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地獄の視線
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聖騎士に殺される事が望みだと言ったリラ、でも実際殺しているのは聖騎士ではない。
冤罪なのに、マティアスは貧困街の人達を犯人に仕立て上げて殺している。
もしかして、今まで俺が聞いていた貧民街の人の悪い噂はマティアスが流したのか?
何故そんな事をするのか、俺には理解出来ない…こんな事、聖騎士がしてはいけないのに…
少しだけ扉が開いていて隙間が漏れていた光がだんだん広がっていく。
俺に重なるようにして、影が覆い被さってきた。
顔を上げて、目を見開き…俺を見下ろす人物を見つめた。
「あーあ、バレちゃった…ここ上手く隠してたつもりなんだけどな」
「なんで…冤罪で人を殺して…ひっ!!」
俺の横に鞭が叩きつけられて、体が震えて声が出なくなる。
俺を見下ろすマティアスは口元に笑みを浮かべているが目が全然笑っていない。
俺と目線を合わすようにしゃがんで「俺の功績を上げるためにお手伝いしてもらってんの」と言っていた。
マティアスは聖騎士ではないから、犯罪者を沢山裁くと騎士団長になれるらしい。
この世界の騎士は犯罪者を処刑する事を許されている。
戦争がある世界だから、騎士が人を殺す事は驚く事ではない。
でもこれは何の罪もない人を犯罪者にして裁いている…それは許されない事だ。
「マティアス様よろしいんですか?貧民にこんな事を教えて」
「別に構わないだろ、コイツも処刑だから」
俺の腕を掴んで、引っ張ると電流がマティアスの手が離れた。
「コイツ、貧民のくせに雷の魔力ランクがかなり強いんだな」と明らかに怒っている顔をしていた。
俺に向かって鞭を振り下ろされて風の魔術で体が吹き飛んだ。
その時、指輪が指から外れてコロコロと転がっていく。
体中が痛い、俺もさっきの人みたいに殺されるのか?
マティアスに髪を掴まれて、持ち上げられて眉を寄せる。
「あー、でも事件の犯人はもう死んだし…複数犯にするのもいいけど…どうせまた新しい事件が出るから、その犯人にしてあげるね」
「……うっ」
「あれ、何これ」
マティアスは俺から手を離して、俺から離れて床に落ちたものを拾っている。
それは金色の指輪で、俺は指から抜けたのだと今気付いた。
腕を伸ばしても、マティアスに届く事はなくて指輪を握った。
「返して下さい!お願いですから!」と必死にお願いしてもマティアスはニヤニヤと笑っていた。
指から抜く事が出来なくて、最初は戸惑ったがイヴに貰ったものだ…誰かに奪われたくはない。
初めて家族以外にもらった大切な指輪なんだ…だからお願い…
俺の伸ばしていた腕を鞭で叩かれて、痛みで瞼を瞑る。
「この指輪、かなり高価なものだな…お前のような貧乏人が持ってるのは可笑しいな、本当に窃盗して貧民街に来たりして」
「ち、違う…」
「死ぬお前には必要ないよな、おい」
マティアスが他の騎士に合図すると、俺の両腕を掴んでいた。
電流は発動しない、やっぱり指輪が電流を流していたのか。
俺を引きずるのはマティアス達がやって来た部屋の中だった。
背中を押されて、転げ落ちると俺の目の前になにかがあった。
それは血だらけで横になる人で、悲鳴を上げて後ずさる。
壁に背中がぶつかり、横を見ると人の骨が沢山転がっていた。
「どう?君の仲間達だよ、ここで待っててよ…君の罪を持ってくるから」
「待って、指輪…」
「あ…そうそう、いつもそこにいると変な気配を感じるんだけど……ま、大丈夫だよね」
そう言って、マティアス達は背を向けて重い扉が閉まっていくのを見ているしかなかった。
強行突破で逃げ出せばいいとは思うが、俺の足は動かない。
扉が閉まる前、俺の足に絡みつく腕を見てしまった。
