怪獣特殊処理班ミナモト

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第1章 神獣協会

ヘッドハンター作戦 均衡

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赤本はがれきの山から飛び降りると、レストアの脳天目がけて、真っ直ぐに術刀を振り下ろした。

(こいつ、よりにもよって真正面から我と切りあうつもりか!)

「受けて立つぞ!アカモト!」

 レストアは構えていた鉄パイプを下ろすと、空中の赤本をしっかりと見据えた。

「その太刀筋!我が鎧でもって堪能しようぞ!」

(ガードしないつもりか…!舐めやがって!)

 赤本は全身の筋肉を一寸の乱れもなく動かすと、渾身の力で、かつ最大効率の力でレストアの鋼鉄の面を切りつけた。切りつけた箇所からは激しい火花と金属音が鳴り、レストアはその衝撃でよろめいた。

(予想以上の力!最も効率の良い形で、我を鉄の面もろとも切り捨てようとしたのか…!)

 レストアはすぐに体勢を立て直すと、すでに術刀を構える赤本の前に立った。

「良い!実によいぞ!貴様の剣、その切っ先から爪の先に至るまで、余すことなく我を殺しに来ているな。良い闘志だ!此の様な時代に貴様のような者と逢えたことを、幸運に思う!」

「頼むから静かにしてくれ。気が散って仕方がない」

「何を言う!斯様な掛け合いこそが、戦さ場の華ぞ!」

 レストアはそう言いながら口から血を噴き出した。まだ出雲に負わされたダメージは、回復する兆候を見せない。

(そのような些事、一向に構わん!)

「無駄を排すが我が美徳!最短距離で行かせてもらうぞ!アカモト!」

 レストアは鉄パイプを両手で握ると、半身になるように左足を前に出し、右足を後ろに下げると、剣道で言う脇構えに近い形となった。

(剣道の脇構え!だがそれにしては脇の締めが甘い。ひじも浮いている。これではまるで…)

「よそ見かアカモト!」

 レストアは赤本の一瞬のスキを突き、一気に足を前に出すと、渾身のスピードで赤本を横に薙ぎ払った。

「う、ぐ…!」

 赤本はそれを間一髪で術刀で受け止めたが、その衝撃は吸収しきれず、横の喫茶店に吹き飛んだ。

「我が全力の横薙ぎを受けて、胴が繋がっていたのはこれで5人目、いや、人間では1人目だ。光栄に思うがよい」

 赤本はがれきに埋もれたまま、返事がない。

(よもやこの一撃で死ぬ男ではあるまいな)

「俺を忘れているぞ?」

 不意に後ろから発砲音がした。そしてレストアの背中に鈍い痛みが走った。東雲が対戦車ライフルを発砲したのだ。レストアは振り向きもせず、鉄パイプを地面に突き刺した。

「…忘れてなどないわ。ただ、お前がこの場で最も取るに足らぬ弱者だっただけのことよ」

 レストアはそのまま、がくりと地面に立膝をついた。

(少々遊びすぎたな。もうそろ頃合いか……)

「あれはつまらんからしたくなかったのだが。アカモト、貴様のために披露してやる」

 レストアはそのまま地面に座り込んだ。そしてまた東雲が発砲したライフル弾がレストアの甲冑を貫いた。今度は心臓の真横をかすめた。

(まずは邪魔者から取り除くとするか)

「過程変異」

 その言葉と共に、レストアの顔を覆っていた面の一部が変形した。そして横の細いスレッドはふさがれ、斜めのスレッドが二つ、目から口のあたりに開かれた。その様子はまるで、近未来の決戦兵器のようだった。さらにそこから、黒い涙があふれ始めた。その量は、ジオナや他の怪人たちとは比べ物にならなかった。しばらくして、レストアはゆっくりとその場に立ち上がった。そして鉄パイプを掴むと、後ろを向いた。すでにもう2発のライフル弾を受けているのにもかかわらず、そのダメージは一切なくなっていた。

「目障りだ、疾く死ね」

 レストアは鉄パイプを大きく振りかぶると、やり投げのように鉄パイプを東雲の隠れるビルの一角に向かって投げた。その速度は、軽く音速を超えていた。東雲は反応する間もなく、左腕と共に部屋ごと貫かれた。

