【本編完結】迷子の腹ぺこ竜はお腹がいっぱいなら今日も幸せ〈第10回BL小説大賞エントリー〉

べあふら

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Ⅲ.大好きな卵編

62.僕、幸せな道を目指します②

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 僕の背中の傷とか、僕が大丈夫だとか言って、僕の心配してる場合じゃないんだからね!

「わかってるって。いいから、とりあえずお前の怪我見せろ」
「はあ!?何もいいくないし!……うわっ!ヴァル、何すんの!?」

 ヴァルは座り込んだままで、顔を覗き込んでいた僕をがばっと拘束して、べろりと服をめくり上げ背中を全開にしてしまう。

「……何も、無いな……」
「だからっ!大丈夫だって言ったでしょ!!怪我なんてすぐに治っちゃうの!!
 ああするのが、ヴァルから僕の竜気をもらうにはちょうど良かったんだよ!
 ほら……その……セッ……クスするのと、同じで体液が触れてる方が、竜気の交換が早いんだよ!だから、わざと怪我したの!!」
「…………なるほどな」

 ヴァルはそう言うと、つー…っと僕の背中を下から上になぞり、既に跡形もなく消えた傷を確かめて、「痕も残らねぇのな」と呟いた。

「ひあっ…や……背中、くすぐったいよ」

 くっと首を引かれる感触がする。チャリっと金属音がして、僕の首飾りが揺れた。

「んんー……くすぐったいってば」

 ヴァルの指先が首筋をかすめて、鎖の先についている冷たい石の感触が消える。ヴァルが僕の首飾りを触ってる。ヴァルが作ってくれた、僕の首飾りに。

 ヴァルの瞳と同じ色の……同じ色に戻った、澄んだ紫色の石に。

 じくりと目が痛くなって、揺らめく水膜に視界がさらに歪んで、何にも見えなくなった。

「ふぇ……ううぅ~……よかったよぉ」

 ヴァルの足にしがみついて、ヴァルを確かめた。

 もう、ズボンで鼻水とか色々な汁、拭いてやるから。

「うう……ぐすっ……ヴァルだぁ……いつもの、パンケーキの匂い。ヴァルのイイ匂いがするぅ」
「…………そこに顔埋めて言われると。こえーよ」

 こわい?なんで?

 ていうか、ヴァルってばズボンもボロボロじゃない。まったく。ポロリしたらどうするの。
 仕方ないから、僕がきれいにしてあげる。

 上の服も……これは、ダメだね。ピッタリの服がビリビリになってて、とってもけしからん感じに、色々とチラ見えして、駄々漏れてるじゃない。

 ………うん。こっちはちょっとゆったり目でなおしとこ。

「俺だって別に、本気で“澱み”に堕ちようなんて思ってねぇ。勝算があったから、やったことだよ」
「え?……は?どういう……こと?」

 本気で“澱み”に堕ちようなんて思ってねぇ?
 勝算があったから、やったこと?

 なんかまたもや聞き捨てならないんですけど……?

「え?……ちょっと……待って。
 それってつまり、わざと“澱み”に飲まれるように仕組んだってこと……?」

 優利からあえて攻撃されるようにして、ヴァルはわざと“澱み”を受けたってこと?
 まさか……まさかだよね……?

「まぁな」
「な……なんで……っ」

 一歩間違えば、死んじゃうんだよ!?

 ………ううん。違う。

「死んじゃうより苦しいことが待ってるって、ヴァルはわかってるでしょ……?」
「俺は、お前の竜騎士だぞ。黒い竜気を扱えるんだ。自分に取り込んだ黒い竜気に……“澱み”に取り込まれるなんてことねぇよ」
「いや、だからって……ものすごく痛かったでしょ?苦しかったでしょ?」
「まぁ……懐かしい程度にはな。あー……久々身に染みたぜ」
「ばっ………」

 かじゃないの、と言おうとして、飲み込んだ。

 僕、反省したから。さっき、ヴァルにバカって言って、もう二度と言わないって決めたから。

 ああー、もうっ!だからって、痛かったり苦しかったりなんて、懐かしがるようなもんじゃないから!!

