【本編完結】迷子の腹ぺこ竜はお腹がいっぱいなら今日も幸せ〈第10回BL小説大賞エントリー〉

べあふら

文字の大きさ
103 / 238
Ⅱ.体に優しいお野菜編

64.俺は、白い竜に教えられる①

しおりを挟む
 
 俺が自警団の詰め所に戻った時には、奴隷商人たちは神殿直属の騎士団へと引き渡された後だった。

 あれだけの目撃者がいる騒動を、すべてなかったことにできないだろう。何より、神殿の最高権威たる大神官が、あり得ない醜態をさらしたのだ。

 明日から、忙しくなるな。楽しみだ。

 もう日をまたぐ時間だった。
 後処理を済ませさっと必要最低限の業務を終え、他の団員には今日は帰宅を促した。

 最後に日報を記載する。俺の正面に座ったケビンが、じっと俺を見ていた。

「………なんだ?」

 視線がうっせーよ。

「ヴァル兄って、結構意地が悪かったんだな。
 もっとでろでろに甘やかすのかと思ってたよ」
「は?」
「あれって、独占欲?」
「……………そんなんじゃねぇよ」
「あの時の俺の気持ち、分かる?どんどん盛り上がる二人を止めるべきか、このまま寝とくべきか、でもその場合は一度始まったら終わりまで俺動けないよな、なんて。
 俺どうするべき、てあの短期間で何万回考えたと思ってんだよ」
「人前でヤるような趣味ねぇよ」
「いやだってさ。ルルド君は完全に俺のことなんて、空気、ていうか無って感じで忘れ去ってるみたいだったけど。
 ヴァル兄は俺が起きてたの気づいてたよな?
 で、あえてやったよね?見せつけたよね?」
「さぁ」
「うわっ……うわぁ……どういうこと、これ」

 どういうことも何も。
 俺だって、あそこでルルドがああいう返しをしてくるとは、思ってなかっただけだよ。

「あれってどういう心理だったのか、後学のために教えてほしいなぁ。
 こいつは俺んだぞ、ていうアピール?それとも、他の人とかどうでもいい二人の世界って感じ?」
「お前、俺を馬鹿にしてんのか?」

 俺は適当なところで、試しに口移しで黒い竜気ごはんをやるつもりだっただけで。

 なんせルルドは、これまではどんなに追い詰めても、正気のうちは絶対に自分からは言わない、しない、だったんだから。

 それが、ちょっとからかっただけで、あんな……顔真っ赤にして、目うるうるさせて、必死になって縋って強請られたら……。

 どんな心境の変化なんだって、こっちだってぐらぐらくんだろ。

 ケビンがいなかったら、速攻で押し倒してる。あの程度で押しとどめた俺の精神力を褒めてほしいくらいだ。

 で、そのあとで、満足そうにうっとりして、好きだのなんだの言われたら……。

 あー……くそっ。振り回されてんな、俺。

 いや、俺はおかしくねぇ。おかしいのは、絶対にルルドだ。

「やだなぁ、馬鹿にするなんて。そんなことするわけないだろ。
 そんだけヴァル兄がのめり込むほどルルド君を好きなんだな、ていう確認だよ」
「………はぁ、お前また刺されんぞ」

 いや、マジで。
 結局、こいつ俺のこと揶揄ってんじゃねぇか。もう、勝手に言っとけ。
 俺も疲れてんだよ。さっさと仕事を終えて、ルルドが待ってる家に帰りたい。

 一人で騒ぎ続けるケビンは放置する。

 不意に感じた口寂しさに、ポケットに入っていた飴を一粒、口に放り込んだ。すっと爽快な芳香が鼻に抜け、眠気と疲労と空腹を誤魔化してくれる。

 いまだにじっと、何かを言いたげに見てたケビンが、いよいよ本題とばかりに口を開いた。

「で、ルルド君っていったい何者なんだ?俺を助けてくれたのも、彼なんだよな?
 俺、覚えてはないけど……絶対、無事では済まなかったはずだ」

 これはつまり。
 ケビンに拷問を受けた記憶はないが、自分は確実に死ぬはずだった、とそう言っているのだ。

 ケビンは、デュランがどうなったのか、俺に聞くことは無いだろう。
 俺が無事ここにいて、デュランがここにいない。そして、神殿が動いている。
 もはや、自分ケビンにできることは無いと理解して、そしてデュランがどうなって、これからどうなるかもある程度予想ができている。

 ここまで予想できる奴が、どうして一人で突っ込んでいくんだよ。

「ケビン。首を突っ込むなと、そういっただろうが。無事ですまないとわかって、なぜ一人で――」
「説教はいいって。誤魔化すなよ」

 誤魔化すというよりもだな。

 真実でない真実が、より真実と信じやすいのと同様に。
 真実だけれど、どうしても真実とは信じられないこともある。

 ただ、それだけで。ルルドが何者かなんて、どう説明しろって言うんだ。

「ルルドは……」

 ルルドは、俺が拾った犬もどきで、ルゥって呼んでた白い毛玉だ。

 実は竜で、さらに予言の中の黒き竜と考えられる奴で。

 孤児院を建て直し、ケビンと院長の命を助けてくれて、俺のことを何度も救い上げる、困った奴。

 俺を自分に隷属させておいて、自分でもよくわかってない。

 自分がどういう存在で、何をすればいいかもわかってない、迷子の竜で。

 腹ぺこで、食いしん坊で……世話のかかる……。

 俺にとっては……。

『ヴァルは、ヴァルだよ』

 ルルドの言葉が響いた。

「ルルドは、ルルドだよ」

 ただ、それだけだ。

「…………………」

 ケビンは憮然とした表情のまま俺をにらみつけている。そう簡単には、納得しないのはわかっている。
 けれどな、ケビン。お前、次は……本当に、命を落とすかもしれない。

 今回の事件。
 大神官が人身売買の組織とつながり、人をさらっては売っていたのは明白だ。
 あいつのことだ。きっと、好みの奴を買ったりもしてるに違いない。

 デュランがいつから関わっていたのかはわからないが、他にも有力な神官が関わっていたことは間違いない。

 結局は、強者が己の利潤のために弱者を食い物にした。いつものように。それだけのことだ。

 はぁ……デュランをあそこまで追い詰めたのは、俺なんだろうな。
 だって俺は、とっくの昔に絶望していたはずだった。ルルドがいなければ。

 ほんの1年前まで、自分に絶望し、すり減り、もはや生きる意味など感じない毎日を、ただただ必死に過ごしてたんだからな。

 もし……もし、そんな時に、ケビンが死に、子供たちが売られ、院長が死んだら……?
 孤児の引き渡しは俺の指示だったと、遺書を残していたら?

 いずれにせよ、院長の死は俺が招いたと感じるだろう。
 そして、院長が俺に何らかの過失を擦り付けようとしたことを、信じるかもしれない。

 信じなかったとしても、ケビンが死に、院長が殺され、孤児院の子供たちが売られた事実はなくならない。

 そうしたら、俺はすべてを失った。
 きっと、もう正気ではいられなかっただろう。

 罪を着せられただろうとか、そんなことはどうでもいいんだ。
 どの道、残ったのが自分の体だけだったら、その体をどうにかしちまった方がずっと早くて簡単だから。

 だけど、俺はルルドに出会ったから。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

処理中です...