少女漫画の当て馬に転生したら聖騎士がヤンデレ化しました

猫むぎ

文字の大きさ
56 / 98

貧困街の真実

しおりを挟む
「た、助けてくれっ…い、痛いっ」

「なんで?聖騎士様に殺されるのをあんなに喜んで付いてきたのに」

「だ、だって…聖騎士様はここには…」

「俺がお前らクズのためになんでそんな面倒な事しなきゃいけないわけ?魔石泥棒は重罪だよ、死んで詫びてね」

奥の部屋に明かりが漏れていて、暗かった神殿の中を照らしていた。
最初は会話の内容までは分からなかったが、だんだん近付くと何をしているのか分かった。

マティアスの声だ、さっき聞いたばかりだからよく覚えている。
じゃあもう一人は、さっき連れていかれた人?

会話の内容からして、これ以上は前に進めず足を止めた。
叫び声になにかを叩く音、そして叫び声が聞こえなくなった。

震えが止まらず、その場で尻餅をついてしまった。

聖騎士に殺される事が望みだと言ったリラ、でも実際殺しているのは聖騎士ではない。
冤罪なのに、マティアスは貧困街の人達を犯人に仕立て上げて殺している。
もしかして、今まで俺が聞いていた貧民街の人の悪い噂はマティアスが流したのか?

何故そんな事をするのか、俺には理解出来ない…こんな事、聖騎士がしてはいけないのに…

少しだけ扉が開いていて隙間が漏れていた光がだんだん広がっていく。
俺に重なるようにして、影が覆い被さってきた。

顔を上げて、目を見開き…俺を見下ろす人物を見つめた。

「あーあ、バレちゃった…ここ上手く隠してたつもりなんだけどな」

「なんで…冤罪で人を殺して…ひっ!!」

俺の横に鞭が叩きつけられて、体が震えて声が出なくなる。
俺を見下ろすマティアスは口元に笑みを浮かべているが目が全然笑っていない。

俺と目線を合わすようにしゃがんで「俺の功績を上げるためにお手伝いしてもらってんの」と言っていた。
マティアスは聖騎士ではないから、犯罪者を沢山裁くと騎士団長になれるらしい。
この世界の騎士は犯罪者を処刑する事を許されている。
戦争がある世界だから、騎士が人を殺す事は驚く事ではない。

でもこれは何の罪もない人を犯罪者にして裁いている…それは許されない事だ。

「マティアス様よろしいんですか?貧民にこんな事を教えて」

「別に構わないだろ、コイツも処刑だから」

俺の腕を掴んで、引っ張ると電流がマティアスの手が離れた。
「コイツ、貧民のくせに雷の魔力ランクがかなり強いんだな」と明らかに怒っている顔をしていた。

俺に向かって鞭を振り下ろされて風の魔術で体が吹き飛んだ。
その時、指輪が指から外れてコロコロと転がっていく。
体中が痛い、俺もさっきの人みたいに殺されるのか?
マティアスに髪を掴まれて、持ち上げられて眉を寄せる。

「あー、でも事件の犯人はもう死んだし…複数犯にするのもいいけど…どうせまた新しい事件が出るから、その犯人にしてあげるね」

「……うっ」

「あれ、何これ」

マティアスは俺から手を離して、俺から離れて床に落ちたものを拾っている。
それは金色の指輪で、俺は指から抜けたのだと今気付いた。

腕を伸ばしても、マティアスに届く事はなくて指輪を握った。

「返して下さい!お願いですから!」と必死にお願いしてもマティアスはニヤニヤと笑っていた。
指から抜く事が出来なくて、最初は戸惑ったがイヴに貰ったものだ…誰かに奪われたくはない。
初めて家族以外にもらった大切な指輪なんだ…だからお願い…

