追放令嬢のスローライフ。辺境で美食レストランを開いたら、元婚約者が「戻ってきてくれ」と泣きついてきましたが、寡黙な騎士様と幸せなのでお断り!

緋村ルナ

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第4章:獣人商人と広がる販路

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 村人たちと協力し始めたことで、畑は驚くべきスピードで拡大していった。私が土壌改良の知識を教え、村人たちがその力仕事で応える。一致団結した私たちの努力は、着実に実を結び始めた。
 ジャガイモ、トマト、ハーブに加えて、カボチャや豆、ニンジンといった作物も順調に育ち、谷はかつてないほどの収穫に沸いた。自分たちで食べる分には十分すぎるほどの量が採れるようになり、私は次のステップを考えていた。

『これだけ質の良い野菜が採れるなら、売れるはず。売れれば、もっと良い農具や種の購入資金になる』
 そう考えていた矢先のことだった。谷に、一台の荷馬車がやってきた。御者を務めていたのは、ピンと立った狐の耳と、ふさふさの尻尾が特徴的な、快活そうな青年だった。
「へいらっしゃい!旅の行商人、モコたぁ俺のことだい!何か珍しいもんはねぇかい?」
 彼は荷台からひょいと降り立つと、人懐っこい笑みを浮かべた。獣人族だ。彼らは商才に長けていることで知られている。これはチャンスかもしれない。

「こんにちは。私はリナと申します。もしよろしければ、私たちの谷で採れた野菜を見ていきませんか?」
 私が声をかけると、モコと名乗る獣人商人はキョトンとした顔をした。
「野菜?この忘れられた谷でかい?冗談きついぜ、お嬢さん」
「見れば分かりますわ」
 私は彼を、収穫した野菜が山積みになっている倉庫へと案内した。
 倉庫の扉を開けた瞬間、モコは息を呑んだ。彼の目が見開かれ、鼻がひくひくと動いている。
「な……なんだ、この匂いは……!土の匂いと、野菜そのものの生命力に満ちた香り……!」
 彼は駆け寄ると、籠に入った真っ赤なトマトを一つ手に取り、うっとりと眺めた。
「このツヤ、この張り……まるで宝石じゃないか!一口、食ってもいいかい?」
「どうぞ」
 許可を得るやいなや、モコはトマトにかぶりついた。
 次の瞬間、彼の尻尾がぶわっと逆立った。
「うっっっまーーーーーいっ!何だこれ!?酸味と甘みのバランスが完璧!果物みたいに濃厚なのに、後味はすっきりしてる!こんなトマト、王都の一流レストランでもお目にかかれねぇぞ!」

 モコの興奮は収まらない。ジャガイモを生でかじっては「甘みが違う!」と叫び、ニンジンの香りを嗅いでは「森の香りがする!」と目を輝かせた。
 一通り野菜を堪能し終えた彼は、興奮した面持ちで私の手を取った。
「お嬢さん……いや、リナさん!あんたは天才だ!この野菜は売れる!絶対に売れるぜ!」
 彼の目は、商売人のものになっていた。
「このクオリティなら、通常の倍の値段でも飛ぶように売れる。いや、それ以上だ!俺に、この『奇跡の谷の野菜』を独占販売させてくれ!」

 交渉はとんとん拍子に進んだ。私は、野菜の品質を維持するために農薬や化学肥料を一切使わない「オーガニック農法」で作っていることを説明した。モコはその付加価値にさらに目を輝かせ、破格の買い取り価格を提示してくれた。
 こうして、私とモコは固いビジネスパートナーとしての契約を結んだ。
 モコは約束通り、彼の持つ行商ルートに乗せて、私たちの野菜を近隣の町々で売りさばいてくれた。
『奇跡の谷で採れた、濃厚オーガニック野菜』という触れ込みは瞬く間に広がり、野菜は市場に出るや否や完売するほどの人気を博した。

 初めての売り上げ金が谷にもたらされた日、村中がお祭り騒ぎになった。
「すげぇ!俺たちが育てた野菜が、こんな大金になるなんて!」
「これで新しい服が買えるぞ!」
 村人たちの笑顔を見て、私の胸も温かくなった。
 お金だけじゃない。自分たちの仕事が、谷の外の人々に認められ、喜ばれている。その事実が、彼らに自信と誇りを与えていた。
「リナさんのおかげだ」
「あんたは俺たちの希望の女神様だよ」
 村人たちに口々に感謝され、私は少し照れながら笑った。
「私一人の力じゃないわ。みんなで頑張った結果よ」
 その様子を、少し離れた場所からレオンが見守っていた。彼の口元には、珍しく、穏やかな笑みが浮かんでいた。
 この日を境に、私たちの谷は、忘れられた場所から、希望に満ちた場所へと、確かな一歩を踏み出したのだった。
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