神殿前に俺を追いかけてきたあの腕だと思う、灯りが消えて真っ暗になった。
何も見えないのに、俺を見つめる無数の目が壁に敷き詰められるようにあった。
なにかをするわけではなく、ただ見つめるだけで精神が可笑しくなる。
「見るな、見るな、見るな」
ぶつぶつと呟いても、目はずっと俺を見ているだけだ。
上着を脱いで、包帯を外して自分の目を覆って上着を着た。
小さく体を丸めて、耳を塞いだ……見られているから俺が見なければいいんだ。
黒い部屋で見た、あの目が脳内に焼き付いていて体が震える。
今にも目だけじゃなく腕が伸びてきて、俺の首を狙っているんじゃないかと考えてしまう。
脳内に響く声は、この場に似つかわしくないほどの甘く痺れる声だった。
『もう何処にもいないから大丈夫、ユーリの嫌なものは俺が全て見せないから』
「イヴ…さん」
あの時はイヴが助けてくれたけど、今はここにいない。
都合のいい時だけ助けを呼ぶのは違うと思っても、寂しく感じる自分もいる。
最後に、もう一度だけ会いたかった…この絶望の中そう思った。
そうか、これは漫画の展開と同じなんだ…漫画ではユーリは国を追い出されて魔物に襲われて死んだ。
国を追い出された事が貧民街の事で、俺を見る無数の目が魔物だとしたら漫画の通りだ。
そして俺は漫画の中のように死んでいくのだろうか。
俺が立ち向かおうとしたら、その気持ちを粉々に打ち砕いてくる。
ただ、生きたいだけなのに…指輪も奪われて閉じ込められてどうしろっていうんだ。
逃げ道を探したくても目があるから近付く事が出来ない。
俺の火の魔術だと部屋が明るくなるほどの強い光は出ない。
それに、見たくないものが見えてしまったら嫌だ。
父さんと母さんは心配してるよな、何も言わずに来てしまったから…
明日になったらリラも気にしてしまうかもしれない。
でも、ここから連絡を取る事も伝言を頼む人もいない。
マティアスが俺のためにそんな事をするとも思えない。
マティアスがする事は俺が犯罪者だと貧困街の人達に噂を立てる事だけだ。
そうしたら、きっと皆納得するだろう…あの時のリラもいつもの事って顔をしていた。
俺はこの箱の中で、精神が壊れるかマティアスが来るのが先が待つしかなかった。
冤罪なのに、マティアスは貧困街の人達を犯人に仕立て上げて殺している。
もしかして、今まで俺が聞いていた貧民街の人の悪い噂はマティアスが流したのか?
何故そんな事をするのか、俺には理解出来ない…こんな事、聖騎士がしてはいけないのに…
少しだけ扉が開いていて隙間が漏れていた光がだんだん広がっていく。
俺に重なるようにして、影が覆い被さってきた。
顔を上げて、目を見開き…俺を見下ろす人物を見つめた。
「あーあ、バレちゃった…ここ上手く隠してたつもりなんだけどな」
「なんで…冤罪で人を殺して…ひっ!!」
俺の横に鞭が叩きつけられて、体が震えて声が出なくなる。
俺を見下ろすマティアスは口元に笑みを浮かべているが目が全然笑っていない。
俺と目線を合わすようにしゃがんで「俺の功績を上げるためにお手伝いしてもらってんの」と言っていた。
マティアスは聖騎士ではないから、犯罪者を沢山裁くと騎士団長になれるらしい。
この世界の騎士は犯罪者を処刑する事を許されている。
戦争がある世界だから、騎士が人を殺す事は驚く事ではない。
でもこれは何の罪もない人を犯罪者にして裁いている…それは許されない事だ。
「マティアス様よろしいんですか?貧民にこんな事を教えて」
「別に構わないだろ、コイツも処刑だから」
俺の腕を掴んで、引っ張ると電流がマティアスの手が離れた。
「コイツ、貧民のくせに雷の魔力ランクがかなり強いんだな」と明らかに怒っている顔をしていた。
俺に向かって鞭を振り下ろされて風の魔術で体が吹き飛んだ。
その時、指輪が指から外れてコロコロと転がっていく。
体中が痛い、俺もさっきの人みたいに殺されるのか?
