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第2章 王族親衛隊
ジレイド・ウル・トラグカナイ
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気付くと源は、荒野の真ん中に立っていた。あたりを見渡しても構造物は無い。ただ少し、地平線がいつもより丸かった。
「守護者様」
不意に後ろから呼ばれた。振り返るとレストアのような甲冑を着た男が跪いている。
「審判者から呼び出しがございます」
「何?俺が審判者に?罪人と間違ってはいないか?」
「いえ、確かに」
「…分かった」
場面は変わり、大理石のような建材を使った黒い巨大な空間に立っていた。天井の一面だけが白で、淡い光を発している。
「審判者よ。なぜ私がこの場に呼ばれた!」
「それは汝が良く分かっているはずであろう、ジレイド・ウル・トラグカナイ」
部屋の色にあう黒い法衣を着た審判者は、なじるような目線をトラグカナイに向けた。服が背景と同化して、生首が浮いているように見える。
「ッ……!私は今の今まで帝のため戦ってきた!今の戦いも見ていただろう。下層者を一掃したのは他でもない私だ!」
「もはや言い逃れは通用しまい。トラグカナイ、汝は大罪を犯した。その職と地位にありながら」
「…一体なんだというんだ」
「恐れ多くも、かのギルガメシュ大君に謀反を画策したのだろうが。その臣下であるにも関わらず何という狼藉か……」
「そんな…!誰だ、誰がそのようなあらぬ罪を流したのだ!」
「それを言うまい。トラグカナイよ、貴様の役の全てを解く。資産の僅かを手元に残そう」
「………」
「よもや意義を申し立てるつもりか?それはつまり、大君を疑うことになりえる。さすれば事の真相を確かめるほかなくなるぞ?」
「……大君が審判にかけられると?」
その言葉に二人を取り囲む傍聴人の人々はざわついた。
「おお!そのようなこと、間違っても口にするでない!やはり汝は…」
「それで大君が罪科を免れるのなら、私は構わない」
「…償いのつもりか?」
「そうだな、そういうことにしてくれ」
場面はまたもや変わる。傍らには槍をもった兵士が二人、そして大きな門が目の前にそびえたっている。
「よいか、大君の御姿を覗き見ることはかなわん。その御声だけに耳を傾けるのだ。トラグカナイ、その寛大なる恩赦に応えるのだぞ」
「分かっている」
しばらくして、門の向こうから声が聞こえてきた。だがその割には音がクリアだった。
「トラグカナイよ……」
「は、大君」
恐らくギルガメシュと思わしきその声に、手枷をされた状態で跪いた。
「余が貴様を迎え入れていくばくか、その時を覚えている。トラグカナイ、立場ゆえ貴様への謝辞は無い。だが、余の心根にとどめておくことは可能だ。もし悠久の時を超え、我らが二度と相まみえた暁には、向かい合って杯でもかわそうぞ」
「大君…!」
「大儀であった、トラグカナイ。その命、絶えることのないように願う」
その途端、視界は急激に濁った。それは止めどなく流れる涙によるものでもあったし、源の記憶ののぞき見が臨界に達しているサインでもあった。そのまま視界は真っ黒に染められ、そして源は目を覚ました。あの教室は掻き消え、元の白い空間に戻っている。目の前には地面にへたりこんでぎゅっと目をつぶり、涙をこぼすまいとするトラグカナイ、もといカナの顔があった。何故か制服はそのままだ。源はトラグカナイの目の前にしゃがみこんだ。いつかの少女にしたように、目線の高さを合わせて、怖がらせないように。そして言った。
「トラグカナイ、お前の記憶を見た。お前はきっと優秀で忠実な部下だったに違いない。それと同時に、お前は自分の気持ちを過程はどうであれ抑え込んだ。自己犠牲の精神と言えば聞こえはいいが、俺はあの一連の光景を見て決してそうは思わなかった。きっとお前は俺の想像もつかない昔からそうやって生きてきたんだろ?」
「知ったような口を、きくな……!」
「ああ、これはあくまで俺の想像、妄想にすぎないし、今言ったことが丸々真実だとは思ってない。だけど、その生き方は理解したと思う。本当はお前はそんなに悪い奴じゃない」
(こいつは悪い奴じゃないんだ。そうなんだ、悪くない。ただ不運なだけで、俺と変わらない普通の奴なんだ。でなきゃ筋が通らない)
トラグカナイは感情を整理できずに源に言った。
「……この俺を悪い奴じゃないなどと、よくもまあのたまえるな。お前はやはり偽物だ。あの方とは血が繋がっているだけの、ただそれだけの贋作だ」
(なのに、何故俺はそれを不快に感じないんだ!なんなんだこの感情は!なぜ、なぜ俺は……こんなにもこの状況に安心しているんだ!)
