【本編完結】迷子の腹ぺこ竜はお腹がいっぱいなら今日も幸せ〈第10回BL小説大賞エントリー〉

べあふら

文字の大きさ
152 / 238
Ⅲ.大好きな卵編

32.僕、ヴァルだけについていきます③

しおりを挟む

 どうしよう。僕、ヴァルに殺されちゃうかもしれない。

「………一人でじたばたしてねぇで、冷える前に食え」

 じっとりと、僕とそして何もつかめなかった自分の手を交互に見たヴァルは、僕にお椀を押し付ける。

「ヴァル、半分こしよ」 
  
 だったらせめて、一緒に食べよ。

「………ああ」
「あとね、この果物もあげるね!」

 僕は自分のカバン(もちろんヴァルのお手製♡)から、今日採ったばかりの果物を一つ手渡した。

「………………………………果物?これが?」

 真っ黒な楕円形の果実はちょうど中程で裂けて、そして、中には黒い種を内包した小さな深紅の粒々がびっしりとつまっている。

「皮の色が真っ黒になって、割れたら食べ頃なんだよー。味はアケビみたいで美味しいんだから!」

 黒い皮の裂け目がちょうど不気味にニタリ、と笑ったように見えて。そこから滴る真っ赤な果汁はあたかも血のようだ。

 うーん……不気味。見た目、血を吐いてる……もしくは、血を吸った後の人の唇みたいだもんね。しかも真っ黒な唇。
 で、何が一番気持ち悪いって、小さな粒々の一つ一つが目玉見たいに見えることだよね!

 わかるよ。知らなかったら、絶対に食べないよね。

 この辺りは竜気が濃い影響か、植物も変なのが多いんだよね。
 
「いただきまーす」 
  
 いつものようにそう言って、僕はあったかいスープをこくり、と一口。

 くうっ……しみる。しみるねぇ……。
 乾燥したことでより凝縮されたキノコの香りが口いっぱいに広がって、干し肉から出たほのかな塩気と肉のうまみ。

「ほわ~……最高♡」

 おお。久しぶりだね。かちこちパンくん。

 この、石みたいに固いパン。久しぶりだな。
 このパン自体は、いつも食べてたんだけどね。実はこのパン、買ってきたその日は外はカリカリ、中はふわふわなんだよ。
 次の日には、既にこの防御力を身に着けてしまう、恐ろしく進化の早いパンだ。
 乾燥しやすいからカビたりしにくくて、旅先でも日持ちするんだって。

 家ではその日のパンはその日の内に食べるか、食べられなくても柔らかくなる調理法で食べてたから、かちこちパンご本人とはご無沙汰なのだ。

 久々の再会を喜びつつ早すぎる別れを惜しみながら、かちこちのパンをちぎって、このスープに浸して……。
 じゅわぁ……っと広がる、スープのうまみ。

 うんうん、これこれ!

「ねぇ、ヴァル」 
「あ?」 
「ご飯、いつもこんな感じなの?」 
「まぁ……そうだな」 

 なんて豪華なの。

 これ、あれだよ。ほら、おみそ汁みたい。
 派手じゃないんだけど、ほっとして。毎日食べてもいいくらい、飽きない、定番の味っていうのかな。

 懐かしさもあり、身も心も温めてくれる。 
  
「外でこんな食事できるなんて、贅沢だね!」 
「………………まあ」  
「んーっ……美味しい♡このスープのキノコ、僕大好きだなぁ。
 はぁ……もう、絶妙」

 僕、うっとりしちゃう。

「お前……確かに、癒せとは言ったがな……。ちったぁ、自重しろ」 

 じちょう?なに?ていうか、今ヴァル癒されてたの?
 ……………なんで?僕、食べてるだけなのに、ホントに癒されるの?僕にご飯を食べさせるための、冗談じゃなかったの?ウソでしょ??

 それに……あれ?なんか僕、すごく見られてるね?

「どういうこと?」
「そういう顔すんなってことだよ」
「そういう顔?」
「こう……ぽわっとした……うまそうな、顔っつーか……」
「え。ムリだよ。ムリ、絶対」

 ヴァルの美味しいご飯食べて、美味しい顔しないなんて僕にはムリだよ。
 そんな僕は、もはや僕じゃないから。

 だってほら、こんなに美味しいんだよ?

「はぁ……ったく。まぁ、いい。
 これからの旅程を説明しとくぞ。食べながら聞いとけ」
「うん」

 うーん、しゃきしゃきしたキノコの触感も、噛み応えがあっていいんだよね。
 干し肉は出がらしなんだけど。でも、スープを吸い込んでるから、しっとりしてて僕は嫌いじゃないよ。

 あれ?このしなびたのは……?んん……この風味は大根?
 はっ!もしやこれ、切り干し大根では!?もしかして、僕の畑のやつ?ヴァル持ってきてくれてたの?ていうか、いつの間にこんな加工を?

 わぁ……うれしいなぁ。僕、とってもうれしいよ!

 あ、ヴァルの指、やっぱり長いな。
 うんうん。ヴァルの字って。こうぐっぐっぎゃって感じで、勢いがあるんだよね。
 200年もたつと、字も色々変わるんだけど、竜って全部読めちゃうんだよ。不思議だよね?
 込められた意味が読めるっていうの?

 はぁ……ヴァルが焚火に照らされてる。火がゆらゆらして、影が揺らめいて……。地面に字を書いてるだけなのに、こんなに格好いいなんてことある?あの枝の色やゆがみすら、計算されたような見事な………。

 え。ちょっと待って。え?ええ?あの枝、チョコのついた長いクッキーのお菓子みたいじゃない?すっごく美味しそうなんだけど。
 え?ヴァルって持ってるものすら美味しくしちゃう能力があるの?

 あ。ヨダレが。じゅるり。

「おい、ルルド。聞いてたか?」
「うん。つまり、ヴァルから離れなきゃいいんでしょ?」

 僕、ヴァルと一緒にいればいいんだよね。 

「…………ま、そういうことだな」

 うんうん。だったら大丈夫だよ。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

処理中です...