【本編完結】迷子の腹ぺこ竜はお腹がいっぱいなら今日も幸せ〈第10回BL小説大賞エントリー〉

べあふら

文字の大きさ
33 / 238
Ⅰ.主食編

32.俺は、瀕死の竜を食わせたい②

しおりを挟む



『200年後、黒き竜が迷いこの世の危機が訪れる。異界の者が現れて、澱み溢れ混沌に落ちる世を、竜と共に救済する』

 迷惑この上ないこの予言には、これまでも散々死ぬほど振り回されてきたわけだが。

 黒き竜、ていうのは……たぶん、こいつのことで間違いないんだろうな。

 黒い竜気を還元させる竜。黒き竜。それがこいつだ。

 色は真逆で真っ白だが。白い竜だろ、これ。今後、黒くなる予定でもあんのか。

 ………それはそれで、かわい…………いや、どうでもいいわ。色なんか。
 
 何にせよ、ぐうぐう腹を鳴らす間抜けな竜が、直接的にこの世の危機をもたらすなんて考えられねぇ。

 青銀竜の長の話からして……こいつが、自分の黒い竜気を取り込めないが故に、澱みが循環できずに滞り、それがこの世に悪影響をもたらす、てことか?

 いずれにせよ、こいつが何らかの形で、この世の危機に関与するってことだ。

 ま、この世がどんな危機に陥ろうと、その頃には俺は死んでるだろうけど。このままなら。

 なんたって、“澱み”は……黒い竜気は、人の心身には害にしかならない。

 このまま俺自身に溜まった黒い竜気を、そのままにしていれば……俺は近いうちに、苦しみながらのたうち回って、死ぬ。

 そういう意味では確かに関係ねーな。
 死んだ後を憂慮するほど、俺はこの世に未練もしがらみもない。

 ぐきゅきゅるるるぅぅ……

「関係あるとか、無いとか、言ってる余裕、お前にあんのか?
 腹ぺこで、死にかけの分際で」

 俺も死にかけだけどよ。

「…………………だって、そういうことは、好きな者同士ですることでしょ」

 さっき、青銀竜の長に言っていたことと同じことを繰り返す。

「好きな者同士、ねぇ」

 むしろ俺の経験上は、のは、そうでない相手の方が多かった。

 こいつに混ざりこんだ“迷い星”とやらは、随分とお綺麗なところに住んでたんだな。

「ま、そうとも限らねぇだろ」

 俺の言葉に、竜の瞳が零れ落ちそうなほどに見開かれ、黒い瞳が信じられないとばかりに、じっと俺を凝視している。

「え?……どういうこと?」
「出すもんは出さねぇと、溜まっちまうからな」

 “澱み”に蝕まれた心身は、酷く喉が渇いて足りない何かを渇望し、同時に不要なものを吐き出したい欲求に駆られることがある。

 体液と共に“澱み”が排出される、てことなら飲水や、運動、性衝動といったものは理にかなっていたということだ。
 
 適当に発散し、やり過ごしてきた。ただ、それだけだ。何の意味もない。
 そもそも好きな奴、なんて……俺にはこれまで一人としていたことがない。

「…………はぁ、ああ、なるほど……?」

 そこは納得すんのかよ。素直か。

「いつもがつがつと、がっついてる食いしん坊が。
 ここに来て、何を遠慮してやがる」
「でも、……だって、ヴァルが……」
「は?俺?」
「ヴァルが……有り得ないって、言ったんじゃないか……」
「あ?」
「わかるよ。だって、僕この前まで、犬だったんだから。
 急に犬と……その、しろって言われたって、……ムリでしょ」

 いや、お前。犬じゃないだろうに。それ自分で言っちまうのかよ。

「僕……ヴァルが、嫌なことは、させたくないよ」

 お前が嫌なことをしたくない、じゃなくて、ねぇ。へぇ。

 でも、俺がいつ嫌だって言った?

『はぁ……こいつと、ヤる?……嘘だろ、あり得ねぇ』

 あー……こいつ、このことを言ってるんだよな。
  
「俺があり得ねぇって言ったのは、そういう意味じゃねぇよ。勝手に解釈してんじゃねぇ。
 むしろ、逆だ。馬鹿」
「逆……え?どういうこと?」
「はぁ……ああ、全くなぁ。どういうことなんだろうな」

 俺が聞きてぇよ。

 この前まで犬だと思ってたはずの奴なのに、奇妙なほどに嫌な気がしないなんて。

 いや、嫌な気どころか、むしろ………。

 そんな風に感じている自分が信じられなくて、それがあり得ねぇ、て意味で、あの時はぽろりと本音がこぼれた。

 明確な返答をせずに、はぁ……と、再度、深々と嘆息する俺に、「え?え?」と疑問符を浮かべる間抜け面は、確かに見慣れた表情だ。

 俺は、戸惑ってる。
  
 こいつが人の形になったのは、ほんの数日前だっていうのに。
 俺は自分でも驚くほどにあっさりと、人型のこいつを受け入れている。

 そんな自分が、信じられない。

 もっと言えば、今の姿の方がしっくりきて……。
 犬にしては人間っぽいこいつに違和感があったからか、竜体のこいつと過ごした1年も、まるでこの姿で一緒にいたみたいな気さえしてる。

 人型のこいつで、これまでのすべてが容易に想像できて、むしろそっちに上書きされる、みたいな。

 そんな馴染みを急速に感じてる。
 それが信じられなくて、人型のこいつをまともに直視できなかったくらいで……。

「ヴァルはわかってるの?僕、竜なんだよ?ヴァルが色々嫌なことさせられてきた、竜なんだよ?」

 さらに、消え入るような声で「ヴァルの、嫌いな……竜なんだよ、僕」と付け足した。

 ああ、そうだな。お前も竜だよ。俺が嫌いなはずの。



『君にとって、何が不都合なんだい?』

 青銀竜の長の言葉が、脳裏をよぎる。

 竜はいつだって、俺にとって憎らしい存在だった。

 無意味に俺の心身を蝕み、搾取することを正当化する絶対的な存在だった。
 どんなに俺がもがいても、逃げることも敵わずに、一方的に俺を損なうばかりで、何もしてくれたことは無い。

 俺は、『竜に見放された子』だ。

 それを今更、竜に縋って生きろっていうのか。

 何だよそれ。ふざけんな。気に入らねぇ。不都合しかねぇよ。

 でも、こいつはどうだ。
 この白い毛玉だった竜は、俺一人のことでこんなに悩んでる。
 腹が減って仕方がねぇのに、涎だらだら垂らしながら、それでも必死に抵抗してる。

 俺のために。
 俺が、嫌なことを、しなくていいように。

 さっきの青銀竜の長の飄々として、俺に無関心な様からは、全く考えられない。

 竜はこの世のためにある存在だ。
 人一人、個人の都合なんて、些末なことだろうよ。

 迷い星の影響だか何だか知らねぇが……こいつは、竜なのに。

 竜、らしくない。

しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

処理中です...