少女漫画の当て馬に転生したら聖騎士がヤンデレ化しました

猫むぎ

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雇い主と使用人の関係

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「危ないですよ!」

「ユーリ…何の話をしてるんだ?」

「な、何のって…」

「お礼っていつの話だ?」

イヴは俺の瞳をジッと見つめていて、目が逸らせない。
その顔は単純に忘れていたという顔ではなかった。

お礼をしに行った日を今でもよく覚えている。

俺は退院してから、助けてくれたお礼をどうしようかずっと考えていた。
何もしないという選択肢は元々なくて、母さんと相談していた。

悩んで悩んでお礼の品として煮物を作る事にして。
あの時の俺は、自分の料理に自信があって…美味しいって喜んでくれると思っていた。

本当は一晩寝かせた方が味が染み込んで美味しいんだけど、早く届けたくてすぐに持っていった。
だから俺が煮物を持っていったのは退院した日だ。

漫画でもイヴは国民が渡したものを受け取っていた。
俺もそれを覚えていて、何も考えてはいなかった。

城の前の騎士にお願いして、煮物が入った容器を渡した。
その煮物は次の日、見覚えがある容器が酒場の生ゴミの中に捨てられていた。
煮物も一緒に捨てられていて、その場で静かに涙した。

容器だけ回収して、家に帰って母さんに気付かれないようにいつも通りにした。
あの時、煮物が嫌いだからとか贈り物が気持ち悪かったとかいろいろ考えていた。

今思えば、受け取ってくれないのは当たり前だ。
煮物が好きとか嫌いとかそういう話じゃないよな。

いくら子供とはいえ、毒が入っているかもしれないという事を考えなきゃいけない。
俺にその気持ちがなくても、俺でも止めた方がいいと思う。

でも、捨てるぐらいなら突き返してくれたら良かったのに…

それをイヴに伝えると、さらに眉を寄せていた。

なんでそんなに深く聞きたいのか分からない。

イヴにとっては何でもない事の一つなのに…

「知らない…」

「え?」

「お礼を受け取ってない」

イヴの言葉は俺が想像していた言葉と違っていた。
まさか、お礼の存在そのものを知らなかったのか?
そういう可能性もあったなんて考えてなかった。

贈り物を沢山受け取っているから伝わる事すらなかったのかな。

勝手にこうだって思い込んで悲しい気持ちになっていた。
イヴがそんな酷い事をするわけないよね、少し思ってしまってごめんなさい。

今直接本人に聞けて良かった、それだけで過去の俺は少し救われた。

イヴが俺の手を離して、カウンターから離れた。
何処に行ったのかと思ったら、厨房に入ってきてそのまま俺の事を後ろから抱きしめてきた。

俺は驚いて目を見開いて、包丁をまな板の上に置いた。

そんなに辛そうな顔をしているように見えたのかな。
イヴは悪くないのに何度も「ごめん…」と謝っていた。

今は不思議と悲しくないから気にしなくて大丈夫。
小さな行き違いがすっきりとなくなった感じだ。

俺が煮物を渡した騎士は見知らぬ人からの怪しい贈り物をイヴに届けなかっただけだ。
それに、今…食べてくれるというならそれだけで十分だ。

「イヴさん、煮物…食べてくれますか?」

「…食べたい、ユーリ」

小さく笑みを浮かべていて、やっぱりイヴは笑ってる方が好きだ。
でもちゃんと煮物を食べたいって言わないと…
それじゃあ別の意味になっちゃうよ、と笑った。

イヴに座るように言うと、またカウンターに戻って俺を見つめていた。

漫画で描かれていた幼少期のイヴと今のイヴが重なる。
子供の頃から仕事をよく見ていたから、大人になっても癖で見てしまうのかなと微笑ましく思う。
俺もよく両親の仕事を眺めているのが好きだったな。

煮物沢山作ったから、夕飯だけでは食べきれそうにない。
もし邪魔じゃなかったらイヴが城の自室に帰る時に食べれるように渡そうかな。
城の方が俺のより豪華で美味しい料理が出てくるんだろうけど…

