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Ⅱ.体に優しいお野菜編
27.俺は、白い竜に首輪をつける①
しおりを挟むケビンが帰った後、二人で夕食の後片付けをする。
あー……ったく。何でもかんでも首を突っ込む、ケビンの悪癖にも困ったもんだな。
ケビンのことだ。
俺の体調や生活の変化から、俺を取り巻く環境が気になったんだろうよ。
気になって、同居人であるルルドに探りを入れたに違いねぇ。
ケビンが俺の最も古い腐れ縁たる所以は、ふり落としても、突き放しても、こうしてしつこく俺にくっついてきたからに他ならない。
『一人であの広さの畑を維持するって、大変だろ?全然休みなく、どんどん作業するからさ』
『ヴァル兄ちょっとあっさりし過ぎじゃない?
ルルド君って記憶喪失なんだろ?そんな中で頑張ってるんだから、もっと言うことないのかよ』
余計なお世話だっつーの。
ケビンは知らねぇから。ルルドが竜だと知らねぇから、こんなことが言えんだよ。
考えてもみろ。一瞬で建物を消したり、建てたり、錆食った剣や武具を新品同様に作り変えちまうような力を持った奴が、ちまちま畑を耕して、雑草抜いて、一つ一つ野菜を収穫してんだぞ。
俺がそうしろと言ったから。
力は安易に使うなって、俺が言ったから、それを忠犬ばりに忠実に守って、竜なのにまるで人みたいに、一生懸命作業してんだぞ。
そんなの、可愛くてたまらないに決まってる。
想像しただけで、笑っちまうくらい、可愛いに決まってんだろうが。
緩みそうになる顔を保とうと思えば、歯食いしばってしかめっ面になる他ないんだよ。
なにも知らねぇ奴が、わかったような口、聞いてんな。
わかってねぇのはお前の方だよ。
……………………………はぁ。
そもそも、ルルドはなんだって、ケビンと料理なんて。
あれほどに他人に興味のかけらもない……興味がないことすら意識もしていないルルドが、俺以外の誰かと普通に関わり共に行動しているということが、どれだけ特異なことか。
ケビンは何で、ルルドの視界に入った?
ケビンの何を、ルルドは気に入ったんだ?
何が、ルルドの琴線に触れた。
あークソっ……無性にイライラすんな。
ふんふんと鼻歌交じりのご機嫌な竜に対して、理不尽だと心のどこかで分かっていても、沸き起こってくる苛立ちが抑えられず、感情のままにルルドを見れば。
「いや、お前どうやったらそんなに泡がつくんだよ」
髪や鼻の頭、頬に泡をくっつけて、一生懸命に皿を洗う竜がいた。
「だって、ぶくぶくのあわあわで、どうやったって、飛んできちゃうんだよ」
さらに、「ヴァルはどうやってよけてるの?」なんて言っている。
「馬鹿。洗剤無駄使いし過ぎなんだよ。しょうがねーな。ったく」
お前、こんなことしなくても、一瞬でピカピカにできるだろ。
それをこいつは馬鹿正直に、俺の言ったこと守ってんだよな。
あー……まったく。健気かよ。
袖で泡をぬぐってやると、気持ちよさそうに喉をそらす。無防備極まりない姿に、頬が緩む。
はぁ……俺は何と張り合ってんだろうな。ホント、しょうもねぇ。
なんだか急に馬鹿馬鹿しくなって、頭が冷える。
片付けも終わり、お茶でも飲んで気を落ち着けようかと考えていると、ルルドが俺の手をつかんだ。
「おい。どうした」
「いいから。ヴァル、ちょっと来て」
ぐいぐいと強い力で俺を引くルルド。
さすがは竜だ。この細い腕のどこにそんな力があんだよ。
俺は問答無用で、寝室へと引き込まれた。
ルルドは一人、ベッドの上で仁王立ちになる。
「お前、何を――」
もしや、腹が減ってんのか?
俺の疑問を言い終わる前に、ルルドの姿がゆらりと歪んだ。
きらめく靄が一瞬だけ輪郭をぼかし、そしてその後には真っ白でさらさらとした煌めく白い毛並みの竜が立っていた。
純白の毛が風もないのにふわふわと漂う。その揺らめきに合わせ、周囲の空気すら輝いている。
ああ、やっぱり綺麗だな……なんて考えていると。
『さぁ、ヴァル。どっからでもどうぞっ!』
「………………は?」
ぶんぶんと尻尾を振って、催促するようにすりすりと頭を俺の腹に摺り寄せてくる。
こいつ、なんでこんなに満面の笑顔なんだ。
『今日の、癒しタイムだよ!ヴァル、僕の毛並み、なでなでするの大好きなんでしょ?
ほらほら!ヴァルなら好きなだけ触っていいんだよ!』
「いや……お前、なんか勘違いしてるだろ……」
『えー?勘違いなんてしてないよ?』
「絶対、してる」
『ええー?どういうこと?
ヴァルって僕のこの姿に、このもふもふに癒されてるんじゃないの?
僕もヴァルになでなでされるの好きだから、大歓迎だよ!』
はあ……?もふもふに癒されてる……?
どういう思考で、こんなこと言って、こんなことになってんだ?
別に俺はルルドの竜体に強い執着があるわけでもねぇ。
いや……この姿は、ふわふわのもこもこで、真っ白な犬みたいな姿は単純に可愛いとは思うが。
『照れなくていいんだよ!怖い顔で可愛いもの好きだっていいじゃない。
ほらほらぁ~、どんどん触ってよ』
別に照れてねぇし、顔のことは余計だ。
謎過ぎて言葉もないが、こうも真剣にきらきらとした期待の眼差しで見上げられれば……。
何故か、せっかくの好意を満たしてやらねば、と強烈な義務感に襲われる。
「いや、まぁ……じゃあ、ありがたく」
俺の返事に、ルルドの瞳が一層輝きを増し、ぶんぶんと尻尾を振る。全身から嬉しいが溢れていた。
ああ、くそっ……なんだ、この可愛さは。
そんなに嬉しいかよ、俺のために何かすんのが。
俺は両手でルルドの顔を包み込む。ふかふかの毛並みは、ふんわりと温かい。
そうなんだよな、竜、ホントに温かいんだよな。
そのまま顔をじっと観察する。
ピンク色の鼻がぴくぴく震えて、笑ったようにしか見えない口からはみ出た赤い薄い舌が揺れる。
ルルドの瞳。……こんな色だったか?黒いのに、反射する光は金色に輝いていて。
このまま吸い込まれてしまいそうだ。
ん?いや、待て。
俺はそのままぎゅっとルルドの首に抱き着いた。
突然の抱擁にルルドが『ふわぁ……っ』と奇妙な声を上げたが無視する。
抱きしめた感覚が、以前と違い過ぎる。その違和感に俺は確信を得る。
「お前……もしや、太ったか?」
なんか、デカいぞ。食い過ぎか?あんまり美味そうに食うからって、食わせ過ぎたか?
『もう!違うよぉ。大きさは、さじ加減なの!』
「へぇ……そうなのか」
なるほど。
人や犬の姿を取れるのだ。大きさなど、些細なことかもしれない。
せっかくなので、ベッドに寝そべるルルドの上に体をあずけ、しばし極上の毛皮に包まれてみた。
あー……これ、俺をダメにするやつだわ。完全に、ダメになるやつ。もう、ここから起き上がれなくなる程よく沈みこむあったかい感触。前より大きいからか、ふかふかに包まれてる感じがヤバい。
確かに俺は今、ルルドのもふもふに癒されてるのかもしれない。
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