「トラグカナイ、俺はお前が好きじゃない。お前は俺を侮辱したし、俺の過去を辱めた。だけど、それでも嫌いになりきれない。お前の弱さをしってしまったから。アイツとよく似た心の影を。だから……」
(どうするのか。その気持ちは揺ぎなく固まった。俺は自分の生き方に責任を持つ)
「トラグカナイ、俺はお前を好きになることにした」
「……は?」
「俺はこれからお前と過ごす。実はお前のコアは俺が浄化したんだよ。記憶を探られてから色々と器用になってな。お前の意識を俺の中にうつした。これでお前が死ぬことは無い」
「……そんなことして、お前に何の得がある」
トラグカナイは明らかに戸惑っていた。
「得はある。俺はこうやってカナの姿をまた見られるし、お前は俺に殺されずに済む。それに、お前はまだ怪獣から意識を解放されたばかりだろ?現世を楽しめよ。俺がそうしたように」
『余がそうしたように』
「……本当に馬鹿な奴だ。俺がお前の意識を破壊してもいいのか?」
「それはもちろん抵抗するさ。でも、お前は多分しないだろう?それをするには優しすぎるから」
「………」
(こいつはあの方とは違う。似ても似つかないまがい物だ。でも一つだけ、こいつは俺がいくら拒否しようと放っておかなかった。おせっかいな野郎だ。まるであの方みたいに……)
「トラグカナイ?」
「……分かったよ。ただ、俺は好きにさせてもらうし、お前とも口は利かない。お前は精々俺を好きになれるよう努力するんだな」
(隙を見つけて体を乗っ取ってやる)
源はその言葉を聞いてほっとした。
(こいつは今確かに俺に気を許した。ほんの少しだけ。これはまず第一歩なんだ。自分の過ちを正す、その第一歩)
「もちろんだ、トラグカナイ」
源は笑顔で答えた。
「トラグカナイじゃあ呼びにくいだろ。俺のことは、そうだな……」
源はなにかよからぬ気配を察知した。
「おい、待て。まさか」
源の制止むなしくあっさりと、
「カナと呼べ」
言われてしまった。
「それは…」
「俺の記憶を覗いた罰だ」
「……分かった」
こればかりは甘んじて受け入れるしかない。これも第一歩なんだ。きっと。
「じゃあまずは下の仲間でも助けてやるんだな。今にも殺されそうだぞ?」
源はその時、目を開いた。目の前には光源があり、横にはジークが倒れている。窓の外には、玄武の亡骸が横たわっている。
「さて、行くか」
源は確かな一歩を踏み出した。
「守護者様」
不意に後ろから呼ばれた。振り返るとレストアのような甲冑を着た男が跪いている。
「審判者から呼び出しがございます」
「何?俺が審判者に?罪人と間違ってはいないか?」
「いえ、確かに」
「…分かった」
場面は変わり、大理石のような建材を使った黒い巨大な空間に立っていた。天井の一面だけが白で、淡い光を発している。
「審判者よ。なぜ私がこの場に呼ばれた!」
「それは汝が良く分かっているはずであろう、ジレイド・ウル・トラグカナイ」
部屋の色にあう黒い法衣を着た審判者は、なじるような目線をトラグカナイに向けた。服が背景と同化して、生首が浮いているように見える。
「ッ……!私は今の今まで帝のため戦ってきた!今の戦いも見ていただろう。下層者を一掃したのは他でもない私だ!」
「もはや言い逃れは通用しまい。トラグカナイ、汝は大罪を犯した。その職と地位にありながら」
「…一体なんだというんだ」
「恐れ多くも、かのギルガメシュ大君に謀反を画策したのだろうが。その臣下であるにも関わらず何という狼藉か……」
「そんな…!誰だ、誰がそのようなあらぬ罪を流したのだ!」
「それを言うまい。トラグカナイよ、貴様の役の全てを解く。資産の僅かを手元に残そう」
「………」
「よもや意義を申し立てるつもりか?それはつまり、大君を疑うことになりえる。さすれば事の真相を確かめるほかなくなるぞ?」
「……大君が審判にかけられると?」
その言葉に二人を取り囲む傍聴人の人々はざわついた。
「おお!そのようなこと、間違っても口にするでない!やはり汝は…」
「それで大君が罪科を免れるのなら、私は構わない」
「…償いのつもりか?」
「そうだな、そういうことにしてくれ」
場面はまたもや変わる。傍らには槍をもった兵士が二人、そして大きな門が目の前にそびえたっている。
「よいか、大君の御姿を覗き見ることはかなわん。その御声だけに耳を傾けるのだ。トラグカナイ、その寛大なる恩赦に応えるのだぞ」
「分かっている」
しばらくして、門の向こうから声が聞こえてきた。だがその割には音がクリアだった。
「トラグカナイよ……」
「は、大君」
