143 / 238
Ⅲ.大好きな卵編
23.僕、運命を感じてます③
しおりを挟む「良かった。君は女の子だね」
捕まえたよ。ヒクイドリさん。もう、逃がさないから。
あれ?なんかがくぶるしてるね?大丈夫だよ。そんなに怖がらなくても。
確かにちょっと強めにぎゅっとしてるけど、卵をもらわなきゃいけないのに、殺すわけないでしょ。
はぁ……ふかふかの羽毛だな。こうして抱き着いてると、凶暴な鳥なんて信じられない。
──がさりっ
「は………?」
草の揺れる音と、人の声。
そしてふんわりと香ったイイ匂い。美味しそうな、安定の匂い。
僕を見て、ヒクイドリを見て、もう一度僕を見て固まるヴァルがそこにいた。
「あれぇ……?なんで?なんで、ヴァルがこんなとこにいるの?」
速攻で見つかったじゃない。フラグの回収、早すぎない?
おかしいな。僕がヴァルのイイ匂いに気づかないなんて。
ここって、たくさんの竜気が溢れすぎてて、僕のお鼻、ちょっと調子が悪いのかも。
「それは、こっちの台詞だ」
「ええー……っと……これは、なんというか……もはや、運命かな?」
昨日のお昼にヴァルを見つけて、今日の朝にはヴァルに見つかる。
うん、僕たちどうやっても出会う運命なんでしょ。絶対。
ヴァルの表情が抜け落ちて、しばし無言で呆然としている。「運命……はぁ、運命ね」なんてぶつぶつとつぶやいて、額を右手で押えうつむいてしまった。
あれ?ヴァル、どうしちゃったの?僕と運命なの、嫌だった?
僕はヒクイドリから離れて、ヴァルの様子をうかがって反応を待った。
ぎらり、とヴァルの瞳が鋭く光り、僕を射抜く。
あっという間に、間合いを詰められて、僕はヴァルに捕まってしまった。
「ヴァル、やっぱり力強い……」
片手でこの力……すごい。ヴァルの握力、一体いくつなの?で、手大きい。僕の頭つかめちゃうもんね。
いや、今はそうじゃなくて。
「ふえ……僕の頭、みしみしいってるよぉ」
もしや、ヴァル激おこ?これまでで、一番のおこなの?
「家で待ってろって言ったよな?あ?」
ううっ……だって、だって。卵が。ヴァルの卵が……!
ああ、でもっ……このままだと、僕の頭が、卵みたいにぐしゃってなっちゃう!
「ごめ……ごめんなさい……ヴァル、ごめんなさい」
はぁ………と、ヴァルが深いため息をつく。
はぁ…………。
はぁ…………。
うーん、悩ましい吐息だなぁ。
でもさすがに、この状況じゃむずむずしないや。よかった。助かった。でも、痛い。
「ああ、くそっ……」
大きなため息をたくさん繰り返し吐いたヴァルは、やっと僕の頭を解放してくれる。
「ヴァル、あのね」
「何だ?」
わぁ。怖い顔。すっごく睨まれてる!
でも、大切なことだから、これは教えてあげないとね。
「ため息つくと、幸せが逃げちゃうんだよ」
「お前が言うな!!」
「うんうん。大丈夫だよ。逃げても、僕が全部捕まえてあげるからね!」
僕が原因のため息だもんね?僕がちゃんと責任をもって、捕まえとくからね。
「ああ………頼むわ」
「うん!」
そこで、また大きなため息を一つ。いや、もう一つ。どこに逃げたかな、ヴァルの幸せ二つ分。
ヴァルの視線が、僕の横で動かなくなっている大きな鳥に向いた。
「ルルド。これは……ヒクイドリじゃねぇのか?」
「え?ああ、そうだよ。さすがヴァルは物知りだね!」
ヒクイドリはこのあたりにしか生息してないはずなのに。
「ヒクイドリ。別名、不死鳥。どんなに傷を負おうとも蘇るといわれている、奇跡の鳥だぞ。知らない奴の方が少ない」
へえ。そんなこと言われてるんだ。
「何だってお前、こんなとこで、こんなもん捕まえて…………。
おい、ルルド。まさかだが……」
「うん、飼うんだよ!で、卵産んでもらうの!」
「元の場所に、放してこい!」
「ええーっ!なんで!?」
僕、一生懸命捕まえたのに!
「なんで、じゃない!なんででもだ!馬鹿!!今すぐ放してこい!!」
「やだやだっ!絶対、連れて帰るから!10羽全部、連れて帰る!」
「はぁっ!?10羽だと……!!??」
「ああ、やっぱり少ないよね。ごめんね、ヴァル。僕この1週間頑張ったんだけど……」
そうだよ。僕、この1週間頑張った。でも、たったの10羽しか捕まえられなくて。
ホントはもっとたくさん捕まえるつもりだったんだよ?
「ヴァル、がっかりした?」
「いや、むしろびっくりだろ!」
「だよねぇ。少なすぎて、びっくりだよね」
ヒクイドリの数、思った以上に少ないみたい。
「だーかーらーっ!そうじゃねぇんだよ!10羽って……大きさ考えろよ!」
「ああ、卵は小さいらしいもんね」
むう。やっぱり10羽じゃ足りないか。もっとたくさんじゃないと、食べ応えないよね。
「違う!そもそも、なんだ卵って。………まさか、殖やす気か?」
「違うよー。卵を食べるの」
「…………は?」
「とっても美味しいらしいよ!」
「………………」
うーん。ヴァル、何も言わなくなっちゃった。
あ。もしかして期待に胸いっぱいで、声もでなくなっちゃったのかな?
50
あなたにおすすめの小説
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
身代わりの出来損ない令息ですが冷酷無比な次期公爵閣下に「離さない」と極上の愛で溶かされています~今更戻ってこいと言われてももう遅いです〜
たら昆布
BL
冷酷無比な死神公爵 × 虐げられた身代わり令息
運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる