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Ⅲ.大好きな卵編
83.僕、プロポーズしちゃいました④
しおりを挟む何もない森の中で、二人っきりで向かい合う。
とっても近いところに、僕の大好きな紫色があって、真っ白な僕が映って、きらきらと輝いていた。
「ヴァル、本当にいいの?」
僕は、最後の最後。決意を確かめるために、ヴァルに問う。
ヴァルの胸元に手を当てて、体温と鼓動を感じながら、真意を探る。
「何度も言わせんな。いまさら迷うくらいなら、こんなとこまでたどり着いてねぇよ」
ヴァルの鼓動はいつもと同じ、とくとくと静かになって、伝わる温度はいつもよりちょっと熱を帯びている気がした。
真摯な瞳にも、声にも言葉にも、感じる匂いからも、一切の迷いは感じない。
「だって僕……こんなんだけど……」
迷ってばっかりで、ぐるぐると同じところを回ってばっかりの、ダメダメなぽんこつの竜で、いいの?
ヴァルは僕とは大違いだ。竜なのに、迷ってばっかりの僕とは。
ヴァルは人だけど強い。優しくて、強くて……だからこそ、ヴァルは何度だってこの世の犠牲になり続けた。
本当に……僕にはもったいない。
それなのに。
「良いも悪いもねーよ。お前はお前だって言ってんだろ」
「でも……」
僕は、ヴァルに好かれても、いいの?
こんなに温かくて、それでいて鮮烈な焦げるような想いを、ヴァルから受け取ってもいいの?
「でもでもだって、面倒くせぇ」
「うっ………」
「でも、その面倒くせぇのも、嫌いじゃねぇよ。
全部ひっくるめて、ルルドじゃねーか。
そんなお前だからこそ、俺はお前を好きになったんだよ」
こんな僕だから、ヴァルは僕を好きになってくれたの……?
物好き……ホントに物好きだよ。
「でも、ヴァル……。僕は、また迷子になっちゃうかも……」
「まぁ、いいんじゃねーの。お前らしくて」
僕らしい。
何それ。迷子になる竜って、何それ。変なの。
「お前が迷子になっても、俺が何度でも見つけてやるよ」
「うん……うん………」
僕は、竜だから。
これからも長い時を過ごさなきゃならない。
でも僕は、竜だけど。
普通の竜じゃないから。
きっとこれからも、何度だって迷っちゃう。
でも、迷うたびに、ヴァルが僕を見つけてくれるんだって。ヴァルは僕と違って、ちゃんとしてるから。きちんときっちり約束を守る人だから。
ヴァルは、僕を見つけてくれる。
ヴァルは、絶対に僕を何度だって見つけてくれる。
ほっこりと温かくなる気持ちに、僕の何かが緩む。張りつめたものがヴァルによってほどかれて、そして……。
ぐきゅるるるうぅぅ~……
う……。
やっぱり君たちは、ここで自己主張してくるんだね。
ああ、ほら。ヴァルが笑ってるじゃない。
恥ずかしい……もう、恥ずかしくてたまらないよ。
でも、ヴァルの笑ってる顔が見たくなって、ちらりと見上げたら、ヴァルの表情には僕に対する想いが詰まっていて。
愛しいとか、大切だとか、そういう想いが溢れていて、僕の心がきゅうっと高鳴った。
僕がじっと見とれていると、するりと頬を撫でられて、ヴァルの顔が近づいてくる。
弧を描いたヴァルの唇が僕の唇に柔らかく押し当てられた。
触れたところから、とろりと甘く濃厚なものが注がれて、思わずふっと吐息が漏れる。
ヴァルの胸元を掴む手に力をこめて、もっとを強請れば、ヴァルの唇がうっすらと開いて、僕のを食んで、より深く重なった。
惜しみなく与えられるものは豊潤な芳香を放つ極上の甘露で、僕は全部を受け取って、こくこくと喉を鳴らした。
不思議だな。ヴァルが“澱み”に堕ちかけてた時に、受け取ったのとは全然違う。
こんな美味しいもの、他には絶対にない。
僕……喉が乾いていたんだ。それに今、気づいた。乾いていることに気づきもしなかった喉をヴァルが潤して、満たしてくれる。
名残惜しく離れた唇を、物欲しそうに眺めていると、ヴァルの指が僕の唇をぬぐった。
「腹が減ったら、俺が腹いっぱいにしてやるよ。
いつだって、いつまでも」
そう言って、ヴァルはもう一度ちゅっと僕に口づけた。
うう……っ。何この殺し文句。
僕、いつかヴァルに殺されそう。
竜なのに。竜だけど。
「ルルド」
優しい声で促されて、頬に柔らかく触れる手のぬくもりに自分の手を重ねてすり寄れば、胸の奥に溜っていたどろどろと澱んだものがキレイに消えていく。
わだかまりも、罪悪感も、寂しさも、孤独感も、無力感も……自分でもよくわからない良くないものが全部、ヴァルによってほどかれて、つかえていた言葉がするりと出た。
「僕の名前はね。ルルクドゥナス・ヴァインツアール・エルメ……―――」
これを教えるのは、ヴァルだけだ。
初めてで、最後。
僕にとって唯一の人。
僕、ヴァルに終身誓約しちゃった。
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