「な!ッ……!」

 東雲はそのまま力なく倒れた。

「ふん、凡が。場を濁しおって」

 レストアはその四つの目で、赤本の倒れる喫茶店を見た。3の目でその場の温度を視たが、その体温はまだ健在だった。

「おい、アカモト。何を流暢に気絶などしている。この我を待たせるつもりか?」

「うぐッ……はあ。待たせる?てめえ、今東雲さんのこと……」

「あれのことか?たわけ、殺しはしておらぬわ。ただ片腕を切り飛ばしただけよ」

「同じことだ!」

「何をそこまで憤るのだ。あのようななんの才にも恵まれぬ愚者に、どうして情をかけ、思いやろうとする」

「お前になんか、分かってたまるかよ。クソが!」

 赤本は自分の上に乗っかるがれきを蹴とばすと、壊れたヘルメットとゴーグルを投げ捨て、マスクだけの状態となった。その手には、まだ術刀が握られている。

「……その奇妙な得物はなんだ?何故我の剣を受けて曲がりもせぬのだ」

「これは元々怪獣駆除用だ。かてえ体組織を切除するのに特別頑丈に作られてんだよ」

「つまり医療用器具か。人間め、珍妙な物を作ってくれる」

「そんなに言うんだったらこの切れ味、お前の体で試してみろよ」

 赤本はその切っ先をレストアに真っ直ぐ向けた。

「乗ってやろう。来い、アカモト」

 赤本は服の下に着ていた機械化装甲の出力を限界まで上げると、勢いよく飛び出した。そして真っ直ぐレストアに向かってきた。そして術刀を右下に構えると、レストアの胴を逆袈裟切りにしようとした。ように思わせた。レストアはその逆袈裟に対応しようと左の拳を軽く開き、右の拳でカウンターの姿勢をとった。

(もう前みたいなヘマはしない。自分の持つ全てを利用する…!)

「下半身、出力制限解除」

 赤本は小さく呟くと、レストアの腕が届く直前でがくんと体を左に倒した。そして左足で片膝をつき、術刀を持ったまま両手で体を下向きに支えると、勢いよく右足をレストアの胸めがけて振り上げた。

「なに!」

 レストアはそれに超反射で対応した。だが、赤本はそれを読んでいた。機械化装甲の制限解除によって限界を超えて強化された赤本の両足は、常人のおよそ20倍の力を発揮していた。それを防いだレストアの左腕は、大きく折れ曲がり、そしてその骨格が粉々に砕かれた。

「まだだ!後一発!」

 赤本は体勢を一気に立て直すと、手に握っていた術刀を大きく振り上げると、力なく垂れ下がる左腕の付け根に目がけて降り下ろした。

「甘いわ!アカモト!」

 振り下ろした術刀は、レストアの左腕を切断するに至らず、腕の付け根の前半分を切るにとどまった。

「まだだって言ってんだろうが!」

 赤本は地面すれすれで振り下ろした術刀を止めると、手首を捻って刃を上に向けた。

「まさか……!」

 赤本は残る力を振り絞って勢いよく術刀を振り上げた。

(燕返しだ!馬鹿野郎!)

 振り上げた術刀は、レストアの左腕を両断した。

(この土壇場でこれだけの精度の剣捌きを見せるとは…!)

「……我は加減をしていた。貴様のような戦士相手に、だ。王家に仕える戦士としてこれ以上の恥は無い。だが、務めを果たすのが何よりの贖罪!アカモト、剣を構えよ。レストア・ユグト・カンニバスがここに、正式な決闘を申し込む!今度こそ、我が全てを持って貴様を殺そう!」

(あわよくば、我が、事細かく指南したかったが、それはあくまで私情よな)

 レストアは片腕を失ったことでずれた重心をすぐに修正すると、赤本の前に立ちはだかった。すでにレストアには油断も余裕も無い。

「……どうしたアカモト、何故切りかかってこんのだ」

 それにこたえる代わりに赤本はその場に膝から崩れ落ちた。

「両足をダメにした。もう動かすこともできねえよ」

「なに!では我との一騎打ちを放棄すると言うのか!」

「もとより受けるつもりはないが、そもそも俺たち人間は、お前たちみたいな再生能力は持ってねえ。足が治るのにも時間がかかる」

「おのれ!では我はそのような貧弱に腕を取られたと言うのか!」

「ああ、そうだよ。片腕を持って行けたのは俺からしては幸運だったな。五体満足で過程変異したお前みたいな怪人に勝てる人間はまずいないから、これで随分お前を殺しやすくなった」

「……そうか。実にくだらんな」

「何とでも言え」

 レストアは赤本の首を掴むと、上に持ち上げた。それに赤本は一切の抵抗を見せなかった。

「死を前にして、何故抗わない」

「…まだ死ぬつもりはないからだ」
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