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決戦編
第99話「国王軍本隊の到着」
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深夜の空気は、これまでとは明らかに違っていた。
扉のベルが鳴るたびに入ってくるのは、いつもの冒険者や商人ではなく、武装を固めた兵士たちばかり。剣の柄がカウンターに当たり、甲冑のきしむ音がレジの電子音と重なる。ミッドナイトマートは異世界と繋がるこの町にとって、もはや生活の場ではなく「補給の要所」となりつつあった。
「……来たぞ、本隊だ」
兵士の一人が、水袋を抱えながら小声で漏らした。
レンが目を上げると、窓越しに異様な光景が広がっていた。
松明の列がまるで蛇のように延び、街道から街へと続いている。槍を掲げた兵士たちの列。馬に跨がる騎兵の姿。そしてその中央には、王都から来たであろう大きな紋章旗が高々と掲げられていた。
街はざわついていた。
昼間から準備をしていたのか、避難していた人々が窓から顔を出し、恐る恐る行列を見ている。子供を抱いた母親が、兵士の姿を見て少し安堵したように肩を落とす一方で、老人は「いよいよ戦になるのか」と呻いた。
「すごい……あんな数の兵士、初めて見ました」
ニナが、カウンターの奥でそっと呟いた。
声は興奮と不安の入り混じったもの。彼女の視線は窓の外に釘付けになっている。
レンは袋詰めをしながら苦笑を浮かべた。
「国王軍が動いたってことは、それだけ事態が深刻ってことだろうな」
やがて扉が開き、数名の兵士が駆け込んでくる。
「温かい飲み物を頼む。夜通し移動してきたんだ」
湯気を立てるカップコーヒーを両手に受け取りながら、一人の兵士が言う。
「この町も今日から警戒区域に指定された。民間人の外出は制限されるだろう」
ニナの表情が曇る。
「じゃあ、私の師匠や……いつものお客様たちも、簡単には来られなくなるんですね」
「そうかもしれないな」
レンは短く答え、レジを打つ指を止めなかった。
兵士たちが店を後にした後も、外のざわめきは途切れない。
街の広場では、王国軍の本隊が隊列を組み、指揮官らしき男が大声で命令を飛ばしている。槍が一斉に地面を叩き、馬が嘶き、鎧の音が低い地鳴りのように響いてきた。
その音に包まれながら、レンはカウンター越しに呟いた。
「……この町も、もう戦場の一部なんだな」
ニナは黙って頷いた。彼女の手は無意識に制服の裾を握りしめている。
その夜、ミッドナイトマートには途切れることなく兵士や冒険者が訪れた。
誰もが急ぎ足で、誰もが険しい表情。だが、その誰もがレンの手から受け取る袋に礼を言い、短い安堵を浮かべるのだった。
レンはいつも通りの言葉で送り出す。
「ありがとうございました。またお越し下さいませ」
――けれど、その一言には、これまで以上に強い祈りが込められていた。
戦が迫る中でも、この扉を開けて来てくれる誰かを、明日も同じように迎えられるように。
扉のベルが鳴るたびに入ってくるのは、いつもの冒険者や商人ではなく、武装を固めた兵士たちばかり。剣の柄がカウンターに当たり、甲冑のきしむ音がレジの電子音と重なる。ミッドナイトマートは異世界と繋がるこの町にとって、もはや生活の場ではなく「補給の要所」となりつつあった。
「……来たぞ、本隊だ」
兵士の一人が、水袋を抱えながら小声で漏らした。
レンが目を上げると、窓越しに異様な光景が広がっていた。
松明の列がまるで蛇のように延び、街道から街へと続いている。槍を掲げた兵士たちの列。馬に跨がる騎兵の姿。そしてその中央には、王都から来たであろう大きな紋章旗が高々と掲げられていた。
街はざわついていた。
昼間から準備をしていたのか、避難していた人々が窓から顔を出し、恐る恐る行列を見ている。子供を抱いた母親が、兵士の姿を見て少し安堵したように肩を落とす一方で、老人は「いよいよ戦になるのか」と呻いた。
「すごい……あんな数の兵士、初めて見ました」
ニナが、カウンターの奥でそっと呟いた。
声は興奮と不安の入り混じったもの。彼女の視線は窓の外に釘付けになっている。
レンは袋詰めをしながら苦笑を浮かべた。
「国王軍が動いたってことは、それだけ事態が深刻ってことだろうな」
やがて扉が開き、数名の兵士が駆け込んでくる。
「温かい飲み物を頼む。夜通し移動してきたんだ」
湯気を立てるカップコーヒーを両手に受け取りながら、一人の兵士が言う。
「この町も今日から警戒区域に指定された。民間人の外出は制限されるだろう」
ニナの表情が曇る。
「じゃあ、私の師匠や……いつものお客様たちも、簡単には来られなくなるんですね」
「そうかもしれないな」
レンは短く答え、レジを打つ指を止めなかった。
兵士たちが店を後にした後も、外のざわめきは途切れない。
街の広場では、王国軍の本隊が隊列を組み、指揮官らしき男が大声で命令を飛ばしている。槍が一斉に地面を叩き、馬が嘶き、鎧の音が低い地鳴りのように響いてきた。
その音に包まれながら、レンはカウンター越しに呟いた。
「……この町も、もう戦場の一部なんだな」
ニナは黙って頷いた。彼女の手は無意識に制服の裾を握りしめている。
その夜、ミッドナイトマートには途切れることなく兵士や冒険者が訪れた。
誰もが急ぎ足で、誰もが険しい表情。だが、その誰もがレンの手から受け取る袋に礼を言い、短い安堵を浮かべるのだった。
レンはいつも通りの言葉で送り出す。
「ありがとうございました。またお越し下さいませ」
――けれど、その一言には、これまで以上に強い祈りが込められていた。
戦が迫る中でも、この扉を開けて来てくれる誰かを、明日も同じように迎えられるように。
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