土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家

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第8章 城東会戦と人吉攻防戦

第10話

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 海兵隊、その内の第3海兵大隊の中に広がる土方歳三少佐の隔意は、あくまでも鋭い人にしか分からないレベルの想いだった。
 しかも土方少佐が、もうあの世に逝ってもいいかも。いや逝くべきかも、と思い出したことから、周囲にその雰囲気を醸し出し、それを察した周囲が反応したことから起きたことだった。
 だから、土方少佐を慕う一部の人にしか、その影響は基本的に及ばなかった。
 だが、同じ頃に西郷軍の内部で起きた隔意は、全く違った。
 それは極めて深刻なもので、西郷軍に亀裂を徐々に生じさせだしていた。

「もう我慢ならん。
 わしは、政府軍が投降を認められてくれるなら、投降する」
 熊本隊の一人がいうと、他の周囲の者もそれを止めるどころか、口々に言いだした。
「わしも同感だ」
「もう、西郷さんにはついていけない」

 そもそもの発端は、熊本城が政府軍によって解放されたことだった。
 熊本城が政府軍によって攻囲を解かれ、完全に解放されたことは、西郷軍に参加した者たちに、西郷軍の勝利への希望を大きく失わせるものだった。
 更に続いて起きた城東会戦の西郷軍の敗北は、西郷軍に参加した者たちに、一層敗北の予感を強めた。
 それでも西郷軍内で参加した者たちの間に平等感があれば、その想いは、まだまだ耐え忍べただろう。

 だが、人吉攻防戦を前にして西郷軍に参加した者、特に本来の西郷軍というか、私学校党以外の面々の多くが抱いている感情は、それとは程遠いというより、真っ逆なものだった。

「何かあったら西郷さんが持ち出されて、西郷さんの側近が優遇されているではないか」
「熊本隊の家族に対する仕打ちを見たか。
 同じ行動をする者同士、西郷軍の幹部には、もう少し配慮があってもよいだろうに。
 兵にしか食糧等は配給できないの一点張りの主張をして、熊本隊の家族は餓死寸前に追い込まれた。
 1合しか米が無かったら5勺に分けて与えるべきだろうに」

「大体、私学校党は何かあったら、薩摩云々と言い出して、特例を認めさせようとしてきたではないか。
 長州がなんだかんだ言っても、他と違った特例を認めなかったのと比較すると、西郷さんが勝ったら、ますます薩摩の横暴が、目に余ることになるのではないか、と自分には思えて仕方ない」
「そうだ、そうだ」

 こういった主張が、人吉攻防戦の始まり以来、熊本隊のみならず、それ以外の私学校党以外の西郷軍で、大なり小なり見られるようになりつつあった。

 特に人吉攻防戦が始まってからの人吉の住民に対する西郷軍幹部の仕打ちは、私学校党以外の西郷軍に参加した者の気持ちを、西郷軍から更に離れさせた。

 西郷軍の幹部には、戦国時代以来の島津家と相良家の友誼、更には人吉で災害が起きる度に薩摩藩が行ってきた様々な援助から、人吉の住民は自分たちに好意を示すのが当然という意識があった。
 一方で人吉の住民は、その援助は島津家が行ったものであり、西郷軍は島津家とは別だという考えがあった。

 こうしたことから、西郷軍の幹部にとっては意外なことに、人吉の住民から西郷軍に参加する者は少なく、その反動から、西郷軍の一部の幹部は、人吉の住民を忘恩の輩、と公然と罵倒する者が出だした。
 それに対して、人吉の住民はますます反発しだした。
 これによって、悪循環が起こりだし、それを見た私学校党以外の西郷軍の兵の多くは、人吉の住民に味方し、ますます西郷軍の幹部に、隔意を示しだした。

「西郷軍の幹部の恩着せがましい態度は何だ。
 島津家と西郷軍は別だ。
 人吉の住民に頭を下げろ」
 とうとう、私学校党以外の西郷軍の兵士からは、このような声まで上がり出した。
 人吉に政府軍が迫る中、西郷軍の内部の離隔は、徐々に深刻さを増す一方だった。
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