95 / 120
第8章 城東会戦と人吉攻防戦
第10話
しおりを挟む
海兵隊、その内の第3海兵大隊の中に広がる土方歳三少佐の隔意は、あくまでも鋭い人にしか分からないレベルの想いだった。
しかも土方少佐が、もうあの世に逝ってもいいかも。いや逝くべきかも、と思い出したことから、周囲にその雰囲気を醸し出し、それを察した周囲が反応したことから起きたことだった。
だから、土方少佐を慕う一部の人にしか、その影響は基本的に及ばなかった。
だが、同じ頃に西郷軍の内部で起きた隔意は、全く違った。
それは極めて深刻なもので、西郷軍に亀裂を徐々に生じさせだしていた。
「もう我慢ならん。
わしは、政府軍が投降を認められてくれるなら、投降する」
熊本隊の一人がいうと、他の周囲の者もそれを止めるどころか、口々に言いだした。
「わしも同感だ」
「もう、西郷さんにはついていけない」
そもそもの発端は、熊本城が政府軍によって解放されたことだった。
熊本城が政府軍によって攻囲を解かれ、完全に解放されたことは、西郷軍に参加した者たちに、西郷軍の勝利への希望を大きく失わせるものだった。
更に続いて起きた城東会戦の西郷軍の敗北は、西郷軍に参加した者たちに、一層敗北の予感を強めた。
それでも西郷軍内で参加した者たちの間に平等感があれば、その想いは、まだまだ耐え忍べただろう。
だが、人吉攻防戦を前にして西郷軍に参加した者、特に本来の西郷軍というか、私学校党以外の面々の多くが抱いている感情は、それとは程遠いというより、真っ逆なものだった。
「何かあったら西郷さんが持ち出されて、西郷さんの側近が優遇されているではないか」
「熊本隊の家族に対する仕打ちを見たか。
同じ行動をする者同士、西郷軍の幹部には、もう少し配慮があってもよいだろうに。
兵にしか食糧等は配給できないの一点張りの主張をして、熊本隊の家族は餓死寸前に追い込まれた。
1合しか米が無かったら5勺に分けて与えるべきだろうに」
「大体、私学校党は何かあったら、薩摩云々と言い出して、特例を認めさせようとしてきたではないか。
長州がなんだかんだ言っても、他と違った特例を認めなかったのと比較すると、西郷さんが勝ったら、ますます薩摩の横暴が、目に余ることになるのではないか、と自分には思えて仕方ない」
「そうだ、そうだ」
こういった主張が、人吉攻防戦の始まり以来、熊本隊のみならず、それ以外の私学校党以外の西郷軍で、大なり小なり見られるようになりつつあった。
特に人吉攻防戦が始まってからの人吉の住民に対する西郷軍幹部の仕打ちは、私学校党以外の西郷軍に参加した者の気持ちを、西郷軍から更に離れさせた。
西郷軍の幹部には、戦国時代以来の島津家と相良家の友誼、更には人吉で災害が起きる度に薩摩藩が行ってきた様々な援助から、人吉の住民は自分たちに好意を示すのが当然という意識があった。
一方で人吉の住民は、その援助は島津家が行ったものであり、西郷軍は島津家とは別だという考えがあった。
こうしたことから、西郷軍の幹部にとっては意外なことに、人吉の住民から西郷軍に参加する者は少なく、その反動から、西郷軍の一部の幹部は、人吉の住民を忘恩の輩、と公然と罵倒する者が出だした。
それに対して、人吉の住民はますます反発しだした。
これによって、悪循環が起こりだし、それを見た私学校党以外の西郷軍の兵の多くは、人吉の住民に味方し、ますます西郷軍の幹部に、隔意を示しだした。
「西郷軍の幹部の恩着せがましい態度は何だ。
島津家と西郷軍は別だ。
人吉の住民に頭を下げろ」
とうとう、私学校党以外の西郷軍の兵士からは、このような声まで上がり出した。
人吉に政府軍が迫る中、西郷軍の内部の離隔は、徐々に深刻さを増す一方だった。
しかも土方少佐が、もうあの世に逝ってもいいかも。いや逝くべきかも、と思い出したことから、周囲にその雰囲気を醸し出し、それを察した周囲が反応したことから起きたことだった。
だから、土方少佐を慕う一部の人にしか、その影響は基本的に及ばなかった。
だが、同じ頃に西郷軍の内部で起きた隔意は、全く違った。
それは極めて深刻なもので、西郷軍に亀裂を徐々に生じさせだしていた。
「もう我慢ならん。
わしは、政府軍が投降を認められてくれるなら、投降する」
熊本隊の一人がいうと、他の周囲の者もそれを止めるどころか、口々に言いだした。
「わしも同感だ」
「もう、西郷さんにはついていけない」
そもそもの発端は、熊本城が政府軍によって解放されたことだった。
熊本城が政府軍によって攻囲を解かれ、完全に解放されたことは、西郷軍に参加した者たちに、西郷軍の勝利への希望を大きく失わせるものだった。
