『総理になった男』

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第3部:旋風 - 国民支持のうねり

第102話 “政治家らしくない”という褒め言葉

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ライブ配信から一夜明けた朝。
 事務所のモニターには、ニュースサイトの記事がずらりと並んでいた。
 「無所属議員・坂本健人、ネットで急拡散」「“政治家らしくない”と共感の声」――そんな見出しが踊っている。

 健人は、湯気の立つコーヒーを手にしながら画面を覗き込んだ。
 「“政治家らしくない”……か」

 真田が隣でタブレットを操作しながら淡々と補足する。
 「SNS上では、肯定的な意味で使われているものも多いです。“普通の人の感覚を持っている”“話し方に誠実さがある”“偉そうじゃない”など」
 田島が笑いながら机を軽く叩いた。
 「そりゃそうだろ。俺たち、偉そうにできる立場じゃないしな」

 健人も苦笑したが、胸の奥では複雑な思いが渦巻いていた。
 ――政治家らしくない。それは褒め言葉なのか、皮肉なのか。


 昼頃には、スマホの通知が止まらなくなっていた。
 ニュース番組のキャスターが「若手議員の中でも異色の存在」と紹介し、コメント欄には賛否が並ぶ。

 《理想ばかり語って現実が見えてない》
 《でも、久しぶりに“本気で喋ってる政治家”を見た気がする》
 《政治家らしくないって最高の褒め言葉だろ》

 意見の渦。
 だが、そのどれもが健人という存在に“関心を持っている”という証だった。

 「政治家らしくない、ね……」
 健人はコーヒーを一口飲み、ぽつりと呟いた。
 「俺は“らしくなろう”としたことがない。ただ、普通に話してるだけだ」

 真田が静かに頷く。
 「それが受け止められているんです。政治を語る言葉に、温度を感じる人は少ない。あなたの言葉は冷たくないんですよ」


 午後、健人は久々に街頭演説に立った。
 手作りの横断幕、マイク一本。
 以前よりも聴衆が増えている。スマホを構える若者の姿も見えた。

 「おい、坂本さんだ!」
 通りかかった青年が声を上げ、友人たちと足を止める。
 「動画見ました! 政治家らしくなくて、めっちゃ良かったっす!」

 健人は思わず笑ってしまった。
 「ありがとう。でも、“らしくない”って言われるの、まだちょっと慣れなくてね」
 周囲に小さな笑いが起きる。

 青年は真っ直ぐな目で言った。
 「でも、その“らしくなさ”が信じられるんです。スーツ着てるのに、なんか人間っぽい」
 健人は胸の奥が温かくなるのを感じた。
 「ありがとう。その言葉、大切にします」


 演説を終えて帰る途中、田島が言った。
 「なあ健人。国民が“らしくない”方に安心するって、皮肉だよな。
 それだけ今の政治が信用されてないってことだ」

 健人は頷いた。
 「だからこそ、“らしくない政治家”が必要なんだと思う。
 人として、話せる政治家が」

 事務所に戻ると、また取材依頼が入っていた。
 「“政治家らしくない”というテーマで特集を組みたいそうです」
 と真田が報告する。
 健人は笑った。
 「もう、それを俺の代名詞にされそうだな」

 「でも悪くないですよ。褒め言葉ですから」
 真田の言葉に、健人も小さく頷いた。


 数日後、テレビ局のスタジオ。
 健人はインタビューの椅子に座り、ライトに照らされていた。
 「坂本議員は、“政治家らしくない”と評されていますが、ご自身ではどう思われますか?」

 健人は少し考えてから、穏やかに微笑んだ。
 「僕は“らしくない”って言葉を、褒め言葉だと思ってます。
 政治家が市民と同じ言葉を使い、同じ空気を吸って話せるなら、
 それは政治家である前に、人間として正しいことだと思うからです」

 収録後、プロデューサーが小声で言った。
 「まっすぐですね。なんだか久しぶりに“人”を取材した気がしました」
 その言葉が、健人には何よりも嬉しかった。


 放送が終わると、SNSは再び騒然となった。
 《政治家なのに嘘がなさそう》
 《話してる姿が人間らしい》
 《坂本さん、なんか泣ける》

 田島がスマホを見て笑う。
 「おい見ろよ、“#政治家らしくない人間らしい”ってタグまでできてる」
 「そんなタグができる日が来るなんてな」健人も笑った。

 だがその笑いの奥には、静かな決意があった。
 “らしくない”ままでいい。
 そう言われ続ける限り、自分はまだ市民の側に立てている。


 夜。
 議員会館の廊下を歩きながら、健人は自分の影を見つめた。
 国会の重厚な天井灯が、その影を長く伸ばしている。
 「俺が政治家に見えないなら、それでいい。
  俺が見たいのは、肩書きじゃなく、人の笑顔だから」

 真田が少し後ろから声を掛ける。
 「坂本さん、次の講演依頼が入りました。“らしくない政治家”としてです」
 「ははっ、ついに公式になったか」
 二人の笑い声が、静かな夜の議事堂に溶けていった。


 帰宅後、健人は机にノートを広げる。
 そこには手書きでこう記されていた。

 > “政治家らしくない”とは、人として当たり前であり続けること。
 >  それを笑われても、貫ける人間でありたい。

 彼はペンを置き、深く息を吸った。
 窓の外では、遠くに国会の灯りがまたたいていた。
 “らしくない”その光こそが、いまの自分を照らしているように思えた。



“政治家らしくなくて、いい。
人間らしくあれば、それでいい。
信頼は、肩書きではなく、誠実さから生まれる”
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