『総理になった男』

KAORUwithAI

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第4部:政権奪取 - 総理就任

第166話 黒いスーツの圧力

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 党本部での会合を終え、健人は真田、田島とともに議員会館へ戻っていた。
 夕方の薄曇りの空が、ガラス越しにぼんやりと映り込んでいる。

「……疲れたな」

 田島がネクタイを緩めながら呟く。
 冗談めかした声だったが、その裏にある緊張は健人にも分かっていた。

「でも、手応えはあっただろ?」
「若手の空気は完全にこっち向いてた」

 健人は曖昧にうなずく。
 手応えは確かにあった。だが同時に、会合の最中から胸の奥に引っかかるものが消えなかった。

 ——視線だ。

 誰かに見られているという感覚ではない。
 もっとはっきりした、「観察されている」という感覚。

 議員会館のエントランスに差し掛かった時だった。

 健人は、ふと足を止めた。

 数人の男たちが、柱の陰に立っていた。
 全員、黒いスーツ。無駄のない髪型。表情は硬く、しかし威圧的ではない。

 議員でも秘書でもない。
 警備員とも違う。

 ——何者だ?

 そのうちの一人が、静かに前へ出てきた。

「坂本健人先生ですね」

 声は低く、落ち着いていた。
 丁寧で、無駄がない。

「少しだけ、お時間をいただけますでしょうか。
 ご迷惑はおかけしません」

 真田が一歩前に出る。

「どちら様ですか。ご用件は——」

 男は視線だけで真田を制し、健人を見つめた。

「これは、坂本先生“ご本人”へのお話です」

 空気が変わった。
 田島が健人の肩を掴み、小さく首を振る。

「一人で行くな。怪しい」

 健人は一瞬、迷った。
 だが、ここで逃げる選択肢はなかった。

「……分かりました」

「健人!」
「大丈夫だ。すぐ戻る」

 健人はそう言って、男の後を追った。



 案内されたのは、議員会館の奥。
 応接室とも会議室とも言えない、用途の分からない簡素な部屋だった。

 机と椅子が一つずつ。
 壁には時計だけが掛かっている。

 男は座るよう促し、自分も向かいに腰を下ろした。

 名刺は出てこない。

「改めまして。今日はお忙しい中、ありがとうございます」

「……どちらの方ですか」

 健人の問いに、男は微笑むだけだった。

「立場は、あまり重要ではありません。
 今日は“ご挨拶”に伺いました」

 健人は黙って男を見つめる。

「最近のご活躍、各方面で話題になっています。
 若手議員からの支持、地方議員との連携、
 それから——」

 男は一瞬、言葉を切り、続けた。

「SNSの動き。学生団体の反応。
 とても興味深い」

 健人の喉が、わずかに鳴った。

「……ずいぶん詳しいですね」

「情報は、仕事ですから」

 男は淡々と言う。

「坂本先生の掲げる理想。
 透明性、子ども政策、政治改革。
 どれも理解できますし、評価もしています」

 褒め言葉のはずだった。
 だが、健人の背中に冷たい汗が流れる。

 ——これは評価じゃない。

「ただし」

 男は静かに続けた。

「政治には、順序というものがあります。
 空気というものがあります。
 あまりに急ぎすぎると……敵が増える」

「それは、忠告ですか?」

 健人ははっきりと聞いた。

「ええ。親切な忠告です」

 男は微笑む。

「坂本先生は、今とても目立っています。
 目立つということは、守られていないということでもある」

 男の視線が、健人の胸元に一瞬落ちる。
 議員バッジ。

「支援者も増えましたね。
 地方の若い議員、学生たち、
 それから……ご家族も」

 その言葉で、健人の呼吸が一瞬止まった。

「……今、何と?」

「いえ。深い意味はありません」

 男は穏やかに首を振る。

「ただ、人は弱点を抱えて生きている。
 政治家も例外ではない、というだけです」

 沈黙が落ちた。

 健人は、ゆっくりと息を吸った。

「それは、圧力ですか」

 男は少しだけ間を置き、答えた。

「いいえ。
 坂本先生が“潰れないための”助言です」

 その言葉が、何よりも冷たかった。

「坂本先生は、これからもっと注目されます。
 その時、誰が味方で、誰が敵か——
 見極める目が必要になる」

 男は立ち上がった。

「今日の話は、ここまでです。
 どうか、ご自身の将来を大切に」

 そして、静かに部屋を出て行った。



 廊下に出ると、真田と田島が待っていた。

「何だった?」
 田島が焦った声で聞く。

 健人は一拍置き、答えた。

「……圧力だ」

 真田の表情が、はっきりと変わる。

「ついに来ましたか」

「怒鳴られたわけじゃない。
 脅されたわけでもない」

 健人は拳を握る。

「でもな……
 全部知ってるって顔だった」

 田島が歯を食いしばる。

「卑怯だな」

「卑怯だから、強いんだ」

 健人はそう言い、議員会館の窓から外を見た。
 夕暮れの空に、国会議事堂が沈んでいる。

「ここから先は、
 本気で潰しに来る連中との戦いだ」

 真田が静かにうなずいた。

「覚悟は、できていますか」

 健人は胸元のバッジに触れ、答えた。

「最初から、そのつもりだ」

 静かな決意が、三人の間に共有された。



”本当に怖い圧力は、
怒鳴らない。
脅さない。

ただ静かに、
「全部知っている」と告げてくる。

それでも俺は、
引かない。

ここからが、
国会という怪物との本当の戦いだ“
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