花鳥見聞録

木野もくば

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第八話 悪夢(あくむ)

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「ここは、どこだ?」

 少年の周りには、赤いきりのようなものが広がり、目の前をおおっていました。
 どこに向かっているのかも分からず、さまよい歩き続けていました。
 何かにつまずいて転びそうになりましたが、手のひらを地面について受け身をとります。

(手のひらがいたい)

「手のひら? オレに手なんてついてたっけ?」

 少年がつまずいた方をふり向くと、そこには木彫きぼりの鳥の人形がありました。

「これはメジロだ。オレがけずって作った」

(メジロ? そうだった。オレはメジロのモク)

「この姿では飛べない。ルイのところへ行けない」


 しばらくの間、少年がうつ向いて立ちつくしていると、どこからか歌声が聞こえてきます。
 聞き覚えがある歌に、顔を上げた少年は、歌声が聞こえる方向へと進みました。

「この歌を知っている」

 美しい歌声は、なぜか近付けば近付くほど、不気味ぶきみなノイズ音のようなものに変わっていきます。
 やがて耳をつんざくような不協和音ふきょうわおんが鳴りひびく場所にたどり着きます。そこには、赤黒くまった大きな泉がありました。

 泉の中央に、一人の少年がたたずんでいる姿が見えました。見覚えがある銀色の長いかみをしています。

「ミヅハ?」

 モクは、思わず銀色のかみの少年の名前を呼びました。

 ミヅハはモクの呼びかけに気づくことなく、どこを見ているのか分からないうつろひとみをしていました。そしていびつみを浮かべながら歌い続けています。

 モクは耳をふさぐと、なみだをこぼしました。

(どうしてだ!? お前の歌が好きだったのに……)

「もうやめてくれ!! 水神すいじんさま!」

 モクのさけびに反応したミヅハが、歌をやめました。そして、ゆっくりモクの方を向きました。

「よかった。気づいてくれたのかミヅハ。……ミヅハ!?」

 ミヅハの姿を見て驚愕きょうがくしたモクは後ずさりしようとしましたが、ガクガクとふるえる足がもつれてしりもちをつきました。

 モクのおびえきった瞳には、肉体がくさり落ち、骨だけのむくろになったミヅハがうつっていました。

 ズシャッとくずれるようにたおれたミヅハは、いずりながらモクの方に向かってきます。

「たのむ。やめてくれ。オレはルイと一緒にいたかっただけなんだ」

 ミヅハがばしてきた手をモクがはねのけた時です。だれかの声が聞こえてきました。

「モク。……モク!」

 ルイの呼び声に、モクがハッと目を開けました。そして自分の姿を確認すると、いつものメジロのままでした。

「よかった。ぜんぜん目を覚まさないから心配してたんだよ」

「ルイ?……ここはどこだ?」

「あの花畑だよ。ほら、ヨウの世界の」

「……そうか」

「なにかこわゆめでも見たの?」

「ああ。でも、どんな夢だったか思い出せない。だけど……」

「だけど?」

「なつかしい感じがした。昔の自分のゆめだった気がする」




(赤黒い泉)
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