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Ⅲ.大好きな卵編
76.僕、迷子のお知らせ希望してませんけど……?②
しおりを挟む真っ白なもふもふの姿で、毎日毎日ただ流れの中を過ごすのって……こんなにつまらなかったっけ?
ごろだらするのも、嫌いじゃなかったはずなのに。
ぼーっと過ごすコツは、時間を意識しないことだ。
だから、この森に帰ってきてどのくらい経ったかも、僕には良くわからない。
さすがに、まだ1ヶ月かそこら……少なくとも2ヶ月は経ってないことくらいはわかる。
おかしいな。おかしいよ。
「はぁ……どうせ竜体でいるなら、目立つようにもっとデカくなっとけよ」
だって僕は今、ヴァルにがっちり両側の角を掴まれて、たかいたかいされてる。
あはは。ヴァルってやっぱり力持ちだなぁ。
僕、足つかなくて、ぷらぷらと浮かんでるんだけど。
うん。立派になった角は、たしかに自転車のハンドルみたいで、持つのにイイ感じの大きさ、角度だもんね。
うんうん。わかるよ。ついつい持ちたくなっちゃうよね。
それに僕、ヴァルなら角につかまっていいって言ったもんね。
でも、こんな風に持たれることは想定してないよ?
しっぽをぴーんっとすれば、地面に届きそうだけど、今、僕のしっぽはこれでもかと下がって、股にくるんと丸まってる。
だって、ヴァルの目つきがスゴイから。
ギンギン殺気立って、やさぐれ感がすごくて、もはやその筋の人にしか見えないから。
ごきゅっと僕の喉が鳴る。
ああ、うそでしょ。なんで?なんで、ヴァルがここにいるの??
「迷子になんぞって言ったよな?ふらふらしてんな、馬鹿が」
『ええーっ!ふらふらなんてしてないよー。僕、迷ったわけじゃ……ひうっ』
今、ミシッっていった!僕の角、ミシッていったから!
「迷子じゃねぇなら、何だっつーんだ」
『そ……それは……』
「勝手にいなくなんなって、言ったろうが。あ?」
『うっ……』
「言ったよな!?」
『あ……はい!いわれました!』
はわあぁぁぁぁ……っ!
ヴァルってば……ヴァルってば……。
すっごくカッコいい!!
何この凄味。何このトゲトゲツンツンした感じ。しゅっとしたナイフみたいな鋭い眼差しが、たまらないんだけど!とってもきゅんきゅんしちゃう!
「あんときお前、いなくなんねぇって答えたよな」
『ううっ……答えた……答えた、けどぉ……』
それは、あくまで場合と状況との兼ね合いと言いますか。臨機応変と言いますか。
「けど、じぇねぇよ。
約束も守れねぇとか……この頭は飾りか?」
飾りじゃないよー。
ちゃんと中身が詰まってるよー。
………え?詰まってるのね?
『僕の頭、ピーマンだったりする……?』
中身空っぽだったりする?
いや、ピーマンは大好きだけどね!
「知るか、馬鹿」
ヴァルは、はぁ……と大きなため息をついて、角を離して僕を地面へと降ろす。
大きめの犬サイズの僕に合わせてしゃがみこむと、僕の首に腕を回してがっしりと身を寄せた。
もう、逃がさないとばかりに。
そして、ぐるりと辺りを見渡して。延々と草木が生い茂り鬱蒼とした森が広がるのを確かめて。
ヴァルは、一言。
「どんだけ迷いこんでんだよ、お前は」
うん。だから僕、別に迷ったわけじゃ無いんだけどな。
……と、これは言っちゃいけない雰囲気だね。
そんなこと言おうものなら、今度こそ、角ボッキンの頭グシャってされちゃいそうだ。
『そういうヴァルこそ……なんで、こんなとこにいるの……?』
ヴァルをさっと観察すると、靴がどろどろで、服にも所々、泥がはねて汚れてる。
ここまで一人で歩いて来たんだよね、これ。
「こんなとこって言うけど……お前はここがどこだか分かってんのか?」
もちろん、わってるよ。
『ここは僕が、生まれた場所だよ。
卵の僕に“迷い星”がぶつかって、弾き飛ばされたのがここだったってことだね。
生まれて、100年位を過ごした森なんだ』
ここはヴァルの住んでた大神殿のある街からは、ものすごく離れてる。
というか、人の居住域自体からとても離れてる。
つまり、人が住んでいないどころか、近くに街もなくて、通り道にすらならないようは辺鄙な場所だ。
僕が人に会ったのだって、生まれて100年経った頃の一度きり。
だから、ヴァルがたまたまここに来る、なんて理由は無い……と思う。
………もしかして。
僕を探しに来てくれた、とか?
ああ……僕……。
胸がきゅうっとなってる。嬉しくなっちゃってる。
ヴァルに見つからないように隠れてたのに、ヴァルに会えて、嬉しくなっちゃってる。
ダメダメ。しっぽがぶんぶん揺れちゃう。
ああ……でも、待ってよ。
竜の僕が本気で逃げて、身を隠したっていうのに。
まさか、2ヶ月もしないうちに見つかっちゃうなんて。
つまり今後、僕がヴァルから隠れようとしたら、単純計算で1年の内に、6回以上見つかっちゃうってこと?
つまり、今後10年で60回?ウソでしょ。
どうなの?それ。僕、大丈夫?ていうか、ヴァルが凄すぎない?
………え。ヴァルってかくれんぼ?鬼ごっこ?激つよじゃん。
こんなの特技を隠してるなんて、聞いてないんですけど!
「ここはカーリー家の……院長の家が管理してる領地だよ」
『え……そうなの?』
ここが領地?管理?でも、ここド田舎通り越して、秘境だよ?人っ子一人いない場所だよ?人が住んでなくても領地ていうの?
「まぁ、管理してる領地っつっても、使い道も開拓しようもなくて、放置してる土地、て言った方が正しいな。
要するに、200年前にアーロン・カーリーに与えられた土地っつーのが、ここだ」
僕の疑問の察してヴァルが説明してくれる。
なるほど。そうなんだ。
ふーん。こんな場所をもらってもね。いや、僕は静かで気に入ってるけどさ。落ち着くっていうかさ。
でも、普通に人がもらっても嫌がらせかって感じじゃない。あ。嫌がらせなのか。
良くないよねぇ。そういう虐めみたいの。
そっかそっか。院長ってホントに土地だけはたくさん持ってたんだね。
で、ご先祖様も似たり寄ったりお花畑だったんだね。
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