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第一章
5話 ⑨バグ
しおりを挟む「吸血鬼って本当だったんだ」
「…………」
俺は悪くねえ。謝らねえからな。
肩を思い切り噛んでしまったし背中には爪を立てたのでオロクは血だらけである。脱衣所で血を止めようとタオルを当てていると、後ろから声を掛けられた。
「ヴォンヴァートくん? オロク?」
「シロくん!」
キリクゥの後ろには双子の従者たちがいる。
正直とても気まずい、なぜならあの露天風浴場はキリクゥの持ち物……。オロクと一緒にお湯を抜いて清掃しておいたが、そこまできちんとするの逆におかしいよな。バレませんように。
「ゴ友人なのですか、キリクゥ様」
「うん。僕の好きな人だよ」
「「エ!?」」
従者たちにまじまじと見られる。
「確かに容姿はキリクゥ様と釣り合うガ……」
「マさか想い人だとは……先ほどは無礼を働いて申し訳ない」
「べつにいいけどよ……」
それよりなにより今はキリクゥの笑顔が怖え。バレるとかそう言う問題じゃなかった。
「…………オロク、傷だらけだね。肩の傷はどう見ても歯型だよね。背中の傷もどう見ても自分でつけた傷じゃないよね。誰にしがみつかれたのかな? ねえ、それよりヴォンヴァートくんの首にある痕は何? ねえ、ねえ?」
バレバレだった。
「お、落ち着いてくれシロくん!」
痕ってなんだ! オロクの奴いつの間に……! そう言えばしがみついてた時首筋にちゅぱちゅぱ……、思い出して鏡を確認する。ジャージのジッパーを全部上げさえすれば隠せる位置にあるとはいえ上からの角度によっては見えるかもしれない……どうしてくれるんだオロク!
「何があったかは教えてあげないよ、キリクゥ」
「ヴォンヴァートくん、何されたの?」
「オロクが教えないなら俺も教えねえ」
オロクが教えようとしたって口にタオルでも突っ込んで止めてやる。
「オロク、俺着替えてくるから」
一旦この場を離れた方がいい。
「もう血は止まったみたいだし、大丈夫だよ。ありがとう、ヴォンヴァートくん。酷いことしちゃってごめんね」
にこやかにそんなことを言ってくる。許すつもりはない。それにキリクゥの前でそう言うことを言うな。
「俺も着替えてくるよ」
なんかこの後も一緒に行動する流れになってね? 俺からそんな流れにしちゃったのか?
「そのまま教室に帰るから……」
「心配だから送るよ」
「い、いや。いいから」
なんか気まずいし。
「それよりお前……」
好感度は……。そう聞こうとして慌てて口を閉じる。
いきなりそんなこと聞かれたら困るだろ……それに好感度の確認は画面で出来るんだから。
オロク・セン・デン・ポル
誕生日8/3 年齢16歳 趣味観察 魔法闇魔法 寮キリクゥと同室
親密度 5%
好感度 0%
だからなんなんだこれはああああああああああああああああああああああああ!!
絶対バグってるだろ、こいつ俺のこと愛してるってはっきり言ったんだぞ!
わけの分からんオロクを睨み付けていると、向こうも無表情でじっとこちらを眺めてくる。
「そんなに見つめられると困るよ」
「見つめてねえ」
「仲良しだね二人とも。僕のことも仲間に入れて」
「お、おう」
……笑顔なのが怖い。
全員着替え終えてからなぜか全員 (従者含む)で脱衣所を後にした。3人衆に見つからなかったのは良かったが、オロクとは色々あったしこの状況も大変厄介だ。
そんなことを考えていたら右手に無機質な……しかしぬくもりのある感触が触れてくる。
「し、シロくん?」
シロくんが手を繋いできたのだ。彼の手には相変わらず黒い手袋がはめられている。
「仲良しでいいね。俺も……」
オロクの冷たい手が左手に触れて、反射的に手を上げて避ける。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
どんな表情なんだそれは。笑顔だが許してくれているのか怒っているのか分からない。
「し、仕方ねえな」
オロクの手を掴む。
な、なんだこれ。自分から掴んどいてなんだけど、変な感じ。さっきまでお風呂に漬かっていたと言うのにオロクの手は冷え切っている。火照った体にはそれが心地良い。それよりなんで男同士で手をつないで歩かないといけないんだよ。キリクゥとオロクは普段から手をつないで歩いてるのか? この世界ではこれが普通なのか? 誰か助けてくれ。
「具合はどう?」
1年特進科Aクラスの大部屋の前に着き、オロクが顔を覗き込んでくる。
「具合はいいよ……分かるだろ」
「うん。俺のおかげだね」
にこやかにそんなことを言ってくる。
「どう言う意味なのかな?」
キリクゥは相変わらず怖い。不機嫌なのか道中もほとんど話さなかったし。
「お前こそ傷の具合はどうなんだ?」
「気にしないで。痛いけど君が俺にしがみついた証だから、自力で治すよ」
「……しがみついた?」
「な、なんかあったらすぐシーシェンに見て貰えよ!」
「ああ、そうだね。結構痛いからシーシェン先生に見て貰おうかな」
あれ、自力で治すんじゃ……。
「急にどうした。何考えてる?」
「別に。普通に治療してもらおうと思っただけさ」
やっぱり何考えてるか分かんないやつだよな。
「じゃあ俺はこれで」
「うん。ゆっくり休んで」
「またね、ヴォンヴァートくん」
オロクとシロくんに手を振り、自動扉の向こう側へ向かう。自分の布団へ向かえば、隣のアイちゃんとその奥のザイドは既に寝ていた。
と言うか……アイちゃんがザイドの布団に潜り込みかけているような……。
まあいいや。散々な目にあったしなんか疲れたし、もう寝よう。
……今後オロクのことはもっと警戒しないとな。
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