 …………え。もしかして、やっぱりヴァルってドMなの……?

「それに……俺が危なくなっても、お前は俺を見放さねぇって確信があったからよ」
「それはそうだけど……」

 僕がヴァルを見放すなんて、絶対ないよ。それこそこの世が危機に陥ろうが、滅亡しようがない。

 ………ヴァルが僕を見放すことはあるかもしれない……けど。

「だろ?だから、どう転んでも俺は大丈夫だと思ったんだよ。
 俺がどうにかできなくなっても、お前がどうにかしてくれると信じてた」
「っ……っ!……っ!!」

 こんなこと言われたら、もう何も言えなくなっちゃうじゃない!

「まぁ……多少、衝動的だったのは認めるけどよ」

 ヴァルは僕の身体をぐっと腕で抱き寄せたまま、自分の首飾りに触れて、しずく型の白い石を撫でた。

「ユーリが、お前を……“迷い星”を語ってんの聞いてたら……ムカついたんだよ。我慢ならなかった。
 あいつ、なんて言ったと思う。
 兄貴とお前が似てるって言いやがったんだぞ。
 目の前で死んだ兄貴と……弄んで、いたぶって、おもちゃにしてただろう、死んだ兄貴と……お前が似てるって。
 まるで、また同じことを繰り返すんだって、言わんばかりに。
 だから、あいつの勘違いを全部叩きつけて、この世の危機の最大の元凶で、本当の黒幕だって知らしめてやんなきゃ、気が済まなくなった」
「………ヴァル」
「で、あいつには一分でも一秒でも早く、ご退場いただこうって、もう待てねぇって思っちまったんだよな」

 ヴァルはふっと満足そうな顔で笑って、「あとは……まぁ、色々。保険っつーか、鎖っつーか……」と、僕の首飾りに触れながらわけわからないことを、ぶつぶつと言ってる。

 きょとん、とする僕の頭をくしゃくしゃと強めに撫でて。

 次の瞬間には、目が据わってすっと刃のような鋭利な瞳がぎらりと光った。

「俺は元々、この巡礼の計画段階で、あいつがいい具合に絶望した頃合いで、普通にあの世に葬るつもりだったんだよ」

 そう言うヴァルは酷く痛そうに見えて。

「それが……あの石碑にたどりついた……優利の名前が石碑に刻まれなかった、あのタイミングだったんだね?」
「ああ」
「ヴァルは……初めから予想してたんだね。優利の名前が、あの石碑には刻まれないだろうってこと」
「そりゃあ、当たり前だろ。
 青銀竜、黄金竜の長の話から予想はしてたんだがな。赤銅竜の長の話で、確信した」

 当たり前、なのかな………?
 ヴァルって、自分のこととなるとちょっと……ううん、かなり過小評価気味だよね。

「ユーリは異界の者だ。この世の理、竜の法則から外れた存在で、竜の力が及ばねぇって、竜の長がこぞって言ってんだからな。
 だったら、そもそもあいつがあの石碑に認識されるはずがねぇと、そう踏んでた。
 だから、ユーリに罪が在るとか無いとか、許されるとか許されねぇとか関係なく、あの石碑にはユーリの名は刻まれねぇだろうな、って。
 そうだよな、ルルド?」
「そう……そうだよ。
 優利の名が、竜の石碑に刻まれるはずがない」

 異界の者だから。この世の理は通用しない。

「だから俺は、それを利用するつもりだった。
 名前が刻まれず、ユーリがこの巡礼でも許されないと、本人も周りもみんなが認識して、この世での地位も権威も失って、この世の根源を欺いた罪人と烙印を押されて、絶望したタイミングで俺が『ユーリは許されない』って煽れば………まぁ、こらえ性のねぇ癇癪持ちのあいつがどうでるか……。
 容易に想像つく」

 優利は自分に不都合なことは、全部無かったことにしちゃうから。あの両親と同じように。
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