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第4部:政権奪取 - 総理就任
第177話 国会がざわついた日
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その朝、国会議事堂はいつもと同じ形をしていながら、まるで別の建物のように感じられた。
重厚な石造りの壁。高く掲げられた国旗。長い歴史を背負った正面玄関。
変わらないはずの風景が、ざわめきを内側に抱え込み、息をひそめている。
健人は、議事堂を見上げて一度だけ深く息を吸った。
――ここに来た最初の日とは、空気が違う。
あの日は、自分が飲み込まれる側だった。
今日は違う。
今度は、この建物のほうが自分を測りに来ている。
正門をくぐった瞬間から、視線が突き刺さった。
記者、議員、職員、警備員。
誰もが一瞬、歩みを止め、坂本健人を見る。
好奇。警戒。期待。敵意。
すべてが混ざり合った、生々しい視線だった。
新聞の見出しが、頭をよぎる。
――「歴代最年少総理誕生」
――「異例の一年生議員」
――「人気先行か、改革の旗手か」
称賛と同時に、疑念もまた踊っていた。
廊下を歩く途中、野党の控室の前を通り過ぎると、扉の向こうから抑えきれない声が漏れてくる。
「前例がないだろう」
「国会を軽く見ている」
「結局、世論に流されただけだ」
坂本は足を止めなかった。
反論する必要はない。
ここは討論の場ではなく、通過点だ。
少し先で、田島が待っていた。
「……すごいな。完全に空気変わってる」
田島は苦笑いを浮かべながら言った。
「ついこの前までと同じ国会なのに、別物みたいだ」
「ざわついてるな」
健人がそう答えると、田島は小さくうなずいた。
「敵も味方も、本気になったってことだろ。
今までは“面白い新人”だったけどさ……」
「今日は違う」
「うん。“総理”だもんな」
言葉にされた瞬間、その重みが胸に落ちた。
総理。
まだ実感は薄い。
だが、周囲はもう“そう扱う準備”を始めている。
議員会館へ向かう途中、今度は与党のベテラン議員たちとすれ違った。
露骨に視線を逸らす者。
値踏みするように見つめてくる者。
わざとらしく笑顔で近づいてくる者。
「おめでとう。いやあ、時代が変わったね」
言葉は祝福でも、声に温度はなかった。
その背中を見送りながら、健人は思う。
――期待されているのではない。
――試されている。
議場に入ると、ざわめきはさらに濃くなった。
席につくまでのわずかな時間、無数の視線が集まる。
記者席ではカメラのシャッター音が止まらない。
野党席の一角では、幹部クラスが腕を組み、こちらを見据えていた。
与党席では若手議員たちが小声で興奮を抑えきれずにいる。
その対照的な光景に、国会という場所の複雑さが凝縮されていた。
開会のベルが鳴る。
一瞬で、音が消えた。
静寂。
だが、それは平穏ではない。
水面下で何かが蠢いている。
坂本は、その感覚をはっきりと掴んでいた。
議事が進む間も、空気は落ち着かなかった。
ちょっとした発言に、過剰な反応が起きる。
拍手が起きる場面でも、どこか探るような間が入る。
健人は気づいていた。
今日の国会は、法案のための場ではない。
坂本健人という存在を、国会全体が“観察”している日だ。
休憩時間、控室に戻ると、真田が窓際に立っていた。
「想像以上ですね」
静かな声だった。
「ええ」
健人が答える。
「これは一時的な騒ぎじゃありません。
国会そのものが揺れている」
健人は、少し驚いて真田を見る。
「揺れている?」
「はい。
今までの前提が崩れたんです」
真田はゆっくり言葉を選んだ。
「“総理はベテランがなるもの”
“派閥をまとめた者が頂点に立つ”
その暗黙の了解が、壊れた」
真田は一度、言葉を切る。
「壊れたものは、必ず抵抗します」
田島が腕を組んで言った。
「つまり……荒れる?」
「ええ」
真田は迷いなくうなずいた。
「これから先、坂本さんの一言一言、一挙手一投足が、
過剰に解釈され、叩かれ、持ち上げられます」
健人は静かに聞いていた。
恐怖は、不思議とない。
代わりに、妙な納得があった。
――ああ、ここまで来たんだな。
初めての本会議で、立ち遅れた自分。
初質問でマイクを震わせた自分。
誰にも聞かれない演説を、声が枯れるまで続けた自分。
その一つ一つが、今のこの騒ぎにつながっている。
「国会がざわつくのは、変化を恐れている証拠です」
健人は、そう呟いた。
真田が少しだけ目を細める。
「ええ。
だからこそ、ここからが本番です」
再び議場へ戻る廊下。
すれ違う議員の数が、明らかに増えていた。
「少し話を」
「後でいいですか」
「意見を聞きたい」
健人は一つ一つ丁寧に対応しながら、歩みを進める。
逃げない。
誤魔化さない。
このざわめきの中心に立つ覚悟は、もうできている。
議事堂の天井を見上げたとき、健人は、
はっきりと感じた。
国会という巨大な生き物が、目を覚ましたのだと。
それは敵かもしれない。
味方かもしれない。
だが、間違いなく――
自分は今、その真正面に立っている。
健人は、胸元のバッジにそっと触れた。
静かに、しかし確かに、心の中で言葉を刻む。
――逃げない。
――黙らせる言葉じゃない。
――動かす結果を出す。
国会がざわつく日。
それは、坂本健人の政治が、本当に始まった日の証だった。
”国会がざわつくのは、
変化を恐れている証拠だ。
