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第2部:壁 - 国会という名の怪物
第51話 初めての本会議
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登院の朝。
まだ朝靄の残る空の下、健人は国会議事堂を見上げていた。
白い石造りの堂々たる建物が、朝日を受けて赤みを帯びた光を返す。
その前に立つと、まるで壁のような圧迫感を覚える。
(これが、これから自分が踏み込む場所か……)
胸ポケットには、母が小さな付箋に書いてくれた「がんばれ」の文字が入っている。
それを指先でそっと確かめ、息を深く吸い込んだ。
「堂々と行きましょう。あなたは国民に選ばれた議員です」
真田が背後から声をかけた。
その隣で田島が、いつものように笑って健人の肩を軽く叩く。
「深呼吸は済んだか? 大丈夫、行けるって」
議事堂へ向かう廊下は、すでに慌ただしい空気で満ちていた。
スーツ姿の議員たちが固まって談笑しながら通り過ぎる。
中には大きな声で笑う者もいるが、どこか舞台裏の役者のように余裕が漂っている。
受付で議席表を受け取った健人は、自分の名前を探す。
視線が一番端に止まった。
そこには「無所属 坂本健人」と小さな文字。
列の最後、まるで“国会の片隅”に追いやられたようなその位置に、健人は小さく息を吐いた。
(まあ、想像はしてた……ここが、俺の立ち位置だ)
分厚い扉を両手で押す。
目に飛び込んできたのは、テレビでしか見たことのなかった光景だった。
その先には歴史を刻む重厚な議席が整然と並んでいる。
高い天井からは柔らかな光が降り注ぎ、どこか教会のような荘厳さがある。
初めて立つその場に、健人は思わず足を止めた。
ほんの数秒のことだったが、自分の足音が場違いなほど大きく響いたように感じる。
後ろから入ってきたベテラン議員が無言で追い抜いていった。
指定された席は最前列でも中央でもなく、斜め後方の端。
腰を下ろすと、周囲の議員たちは既に資料に目を通している。
健人は隣の席の議員に小声で「よろしくお願いします」と挨拶したが、返ってきたのは軽い会釈だけ。
その横顔には、無所属の新人を気に留める様子はなかった。
やがて開会の鐘が高らかに鳴り響く。
議場のざわめきが瞬く間に凪いでいく。
議長が入場すると、全員が一斉に立ち上がる。
慌てて立ち上がった健人は、一瞬遅れて膝が机に当たり、カタンと小さな音を立てた。
近くの議員がちらりとこちらを見たが、すぐに前を向く。
机の上に置かれた分厚い資料を手に取ると、数字と専門用語の羅列に目が泳ぐ。
あらかじめ勉強したはずなのに、実際に目の前で飛び交う言葉は重みが違う。
資料をめくる指先が、わずかに汗ばんでいた。
議長の進行に合わせて「起立」「着席」が繰り返される。
周囲の動きについていくのがやっとで、タイミングを一瞬遅らせてしまい、後ろの席からかすかな笑い声が聞こえたような気がした。
(恥ずかしい……でも、これが現実だ。覚えなきゃならない)
視線を上げると、記者席に並ぶカメラが一斉にシャッターを切っていた。
その瞬間、胸の鼓動がひときわ大きくなり、汗がこめかみを伝った。
(注目されてる……今ここで、無様な姿は見せられない)
隣席の新人議員は落ち着き払って議事進行に目を向けている。
その様子に比べ、自分の孤立感がひときわ鮮明になる。
国会という名の巨大な舞台に、一人ぽつんと立たされたような感覚が胸に重くのしかかる。
議長の声が再び響き、健人は姿勢を正した。
この日が、自分にとって本当の“政治家としての初日”だと、あらためて心に刻む。
(ここから始まるんだ……絶対に、この空間に埋もれない)
議事堂の高い天井を見上げると、朝の光がステンドグラスを抜けてやわらかく差し込んでいた。
その光を胸に抱き込むように、健人は静かに拳を握った。
“ここはただの議場じゃない。
数百万の民意が集まり、未来を決める場所だ。
怯えていては、声が届く前に飲み込まれてしまう。
