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日常編
第22話「果実の贈り主は、律儀な騎士」
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カラン。
深夜0時過ぎ。
霧の夜を抜けて、ミッドナイトマートの扉が静かに開いた。
「……こんばんは」
落ち着いた低めの声。
入ってきたのは、漆黒の軍服に身を包んだ壮年の男だった。装飾を抑えた服には、ただならぬ威厳が漂う。
「いらっしゃいませ」
レンがいつも通りに声をかけると、男はゆっくりと店内を見渡したあと、ため息のように呟いた。
「……不思議な店だ。こんなところで、あいつが買い物をしていたとは」
「“あいつ”……?」
「銀の鎧を纏った騎士だ。部下の一人だが、最近“やたらと気が利く”と思ったら……ここで贈り物を見つけてきたらしい」
レンはすぐにピンときた。
「ああ、“星屑の果樹園セット”ですね。……ご本人ですか、受け取られたのは」
「そうだ。あれは見事な贈り物だった。果実の輝きも、味も……それよりも、気遣いそのものに驚かされた」
男は店内を一巡しながら、ゆっくりと語り続ける。
「礼節に厚い騎士だが、私に贈り物をするとは思っていなかった。……どうやら、この店で何か“変わった”のだろうな」
「変わった……?」
「“贈る側”になって、ようやく理解したのだろう。“誰かのために何かを選ぶ”という行為の意味を」
レンは静かにうなずいた。
「その騎士さん、今でも毎晩のように通ってますよ。たぶんまた、何か探しに来ると思います」
「……ならば、その時は“ありがとう”と伝えてくれ。……それだけで十分だ」
男は手に取った商品——ジャスミン茶と、控えめなゼリーの詰め合わせを持ってレジへと来た。
「合計で610ストーになります。……ナイポ、お作りしますか?」
「いや、それはあいつに譲っておこう」
袋を受け取ると、男は一度だけ頭を下げ、静かに店を後にした。
レンとニナは、いつもの言葉でその背中を見送る。
「ありがとうございました。またお越し下さいませ」
深夜0時過ぎ。
霧の夜を抜けて、ミッドナイトマートの扉が静かに開いた。
「……こんばんは」
落ち着いた低めの声。
入ってきたのは、漆黒の軍服に身を包んだ壮年の男だった。装飾を抑えた服には、ただならぬ威厳が漂う。
「いらっしゃいませ」
レンがいつも通りに声をかけると、男はゆっくりと店内を見渡したあと、ため息のように呟いた。
「……不思議な店だ。こんなところで、あいつが買い物をしていたとは」
「“あいつ”……?」
「銀の鎧を纏った騎士だ。部下の一人だが、最近“やたらと気が利く”と思ったら……ここで贈り物を見つけてきたらしい」
レンはすぐにピンときた。
「ああ、“星屑の果樹園セット”ですね。……ご本人ですか、受け取られたのは」
「そうだ。あれは見事な贈り物だった。果実の輝きも、味も……それよりも、気遣いそのものに驚かされた」
男は店内を一巡しながら、ゆっくりと語り続ける。
「礼節に厚い騎士だが、私に贈り物をするとは思っていなかった。……どうやら、この店で何か“変わった”のだろうな」
「変わった……?」
「“贈る側”になって、ようやく理解したのだろう。“誰かのために何かを選ぶ”という行為の意味を」
レンは静かにうなずいた。
「その騎士さん、今でも毎晩のように通ってますよ。たぶんまた、何か探しに来ると思います」
「……ならば、その時は“ありがとう”と伝えてくれ。……それだけで十分だ」
男は手に取った商品——ジャスミン茶と、控えめなゼリーの詰め合わせを持ってレジへと来た。
「合計で610ストーになります。……ナイポ、お作りしますか?」
「いや、それはあいつに譲っておこう」
袋を受け取ると、男は一度だけ頭を下げ、静かに店を後にした。
レンとニナは、いつもの言葉でその背中を見送る。
「ありがとうございました。またお越し下さいませ」
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