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Ⅲ.大好きな卵編
32.僕、ヴァルだけについていきます③
しおりを挟むどうしよう。僕、ヴァルに殺されちゃうかもしれない。
「………一人でじたばたしてねぇで、冷える前に食え」
じっとりと、僕とそして何もつかめなかった自分の手を交互に見たヴァルは、僕にお椀を押し付ける。
「ヴァル、半分こしよ」
だったらせめて、一緒に食べよ。
「………ああ」
「あとね、この果物もあげるね!」
僕は自分のカバン(もちろんヴァルのお手製♡)から、今日採ったばかりの果物を一つ手渡した。
「………………………………果物?これが?」
真っ黒な楕円形の果実はちょうど中程で裂けて、そして、中には黒い種を内包した小さな深紅の粒々がびっしりとつまっている。
「皮の色が真っ黒になって、割れたら食べ頃なんだよー。味はアケビみたいで美味しいんだから!」
黒い皮の裂け目がちょうど不気味にニタリ、と笑ったように見えて。そこから滴る真っ赤な果汁はあたかも血のようだ。
うーん……不気味。見た目、血を吐いてる……もしくは、血を吸った後の人の唇みたいだもんね。しかも真っ黒な唇。
で、何が一番気持ち悪いって、小さな粒々の一つ一つが目玉見たいに見えることだよね!
わかるよ。知らなかったら、絶対に食べないよね。
この辺りは竜気が濃い影響か、植物も変なのが多いんだよね。
「いただきまーす」
いつものようにそう言って、僕はあったかいスープをこくり、と一口。
くうっ……しみる。しみるねぇ……。
乾燥したことでより凝縮されたキノコの香りが口いっぱいに広がって、干し肉から出たほのかな塩気と肉のうまみ。
「ほわ~……最高♡」
おお。久しぶりだね。かちこちパンくん。
この、石みたいに固いパン。久しぶりだな。
このパン自体は、いつも食べてたんだけどね。実はこのパン、買ってきたその日は外はカリカリ、中はふわふわなんだよ。
次の日には、既にこの防御力を身に着けてしまう、恐ろしく進化の早いパンだ。
乾燥しやすいからカビたりしにくくて、旅先でも日持ちするんだって。
家ではその日のパンはその日の内に食べるか、食べられなくても柔らかくなる調理法で食べてたから、かちこちパンご本人とはご無沙汰なのだ。
久々の再会を喜びつつ早すぎる別れを惜しみながら、かちこちのパンをちぎって、このスープに浸して……。
じゅわぁ……っと広がる、スープのうまみ。
うんうん、これこれ!
「ねぇ、ヴァル」
「あ?」
「ご飯、いつもこんな感じなの?」
「まぁ……そうだな」
なんて豪華なの。
これ、あれだよ。ほら、おみそ汁みたい。
派手じゃないんだけど、ほっとして。毎日食べてもいいくらい、飽きない、定番の味っていうのかな。
懐かしさもあり、身も心も温めてくれる。
「外でこんな食事できるなんて、贅沢だね!」
「………………まあ」
「んーっ……美味しい♡このスープのキノコ、僕大好きだなぁ。
はぁ……もう、絶妙」
僕、うっとりしちゃう。
「お前……確かに、癒せとは言ったがな……。ちったぁ、自重しろ」
じちょう?なに?ていうか、今ヴァル癒されてたの?
……………なんで?僕、食べてるだけなのに、ホントに癒されるの?僕にご飯を食べさせるための、冗談じゃなかったの?ウソでしょ??
それに……あれ?なんか僕、すごく見られてるね?
「どういうこと?」
「そういう顔すんなってことだよ」
「そういう顔?」
「こう……ぽわっとした……うまそうな、顔っつーか……」
「え。ムリだよ。ムリ、絶対」
ヴァルの美味しいご飯食べて、美味しい顔しないなんて僕にはムリだよ。
そんな僕は、もはや僕じゃないから。
だってほら、こんなに美味しいんだよ?
「はぁ……ったく。まぁ、いい。
これからの旅程を説明しとくぞ。食べながら聞いとけ」
「うん」
うーん、しゃきしゃきしたキノコの触感も、噛み応えがあっていいんだよね。
干し肉は出がらしなんだけど。でも、スープを吸い込んでるから、しっとりしてて僕は嫌いじゃないよ。
あれ?このしなびたのは……?んん……この風味は大根?
はっ!もしやこれ、切り干し大根では!?もしかして、僕の畑のやつ?ヴァル持ってきてくれてたの?ていうか、いつの間にこんな加工を?
わぁ……うれしいなぁ。僕、とってもうれしいよ!
あ、ヴァルの指、やっぱり長いな。
うんうん。ヴァルの字って。こうぐっぐっぎゃって感じで、勢いがあるんだよね。
200年もたつと、字も色々変わるんだけど、竜って全部読めちゃうんだよ。不思議だよね?
込められた意味が読めるっていうの?
はぁ……ヴァルが焚火に照らされてる。火がゆらゆらして、影が揺らめいて……。地面に字を書いてるだけなのに、こんなに格好いいなんてことある?あの枝の色やゆがみすら、計算されたような見事な………。
え。ちょっと待って。え?ええ?あの枝、チョコのついた長いクッキーのお菓子みたいじゃない?すっごく美味しそうなんだけど。
え?ヴァルって持ってるものすら美味しくしちゃう能力があるの?
あ。ヨダレが。じゅるり。
「おい、ルルド。聞いてたか?」
「うん。つまり、ヴァルから離れなきゃいいんでしょ?」
僕、ヴァルと一緒にいればいいんだよね。
「…………ま、そういうことだな」
うんうん。だったら大丈夫だよ。
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