更に続いて起きた城東会戦の西郷軍の敗北は、西郷軍に参加した者たちに、一層敗北の予感を強めた。
それでも西郷軍内で参加した者たちの間に平等感があれば、その想いは、まだまだ耐え忍べただろう。
だが、人吉攻防戦を前にして西郷軍に参加した者、特に本来の西郷軍というか、私学校党以外の面々の多くが抱いている感情は、それとは程遠いというより、真っ逆なものだった。
「何かあったら西郷さんが持ち出されて、西郷さんの側近が優遇されているではないか」
「熊本隊の家族に対する仕打ちを見たか。
同じ行動をする者同士、西郷軍の幹部には、もう少し配慮があってもよいだろうに。
兵にしか食糧等は配給できないの一点張りの主張をして、熊本隊の家族は餓死寸前に追い込まれた。
1合しか米が無かったら5勺に分けて与えるべきだろうに」
「大体、私学校党は何かあったら、薩摩云々と言い出して、特例を認めさせようとしてきたではないか。
長州がなんだかんだ言っても、他と違った特例を認めなかったのと比較すると、西郷さんが勝ったら、ますます薩摩の横暴が、目に余ることになるのではないか、と自分には思えて仕方ない」
「そうだ、そうだ」
こういった主張が、人吉攻防戦の始まり以来、熊本隊のみならず、それ以外の私学校党以外の西郷軍で、大なり小なり見られるようになりつつあった。
特に人吉攻防戦が始まってからの人吉の住民に対する西郷軍幹部の仕打ちは、私学校党以外の西郷軍に参加した者の気持ちを、西郷軍から更に離れさせた。
西郷軍の幹部には、戦国時代以来の島津家と相良家の友誼、更には人吉で災害が起きる度に薩摩藩が行ってきた様々な援助から、人吉の住民は自分たちに好意を示すのが当然という意識があった。
一方で人吉の住民は、その援助は島津家が行ったものであり、西郷軍は島津家とは別だという考えがあった。
こうしたことから、西郷軍の幹部にとっては意外なことに、人吉の住民から西郷軍に参加する者は少なく、その反動から、西郷軍の一部の幹部は、人吉の住民を忘恩の輩、と公然と罵倒する者が出だした。
それに対して、人吉の住民はますます反発しだした。
これによって、悪循環が起こりだし、それを見た私学校党以外の西郷軍の兵の多くは、人吉の住民に味方し、ますます西郷軍の幹部に、隔意を示しだした。
「西郷軍の幹部の恩着せがましい態度は何だ。
島津家と西郷軍は別だ。
人吉の住民に頭を下げろ」
とうとう、私学校党以外の西郷軍の兵士からは、このような声まで上がり出した。
人吉に政府軍が迫る中、西郷軍の内部の離隔は、徐々に深刻さを増す一方だった。
0
あなたにおすすめの小説
対ソ戦、準備せよ!
湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。
前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。
未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!?
小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記
糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。
それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。
かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。
ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。
※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。
大東亜戦争を有利に
ゆみすけ
歴史・時代
日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
対米戦、準備せよ!
湖灯
歴史・時代
大本営から特命を受けてサイパン島に視察に訪れた柏原総一郎大尉は、絶体絶命の危機に過去に移動する。
そして21世紀からタイムリーㇷ゚して過去の世界にやって来た、柳生義正と結城薫出会う。
3人は協力して悲惨な負け方をした太平洋戦争に勝つために様々な施策を試みる。
小説家になろうで、先行配信中!
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる