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Ⅰ.主食編
32.俺は、瀕死の竜を食わせたい②
しおりを挟む『200年後、黒き竜が迷いこの世の危機が訪れる。異界の者が現れて、澱み溢れ混沌に落ちる世を、竜と共に救済する』
迷惑この上ないこの予言には、これまでも散々死ぬほど振り回されてきたわけだが。
黒き竜、ていうのは……たぶん、こいつのことで間違いないんだろうな。
黒い竜気を還元させる竜。黒き竜。それがこいつだ。
色は真逆で真っ白だが。白い竜だろ、これ。今後、黒くなる予定でもあんのか。
………それはそれで、かわい…………いや、どうでもいいわ。色なんか。
何にせよ、ぐうぐう腹を鳴らす間抜けな竜が、直接的にこの世の危機をもたらすなんて考えられねぇ。
青銀竜の長の話からして……こいつが、自分の黒い竜気を取り込めないが故に、澱みが循環できずに滞り、それがこの世に悪影響をもたらす、てことか?
いずれにせよ、こいつが何らかの形で、この世の危機に関与するってことだ。
ま、この世がどんな危機に陥ろうと、その頃には俺は死んでるだろうけど。このままなら。
なんたって、“澱み”は……黒い竜気は、人の心身には害にしかならない。
このまま俺自身に溜まった黒い竜気を、そのままにしていれば……俺は近いうちに、苦しみながらのたうち回って、死ぬ。
そういう意味では確かに関係ねーな。
死んだ後を憂慮するほど、俺はこの世に未練もしがらみもない。
ぐきゅきゅるるるぅぅ……
「関係あるとか、無いとか、言ってる余裕、お前にあんのか?
腹ぺこで、死にかけの分際で」
俺も死にかけだけどよ。
「…………………だって、そういうことは、好きな者同士ですることでしょ」
さっき、青銀竜の長に言っていたことと同じことを繰り返す。
「好きな者同士、ねぇ」
むしろ俺の経験上は、そういうことをするのは、そうでない相手の方が多かった。
こいつに混ざりこんだ“迷い星”とやらは、随分とお綺麗なところに住んでたんだな。
「ま、そうとも限らねぇだろ」
俺の言葉に、竜の瞳が零れ落ちそうなほどに見開かれ、黒い瞳が信じられないとばかりに、じっと俺を凝視している。
「え?……どういうこと?」
「出すもんは出さねぇと、溜まっちまうからな」
“澱み”に蝕まれた心身は、酷く喉が渇いて足りない何かを渇望し、同時に不要なものを吐き出したい欲求に駆られることがある。
体液と共に“澱み”が排出される、てことなら飲水や、運動、性衝動といったものは理にかなっていたということだ。
適当に発散し、やり過ごしてきた。ただ、それだけだ。何の意味もない。
そもそも好きな奴、なんて……俺にはこれまで一人としていたことがない。
「…………はぁ、ああ、なるほど……?」
そこは納得すんのかよ。素直か。
「いつもがつがつと、がっついてる食いしん坊が。
ここに来て、何を遠慮してやがる」
「でも、……だって、ヴァルが……」
「は?俺?」
「ヴァルが……有り得ないって、言ったんじゃないか……」
「あ?」
「わかるよ。だって、僕この前まで、犬だったんだから。
急に犬と……その、しろって言われたって、……ムリでしょ」
いや、お前。犬じゃないだろうに。それ自分で言っちまうのかよ。
「僕……ヴァルが、嫌なことは、させたくないよ」
お前が嫌なことをしたくない、じゃなくて、ねぇ。へぇ。
でも、俺がいつ嫌だって言った?
『はぁ……こいつと、ヤる?……嘘だろ、あり得ねぇ』
あー……こいつ、このことを言ってるんだよな。
「俺があり得ねぇって言ったのは、そういう意味じゃねぇよ。勝手に解釈してんじゃねぇ。
むしろ、逆だ。馬鹿」
「逆……え?どういうこと?」
「はぁ……ああ、全くなぁ。どういうことなんだろうな」
俺が聞きてぇよ。
この前まで犬だと思ってたはずの奴なのに、奇妙なほどに嫌な気がしないなんて。
いや、嫌な気どころか、むしろ………。
そんな風に感じている自分が信じられなくて、それがあり得ねぇ、て意味で、あの時はぽろりと本音がこぼれた。
明確な返答をせずに、はぁ……と、再度、深々と嘆息する俺に、「え?え?」と疑問符を浮かべる間抜け面は、確かに見慣れた表情だ。
俺は、戸惑ってる。
こいつが人の形になったのは、ほんの数日前だっていうのに。
俺は自分でも驚くほどにあっさりと、人型のこいつを受け入れている。
そんな自分が、信じられない。
もっと言えば、今の姿の方がしっくりきて……。
犬にしては人間っぽいこいつに違和感があったからか、竜体のこいつと過ごした1年も、まるでこの姿で一緒にいたみたいな気さえしてる。
人型のこいつで、これまでのすべてが容易に想像できて、むしろそっちに上書きされる、みたいな。
そんな馴染みを急速に感じてる。
それが信じられなくて、人型のこいつをまともに直視できなかったくらいで……。
「ヴァルはわかってるの?僕、竜なんだよ?ヴァルが色々嫌なことさせられてきた、竜なんだよ?」
さらに、消え入るような声で「ヴァルの、嫌いな……竜なんだよ、僕」と付け足した。
ああ、そうだな。お前も竜だよ。俺が嫌いなはずの。
『君にとって、何が不都合なんだい?』
青銀竜の長の言葉が、脳裏をよぎる。
竜はいつだって、俺にとって憎らしい存在だった。
無意味に俺の心身を蝕み、搾取することを正当化する絶対的な存在だった。
どんなに俺がもがいても、逃げることも敵わずに、一方的に俺を損なうばかりで、何もしてくれたことは無い。
俺は、『竜に見放された子』だ。
それを今更、竜に縋って生きろっていうのか。
何だよそれ。ふざけんな。気に入らねぇ。不都合しかねぇよ。
でも、こいつはどうだ。
この白い毛玉だった竜は、俺一人のことでこんなに悩んでる。
腹が減って仕方がねぇのに、涎だらだら垂らしながら、それでも必死に抵抗してる。
俺のために。
俺が、嫌なことを、しなくていいように。
さっきの青銀竜の長の飄々として、俺に無関心な様からは、全く考えられない。
竜はこの世のためにある存在だ。
人一人、個人の都合なんて、些末なことだろうよ。
迷い星の影響だか何だか知らねぇが……こいつは、竜なのに。
竜、らしくない。
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