ハイメくんに触れた

上本琥珀

文字の大きさ
2 / 32

これって、好きってことなのかな

しおりを挟む
 箒で空を飛ぶ。
 それは、魔法使いに取っては当然の空の飛び方。だけど、これを最初に思いついたのは誰なんだろう。何かに乗るってのは良い案だったかも知れない。
 でも、もっと安定感が欲しい!
「わっ!」
 突然、ピューっと吹いた風に、練習用ローブがバサバサとなびき、体が飛ばされそうになったので、練習用箒を強く握る。
 ふー、危ない、危ない。
 私、箒術ほうきじゅつは苦手。他の実践科目も得意とは言えないけど、これは特に駄目。
 翼を持つ鳥人種だったり、箒術が得意な子は、練習のためにと先生が風を吹かしている中でも、手を離して乗っていたりするけど、私にはそんな事出来ない。そんなことをしたら落っこちちゃうから、箒をしっかりと握って、考え事せずに、集中して飛ばなきゃ。
 今は一年生全員で、一学年最後の箒術の試験中。
 ゴールまでのスピードや、風が吹く中、箒をどれくらい操れるかで、評価がされる。
 私が居るのは、全体の後ろの方。私みたいに箒術が苦手な子か、試験なのにやる気が無くて友達と話したり遊んだりしながら、だらだらと飛んでいる子しか居ない。
 今日の為に、『上手に箒で飛べる方法』っていう動画見たんだけどなー。それだけで簡単に上手くなったりはしなかった。
 せめて、補修にならないくらいの評価がされれば良いな。もう、補習が決まっている科目はいくつか有るから、これ以上、増やしたくない。
 試験のコースは、もう終盤。出来るけど、やる気無い組は、ゴールの順位を上げる為に、そろそろスピード出してくるだろうから、道譲るために端の方に移動しようかな。
 そんな事を考えていると突然。ドン! と、背中に強い衝撃が当たる。
「うわっ!」
「え!」
 振り向くと、後ろを向いて友達と話しながら箒を乗っている男子が。ぶつかったたみたい。って、ヤバい! 落ちた!
 向こうはスピードを出し始めていたのか、ぶつかった時の衝撃が強くて、私はバランスを崩してしまった。
 高い所を飛んでいたからすぐには地面に着かないけど、その分地面に着いたら大怪我だ。
 手の中に箒が残っているから、魔法をかけ直して、乗らなきゃ!
「スコーパエ・ボリターレ!」
 あれ? 
 魔法を使ったのに! 箒が操れない!
 動揺しているのか、呪文を唱えても魔法が上手く使えなかった。
「スコーパエ・ボリターレ!」
 もう一回唱えてもダメだ。
 えっ、どうしよう。近くに先生は居ないし、私このままじゃ本当に……
 ニュースで見た過去の箒事故を思い出して心臓が加速するように激しくなっていく。
 どうしよう、どうしよう、ヤバい、ヤバい!
「スコーパエ・ボリターレ!」
 何度、呪文を唱えたって、箒は浮かない。
 照りつける太陽から離れていく、雲ひとつない青い空が小さくなっていく。落ちていく体は空気を切り、体操服の隙間から入る風はとても冷たい。
 ……ああ。
 絶望の中、突然、ふわりとした羽になったように私の体の落ちるスピードが遅くなった。箒が、私の手からすり抜ける。
 え! 私、こんな魔法使ってない。じゃあ、なんで? って、箒が!
 混乱していると、誰かに腕を掴まれ引かれる。
「とりあえず乗って」
 落ちていく私の腕を引いたのは、紫と金のラインの練習用ローブを羽織った、黒い髪と金色の目、そして、頭に生えた大きな犬みたいな耳が特徴の男の子。
 犬みたいな耳があるだけなら、獣人かと思うけど、彼には獣人の様な尻尾は無い。だから、彼が誰だか分かった。寮もクラスも違うけど知っている。
 雷狼に憑かれた一族の男の子。
「ハイメくん」
 ハイメくんは、ふわふわと浮く私の体を、箒に乗っている彼の後ろに座らせる。すると、魔法が解けたのか、体に重さが生まれた。
「うわっ!」
 突然のことにバランスが崩れて倒れそうになった所を、ハイメくんが私の腕を掴んで支える。
「危ないから、掴まっていて。とりあえず、下に行くから」
 ハイメくんは抱きしめさせるように、私の手を彼のお腹に回す。
「う、うん。分かった」
 今は六月で、結構汗かいているのも有るから、男子に掴まるのは恥ずかしいけど、また落ちかけたりして、迷惑をかけられないから、ぎゅっと抱きつくような形になった。
 ……どうしよう、なんか良い匂いするし、ドキドキする。
 くっついているから、そのドキドキとした鼓動も聞こえていそうで、もっとドキドキしちゃう。
 うー、心臓よ治って!
 ドキドキしているのは私だけなのかな。ハイメくんは、私と同じ一年生なのに、二人乗りしているとは思えないくらい安定したバランスで箒を操り、ゆっくりと地上へ降りていく。
「着いたよ。降りれる?」
「大丈夫!」
 ドキドキするから、抱きついていられない。
 ササッとハイメくんから離れて、地面に足を付ける。
 私が降りた近くには、ハイメくんが私に魔法をかけた時に手放してしまった箒が勢いそのままに落ちていて、ボロボロになっていた。
 もしかしたら、私もこうなっていたかも……
 ボロボロになった自分を想像しちゃって、心臓が冷えた。
 本当、ハイメくんのおかげだ。
 話したこともない私のことを、上手くいかなかったら自分も危険な目に遭うかもしれないのに、助けてくれるなんて。
「本当にありがとう。ハイメくんのおかげで、傷一つ無く降りられた」
 心からのお礼に、彼はため息をついた。
「別にいいよ。それにしても、ドジだね」
「えっ」
 ……ドジって、元はと言えば、前を見ずに飛んでいた向こうが悪いんじゃって、ムッとしたけど、ハイメくんの、意地悪で、馬鹿にするように呟いたにしては、宝石のような金色の目が、愛おしいものを見ているような優しい感じでこちらを見ていて、チグハグだけど、何故かキュンとしてしまう。
 え、なんで今、キュンて……
 初めての事で、何が何だか分からない。でも、心のふわふわしている感じ、イヤじゃないかも……
「緊急事態ほど、ちゃんと杖使わなきゃダメでしょ」
 ハイメくんの正論で、ふわふわとした気持ちが静まる。
「はい。その通りです」
 そう、魔法ってのは、杖を使った方が狙いが定まり、上手く使えるものだ。沢山練習した箒術とは言え、杖を使わずに魔法を使うのは、だいぶ難しい。特に私は魔法を使うのが苦手だから、杖が必要だった。
「気を付けなよ」
 ハイメくんは、呆れるように呟くけど、その目は心配しているように見えて、またキュンとしてしまう。
 えー、もー、なんだろう、この感じ。

