追放令嬢のスローライフ。辺境で美食レストランを開いたら、元婚約者が「戻ってきてくれ」と泣きついてきましたが、寡黙な騎士様と幸せなのでお断り!

緋村ルナ

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第5章:レストラン『恵みの皿』開店

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 モコとの取引で安定した収入源を確保した私たちは、さらなる発展を目指していた。野菜を売るだけでなく、この谷でしか味わえない『食』そのものを提供できないだろうか。
『そうだ、レストランを開こう!』
 私の提案に、村人たちは最初こそ驚いていたが、「リナさんが作る料理なら、絶対にお客さんが来る!」と大賛成してくれた。

 幸い、村には昔の集会所として使われていた、今は廃屋となっている頑丈な石造りの建物があった。私たちは協力して、その廃屋を改装することにした。
 村の男たちが壁や屋根を修理し、私は内装のデザインを考える。清潔感のある白い壁に、温かみのある木のテーブルと椅子。窓を大きく取って、谷の豊かな自然が見えるようにした。
 厨房には、稼いだお金で新品のオーブンやかまどを設置する。毎日、作業の合間に村人たちと食べる賄いが、私の料理の試作会になった。

 そして数ヶ月後、ついに私たちのレストランが完成した。
 店の名前は『恵みの皿』。この谷の大地の恵みを、一皿一皿に込めて届けたいという思いから名付けた。
 開店初日。メニューはシンプルに絞った。
「採れたて完熟トマトのパスタ」
「ごろごろ野菜のグリル ~ハーブソルトを添えて~」
「とろとろカボチャのポタージュ」
 どれも、野菜本来の味を最大限に活かした料理ばかりだ。

 開店と同時に、モコが宣伝してくれたおかげで、近隣の町から噂を聞きつけた客が続々とやってきた。
「本当にこんな山奥にレストランが?」
 半信半疑だった客たちは、店内に足を踏み入れた瞬間、その明るくお洒落な雰囲気に驚きの声を上げる。そして、料理が運ばれてくると、その驚きは感嘆へと変わった。
「う、うまい……!トマトソースが、こんなに濃厚でフレッシュだなんて!」
「この焼いただけのニンジンが、どうしてこんなに甘いんだ?」
「毎日でも通いたいわ!」
 客たちの賞賛の声が、店内に響き渡る。そのすべてが、私たちの努力が報われた証だった。

 私は厨房で腕を振るい、村の女性たちがウェイトレスとして笑顔で客をもてなす。そして、店の入り口には、用心棒としてレオンが立っていた。
 彼は、私がレストランを開くと決めた時、誰よりも熱心に手伝ってくれた。力仕事はもちろん、危険がないようにと見回りも強化してくれた。
 時々、厨房からホールを覗くと、忙しく働く私の姿を、彼は穏やかな目で見つめていた。その視線に気づくと、胸が少しだけドキリとする。
(いけない、いけない。今は仕事に集中!)
 頬が熱くなるのを感じながら、私は再び料理に向き合った。

 レストラン『恵みの皿』の評判は、口コミで瞬く間に広がっていった。辺境の「忘れられた谷」は、今や「極上の食事が楽しめる美食の郷」として、多くの人々が訪れる活気ある場所へと変わりつつあった。
 夜、店の片付けを終えた後、私とレオンは二人でテラス席に座り、残ったハーブティーを飲むのが日課になっていた。
「今日も、すごい人だったな」
 レオンがポツリと言う。
「ええ。皆、美味しそうに食べてくれて、本当に嬉しいわ」
 満天の星空の下、優しい夜風が頬を撫でる。
「……お前の笑顔を見るのが、俺の仕事だ」
 不意にレオンが言った。見ると、彼は真剣な眼差しで私を見つめていた。その琥珀色の瞳に吸い込まれそうで、私は慌てて視線を逸らす。
「なっ、用心棒の仕事ってことでしょう?分かってるわよ!」
 早口でそう言うと、レオンはふっと小さく笑った。その笑顔は、昼間の用心棒の厳しい顔とは違う、とても優しい笑顔だった。
 このレストランは、ただ谷を豊かにするだけじゃない。私と、この無愛想な熊さん領主様との距離も、少しずつ縮めてくれているのかもしれない。
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