料理が完成して、皿に盛り付けをするとイヴは「テーブルに運ぶ」と手を差し出してきた。

本当に変わった雇い主だな、でも俺は給料を貰う身だからちゃんと仕事をするとイヴに座って待っててとお願いした。

シュンと落ち込んでいたが、イヴはカウンターから離れていき…俺も近くにあるワゴンに料理を乗せて運んだ。
長く大きなテーブルの真ん中にイヴが座って、後ろから俺が料理を並べた。

何人席か分からないほど豪邸に見合うテーブルに、見合わない料理が何とも虚しい。

「イヴさん、なにか飲みますか?」

「ユーリは酒飲めるか?」

「お酒ですか?強くはないですけど飲めます」

「じゃあ一緒に飲もう、果物の甘い酒があったと思うけど」

「取ってきますね!」

イヴさんに言われて、俺は再び厨房の中に入った。

お酒は飲める、というか…正直一杯しか飲んだ事がない。
しかも、飲んだというか舐めた程度で…正直味はよく分からない。
もう酒は飲める年齢だし、仕事の付き合いもあったが怖くて飲んでいなかった。

酒といえば酔って暴れたり恥ずかしい事をしたりするというイメージで、進んで飲もうとは思わなかった。
酒は嫌いではない…と思うが、雇い主が一緒にというのを断るわけにもいかない。

それに、もしかしたらこれがきっかけで好きになるかもしれない。

冷蔵庫の横に酒の瓶が入った専用の入れ物があって、そこから果物のラベルが貼ってある瓶を取ってグラスと一緒に食堂に戻る。

酒を開けて、グラスに注ぐとイヴは自分の横のテーブルを指でコンコンと軽く叩いていた。

「ユーリも一緒に食べよう」

「えっ…でも俺の分は作ってないです」

「なら、俺のを分ける…一人じゃ寂しい」

イヴにそんな顔をされて言われると、断れない。

「じゃあ、少しだけ…」と言って、イヴのを貰うのは悪いから残った煮物を食べようと厨房にまた戻った。
エプロンを外して、イヴと並んで食事をする事になった。
手を合わせてから、この世界では箸はないからフォークを掴んで煮物に刺した。
煮込み足りないかと思ったが、柔らかくなっていて良かった。

口に入れると、野菜の甘さとダシがいい味を出していて美味しかった。

「ユーリ、美味しいよ」

「本当ですか?口に合って良かった」

イヴも嬉しそうに笑っていて、俺の口元も緩む。
これなら酒にも合うなと、グラスに入れた真っ赤な色の果物酒を口に入れた。

甘くて美味しい…お酒をこんな美味しいと思った事なかった。
イヴも楽しんでいるようで、俺まで楽しくなる。

お酒を飲むペースもだんだん早くなっていく。

あれ?なんか、フワフワしてきた…どうしたんだろう…あははっ

「ユーリ?」

「ん…んぇ?」

俺の意識はそこで途切れてしまい、そこからの記憶がなくなってしまった。






*****

目が覚めたら、見慣れない天井が視界いっぱいに映っていた。
俺の住んでいた場所はむき出しの電球に木造の古びた建物だった。

そこで、俺は昨日あった事をいろいろと思い出した。

そうだ、俺はイヴに雇われてイヴの屋敷で住み込みで働いたんだった。
それでイヴと一緒に夕飯食べて…食べて………あれ?

全然思い出せない、あれからどうやってベッドまで来たんだ?

起き上がると、カーテンから眩しい光が差し込んでいて翌日の朝だという事を知らせていた。

イヴはもう城に行ってしまったのだろうか、呆れてしまったかもしれない。
恐れていた事が起きたのかもしれない…酔って記憶をなくすなんて最悪だ。

部屋にある鏡を見て、身なりを整えようとした。

首筋には、身に覚えがない赤い痕がポツンと一つ存在を主張していた。

「いつの間に……蚊に刺さされたのか?」

この世界に蚊がいるのか分からないが、それしか考えられなかった。
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