勇者パーティーを追放された俺は辺境の地で魔王に拾われて後継者として育てられる~魔王から教わった美学でメロメロにしてスローライフを満喫する~

一ノ瀬 彩音

文字の大きさ
182 / 236

182.

しおりを挟む
「え……? なんでだよ?」
思わず聞き返すと、彼女は困ったような表情を浮かべながら言った。
「だって、あなたはもう私の面倒を見なくていいんだもの」
そう言われて一瞬言葉に詰まってしまったが、すぐに気を取り直して反論を試みることにした。
確かにその通りだが、だからと言ってこのまま見捨てるわけにもいかないだろうと思ったのだ。
だから、
「いや、そういうわけにはいかないだろ……」
そう言いかけた瞬間、目の前に何かが現れたかと思うと顔にぶつかってきた。
咄嗟に避けようとしたが間に合わずに顔面に直撃を受けてしまったせいで鼻っ柱を強打してしまい激痛が走ると共に鼻血が出てしまう始末だった。
一体何が起きたのか分からず混乱していると今度は脇腹の辺りに強い衝撃を感じたと思ったら次の瞬間には身体が浮き上がっており、
気づいた時には宙を舞っていたかと思うと背中から地面に叩きつけられていた。
あまりの痛みに一瞬呼吸が止まったが何とか呼吸を整えると自分が投げ飛ばされたのだと理解した。
だが、誰にやられたのか分からなかったため周囲を見回すと、そこにいたのは自分のよく知る人物であり、
同時にあり得ない相手でもあったため驚きのあまり言葉を失ってしまった。
「嘘、だろ……?」
信じられない思いで呆然としていると、彼女の方から声をかけてきた。
「どうかしら? 今の一撃はなかなか良かったんじゃない?」
そう言う彼女の顔はとても楽しげであった。
まるで新しい玩具を見つけた子供のような無邪気さを感じさせる笑顔だったが、その一方で目は全く笑っておらず冷たい視線を向けてきているのが分かった。
その視線に背筋が寒くなるような感覚を覚えたが、ここで怯むわけにはいかなかった。
何故なら、今の自分は女の姿になっているからだ。
それに、自分は男なのだから負けるはずがないと自分に言い聞かせることでなんとか平静を保つことができた。
だが、そんな俺の内心を見透かしたかのように彼女はニヤリと笑みを浮かべるとゆっくりとこちらに近づいてきた。
「これなんかどうかしら」
甘ったるい酒を進めて来る、この女に
「馬鹿野郎、お前にはもう充分すぎるほど酒を飲ませてやっただろうが」
と言ってやると不満げな顔をしながらも引き下がった。
それからしばらくは二人とも黙ったまま酒を飲み続けたのだが、急に真面目な表情になったかと思うと唐突に質問を投げかけてきた。
「……ねぇ、貴方はこの世界が好き?」
いきなり何を言い出すんだと思ったが一応答えてやることにする。
「さあな、別に好きでも嫌いでもないさ」
正直な気持ちを口にすると呆れたような目で見られてしまった。
「相変わらずね……貴方らしいけどもう少し素直になってもいいんじゃない?」
余計なお世話だと思ったものの口には出さずに黙っていることにする。
それを察したのかやれやれといった様子で肩を竦める彼女だったが、
「まあいいわ、それより今日は飲むわよ!」
そう言って再びグラスを差し出してくるのだった。
仕方なく受け取って飲み干すと彼女がお代わりを注いでくれたのでそれも飲み干した。
その後も延々と飲み続けるうちに段々と意識が朦朧としてきて足元がふらついてくるのを感じた俺は、
そろそろ帰ろうかと思っていたところに不意に声をかけられる。
振り返るとそこにはレイナが立っていた。
彼女はどこか悲しげな表情でこちらを見つめていたが、やがて意を決したように口を開くと言った。
「……私じゃ駄目なの?」
その言葉を聞いた瞬間胸が締め付けられるような気持ちになった。
俺は何も言えずに黙り込んでしまうことしかできなかった。
そんな俺を見てどう思ったのか分からないが彼女はそのまま踵を返すと立ち去ってしまった。
「待ってくれ!」
慌てて呼び止めるも彼女は振り返らずに行ってしまった。
その後ろ姿を見つめながら俺は途方に暮れていた。
一体どうすればよかったのだろうかと考えているうちにいつの間にか夜が明け始めていた。
結局一睡もできないまま朝を迎えてしまった俺は重い足取りで宿へと戻ることにした。
部屋に入るなり倒れるようにベッドに横になるとそのまま眠ってしまったらしく
次に目が覚めたときには既に昼前になっていた。
起き上がって部屋を見渡すと誰もいなかった。
昨日のことは夢だったのではないかと思ってしまうほどに静かだった。
しかし、テーブルの上に置いてある手紙を見つけると現実を突きつけられたような気分になった。
恐る恐る手にとって読んでみるとそこにはこう書かれていた。
『ごめんなさい、やっぱり私には無理だったみたい』
「くそっ! なんでなんだよ……!」
俺はやり場のない怒りをぶつけるように拳を壁に叩きつけるとその場に座り込んだ。
するとドアがノックされる音が聞こえてきたため返事をすると誰かが入ってくる気配がした。
そちらに目を向けるとレイナの姿があった。
彼女は心配そうな表情でこちらを見つめていたが、やがておずおずと口を開いた。
どうやら昨日の一件を謝りに来たようだ。
(ああ、そういえば謝らないといけないんだったな)
そう思った俺は素直に謝罪の言葉を口にした。
それに対して彼女は一瞬驚いたような表情を浮かべたがすぐに笑顔になって許してくれたようだった。
(まったく本当にお人好しだよなこいつは……)
そう思いながらも心の中で感謝の言葉を述べることにした。
「ありがとう、助かったよ」
そう言いながら彼女の頭を撫でると嬉しそうに微笑んでいた。
そんな彼女を見ているとなんだかこちらまで幸せな気分になってくるような気がした。
(さて、これからどうするかだな……)
そんなことを考えながら窓の外を眺めていると不意に声をかけられた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。 彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。 そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。 死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。 その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。 しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、 主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。 自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、 寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。 結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、 自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……? 更新は昼頃になります。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

処理中です...