土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家

文字の大きさ
61 / 120
第6章 激闘、田原坂

第3話

しおりを挟む
 大鳥圭介は、担当者に対して、あらためて報告を確認していた。
「シャスポー銃の輸入薬莢による不発率は、大雑把に言って4発に1発か。
 ざっと言って、4発撃ったら、全員が排莢しないといけなくなり、その間は射撃不能ということになる。
 しかもスナイドル銃と違って、強制排莢機構がシャスポー銃にはないから、その点でも問題が大きい。
 この原因は何か」

「結局のところ、ここまでシャスポー銃の紙製薬莢を、海上輸送しなければならない、というのが最大の問題です。
 勿論、保管庫で保管している間に、湿気てしまっている可能性も否定できません。
 フランス本国のフランス陸軍の保管庫ならともかくとして、民間の保管庫が、そこまで厳重な湿気対策を講じているとも思えません。
 できる限り信頼できる業者に依頼して、シャスポー銃の紙製薬莢を輸入してはいます。
 ですが、海上で運ぶ間は、どうしても湿気が多く、また、潮気を含んだ風が吹いています。
 シャスポー銃の紙製薬莢が湿気るのは、ある程度はやむを得ないかと考えます」
 担当者も、腹を括っていたのだろう、大鳥の問いに対して、面と向かって答えた。

「国産品はまだしも輸入品は問題が多く、更にその問題が大きくなるということか。
 確かに横須賀からここ長崎まで運ぶだけならともかく、コーチシナ等から長崎まで薬莢等を運ぶとなると、海上の時間が長くなる」
「そのとおりです」
 大鳥と担当者はやり取りをした。

「どんな対策が考えられる」
「まずは、輸入品を風通しの良い湿気の少ないところで保管し、乾燥させます。
 そのうえで前線に運ぶしかないか、と。
 後、前線でも薬莢を少しでも濡らさないように、乾燥させるように努めます。
 後は雨が降らないことを祈ることです。」
「最後の言葉は、性質の悪い冗談でいいか」

「はい、しかし、雨が降ったら大問題なのは事実です」
「面白くもない冗談だな。
 実際、雨が降ったら、射撃不能の銃が続発するぞ。
 何とかできればいいが」
 担当者とのやり取りを終えた大鳥は、思わず天井を見上げていた。

 一方、既に前線にいる古屋佐久左衛門の方は、大鳥からの極秘電文の一報を見ると、にこやかな笑みを浮かべた。
 周囲の者が不思議に思っていると、古屋は伝習隊の士官全員を呼び集めるように命じ、士官全員が集まると、大鳥の電文内容を告げ始めた。
「我々の用いているシャスポー銃は、湿気ると射撃できなくなるとの連絡が入った。
 士官全員は部下にそのことを周知徹底し、湿気対策を講じるように」

「分かりました。それにしても大問題ですね」
 古屋の言葉を聞いた士官の1人が発言すると、古屋は心底から不思議そうな顔をして言った。
「何が大問題なんだ」

「湿気ると銃が撃てなくなるんですよ。
 大問題ではないですか」
「相手も同じだ。
 互角になっただけだ」
 古屋とその士官のやり取りを聞いた士官の多くが、お互いの顔を見合わせた。

 古屋はあらためて言った。
「いいか、西郷軍の使っている銃の多くはエンフィールド銃で雨が降ると撃てなくなる。
 お互い雨が降ると銃が撃てないだけだ。
 我々が、心配することは何も無い。
 それとも白兵戦では相手に勝てないか」

「そんなことはありません。分かりました」
 古屋の言葉に思わず納得した士官達は、古屋の前を退出し、部下の元に戻っていった。
 それを見届けて、一人きりになると、古屋はつぶやいた。

「敵をだますには、まず味方から、というからな。
 少なくとも我々は、元士族が多いから、白兵戦では、そう西郷軍に引けを取ることは無い筈だ。
 しかし、つらい状況になったな。
 撃てない銃は、棍棒とそう変わらん。
 何とかなって欲しいが、どうにもならんのだろうな」
 古屋は、酷い頭痛がするのを覚えていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

対ソ戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。 前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。 未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!? 小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

対米戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
大本営から特命を受けてサイパン島に視察に訪れた柏原総一郎大尉は、絶体絶命の危機に過去に移動する。 そして21世紀からタイムリーㇷ゚して過去の世界にやって来た、柳生義正と結城薫出会う。 3人は協力して悲惨な負け方をした太平洋戦争に勝つために様々な施策を試みる。 小説家になろうで、先行配信中!

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...