花鳥見聞録

木野もくば

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最終話 十九年目の満月

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 銀色の花が咲き誇る花畑に、ヨウとミヅキが来ていました。
 暗くなった空には、十九年目の満月まんげつの光があたり一面を包んでいました。

かみが銀色に戻ったね。ところで、なんで薄茶色うすちゃいろだったのかな」

「……モクのかみ薄茶色うすちゃいろだったからだろ。たぶん、ミヅハのなかでは、モクは自分の一部になってるのかもよ」

「……お母さんに対する気持ちとはまた違った意味で、愛と執着しゅうちゃくがすごいね」

「だから、こんなことになったんだろうしな。……さて、また十九年目を始めないとな」

「……うん。私はモナカ君の変わりにお母さんの赤ちゃんの姿にならないと」

「ボクはミヅハの願望がんぼうの姿に。ルイの夫でモナカの父親。まあ、しばらく別居婚べっきょこんだけど」

「……そうだ。先にお母さんとモナカ君の姿を生前の姿まで時間を巻き戻さなきゃ。そして私の力が切れるまで成長し続けるようにしないと」

「成長させるのはモナカだけでよろしく」

「分かった。お母さんが年をとらないように私の力で体の時間を止める。……ずっと疑問だったけど、これは何のために?」

「ボクのために決まってるだろ」

「………………」

「ゴミを見るような目で見るなよ。ボクは少しの時間、しかも正気しょうきを失ったルイとしか一緒にいれないんだから、それくらいいいだろ~」

「まったくミヅハにしても、モクにしても、ヨウさんも男ってけっきょく……。はぁ、私は女でよかったかも」

「あははは。でもミヅキだってモナカの前では、できるだけキレイでいたいだろ?」

「…………たしかに、そうだね」

 ミヅキがさびしそうに満月まんげつを見つめます。ヨウも何も言わずに一緒に夜空を見上げました。

「………………」

「どうした? かぐや姫?」 

「……ヨウさん。その言い方やめて」

「悪い悪い。それより不服そうな顔して、どうした?」 

「……妖精のルイとメジロのモクのことが気になってて。だってモクは大昔に亡くなってるし、イソラもモクのことでしょ?」

「あー、それね」
  
「妖精のルイの正体も絵だって言ってたけど、破られて海に捨てられたはずだよね」

「たしかにな」

「ルイとモクが水神に呪われてるって言ってたのも気になってて。水神って、人間たちがミヅハを見て勝手に呼び始めたんだよね? だから、いるわけのない存在なのに……」

「……ミヅキは、記憶をリセットしてるから分からないかもしれないけど、メジロのモクと妖精のルイが現れたのは今回の十九年目が初めてなんだよ」

「……やっぱり」

「もしかすると、ミヅハを不老不死にした存在の仕業しわざなのかもしれない」

「私もそう思う。何らかの目的があって、あのままの少年の姿にしておきたかったのに、肝心かんじんのミヅハがあんな姿になってるから」

「きっとミヅハを探しているんだよ。たぶんボクらの記憶きおくさぐって、特に強い思い出を具現化ぐげんかさせた存在をわざわざ作って」 

「……それがイソラを正体に持つメジロのモクと、お母さんの宝物だった絵を正体に持つ妖精のルイなのね。確かに、色んな記憶が混じって合体したような姿だもんね」

「モナカだけにモクとルイの姿が見えないのは、単純にミヅハの記憶がないからだな」

「多分そうだね。それなら辻褄つじつまが合うし」

「本物のモクは、最後まで、もがき苦しんだ人生だった。あの時やっと解放されたのにな。あの姿も作られた幻の存在と言えども、まだ苦しんでいる姿を見ていると……」

「……水神の呪い……だね」

「まあ、ルイを苦しめた男だし」

「……お母さんは、最後には彼を許してたみたいだけどね」

「……話を戻そう。ルイとモクの正体がボクらの予想通りなら、この十九年のサイクルに終わりが来る時も近い。そんな予感がする」

「ようやくなのね。でも私たち、どうなるのかしら? お母さんやモナカ君と会えなくなるのを考えると……」

 つらそうに泣き出したミヅキの頭をなでながらヨウが言います。

「なあ、提案なんだけど。この十九年は、ずっと夢を見るために力を使わないか? ボクたちの記憶きおくあやつれる力を応用おうようして、みんなで夢を見るんだ。そして、本当になりたかった自分の姿になり、それぞれの結末まで見る」

