『総理になった男』

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第3部:旋風 - 国民支持のうねり

第118話 地方選で“支持候補”が当選

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 冷たい風が吹く朝だった。
 その日、議員会館に着いた坂本健人のスマホに、地元支部のスタッフから一通のメッセージが届いていた。

『坂本さん、ぜひ応援してほしい若手候補がいます。会っていただけませんか?』

 画面を見つめる健人の胸に、少しだけ興味がわいた。
 国会議員になって以来、地元と東京の往復に追われ、地域の現場とゆっくり向き合う時間を取れていなかったからだ。

「若手候補か……」

 ひとりごちて椅子に深く腰を下ろすと、真田が資料を抱えながら入ってきた。

「どうしました? いつもより険しい顔をしてますが」

「地元の市議候補を応援してほしいってさ。若いらしい」

「若い? どれくらいです?」

「二十代後半、子ども食堂の運営も手伝ってるらしい」

 真田は眉を上げた。

「それは、健人さんと政策的にも近いかもしれませんね。会ってみる価値はあると思います」

 健人はうなずいた。
 そして後日、予定を調整し、地元・千代原市へ向かうことにした。


 地元の駅前。
 商店街の横にある小さな喫茶店の個室で、坂本健人は初対面の青年と向かい合った。

 青年の名は――三浦颯太(みうら・そうた)、28歳。
 白いシャツに紺のジャケットというシンプルな服装だが、背筋が伸び、どこか凛とした雰囲気がある。

「本日はお忙しい中ありがとうございます! 坂本さんに会えるなんて、本当に光栄です!」

 三浦は深々と頭を下げ、真っ直ぐな目で健人を見つめた。

「こちらこそ。聞いたよ、子ども食堂を手伝ってるって」

「はい。僕自身、ひとり親家庭で育ったので……子ども食堂に支えられて生きてきたんです。だから今度は、僕が子どもたちを支えたい。そんな思いで立候補しました」

 その言葉を聞いた瞬間、健人の胸の奥で何かが揺れた。
 彼もまた、政治の道を選んだ理由は「誰かのために働きたい」という、ただそれだけの願いだったからだ。

「いい理念だな」

 健人は素直にそう言った。

「ありがとうございます……! ただ、知名度も資金もなくて……正直、勝てる気がしません。ですが、坂本さんの活動を見て、僕も諦めたくなくて」

 三浦は深呼吸し、勇気を振り絞って口を開いた。

「もしよければ……応援演説に立っていただけませんか?」

 頼み込むその姿に、政治家としての計算よりも、ひとりの人間としての心が動いた。

「いいよ」

「ほ、本当ですか!?」

「三浦さんの理念、好きだよ。応援する価値はある」

 肩の力が抜けたように、三浦は大きく息をついた。


 応援演説当日。
 千代原駅前のロータリーは、想像よりもはるかに多くの若者で埋まっていた。

「すげぇな……」

 田島が思わず目を見開く。

「三浦さん、地元じゃすでに“若手の星”ですよ。SNSでも話題になってますし」

 真田がタブレットを見ながら説明する。

 演説台の横で、三浦の顔は緊張と期待で強張っていた。

「こんなに……こんなに人が来てくれるなんて……」

 健人は笑って肩を叩く。

「安心しろ。お前の言葉は響いてる証拠だ」

 やがて演説が始まった。
 最初にマイクを握った三浦は、震える声で、しかし真剣に語った。

「僕は、子どもの貧困が当たり前になっている社会を変えたい!」

 その言葉が風に乗って響く。
 集まった若者たちが頷き、スマホでライブ配信する姿も見える。

 そして次に、健人が前へと進んだ。

「皆さん。僕は、国会議員になったばかりの頃、誰にも相手にされなかった。言っても、叫んでも、届かない壁に何度も心が折れかけた。でも……今日ここにいる三浦さんは、それでも声を上げ続けようとしています」

 ざわめきが止まり、視線が一斉に健人へ向けられる。

「政治は、国会の中だけでやるものじゃない。ここにいる皆さんの生活を、明日を、未来を守るためにやるものだ! 彼は、その当たり前を取り戻すために戦っている。だから僕は、彼を全力で応援する!」

 大きな拍手が湧き起こった。
 三浦の目には涙が浮かんでいた。


 投票日前夜。
 三浦の事務所は、緊張の空気に包まれていた。

「不安です……坂本さん。もし落ちたら、僕は地元で政治なんてできなくなります」

「颯太、お前はもう十分政治やってるよ」

 健人は笑った。

「結果はもちろん大事だけど、それ以上に“立ち上がった”ことがすでに政治だ」

 三浦は拳を握り、何度も頷いた。


 そして運命の開票日。
 坂本健人は三浦陣営とともに、市民センターの小さな会議室に詰めていた。

 当初の開票速報――三浦は中位につけていた。
 緊張した空気が流れる。

「まだ、若者票が反映されていません」と真田が静かに言った。

 集計が進むにつれ、順位が上がっていく。

「おっ……!」

 田島が息を呑んだ。

 最終盤。
 スクリーンに赤いテロップが走った。

――三浦颯太、当選確実。

 三浦はその場に崩れ落ちた。

「……当選、したんですか……? 本当に?」

 震える声で呟いた彼を、健人はしっかりと抱き寄せた。

「お前が勝ったんだよ。誰でもなく、お前自身の力で」

「坂本さんのおかげです……そして皆さんが……」

 三浦の頬を涙が伝う。

「颯太。今日からが本当のスタートだ。ここからは一緒にこの町を変えていこう」

 会議室は歓声に包まれた。
 SNSではすでに「無所属議員坂本の支援候補が勝利!」「草の根が勝った」とトレンド入りしていた。

 健人は喧騒の中でひとり天井を見上げ、静かに思った。

 ――政治は、想いが動かす。
 今日、その瞬間を確かに目にした。




“小さな選挙でも、小さな候補でもいい。
本気の言葉は、街を動かし、人を動かし、未来を変える。
政治は熱量で動く――その答えを、今日の当選が教えてくれた”
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