恐らくギルガメシュと思わしきその声に、手枷をされた状態で跪いた。
「余が貴様を迎え入れていくばくか、その時を覚えている。トラグカナイ、立場ゆえ貴様への謝辞は無い。だが、余の心根にとどめておくことは可能だ。もし悠久の時を超え、我らが二度と相まみえた暁には、向かい合って杯でもかわそうぞ」
「大君…!」
「大儀であった、トラグカナイ。その命、絶えることのないように願う」
その途端、視界は急激に濁った。それは止めどなく流れる涙によるものでもあったし、源の記憶ののぞき見が臨界に達しているサインでもあった。そのまま視界は真っ黒に染められ、そして源は目を覚ました。あの教室は掻き消え、元の白い空間に戻っている。目の前には地面にへたりこんでぎゅっと目をつぶり、涙をこぼすまいとするトラグカナイ、もといカナの顔があった。何故か制服はそのままだ。源はトラグカナイの目の前にしゃがみこんだ。いつかの少女にしたように、目線の高さを合わせて、怖がらせないように。そして言った。
「トラグカナイ、お前の記憶を見た。お前はきっと優秀で忠実な部下だったに違いない。それと同時に、お前は自分の気持ちを過程はどうであれ抑え込んだ。自己犠牲の精神と言えば聞こえはいいが、俺はあの一連の光景を見て決してそうは思わなかった。きっとお前は俺の想像もつかない昔からそうやって生きてきたんだろ?」
「知ったような口を、きくな……!」
「ああ、これはあくまで俺の想像、妄想にすぎないし、今言ったことが丸々真実だとは思ってない。だけど、その生き方は理解したと思う。本当はお前はそんなに悪い奴じゃない」
(こいつは悪い奴じゃないんだ。そうなんだ、悪くない。ただ不運なだけで、俺と変わらない普通の奴なんだ。でなきゃ筋が通らない)
トラグカナイは感情を整理できずに源に言った。
「……この俺を悪い奴じゃないなどと、よくもまあのたまえるな。お前はやはり偽物だ。あの方とは血が繋がっているだけの、ただそれだけの贋作だ」
(なのに、何故俺はそれを不快に感じないんだ!なんなんだこの感情は!なぜ、なぜ俺は……こんなにもこの状況に安心しているんだ!)
「トラグカナイ、俺はお前が好きじゃない。お前は俺を侮辱したし、俺の過去を辱めた。だけど、それでも嫌いになりきれない。お前の弱さをしってしまったから。アイツとよく似た心の影を。だから……」
(どうするのか。その気持ちは揺ぎなく固まった。俺は自分の生き方に責任を持つ)
「トラグカナイ、俺はお前を好きになることにした」
「……は?」
「俺はこれからお前と過ごす。実はお前のコアは俺が浄化したんだよ。記憶を探られてから色々と器用になってな。お前の意識を俺の中にうつした。これでお前が死ぬことは無い」
「……そんなことして、お前に何の得がある」
トラグカナイは明らかに戸惑っていた。
「得はある。俺はこうやってカナの姿をまた見られるし、お前は俺に殺されずに済む。それに、お前はまだ怪獣から意識を解放されたばかりだろ?現世を楽しめよ。俺がそうしたように」
『余がそうしたように』
「……本当に馬鹿な奴だ。俺がお前の意識を破壊してもいいのか?」
「それはもちろん抵抗するさ。でも、お前は多分しないだろう?それをするには優しすぎるから」
「………」
(こいつはあの方とは違う。似ても似つかないまがい物だ。でも一つだけ、こいつは俺がいくら拒否しようと放っておかなかった。おせっかいな野郎だ。まるであの方みたいに……)
「トラグカナイ?」
「……分かったよ。ただ、俺は好きにさせてもらうし、お前とも口は利かない。お前は精々俺を好きになれるよう努力するんだな」
(隙を見つけて体を乗っ取ってやる)
源はその言葉を聞いてほっとした。
(こいつは今確かに俺に気を許した。ほんの少しだけ。これはまず第一歩なんだ。自分の過ちを正す、その第一歩)
「もちろんだ、トラグカナイ」
源は笑顔で答えた。
「トラグカナイじゃあ呼びにくいだろ。俺のことは、そうだな……」
源はなにかよからぬ気配を察知した。
「おい、待て。まさか」
源の制止むなしくあっさりと、
「カナと呼べ」
言われてしまった。
「それは…」
「俺の記憶を覗いた罰だ」
「……分かった」
こればかりは甘んじて受け入れるしかない。これも第一歩なんだ。きっと。
「じゃあまずは下の仲間でも助けてやるんだな。今にも殺されそうだぞ?」
源はその時、目を開いた。目の前には光源があり、横にはジークが倒れている。窓の外には、玄武の亡骸が横たわっている。
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