 あの日以来私の胸の中に、ハイメくんが居て、無意識で、ハイメくんのことを目で追ってしまう。今まで話したこと無かった彼を、興味なんて無かった彼を、知りたいって思う様になった。
 何部に入っているの? 
 何が好きなの? 
 友達は、どんな人?
 ハイメくんの事を考えている時、胸はふわふわして、彼の事を少しずつ知れるたびに、嬉しくなる。
 だけど、ハイメくんが凄い人だって分かるたびに、自分の全部がダメな気がしてくる。
 髪の毛をもっとお手入れして、可愛くなる努力すれば良かった。
 優秀な彼と同じくらいになれるように、魔法の実践の授業をもっと頑張れば良かった。
 そう落ち込んじゃうけど、ハイメくんの事が思い浮かぶと、頑張ろうって気持ちになる。
 十三歳の私は、こんな気持ちが初めてで、何が何だか分からないけど、漫画とかドラマで見る、恋している女の子の悩みに似ているような気がする。
 私は、今まで恋したことがないから分からないけど。
 これって、好きって事なのかな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

未来スコープ  ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―

米田悠由
児童書・童話
「あのね、すごいもの見つけちゃったの!」 平凡な女子高生・月島彩奈が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。 それは、未来を“見る”だけでなく、“課題を通して導く”装置だった。 恋の予感、見知らぬ男子とのキス、そして次々に提示される不可解な課題── 彩奈は、未来スコープを通して、自分の運命に深く関わる人物と出会っていく。 未来スコープが映し出すのは、甘いだけではない未来。 誰かを想う気持ち、誰かに選ばれない痛み、そしてそれでも誰かを支えたいという願い。 夢と現実が交錯する中で、彩奈は「自分の気持ちを信じること」の意味を知っていく。 この物語は、恋と選択、そしてすれ違う想いの中で、自分の軸を見つけていく少女たちの記録です。 感情の揺らぎと、未来への確信が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第2作。 読後、きっと「誰かを想うとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

9日間

柏木みのり
児童書・童話
 サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。   (also @ なろう)

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

アリアさんの幽閉教室

柚月しずく
児童書・童話
この学校には、ある噂が広まっていた。 「黒い手紙が届いたら、それはアリアさんからの招待状」 招かれた人は、夜の学校に閉じ込められて「恐怖の時間」を過ごすことになる……と。 招待状を受け取った人は、アリアさんから絶対に逃れられないらしい。 『恋の以心伝心ゲーム』 私たちならこんなの楽勝! 夜の学校に閉じ込められた杏樹と星七くん。 アリアさんによって開催されたのは以心伝心ゲーム。 心が通じ合っていれば簡単なはずなのに、なぜかうまくいかなくて……?? 『呪いの人形』 この人形、何度捨てても戻ってくる 体調が悪くなった陽菜は、原因が突然現れた人形のせいではないかと疑いはじめる。 人形の存在が恐ろしくなって捨てることにするが、ソレはまた家に現れた。 陽菜にずっと付き纏う理由とは――。 『恐怖の鬼ごっこ』 アリアさんに招待されたのは、美亜、梨々花、優斗。小さい頃から一緒にいる幼馴染の3人。 突如アリアさんに捕まってはいけない鬼ごっこがはじまるが、美亜が置いて行かれてしまう。 仲良し3人組の幼馴染に一体何があったのか。生き残るのは一体誰――? 『招かれざる人』 新聞部の七緒は、アリアさんの記事を書こうと自ら夜の学校に忍び込む。 アリアさんが見つからず意気消沈する中、代わりに現れたのは同じ新聞部の萌香だった。 強がっていたが、夜の学校に一人でいるのが怖かった七緒はホッと安心する。 しかしそこで待ち受けていたのは、予想しない出来事だった――。 ゾクッと怖くて、ハラハラドキドキ。 最後には、ゾッとするどんでん返しがあなたを待っている。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

処理中です...