吸血鬼だって殺せるくせに、調査と謎解きばっかりじゃん

大野原幸雄

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旧友と傀儡

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パカラ…
パカラ…



広い草原を…
真っ白な馬にまたがったモンスタースレイヤーが駆ける。


「…」

「おお!久しぶりにみたー!ホークビッツ城!」



その後、約20日間の旅を終え…
ジェイスとディページは故郷であるホークビッツに戻った。

ホークビッツの首都アレン=ディーロ。

商店が立ち並ぶ賑やかな街道を抜け…
ジェイスは数か月ぶり…ディページは約1年ぶりにその地を踏んだ。


「変わらないねぇ…賑やかだし、可愛い女の子いっぱい!」

「…」


ホークビッツの豊かさを象徴する荘厳な城の門の前で…
美しい白馬から、任務を果たしたモンスタースレイヤーが降りる。

3本の大きな剣と…
大きな袋を一つ持って。


「お前はここにいろ…」

「はいはい…悪魔はお城に入れないんでしたね~」

「いじけるな…これで今回の旅は終わりだ…戻ったら飲みに行こう」

「娼館を希望します!」

「あぁ…その代わり、待っている間に荷物から金を抜き取るなよ?」

「はいはーい♪」



ディページは人間の姿に戻り、城門の塀の所に腰かけた。
そしていつものようにノンキにあくびをかます。


「いってくる」

「ふぁ~い」


ジェイスは城門を進み、中庭を抜ける。
色とりどり鮮やかな花が咲く中庭は、旅の帰りを歓迎してくれているようだ。

城にはいると、真っ赤な絨毯が玉座に向かって線を引くように敷かれている。
ホークビッツで最も神聖な場所…王座の間である。

王座の間には、計18本の柱がある。
その下に5人づつ、深紅に金色の装飾が施された鎧を来た剣士達が、胸に剣を構えてジェイスに視線を送っていた。
彼らはホークビッツが誇る魔術師によって結成された『紅の騎士団』である。


そしてジェイスが歩く先…玉座には、金色の髪と髭を蓄えたホークビッツ王が座っている。


そして玉座の後ろには、ジェイスを旅へ向かわせた張本人…
ホークビッツの行政を統べる、ラ=グロイゼン=シドラリア宰相がジトリとした瞳で向かってくるジェイスを見ていた。


「…」


玉座の前には6段の階段がある。
ジェイスはその下で、3本の剣を鞘におさめた状態で取り出し、床へ並べた。
そして片膝をつき、王と宰相に深く頭を下げた。



「モンスタースレイヤー・ジェイス・ヘンディ…ただいま戻りました」

「おかえりジェイス…頭をあげなさい」



ホークビッツ王が優しい口調でジェイスに言う。
ジェイスは頭をあげ、ホークビッツ王とラ=グロイゼン宰相に目を合わせた。

すると今度は宰相が…
王とは正反対の温度の無い口調でこう言った。


「あのホラ吹き吟遊詩人の首は…?」


ジェイスはもう一度軽く頭を下げ…
持ってきた大きな袋を剣の横に置く。

そして紐を解き、中身が見えるように袋を開いた。


「…」

「うむ…」


そこには…

真っ青になったバージニア・フェンスターの首が入っていた。
血が噴き出さないように首元にロープがぎゅっと縛られている。

目には包帯巻かれており…
口には布が詰められていた。


「包帯をほどいて…瞳を見せろ」

「はい…」


ジェイスは結び目をほどき…
ゆっくり包帯をとっていく。

明かされたバージニアの瞳には光がなくなっており…
うつろな表情で斜め上を見ているようだった。


「間違いない…吟遊詩人バージニア・フェンスターだ…」

「…」

「彼はどこにいたんだ…?」

「オロール連邦にしばらく潜伏していました…その後グラインフォール経由でフュリーデント公国へ入り、最終的にはフィジールという町で彼を捕えました…」

「ずいぶんと遠くまで逃げたものだな…」

「えぇ…」



ホークビッツ王は…
吟遊詩人の顔を見て、寂しそうに下唇を噛んだ。



「私は…彼の歌が好きだった…」

「…」

「…」

「こんな最後になるとは…残念でならない」


王のその言葉を聞くと…
宰相が軽く頭を下げて、王へこう返した。


「お言葉ですが…彼は嘘で私を陥れようとした反逆者です…王が追悼の言葉を与えるような男ではありません」

「…」

「…」


王は、その言葉に返事をしない。
バージニアの顔を見たあと、今度はジェイスに向かってこう言った。


「辛い役回りをさせたな…ジェイス」

「いえ…」

「…」

「…」

「犯罪者である彼をこの国の墓へ入れることはできないが…この死を忘れぬようにすることは罪ではない…」

「…」

「ジェイス…バージニアと最後に話をしたのはお前だ…決して…忘れてやるな…彼がこの地に生きていたことを…」

「はい…」


ホークビッツ王は…
こういう人なのだ。

ホークビッツ人であれば国を追われた者にでさえ…
反逆者にでさえ、思いやりを忘れない。

本当に、国民から信頼されている王の中の王。


「…」

「…」


ジェイスと王が、少し感傷に浸っているのが気に入らないのか…
宰相はまた温度を込めない声で、ジェイスに言った。


「かさんだ旅費と報酬は、後日いつもの方法で渡す…もう行け」


ジェイスはもう一度バージニアの首を見る。
そして…


「はい…」


と一言返事を返し、剣を取り、立ち上がる。
深くお辞儀をして立ち去ろうとすると、宰相が呼び止めるようにジェイスに言った。


「モンスタースレイヤー…」

「…」


ジェイスは、返事をせずに顔だけで少し振り返る。


「お前はいつまで、根なし草の狩人を続けるつもりだ…?」

「私は、今の立場で満足しておりますので…」

「お前は強い…力のある者がどこにも属さないというのはそれだけで罪だとは思わんか?」

「国の機関に属せと?…それともまた『紅の騎士団』に戻れとでも?」

「…そうすることがお前のあるべき立場だと思うがな」

「…あなたの目の届く所に置いておきたいだけでは?」

「…」


ジェイスのこの皮肉に…
宰相は冷静に返答する。


「立場がわかっていないようだな?ジェイス・ヘンディ」

「…」

「お前は我々が目をかけてやっているから、自由に色んな国へ行けるのだぞ?」

「…」

「我々の手から離れればお前は本来の大義すら失う…怪物と人間を殺す山賊や盗賊と何の変わりもない無法者だ」

「…心得ております」


ジェイスは振り向き、宰相の顔は見ず、王にだけもう一度頭を下げる。
そして…


「では…」


と、淡白な言葉を残し、城を後にした。


「ふぁdふぁだ」







城門を出ると、ディページが昼寝をしている。


「起きろ…」

「ん~」

「…」

「暗い顔してんね…ジェイス」

「…そう見えるか?」

「うん…また宰相に嫌味でも言われた?…それとも旧友殺しの汚名を着るのは、さすがの『吸血鬼殺し』でも堪えたのかな?」

「…」


ジェイスは、その問いに答えない。

そして珍しくディページに弱音に近い感情を漏らした。


「これで…よかったんだよな…」

「…?」

「…」

「よかったんじゃない?」

「…」

「ジェイスは『バージニアの首を持ってこいって言う』宰相からの命令を遂行できたし…」

「…」








「旧友を…本当に殺さずに済んだわけだしね…」








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