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第6章 激闘、田原坂
第2話
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伝習隊こと第1海兵大隊が、田原坂の戦線に姿を現した頃、西郷軍内部では赫怒が広まっていた。
「間違いない情報か」
桐野利秋は、その情報を伝えた者に、静かな声で確認した。
「この情報に、間違いはありません」
問われた側は、その声を聞いて、却って背筋が凍る思いがしていた。
人は余りにも怒ると却って声が静かになるという。
めったにないことなので、人が目にすることは少ないが、今の桐野の声は明らかに赫怒している。
「許せん。伝習隊、衝鋒隊に加え、新選組だと。
しかも、土方が新選組を率いているだと。
時代が遡っているのか。
かつての賊軍が官軍となり、俺たちは賊軍だというのか」
その返答を聞いて、遂に感情の堰が切れた桐野が、涙を零しながら吠えた。
周囲にいる西郷軍の幹部も同様に赫怒して、喚き出した。
「よりにもよって、そんな名前を付けるのか」
「挑発するにも程があるぞ」
「やはり海兵隊は、旧幕府陸軍の集まりだった。
速やかに解体しておくべきだったのだ」
現在の西郷軍の認識は、以下のようなものだった。
熊本鎮台救援に向かってくる救援軍を阻止し、その間に熊本城=熊本鎮台を落とすのが、最善の策だ。
だが、熊本城に対する強襲策は2月22日、23日に行われたが失敗に終わっていた。
そのために再度の強襲案が検討されている間に、福岡方面からの熊本鎮台救援軍が接近しつつあるとの情報が入った結果、熊本城は攻囲するに留め、主力は救援軍の阻止に務めるという作戦が、西郷軍内では採用されていた。
だが、この作戦には皮肉な側面があった。
共に守勢側が加藤清正の遺産に頼っていたのだ。
熊本鎮台側は、加藤清正が築いた熊本城の堅さを頼みにしていた。
一方、西郷軍側も、救援軍の阻止には、加藤清正が地形を整備した田原坂を頼みにしていたのだ。
田原坂こそが、救援軍が大砲を陸路運び込める唯一の通路だった。
逆に言えば、救援軍は何としても田原坂を押しとおる必要がある。
しかし、田原坂の地形は、加藤清正によって攻むるに難い地形に改修されており、救援軍が道路上を押しとおろうとすれば、周囲の高台からの集中銃火を、救援軍は覚悟しなければならなくなっていたのだ。
「落ち着け、敵の挑発にわざわざ乗る必要はない」
等の声も、西郷軍の幹部内から上がるが、少数に過ぎない。
「伝習隊を名乗る部隊が救援軍の先鋒を務めているぞ。
間もなく新選組や衝鋒隊も来るだろう」
「薩摩士族の意地を、何としても示すぞ」
「そのためには、熊本城の包囲に充てる部隊を、引き抜かなくてはならん」
桐野以下、多くの西郷軍の幹部が喚くことになった。
大鳥圭介の考えた挑発は、予想通り、図に当たったといえた。
だが、それは海兵隊に、更に犠牲を招くものでもあった。
「海兵隊は、今後は、どこに主に投入されると考える」
「伝習隊が田原坂に現れている以上、他の部隊も同様に田原坂に現れる可能性が高いかと」
「よし、わしが直接、田原坂の部隊を指揮する。
何としても海兵隊を打ち破り、また、救援軍を打ち破るぞ」
桐野が叫び、その言葉に西郷軍の幹部の多くも同意した。
その頃、海兵隊の幹部は、シャスポー銃の思わぬ欠陥が、更に発覚したことに頭を痛めていた。
「シャスポー銃が、紙製薬莢なので、ある程度は覚悟はしていたが、ここまで酷いとは」
後方にいる大鳥圭介は、長崎にいる部隊の訓練中に、相次いだシャスポー銃の紙製薬莢に伴う不発が多発しているという報告への対策に頭を痛める羽目になっていた。
その一方で。
「前線で戦う際に、雨が降らないことを願うしかないな」
