさえ今フュリーデントはオロールからの亡命者で忙しいからな…」


ジェイスはフュリーデントの国境グラインフォールで、たくさんの亡命者の列を見ていた。
そして根なし草の吟遊詩人が、公的な許可を得る難しさも知っていた。


「…」

「なぁジェイス…」

「?」

「お前…ここまですんなり来れたってことは…ホークビッツの公的な書類を何か持っているんじゃないのか?」

「ホークビッツ国の公印と…大使館への召喚状は預かってきている…」

「本当か!?」

「…あぁ…召喚状の方は…グラインフォールの国境で子供にあげてしまったが…」

「公印はあるんだな?…お前が手紙にそれを添えてくれれば、俺の手紙はホークビッツ大使の公的な印書になるってことだ…亡命許可だって下りる…」

「…」

「…頼む…公印を押してくれないか?…カーラを亡命させたいんだ…」

「…」

「…頼む」

「それはできない…」

「なぜだ!?」

「俺は宰相の命令でお前を殺しに来たんだぞ?」

「…」

「その宰相から預かったものを使って…標的であるお前らの亡命を手伝うことはできない…」


ジェイスは…
冷たく俺に言った。


「…」

「…」

「はは…そうだよな…」

「…」

「…」

「甲斐性のないお前が…そこまでして傀儡を助けるなんてな…」

「…そうしたいからそうする…それが自由を愛する吟遊詩人の生き方ってもんさ」

「…」

「ってのはカッコつけすぎかな…」

「…」

「あの子を見てると思うんだ…」

「…?」

「表情こそ変わらないが…あの子が色んなものを見て楽しそうにしているところを見ると…心があったかくなる…気づかぬうちに、俺も彼女に助けられていたんだ…」


ジェイスは…
俺からすっと目をそらした。


「…」


そして、もう一度俺と目を合わせる


「明日…お前を殺す」


冷たくこう言った。


「…」

「それまでに…やるべきことはやっておけ」

「…カーラはどうするつもりだ?」

「…」


ジェイスは何も言わない。


「なぁ…たのむ…せめてカーラだけでも助けてくれないか?亡命を手伝ってくれとは言わない…せめて…命だけは…」

「…」

「…」

「…俺が言われたのは…お前の命だけだ」

「じゃあ…」

「…」

「…ありがとう」





その夜は…
俺とカーラ、ジェイスとディページと4人で酒を飲んだ。

ジェイス達が来てからもう丸一日が経っている。
それでもカーラはおしゃべりをするのが楽しくて…
ディページに身振り手振りを使って色々話していた。


「それで収穫を手伝わせてもらった時、すごかったんです!切られていないニンジンを始めて見ました…まさかあんな形をしているなんて予想外です!…泥が爪のなかにはいって、洗うのが大変で…」

「イーストレア村の村長が言ってたよ…とっても元気なお母さんだって」

「そうなんです!私、その時はバージニアさんのお母さんのふりして変身したんです!村の皆さんはとっても優しくて…」


ディページと楽しそうに話すカーラ…
俺とジェイスは、浮かない顔でワインを飲んでいた。


「どうしたんですか?バージニアさん…」

「ん?あ、いや…なんでもないんだ」

「…?」


少しづつ…
死の実感が、恐怖が…
俺を暗い気持ちに飲み込んでいった。

部屋の隅に立てかけてある3本の剣が…
妙に大きく感じる。


「なぁカーラ…」

「…はい?」

「幸せに…なれよ…」

「…」


そして…
カーラは話し疲れて…
ディページは飲みすぎて…
満足そうに眠りについた。

俺とジェイスは、声も発さず、2人でワインで口を湿らせていた。


「なぁ…ガキのころ2人で川に遊びにいったことを覚えているか?」

「あぁ…お前が溺れた時のときだろ?俺が助けてやったんだ」

「…あの時からお前は、本当によくできたガキだったな」

「…」

「でも大人になって…お前はさらに立派になった」

「…」

「後悔はしないように生きていけよ…ジェイス」


死刑執行人と、死刑囚である俺らは…
ガキの頃から一緒だった友人でもある。

俺は最後に、ジェイスへ友人としての言葉を贈った。
そしてジェイスは、ワインで口を湿らせて…

死刑執行人としての言葉を…俺に向けた。


「眠りについている時であれば…苦しむことはないだろう…」

「…」

「お前が寝ている間に…俺が首を切る」

「…あぁ」

「何か言い残すことはあるか?」

「…」

「…」

「…いや、ないよ…」

「…」



ジェイスは…
俺から目を伏せた。


「…」

「…」


少しの沈黙ののち…
俺は自分の目に、涙が溜まっていることに気付いた。

この後、ベッドに入ったら…
俺はもう太陽を見ることはない。

このまま眠りにつけば…
もう目を覚ますことはない。

俺はジェイスの目を見て…
ある言葉を口に出そうと思った。

これまでの自分の人生を肯定するように…
生んでくれた母親、遠く離れた故郷ホークビッツ、辛い役を任せることになってしまった旧友ジェイス、俺みたいな男を探す旅を一緒にしてきたディページ、そして…

俺と一緒に旅をしてくれた、心優しい傀儡カーラへ…


最後の言葉を贈ることにした。



「ありがとう…本当に…美しい人生だった」



心の底から…
真っ白な気持ちで、俺はそう言った。


「…」


涙で滲んで…
ジェイスの顔はよく見えなかった。

けど、まっすぐに俺を見てくれていることはわかる。

本当にごめんな…
旧知の仲である俺を殺すなんて…いくら『吸血鬼殺し』といえど辛いよな…


でも…
お前で本当によかった。


お前なら、きっと俺は苦しまずにシエルの地へ旅立つことができる。
そして、後のことを全て任せることもできる。

感謝。
祈願。

あらゆる感情を飲み込んで、俺は言った。



「…そろそろ寝るよ」

「…」

「…おやすみ」

「…あぁ…おやすみ」



この会話を…


カーラが聞いていることも知らずに。



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