俺の伸ばしていた腕を鞭で叩かれて、痛みで瞼を瞑る。

「この指輪、かなり高価なものだな…お前のような貧乏人が持ってるのは可笑しいな、本当に窃盗して貧民街に来たりして」

「ち、違う…」

「死ぬお前には必要ないよな、おい」

マティアスが他の騎士に合図すると、俺の両腕を掴んでいた。
電流は発動しない、やっぱり指輪が電流を流していたのか。

俺を引きずるのはマティアス達がやって来た部屋の中だった。
背中を押されて、転げ落ちると俺の目の前になにかがあった。

それは血だらけで横になる人で、悲鳴を上げて後ずさる。
壁に背中がぶつかり、横を見ると人の骨が沢山転がっていた。

「どう?君の仲間達だよ、ここで待っててよ…君の罪を持ってくるから」

「待って、指輪…」

「あ…そうそう、いつもそこにいると変な気配を感じるんだけど……ま、大丈夫だよね」

そう言って、マティアス達は背を向けて重い扉が閉まっていくのを見ているしかなかった。
強行突破で逃げ出せばいいとは思うが、俺の足は動かない。

扉が閉まる前、俺の足に絡みつく腕を見てしまった。
神殿前に俺を追いかけてきたあの腕だと思う、灯りが消えて真っ暗になった。

何も見えないのに、俺を見つめる無数の目が壁に敷き詰められるようにあった。
なにかをするわけではなく、ただ見つめるだけで精神が可笑しくなる。

「見るな、見るな、見るな」

ぶつぶつと呟いても、目はずっと俺を見ているだけだ。
上着を脱いで、包帯を外して自分の目を覆って上着を着た。
小さく体を丸めて、耳を塞いだ……見られているから俺が見なければいいんだ。

黒い部屋で見た、あの目が脳内に焼き付いていて体が震える。
今にも目だけじゃなく腕が伸びてきて、俺の首を狙っているんじゃないかと考えてしまう。

脳内に響く声は、この場に似つかわしくないほどの甘く痺れる声だった。

『もう何処にもいないから大丈夫、ユーリの嫌なものは俺が全て見せないから』

「イヴ…さん」

あの時はイヴが助けてくれたけど、今はここにいない。

都合のいい時だけ助けを呼ぶのは違うと思っても、寂しく感じる自分もいる。
最後に、もう一度だけ会いたかった…この絶望の中そう思った。

そうか、これは漫画の展開と同じなんだ…漫画ではユーリは国を追い出されて魔物に襲われて死んだ。
国を追い出された事が貧民街の事で、俺を見る無数の目が魔物だとしたら漫画の通りだ。
そして俺は漫画の中のように死んでいくのだろうか。

俺が立ち向かおうとしたら、その気持ちを粉々に打ち砕いてくる。
ただ、生きたいだけなのに…指輪も奪われて閉じ込められてどうしろっていうんだ。
逃げ道を探したくても目があるから近付く事が出来ない。

俺の火の魔術だと部屋が明るくなるほどの強い光は出ない。
それに、見たくないものが見えてしまったら嫌だ。

父さんと母さんは心配してるよな、何も言わずに来てしまったから…
明日になったらリラも気にしてしまうかもしれない。
でも、ここから連絡を取る事も伝言を頼む人もいない。
マティアスが俺のためにそんな事をするとも思えない。

マティアスがする事は俺が犯罪者だと貧困街の人達に噂を立てる事だけだ。
そうしたら、きっと皆納得するだろう…あの時のリラもいつもの事って顔をしていた。

俺はこの箱の中で、精神が壊れるかマティアスが来るのが先が待つしかなかった。
しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

ヤリチン伯爵令息は年下わんこに囚われ首輪をつけられる

桃瀬さら
BL
「僕のモノになってください」 首輪を持った少年はレオンに首輪をつけた。 レオンは人に誇れるような人生を送ってはこなかった。だからといって、誰かに狙われるようないわれもない。 ストーカーに悩まされていたレある日、ローブを着た不審な人物に出会う。 逃げるローブの人物を追いかけていると、レオンは気絶させられ誘拐されてしまう。 マルセルと名乗った少年はレオンを閉じ込め、痛めつけるでもなくただ日々を過ごすだけ。 そんな毎日にいつしかレオンは安らぎを覚え、純粋なマルセルに毒されていく。 近づいては離れる猫のようなマルセル×囚われるレオン

転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています

柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。 酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。 性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。 そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。 離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。 姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。 冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟 今度こそ、本当の恋をしよう。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

メインキャラ達の様子がおかしい件について

白鳩 唯斗
BL
 前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。  サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。  どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。  ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。  世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。  どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!  主人公が老若男女問わず好かれる話です。  登場キャラは全員闇を抱えています。  精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。  BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。  恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています

七瀬
BL
あらすじ 春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。 政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。 **** 初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

処理中です...