逆に、既に前線にいる古屋佐久左衛門は達観した。
「銃が撃てなくとも、我々は戦い、海兵隊の存在意義を示すしかないのだ」
「間違いない情報か」
桐野利秋は、その情報を伝えた者に、静かな声で確認した。
「この情報に、間違いはありません」
問われた側は、その声を聞いて、却って背筋が凍る思いがしていた。
人は余りにも怒ると却って声が静かになるという。
めったにないことなので、人が目にすることは少ないが、今の桐野の声は明らかに赫怒している。
「許せん。伝習隊、衝鋒隊に加え、新選組だと。
しかも、土方が新選組を率いているだと。
時代が遡っているのか。
かつての賊軍が官軍となり、俺たちは賊軍だというのか」
その返答を聞いて、遂に感情の堰が切れた桐野が、涙を零しながら吠えた。
周囲にいる西郷軍の幹部も同様に赫怒して、喚き出した。
「よりにもよって、そんな名前を付けるのか」
「挑発するにも程があるぞ」
「やはり海兵隊は、旧幕府陸軍の集まりだった。
速やかに解体しておくべきだったのだ」
現在の西郷軍の認識は、以下のようなものだった。
熊本鎮台救援に向かってくる救援軍を阻止し、その間に熊本城=熊本鎮台を落とすのが、最善の策だ。
だが、熊本城に対する強襲策は2月22日、23日に行われたが失敗に終わっていた。
そのために再度の強襲案が検討されている間に、福岡方面からの熊本鎮台救援軍が接近しつつあるとの情報が入った結果、熊本城は攻囲するに留め、主力は救援軍の阻止に務めるという作戦が、西郷軍内では採用されていた。
だが、この作戦には皮肉な側面があった。
共に守勢側が加藤清正の遺産に頼っていたのだ。
熊本鎮台側は、加藤清正が築いた熊本城の堅さを頼みにしていた。
一方、西郷軍側も、救援軍の阻止には、加藤清正が地形を整備した田原坂を頼みにしていたのだ。
田原坂こそが、救援軍が大砲を陸路運び込める唯一の通路だった。
逆に言えば、救援軍は何としても田原坂を押しとおる必要がある。
しかし、田原坂の地形は、加藤清正によって攻むるに難い地形に改修されており、救援軍が道路上を押しとおろうとすれば、周囲の高台からの集中銃火を、救援軍は覚悟しなければならなくなっていたのだ。
「落ち着け、敵の挑発にわざわざ乗る必要はない」
等の声も、西郷軍の幹部内から上がるが、少数に過ぎない。
「伝習隊を名乗る部隊が救援軍の先鋒を務めているぞ。
間もなく新選組や衝鋒隊も来るだろう」
「薩摩士族の意地を、何としても示すぞ」
「そのためには、熊本城の包囲に充てる部隊を、引き抜かなくてはならん」
桐野以下、多くの西郷軍の幹部が喚くことになった。
大鳥圭介の考えた挑発は、予想通り、図に当たったといえた。
だが、それは海兵隊に、更に犠牲を招くものでもあった。
「海兵隊は、今後は、どこに主に投入されると考える」
「伝習隊が田原坂に現れている以上、他の部隊も同様に田原坂に現れる可能性が高いかと」
「よし、わしが直接、田原坂の部隊を指揮する。
何としても海兵隊を打ち破り、また、救援軍を打ち破るぞ」
桐野が叫び、その言葉に西郷軍の幹部の多くも同意した。
その頃、海兵隊の幹部は、シャスポー銃の思わぬ欠陥が、更に発覚したことに頭を痛めていた。
「シャスポー銃が、紙製薬莢なので、ある程度は覚悟はしていたが、ここまで酷いとは」
後方にいる大鳥圭介は、長崎にいる部隊の訓練中に、相次いだシャスポー銃の紙製薬莢に伴う不発が多発しているという報告への対策に頭を痛める羽目になっていた。
その一方で。
「前線で戦う際に、雨が降らないことを願うしかないな」
逆に、既に前線にいる古屋佐久左衛門は達観した。
「銃が撃てなくとも、我々は戦い、海兵隊の存在意義を示すしかないのだ」
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