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Ⅲ.大好きな卵編
75.僕、迷子のお知らせ希望してませんけど……?①
しおりを挟む僕、ルルドです。ちょっとフライングで一人前の竜になって、世界を救っちゃった黒き竜です。
あふっ……。
あー……ねむいー。
あー……ヒマだー。
うーん……僕、何してたんだっけ?
ああ、そうそう。
僕、ヒモからヒキニートになりました。
で、只今、絶賛里帰り中です。
広い広い森の中にあるのは、澄んだ空気、綺麗なお水、新鮮な果物。
あとは、無限とも思える静かな時間だけ。
この世の竜である僕。
あっちの世界の “迷い星”が混ざっている僕。
救済の予言によって回帰する無限とも言える時間のなかで、ようやく実を結んだのが僕だ。
竜でありながら、この世だけでなくあっちの世界も認識できる僕は、異界の者をあっちの世界に帰す力を得た。
僕がこれまで好き勝手してきたことにも意味があったんだと思う。
僕の行いによってじわじわと蓄積した歪は、この世とあっちの世界を近づけるには十分だった。
優利はあっちの世界でも、償わないといけない。
虚勢と妄執に満ちたあの人は、いつも誰かを盾にし、影に隠れ、踏み台にしないと、立つことすらままならない、可哀想な人だ。
あの怪我を追って、異界で穢れた魂で……不快に満ちた希薄な存在と皆に認識されながら、生きていかなくてはならない。
僕は知ってる。
あの人が一番こたえるのは、相手の無関心と無視だから。
だから、とるに足らない存在と、忘れてしまうのが一番だ。
もうあの不味い“澱み”が……僕が処理できない“澱み”が溢れることは無い。
あとはただ、日々生まれる黒い竜気を、もとの正しい流れに戻すだけ。
この世とあっちの世界との均衡のため、この世の濃度を局所的に濃くするために、竜石を全部竜気に変換したから。
もう、人は竜気術が使えない。
竜気術なんて無い方が、今後もいいに決まってる。だって、もともとは竜の力だから。
これで、ヴァルがいらない“澱み”を溜める必要もない。
救済の予言は、ようやく成された。
でも。だからと言って僕は……僕を許すことはできない。
繰り返しの犠牲を無かったことにはできない。
何度もやり直せしたからといって、成功するかなんてわからない。
ホントに愚かなこの世。
ヴァルにすべてを委ねておきながら、いつだってヴァルを痛めつけて、苦しませてきた世界だ。
もっとも、僕もその世界の一部だけど。
だって黒き竜は、覚えてる。
苦痛にさいなまれて、悶え苦しむヴァルの姿を。
いつも、いつも、いつも……。
黒き竜はそんなヴァルの姿を見下ろしていた。
そう、ただ見下ろしてた。「そういうものだ」と。いつも、いつも、繰り返し。
それを ヴァルが覚えていないからといって、僕が僕を許しちゃいけない。
でも、もう大丈夫だから。
ヴァルを縛り付けていた予言はもう過去になったから。
小説『救済の予言、竜と共に在る者』。
この世でたしかに過去にあった、繰り返しの中の1回だ。
小説で語られる『ヴァレリウス』が歩んだ道は、繰り返しの中ではまだマシな方だ。
黒き竜にたどり着くまでに、あらゆる竜気を使うために酷使されて“澱み”に堕ちて死ぬこともあれば。
それ以前に、いずれの竜気の属性もないと分かった時点で殺されることもあった。
ヴァルは何度だって、竜と竜の予言と、予言を利用した神殿と、勘違いした神官たちに苦しめられてきた。
でも、もう……。
ヴァルは、竜と共に在る必要はない。
これまでヴァルを酷使し、虐げてきた、いわばヴァルにとっては直接的な苦しみの原因である僕には……。
ヴァルを幸せにできない。
僕と、一緒にいたらヴァルはきっと幸せになれない。
僕は、ヴァルの幸せを邪魔しちゃうに決まってる。
だって、僕は……ヴァルが好きだから。
大好きなヴァルが、僕以外の人と幸せになるのを、すぐ近くで見て平気な振りなんて僕にはできない。
バカなことをしてしまいそうだから。やっちゃいけないことを、やりたくなってしまいそうだから。
リッキーが言ってたことが、良くわかる。
──『好意の中でも特に、破壊的な激情を伴うことが多い。
一定の理があるようで、まったく矛盾した感情と行為を引き起こす起因となりうるからな』
国だって傾ける。国くらい滅ぼしても頷ける。
でも僕は、それよりもずっとスゴイことができちゃうから。
だから僕は、遠くでヴァルの幸せを願ってるくらいでちょうどいい。
ヒクイドリの卵を……ヴァルの作ったお料理を食べれないのは、とっても残念だけど。
………くぅ……断腸の思いだけどっ。
でも僕……。
もう一度、僕とヴァルの家に二人で帰っちゃったら。
二人で一緒にヴァルの作った美味しいご飯と食べちゃったら。
きっともう離れたくなくなっちゃうから。
離れられなくなっちゃうから。
だから、もう一度二人で一緒にあの卵を食べたかったな、て思ってるくらいがちょうどいいんだ。
僕は遠くに行くよ。
人が誰もいない、ヴァルが見つけられないくらい、遠くに。
僕はしんと静まる森の中で、ゆったりと流れる景色を眺めて過ごす。
生まれてから100年間は、ずっとそうやって過ごしてきたんだから。
あの時と同じように。
僕、一人で。
ただぼーっと眺めていれば、100年だって200年だって、あっという間だよ。
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