マティアスに髪を掴まれて、持ち上げられて眉を寄せる。
「あー、でも事件の犯人はもう死んだし…複数犯にするのもいいけど…どうせまた新しい事件が出るから、その犯人にしてあげるね」
「……うっ」
「あれ、何これ」
マティアスは俺から手を離して、俺から離れて床に落ちたものを拾っている。
それは金色の指輪で、俺は指から抜けたのだと今気付いた。
腕を伸ばしても、マティアスに届く事はなくて指輪を握った。
「返して下さい!お願いですから!」と必死にお願いしてもマティアスはニヤニヤと笑っていた。
指から抜く事が出来なくて、最初は戸惑ったがイヴに貰ったものだ…誰かに奪われたくはない。
初めて家族以外にもらった大切な指輪なんだ…だからお願い…
俺の伸ばしていた腕を鞭で叩かれて、痛みで瞼を瞑る。
「この指輪、かなり高価なものだな…お前のような貧乏人が持ってるのは可笑しいな、本当に窃盗して貧民街に来たりして」
「ち、違う…」
「死ぬお前には必要ないよな、おい」
マティアスが他の騎士に合図すると、俺の両腕を掴んでいた。
電流は発動しない、やっぱり指輪が電流を流していたのか。
俺を引きずるのはマティアス達がやって来た部屋の中だった。
背中を押されて、転げ落ちると俺の目の前になにかがあった。
それは血だらけで横になる人で、悲鳴を上げて後ずさる。
壁に背中がぶつかり、横を見ると人の骨が沢山転がっていた。
「どう?君の仲間達だよ、ここで待っててよ…君の罪を持ってくるから」
「待って、指輪…」
「あ…そうそう、いつもそこにいると変な気配を感じるんだけど……ま、大丈夫だよね」
そう言って、マティアス達は背を向けて重い扉が閉まっていくのを見ているしかなかった。
強行突破で逃げ出せばいいとは思うが、俺の足は動かない。
扉が閉まる前、俺の足に絡みつく腕を見てしまった。
神殿前に俺を追いかけてきたあの腕だと思う、灯りが消えて真っ暗になった。
何も見えないのに、俺を見つめる無数の目が壁に敷き詰められるようにあった。
なにかをするわけではなく、ただ見つめるだけで精神が可笑しくなる。
「見るな、見るな、見るな」
ぶつぶつと呟いても、目はずっと俺を見ているだけだ。
上着を脱いで、包帯を外して自分の目を覆って上着を着た。
小さく体を丸めて、耳を塞いだ……見られているから俺が見なければいいんだ。
黒い部屋で見た、あの目が脳内に焼き付いていて体が震える。
今にも目だけじゃなく腕が伸びてきて、俺の首を狙っているんじゃないかと考えてしまう。
脳内に響く声は、この場に似つかわしくないほどの甘く痺れる声だった。
『もう何処にもいないから大丈夫、ユーリの嫌なものは俺が全て見せないから』
「イヴ…さん」
あの時はイヴが助けてくれたけど、今はここにいない。
都合のいい時だけ助けを呼ぶのは違うと思っても、寂しく感じる自分もいる。
最後に、もう一度だけ会いたかった…この絶望の中そう思った。
そうか、これは漫画の展開と同じなんだ…漫画ではユーリは国を追い出されて魔物に襲われて死んだ。
国を追い出された事が貧民街の事で、俺を見る無数の目が魔物だとしたら漫画の通りだ。
そして俺は漫画の中のように死んでいくのだろうか。
俺が立ち向かおうとしたら、その気持ちを粉々に打ち砕いてくる。
ただ、生きたいだけなのに…指輪も奪われて閉じ込められてどうしろっていうんだ。
逃げ道を探したくても目があるから近付く事が出来ない。
俺の火の魔術だと部屋が明るくなるほどの強い光は出ない。
それに、見たくないものが見えてしまったら嫌だ。
父さんと母さんは心配してるよな、何も言わずに来てしまったから…
明日になったらリラも気にしてしまうかもしれない。
でも、ここから連絡を取る事も伝言を頼む人もいない。
マティアスが俺のためにそんな事をするとも思えない。
マティアスがする事は俺が犯罪者だと貧困街の人達に噂を立てる事だけだ。
そうしたら、きっと皆納得するだろう…あの時のリラもいつもの事って顔をしていた。
俺はこの箱の中で、精神が壊れるかマティアスが来るのが先が待つしかなかった。
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