追放先の辺境で前世の農業知識を思い出した悪役令嬢、奇跡の果実で大逆転。いつの間にか世界経済の中心になっていました。

緋村ルナ

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第7章:金より高価な果実、揺らぎ始める経済

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 王都の社交界では、ヴェリーナ関連商品を持っていることが、新たなステータスとなりつつあった。
「まあ、奥様。そのジャム、ヴェリーナですの? どちらで手に入れられて?」
「ええ、特別なルートで。お一ついかが? これをパンに塗るだけで、朝から幸せな気分になれますのよ」
 オルティス商会の妨害は、もはや意味をなさなくなっていた。むしろ、彼らが邪魔をすればするほど、ヴェリーナは「手に入りにくい幻の逸品」としての価値を高めていった。ついには、生食用のヴェリーナ一粒が、金貨一枚よりも高値で取引される事態にまで発展した。
「金より高価な果実」。
 いつしかヴェリーナは、そう呼ばれるようになっていた。
 この熱狂は、レルナ村とその周辺地域に、思いもよらない経済効果をもたらし始める。
 まず、交易ルートが整備された。以前は獣道同然だったレルナ村への道が、ヴェリーナを求める商人たちの出資によって、馬車が楽に通れるように拡張・舗装されたのだ。
 次に、運送業が活況を呈した。貴重なヴェリーナを安全かつ迅速に運ぶため、屈強な護衛をつけた専門の運搬隊が組織された。彼らが使う馬や馬車の需要も高まり、周辺の村の鍛冶屋や馬具職人までが潤い始めた。
 さらに、ヴェリーナの品質を保つための保管倉庫が必要になった。私は前世の知識を活かし、温度と湿度を一定に保つための「天然の冷蔵倉庫」の設計図を考案した。洞窟を利用し、地下水と風の流れを計算に入れたその倉庫は、ヴェリーナの鮮度を長期間保つことを可能にした。この倉庫の建設にも、多くの雇用が生まれた。
 レルナ村は、もはやただの貧しい農村ではなかった。ヴェリーナという巨大産業の中心地として、急激な発展を遂げていたのだ。村には新しい家が建ち並び、活気のある市場が毎日開かれるようになった。村人たちの顔には自信と誇りが満ち溢れている。
 一方で、この急激な変化は、アルドレア王国全体の経済バランスを静かに、しかし確実に揺るがし始めていた。
 富が、王都から辺境のレルナ村へと流れ込んでいる。
 これまで国の経済を支えてきたのは、王都を中心とした貴族たちの領地から上がる税収だった。しかし、ヴェリーナ産業の発展は、それとはまったく別の経済圏を生み出した。人々は、伝統的な産物よりもヴェリーナを求め、金はレルナ村に集中する。
 結果として、王国の税収は伸び悩み、一部の貴族たちは経済的に困窮し始めた。彼らは、自分たちの富が目減りしていく原因を理解できず、ただ苛立ちを募らせるばかりだった。
 レオナルド王太子も、その一人だった。
「いったいどうなっているのだ! なぜ、国庫に入る金が予定よりも少ない!」
 玉座の間で、彼は財務大臣を怒鳴りつけていた。
「は、はぁ……。それが、どうも辺境で始まった新しい果実の商いが、予想以上に市場を席巻しているようでして……」
「果実だと? たかが果実ごときに、我が国の経済が左右されるとでも言うのか! 馬鹿馬鹿しい!」
 レオナルドは、その「たかが果実」が、かつて自分が追放した女によって生み出されたものだとは、まだ知らない。
 だが、運命の歯車は着実に回り続けていた。
 一つの果実が国家の経済を揺るがす。そんな前代未聞の事態は、やがて王国の根幹そのものを揺さぶる大きな嵐へと発展していくことになる。
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