素敵すてきな提案ね。この世界は、水の中で無念むねんの思いで亡くなった人のたましいたちも暮らしていて、同じ十九年を繰り返してるんだものね。せめて幸せな結末を見てから……」

「ああ、夢を見よう。ボクもミヅキも。そして、ミヅハも……。次の十九年の満月まんげつの夜まで、長い夢を」


 これは、だれかの夢の結末です。

 ある満月まんげつの夜、泉に向かって飛んでいるメジロがいました。背中には花の妖精ようせいが乗っています。

「ルイ、記憶が戻ってよかったな。もうすぐ泉だ。お前の旅の目的だったミヅハが待ってる。ずっと会いたかったんだろう?」

「モク、今まで一緒に探してくれてありがとう。でも長すぎる旅だった。いまさら会いに行っても迷惑かもしれない」

「そんなことない。あいつもずっとお前に会いたかった。ミヅハはオレの親友だから、よく分かるんだ」

「それに私はモナカの母親なのに。あの子の存在も絶対になかったことにできないの」

「モナカのことは心配するな。ルイがミヅハと会ってる間は、お前の分以上にオレが愛するから。だから、この瞬間しゅんかんだけはミヅハと一緒に……」

 モクがそう言った時、ルイの姿が人間に変わります。十代前半の黒髪と黒の瞳の少女の姿でした。
 目の前の泉には、十代前半の黒髪と黒の瞳の少年がいました。

 少年は、まだ少女に気づいていない様子です。胸の高鳴りが止まらない少女は、思わず椿つばき花木かぼくの後ろにかくれます。

 しばらくすると少年が少女に気づいてつぶやきました。

「……椿つばきの花の妖精ようせい?」

「……違いますよ。あなたと同じ人間です」

 その言葉に涙を浮かべた二人は、どちらからともなくたがいを抱きしめます。

 椿つばきの木の枝に止まっていたメジロが、その様子を見届けると、満月まんげつに向かって飛び立ちました。







(だれかの夢)











 最後まで読んでくださった方がいらしたら、本当にありがとうございました。

 下の絵は、物語の中盤ちゅうばんに考えてた話があったものの結末にまとまりがつかず消去した文章の挿絵さしえです。








































 



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感想 1

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みんなの感想(1件)

じゅ〜ん
2026.01.06 じゅ〜ん

木野もくば様

『花鳥見聞録』完読させていただきました。

私事でスミマセンが実は俺、他の小説投稿サイトで鳥を主人公にした童話等を書いてるんですが、木野さんの作品には到底及びません。他の作品もそうでしたがあなたの作品は読んでるうちに異世界に誘われるんです。何とも不思議でそれでいて心地よくなります。

加え挿絵も本当素晴らしいです。木野さんを作家登録させていただいてるんですが、近況ボードで書かれていた完結の件といい、尊敬します。

2026.01.07 木野もくば

返信が夜分遅くになってしまい申し訳ありません。

あの近況ボードを読んでくださってたんですね。本当は感想欄に完結が間に合わず嘘を書いた形になってすみませんと書こうかと迷ってました。でも読んでなかったら気を使わせるだけかなと思って消去してしまいました。

私は絵も文章もまだまだ未熟ですよ。しかも、もう若くないですから伸びしろがないかもしれません。でも読んでいただけると、やっぱりすごくうれしいですね。

ちなみに小説を投稿しているきっかけは「洟(はな)をたらした神」という小説を読んで感動したからです。あと作者の吉野せい先生が七十歳を過ぎてから筆をとった方だと知って、いくつになっても挑戦は大事だと思ったからです。

 長々と失礼しました。これからも、ぼちぼち小説を投稿していきますので気が向いた時にでも、また読んでいただけたらうれしいです。
 

解除

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