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Ⅲ.大好きな卵編
65.俺は、救済の予言の面倒な本質を知る②
しおりを挟む「いつも裸足って、どうなんだろう。ヴァルはどう思う?」
どう思うも何も……。
………裸足、ねぇ………言われて思い返せば、他の竜の長は………裸足だったな。
あー……ホント、こいつの視点、わかんねぇ。全然意味わかんねぇ。
他にも色々見るとこも、感じることも、考えることもあっただろうが。
「あとほら。もっとこう……ひらひらした?あの謎の白い服にした方がいいのかなぁ」
「…………………」
「でもあの服、どういう構造なのかわからないんだよねぇ。
それに僕、全体的に白いからさ。白い服着ちゃったりしたら、まっしろけじゃない?雪だるまじゃあるまいし。
このヴァルが買ってくれた服も靴も、気に入ってるしなぁ。
この鞄だってあのひらひらした服じゃ、合わないと思うんだけど、どうかな?」
あー……まあ、確かに青銀竜の長も、黄金竜の長も、赤銅竜の長も……白い布を幾重にも重ねたたなびく衣をまとってたが……。
鞄。鞄、ね。俺が作ってやった奴のことか。
どうもこうもねぇよ。どうでもいいわ、そんなこと。いや、鞄は大切にしてくれてるみたいで嬉しいが。
靴とか服とか何言ってんだ。何だよこいつ。竜は意外と形から入るタイプなのか?
「何よりさ。あの服の何が一番困るって……。
あんな白い服着てたら、ご飯食べるとき汚さないか気になっちゃうってことだよ。そしたら、ちゃんと味わえないと思うんだよね」
ルルドは神妙な面持ちのまま、「ね?大問題でしょ?」なんて言っている。
「裸足も悪くないとは思うんだよねぇ。そもそも僕、お家の中で土足ってちょっと抵抗あったし。
だってほら。お家の中で裸足で土禁だったら、お部屋の床に落ちたものを食べるのも、もっと衛生的だと思うんだよ。
ねぇ、ヴァルはどう思う?」
「いや、落ちたもん食う前提で話すんじゃねぇよ」
「ええー?だって、もったいないじゃない!」
さらに、「室内で落ちたものは、セーフでしょ」なんて言ってる。
あー……間違いないわ。こいつ、ルルドだわ。
底知れぬ安心感に、思わず笑いが込み上げてきたところで――
「な……なんでだよ!なんで、ヴァレリウスなんだ……っ!!
何で竜が、そいつを選ぶんだ!!」
ユーリの声が割って入った。
「選ぶ……?」
その声に真っ先に反応したのは、ルルドだった。
「何言ってるの。選ぶも何も。ヴァルはヴァルだけなんだから、初めからオンリーワンでしょ!」
なんて、いつものテンションでユーリに言い返す。
さらに、
「それに、ヴァルが僕を拾ってくれたんだから。むしろ、選ばれたのは僕だよ!ね?ヴァル。そうだよね!?ヴァルが、僕を選んでくれたんだもんね!?」
なんて言ってる。
「俺が、竜の神子だ!竜に愛された子だ!俺こそが、救世主なんだろ!?」
「はぁ……まだそんなこと言ってるの?」
ルルドは心底呆れたようにユーリへと言って。
そこにいる一同を、見下ろした。
侮蔑と、嫌悪の情を隠そうともせず、
「あなたが今この世界にいても、この世があるのはヴァルのお陰だよ」
嫌な匂いを覆うように腕で鼻を隠しながら明瞭に告げる。
「どうして、わからないんだろうね、みんな。そう、みんなだよ。
この世のすべてが、何度だって、同じ過ちを繰り返してる」
ルルドの言葉に、俺とユーリ以外の全員が、重苦しい威圧と畏怖とに身を縮める。
「“澱み”がこの世にとって悪いってわかってるのに、それを溜めてくれるヴァルをどうしていつもいつも大事にしないのかな。
ヴァルがその体に大量の“澱み”を溜めてくれるから、黒き竜が生まれるまで、この世はいつだって保ててたっていうのに。
どうして理解しないんだろう愚かだ。ホントに愚かだよね」
俺はただ、ルルドの言葉に聞き入った。
まるで、独り言のように「もっとも。僕だって、愚かな者の一人に違いないんだけどさ」と、囁くのも俺は聞き逃さなかった。
じっと見つめる俺に気づき、ルルドはふっと苦笑した。
「竜と共にこの世を救済するのは、どう考えたってヴァルなのにね。
しっかりと覚えておいて。ヴァルこそが、本当の意味で『竜に愛された子』だってこと。
次に間違ったら、僕が全部キレイにお掃除してあげる」
あれほど騒がしかった降誕の地は、耳鳴りがするほどにしんと静まり返っていた。
「そもそも次なんて、許さないけど」
ダメ押しの一言の圧に、平伏した神官一同がガタガタと震えあがった。
「……どういうことだよ」
震える声が小さく、けれどはっきりと響く。
「この世界は、あの小説の世界じゃないのかよ……。
なんで……なんで、こんなことに……」
こんなことにって……なぁ。
こんなことになったのは、お前のせいじゃねぇか。ユーリ。自分でやっておいて、この期に及んでまだ、んなこと言ってんのかよ。
「優利は、いつもそうだね。
困ったことがあると、すぐ誰かのせいにする」
ルルドが、口元で俺にだけ聞こえるほどの声量で囁いた。
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