辺境の付与術師のスローライフはままならない? ~Sランクパーティーを追い出された無能な俺、実は世界で唯一の概念付与の使い手でした~

沢谷 暖日

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第十一話 ささやかな報酬

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 ゴブリンを無力化した翌日。
 ミストラルの街は朝から少しだけ浮足立っていた。
 図書館へ向かう途中、パン屋の女将さんや雑貨屋の主人が興奮気味に話しているのが聞こえてくる。

「聞いたかい? 西の道のゴブリン、今朝衛兵が見に行ったら全部きれいに縛られて転がってたそうだよ!」
「ああ! なんて腕利きの冒険者様が通りかかったんだろうねぇ。名乗りもせずに去るなんて粋なことをするもんだ!」

 噂は尾ひれがついて広まり、昼頃には「謎の凄腕冒険者が、街の平和を人知れず守っている」というちょっとした伝説のようになっていた。
 その張本人の俺はいつも通り、閲覧室の隅で本の補修作業をしている。誰にも気づかれない。誰にも称賛されない。
 だが不思議と嫌な気はしなかった。
 むしろ街の人々の安堵した顔を見ていると、胸の奥が温かくなるのを感じる。

 昼休み。
 俺が中庭のベンチで、昨日買ったパンをかじっているとすぐ隣に誰かが座る気配がした。
 顔を上げると、そこにアリアがいた。
 いつもは少し離れた木陰にいる彼女が、今日は同じベンチに腰掛けている。
 俺たちの間にはまだ少し距離があったが、それは今までとは比べ物にならないほど小さな距離だった。

「……街は、ゴブリンの噂で持ちきりだな」

 俺がそう言うと、アリアは膝の上の本から顔を上げず小さな声で答えた。

「……ええ。非常に効率的な手法だったそうですね。衛兵も感心していました」
「そうか」

 俺たちの会話はそれだけだった。
 だが、それで十分だった。
 彼女の口の端がほんの少しだけ緩んでいるのを俺は見逃さなかった。俺たちの秘密の成功を二人で共有している。
 その事実が、無言の時間さえも心地よいものに変えてくれていた。

 午後の仕事中、館長が嬉しそうな顔で俺たちを呼びに来た。

「おお二人とも、丁度よかった! 西の道の安全が確認できたと聞いて、行商人の組合から図書館に立派な寄付があってのう。それで、街一番のパン屋の菓子折りも頂いたんじゃ。働き者の君たちにもお裾分けじゃよ」

 そう言って館長は俺とアリアの手に、それぞれ紙袋を握らせてくれた。中には甘い匂いのするパンが入っている。
 俺たちがゴブリンを無力化したことで、行商人が安心して街に来られるようになった。その感謝が、こうして、巡り巡って俺たちの元へやってきた。

 その日の仕事が終わり、俺は屋根裏部屋に戻る前にアリアと一緒に中庭のベンチに座った。
 二人で、もらったばかりのパンを食べる。
 優しい甘さが一日の疲れを癒していくようだった。

「……美味しい、ですね」

 アリアが、ぽつりと呟いた。

「ああ、美味いな」

 パーティーにいた頃、依頼を成功させた報酬は金貨の袋と、虚しい名声だけだった。
 だが今、俺の手の中にあるのは、たった一つの甘いパンだった。
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