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第四話 海と泉
しおりを挟む「うまい! 椿の花の蜜って、何でこんなに美味いんだよ」
「モクは椿が本当に好きだよね。一応、メジロだもんね」
海辺近くの森の中で、豪快に花の蜜をついばむモクの隣でルイは椿の花びらに寄りかかり、ほんのり甘い匂いをかいでいました。
すると、近くから誰かの歌声と篠笛の音色が聞こえてきます。
「……キレイな歌と音色」
「向こうの泉の方から聞こえるな。気になるなら行ってみるか?」
「うん。ありがとう」
ルイがモクの背に乗り、歌声と笛の主を探していると、ちょうど泉の中央にいる二人の少年を見つけました。
藍色の髪と橙色の瞳の少年が吹く笛の音色に合わせて、銀色の髪と金色の瞳の少年が歌っています。
やがて演奏と歌を終えると、ルイが思わず拍手をして、モクが褒めたたえるように少年たちの頭上をグルグル飛びまわりました。
「すごいな! 思わず聞き惚れたぜ」
「素敵な演奏と歌」
それを聞いた二人の少年は、お互いの顔を見合わせると笑い出します。
「ははは。かわいい観客が来てくれてうれしいな。そうだよね、ミヅハ?」
藍色の髪の少年が照れくさそうに話します。
「ははは。かわいい観客が来てくれてうれしいな。そうだよね、イソラ?」
銀色の髪の少年が照れくさそうに話します。
「お前たち双子か? 髪と瞳の色は違うけど、そっくりだな」
『ちがうよ。自分だけど自分じゃない存在かな?』
モクの問いに、二人の少年は同時に答えました。
「うーん。何を言ってるかよく分からんが、今まで会ってきたヤツらも変なヤツばかりだったし、気にするだけ時間の無駄か」
「何か失礼で口の悪い鳥だな。なんか焼き鳥が食べたくなってきたぞ。そうだろ、ミヅハ?」
「口が悪いのは、お前も一緒だよ。同意しないよ、イソラ」
「性格は違うみたいだな。なあ、ルイ? おい、ルイ!?」
ルイが頭をおさえて苦しがっていることに気付き、モクが慌てふためきます。
その様子を見たイソラが、モクとルイに一瞬で近付き両腕に優しく抱えこみました。
「何だ、この力がみなぎるような感じは? いや、それよりルイ……」
苦しそうに顔をゆがめていたルイの表情も穏やかになっていきます。
「あ、あれ? 楽になってきた」
「よかった! 急にどうしたんだ?」
「イソラとミヅハを見てたら急に頭が……。私、無くした記憶を探してるの。もしかして何か知ってる?」
ルイがそう尋ねると、やはり一瞬のうちにルイとモクの目の前に移動したミヅハが、一人と一羽を暗い瞳で見つめながら呟きます。
「君は、いや君たちは……」
そんなミヅハの言葉を遮るようにイソラが口を開きます。
「ボクたちは何も知らないよ。そうだよね、ミヅハ?」
ミヅハは、ハッとしたような表情になり、しばらく黙り込んだ後に静かに言葉を続けます。
「ボクたちは何も知らないよ。そうだよね、イソラ?」
何を聞いても無駄だと言わんばかりの様子の二人にモクとルイは、それ以上なにも聞けませんでした。
しばらくの沈黙の後、イソラが自分の腕の中にいるモクとルイに語りかけます。
「おい、鳥と妖精。海に連れて行ってやるよ。すぐに元気になるから」
「へっ?」
「えっ?」
一瞬の間、周りの景色が動いたと思ったルイとモクの目の前に海が広がっていました。
「どうだ? 力がみなぎるだろ。さっきの焼き鳥発言は言い過ぎたから、詫びに力を貸してやる」
「ああ。たしかに力がみなぎる気がする」
「うん。体がもっと楽になってきた」
それを聞いたイソラがニコニコと笑顔になります。
「そういえばミヅハは? 一緒にいなくていいの?さっき少しだけ様子がおかしい気がしたんだけど……」
ルイが心配そうに確認すると、イソラは悲しげな表情で答えます。
「ミヅハは、あの泉から動けない。あの泉は、多くの生贄が捧げられてきた。行き場のない怨念や穢れがミヅハに絡みついているんだ……」
「もしかして、さっきの歌は生贄たちのために?」
「ああ、何の慰めにもならないかもしれないが。……怨念や穢れから呪いが生まれないように」
「……呪い」
その言葉にルイの脳裏に何かが思い浮かびそうになっていましたが、それを打ち消すような痛みが頭に走り、けっきょく思い出すことが出来ませんでした。
(水の少年たち)
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