俺はここに立つために選ばれた――その意味を、今日から証明していく。”
まだ朝靄の残る空の下、健人は国会議事堂を見上げていた。
白い石造りの堂々たる建物が、朝日を受けて赤みを帯びた光を返す。
その前に立つと、まるで壁のような圧迫感を覚える。
(これが、これから自分が踏み込む場所か……)
胸ポケットには、母が小さな付箋に書いてくれた「がんばれ」の文字が入っている。
それを指先でそっと確かめ、息を深く吸い込んだ。
「堂々と行きましょう。あなたは国民に選ばれた議員です」
真田が背後から声をかけた。
その隣で田島が、いつものように笑って健人の肩を軽く叩く。
「深呼吸は済んだか? 大丈夫、行けるって」
議事堂へ向かう廊下は、すでに慌ただしい空気で満ちていた。
スーツ姿の議員たちが固まって談笑しながら通り過ぎる。
中には大きな声で笑う者もいるが、どこか舞台裏の役者のように余裕が漂っている。
受付で議席表を受け取った健人は、自分の名前を探す。
視線が一番端に止まった。
そこには「無所属 坂本健人」と小さな文字。
列の最後、まるで“国会の片隅”に追いやられたようなその位置に、健人は小さく息を吐いた。
(まあ、想像はしてた……ここが、俺の立ち位置だ)
分厚い扉を両手で押す。
目に飛び込んできたのは、テレビでしか見たことのなかった光景だった。
その先には歴史を刻む重厚な議席が整然と並んでいる。
高い天井からは柔らかな光が降り注ぎ、どこか教会のような荘厳さがある。
初めて立つその場に、健人は思わず足を止めた。
ほんの数秒のことだったが、自分の足音が場違いなほど大きく響いたように感じる。
後ろから入ってきたベテラン議員が無言で追い抜いていった。
指定された席は最前列でも中央でもなく、斜め後方の端。
腰を下ろすと、周囲の議員たちは既に資料に目を通している。
健人は隣の席の議員に小声で「よろしくお願いします」と挨拶したが、返ってきたのは軽い会釈だけ。
その横顔には、無所属の新人を気に留める様子はなかった。
やがて開会の鐘が高らかに鳴り響く。
議場のざわめきが瞬く間に凪いでいく。
議長が入場すると、全員が一斉に立ち上がる。
慌てて立ち上がった健人は、一瞬遅れて膝が机に当たり、カタンと小さな音を立てた。
近くの議員がちらりとこちらを見たが、すぐに前を向く。
机の上に置かれた分厚い資料を手に取ると、数字と専門用語の羅列に目が泳ぐ。
あらかじめ勉強したはずなのに、実際に目の前で飛び交う言葉は重みが違う。
資料をめくる指先が、わずかに汗ばんでいた。
議長の進行に合わせて「起立」「着席」が繰り返される。
周囲の動きについていくのがやっとで、タイミングを一瞬遅らせてしまい、後ろの席からかすかな笑い声が聞こえたような気がした。
(恥ずかしい……でも、これが現実だ。覚えなきゃならない)
視線を上げると、記者席に並ぶカメラが一斉にシャッターを切っていた。
その瞬間、胸の鼓動がひときわ大きくなり、汗がこめかみを伝った。
(注目されてる……今ここで、無様な姿は見せられない)
隣席の新人議員は落ち着き払って議事進行に目を向けている。
その様子に比べ、自分の孤立感がひときわ鮮明になる。
国会という名の巨大な舞台に、一人ぽつんと立たされたような感覚が胸に重くのしかかる。
議長の声が再び響き、健人は姿勢を正した。
この日が、自分にとって本当の“政治家としての初日”だと、あらためて心に刻む。
(ここから始まるんだ……絶対に、この空間に埋もれない)
議事堂の高い天井を見上げると、朝の光がステンドグラスを抜けてやわらかく差し込んでいた。
その光を胸に抱き込むように、健人は静かに拳を握った。
“ここはただの議場じゃない。
数百万の民意が集まり、未来を決める場所だ。
怯えていては、声が届く前に飲み込まれてしまう。
俺はここに立つために選ばれた――その意味を、今日から証明していく。”
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