静かな政治は、何も変えない。
ざわつく政治こそが、
次の時代の入口になる。
俺はこの騒音の中で、
黙らせる言葉じゃなく、
動かす結果を出す“
重厚な石造りの壁。高く掲げられた国旗。長い歴史を背負った正面玄関。
変わらないはずの風景が、ざわめきを内側に抱え込み、息をひそめている。
健人は、議事堂を見上げて一度だけ深く息を吸った。
――ここに来た最初の日とは、空気が違う。
あの日は、自分が飲み込まれる側だった。
今日は違う。
今度は、この建物のほうが自分を測りに来ている。
正門をくぐった瞬間から、視線が突き刺さった。
記者、議員、職員、警備員。
誰もが一瞬、歩みを止め、坂本健人を見る。
好奇。警戒。期待。敵意。
すべてが混ざり合った、生々しい視線だった。
新聞の見出しが、頭をよぎる。
――「歴代最年少総理誕生」
――「異例の一年生議員」
――「人気先行か、改革の旗手か」
称賛と同時に、疑念もまた踊っていた。
廊下を歩く途中、野党の控室の前を通り過ぎると、扉の向こうから抑えきれない声が漏れてくる。
「前例がないだろう」
「国会を軽く見ている」
「結局、世論に流されただけだ」
坂本は足を止めなかった。
反論する必要はない。
ここは討論の場ではなく、通過点だ。
少し先で、田島が待っていた。
「……すごいな。完全に空気変わってる」
田島は苦笑いを浮かべながら言った。
「ついこの前までと同じ国会なのに、別物みたいだ」
「ざわついてるな」
健人がそう答えると、田島は小さくうなずいた。
「敵も味方も、本気になったってことだろ。
今までは“面白い新人”だったけどさ……」
「今日は違う」
「うん。“総理”だもんな」
言葉にされた瞬間、その重みが胸に落ちた。
総理。
まだ実感は薄い。
だが、周囲はもう“そう扱う準備”を始めている。
議員会館へ向かう途中、今度は与党のベテラン議員たちとすれ違った。
露骨に視線を逸らす者。
値踏みするように見つめてくる者。
わざとらしく笑顔で近づいてくる者。
「おめでとう。いやあ、時代が変わったね」
言葉は祝福でも、声に温度はなかった。
その背中を見送りながら、健人は思う。
――期待されているのではない。
――試されている。
議場に入ると、ざわめきはさらに濃くなった。
席につくまでのわずかな時間、無数の視線が集まる。
記者席ではカメラのシャッター音が止まらない。
野党席の一角では、幹部クラスが腕を組み、こちらを見据えていた。
与党席では若手議員たちが小声で興奮を抑えきれずにいる。
その対照的な光景に、国会という場所の複雑さが凝縮されていた。
開会のベルが鳴る。
一瞬で、音が消えた。
静寂。
だが、それは平穏ではない。
水面下で何かが蠢いている。
坂本は、その感覚をはっきりと掴んでいた。
議事が進む間も、空気は落ち着かなかった。
ちょっとした発言に、過剰な反応が起きる。
拍手が起きる場面でも、どこか探るような間が入る。
健人は気づいていた。
今日の国会は、法案のための場ではない。
坂本健人という存在を、国会全体が“観察”している日だ。
休憩時間、控室に戻ると、真田が窓際に立っていた。
「想像以上ですね」
静かな声だった。
「ええ」
健人が答える。
「これは一時的な騒ぎじゃありません。
国会そのものが揺れている」
健人は、少し驚いて真田を見る。
「揺れている?」
「はい。
今までの前提が崩れたんです」
真田はゆっくり言葉を選んだ。
「“総理はベテランがなるもの”
“派閥をまとめた者が頂点に立つ”
その暗黙の了解が、壊れた」
真田は一度、言葉を切る。
「壊れたものは、必ず抵抗します」
田島が腕を組んで言った。
「つまり……荒れる?」
「ええ」
真田は迷いなくうなずいた。
「これから先、坂本さんの一言一言、一挙手一投足が、
過剰に解釈され、叩かれ、持ち上げられます」
健人は静かに聞いていた。
恐怖は、不思議とない。
代わりに、妙な納得があった。
――ああ、ここまで来たんだな。
初めての本会議で、立ち遅れた自分。
初質問でマイクを震わせた自分。
誰にも聞かれない演説を、声が枯れるまで続けた自分。
その一つ一つが、今のこの騒ぎにつながっている。
「国会がざわつくのは、変化を恐れている証拠です」
健人は、そう呟いた。
真田が少しだけ目を細める。
「ええ。
だからこそ、ここからが本番です」
再び議場へ戻る廊下。
すれ違う議員の数が、明らかに増えていた。
「少し話を」
「後でいいですか」
「意見を聞きたい」
健人は一つ一つ丁寧に対応しながら、歩みを進める。
逃げない。
誤魔化さない。
このざわめきの中心に立つ覚悟は、もうできている。
議事堂の天井を見上げたとき、健人は、
はっきりと感じた。
国会という巨大な生き物が、目を覚ましたのだと。
それは敵かもしれない。
味方かもしれない。
だが、間違いなく――
自分は今、その真正面に立っている。
健人は、胸元のバッジにそっと触れた。
静かに、しかし確かに、心の中で言葉を刻む。
――逃げない。
――黙らせる言葉じゃない。
――動かす結果を出す。
国会がざわつく日。
それは、坂本健人の政治が、本当に始まった日の証だった。
”国会がざわつくのは、
変化を恐れている証拠だ。
静かな政治は、何も変えない。
ざわつく政治こそが、
次の時代の入口になる。
俺はこの騒音の中で、
黙らせる言葉じゃなく、
動かす結果を出す“
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