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レガール卿視点
02. 王家の呪い
しおりを挟む即位五年の記念式典当日、パレード直前。
「何をお考えですか!カタリナ妃をパートナーとしてパレードに出るなどと!」
「お前こそ何を言っている?だからこそ、あの法改正があったのだろう!ようやくあの女も自分の立場を理解したということだ」
ははは!と高らかに笑う陛下に続けて、準備を進めていた御者や周囲の侍従、侍女たちもくすくすと笑う。
事態を把握しているのは私しかいないのか。
民の前にカタリナ様が正妃のように出るなど、それはクォンタム家への裏切りだ。
どんな状況であれ、ステファニー様が正妃として振る舞われているからこそクォンタム家は何も言えないでいた。だが、それを覆す出来事が起こったのだとすれば?
我が国から、クォール商会は手を引く。
すでに国全土にその販売網を広げていた国一番の商会が、この国から撤退する。
そうなれば各地の物流がどうなることか、この王は、周囲の者は何も考えていないのか!
国を捨てると決めた。決めたが、これはあんまりだ。
「お考え直しください!」
「煩いぞレガール」
「適材適所じゃない?私はルークと一緒にパレード、ステファニー様にはあなたと一緒に貴賓をお迎えいただいたら?だって私、外国語得意じゃないし」
「そういう話ではありません!どこの国に側妃をパレードに参加させ、正妃を裏方に押し込む国がありますか!」
「文句なら父に言えレガール!!俺はあの女を迎え入れるなんぞ嫌だと、心底拒絶したのだぞ!!それを父が無視して進め、あの女を正妃にしてしまったのだ!!」
たしかに、陛下はステファニー様を正妃とすることに大分抵抗していた。
先王にもカタリナ様を紹介していたにも関わらず、先王は王命を発してまでステファニー様を正妃とさせたと本気で思っているのだ、陛下は。
元老院が暴走したせいだと、私が立ち会いのもと先王から陛下に伝えられていたにも関わらず。
この調子では呪いのこともお忘れになれているだろう。
王太子時代は優秀だが、王になると途端にどう努力しても足りなくなる。周囲の助言を得てやっとまともな運用ができる。
だからこそ王は、賢い女性を王妃とする。少しでも自分が王としてまともな判断ができるようにと。
…この呪いは、遥か昔から続いているとされている。ヴァット王家の血筋を持つ者が王になれば、愚かな王に成り果てるという呪い。
遥か昔、当時のヴァット王や民が創世神エレヴェド様を侮辱した。
エレヴェド様はとても心の広い御方だ。だから御本神は気になさらなかったようだが、エレヴェド様を慕うとある神が怒り狂ったという。
―― この国は愚かな王がお似合いだ。
そうしてヴァット王家は呪いを受けた。
王族が玉座から退けば海の加護を失う。海洋国家として加護が失くなってしまえば、貿易港として発展した我が国が廃れてしまう。
過去に一度だけ、王家に子が生まれたもののまだあまりにも幼いため、一時的に王の血筋を持つ他家が玉座に着いたことがある。その途端、海難事故が多発したと記録されている。
幼い王子を即位させたところ多発していた海難事故はたちどころに収まり、豊漁が続いたという。
民たちはヴァット王家の血筋であれば安泰だと理解したが、そうではない。傍系の血筋ではダメだ。直系でなければならないのだ。
そして愚か者を王として据え続けなければならないという、神からの罰なのだ。
本来、この話は王家の秘匿。王から次代の王へのみ伝わる話なのだが、どうして私がそれを知っているのかというと、我がレガール侯爵家、ウォレット侯爵家、カリスト伯爵家のみ例外だからだ。
我々の先祖から伝わる話だが…神は、我ら一族には呪いをかけなかったのだ。
―― お前たちはかの御方を想い、あの愚かな王を最後まで諌めていた唯一だ。だからお前たちは呪わない。今後何があっても、我はそなたたちを庇護しよう。
先祖は深く感謝しつつ、それでも民は見捨てられぬと王たちをサポートすることにした。
それが今日の三家に繋がるのだ。
少しでも賢く、王を支える娘を王妃とし、我らは陰日向支えようと国の安寧を望んだのだ。
《それでもまあ、ここまでよく持った方だ》
声が聞こえる。
《良い、気にするな。民を見捨てること、もう既に我が許している。お前たちの献身を我も、かの御方もずっと見ていた。かの御方のお許しもある》
懸念していたひとつが解消された。
ああ。やはり、神は見ていてくださったのだ。
《おそらく今宵で潮目が変わる。それに遅れず、ついていくことだ》
「――から、パレードにはカタリナが出る!分かったな、レガール!」
「……はい」
「きゃーー!やったぁ、ルークとパレードだなんて楽しみだわ!」
陛下ではなく、神へ応えた。
それに気づかぬ愚か者どもは、沈んでいくのだろう。
◇
ステファニー様と共に、裏で各国の賓客を出迎える。
皆、なぜここに正妃であるステファニー様がと訝しんでいた。特に何も言わないが、反応で分かる。
どうしてステファニー様がすんなりとカタリナ様に譲ったのか、分かった。
ヴァット王は正妃ではなく側妃を優先するという事実を他国に知らしめているのだ。
神の話では今宵、つまり記念式典パーティーで何か事が起こるということ。
…この王都に残っているウォレットとカリストは当主のみ。我が家と同じく、次期当主は他国に逃した。カリストに至っては離縁したらしい。
今宵で潮目が変わる、という神のお言葉は彼らにも伝えられていたらしい。
賓客出迎えの前、信頼する執事のメフィストから「我々も共にゆこう」とふたりの伝言を受け取った。
『ようこそ、エインスボルト王国第一王子エヴァン殿下、第一王女ツェツィーリア殿下。まあ、シェル…グランパス卿にヤージェ先生ではありませんか』
『お招きありがたく、王妃殿下。従者二名までは許可いただいていたので、学生時代共に王妃殿下と仲良くさせていただいたおふたりをお連れしました』
『……ステフ…いや、ステファニー王妃殿下。お久しぶりです』
『お久しぶりです、ステファニー王妃殿下。国元に帰られて以来ですかな』
そんなことを考えながら対応をこなしていると、エインスボルト王国からの賓客が来た。
ステファニー様と、年若い男性が親しげに呼び合おうとして訂正したのを見る。
…ああ。そうか。彼が、ステファニー様と婚約寸前だった方か。
シェルジオ・グランパス伯爵。
若年でありながら、エヴァン第一王子と共にエインスボルト王国竜騎士団のトップを務める、王国最強と謳われる竜人族。
爬虫類に似た縦長の瞳孔の金色の瞳、燃えるような赤い髪に赤黒い角と、竜人の特徴がしっかりと現れている。
恙無く、挨拶を終えて次の賓客が来るまでの時間に、ステファニー様に尋ねた。
「…王妃殿下、不躾ながらひとつ、質問よろしいでしょうか?」
「次の招待客が来るから、手短に」
「はい。エインスボルトから来た従者のうち一名…グランパス卿とは、学生時代仲がよろしかったのですか?」
―― ステファニー様はその質問に目を丸くし、それから瞳を伏せて顔を反らした。
「…殿下?」
「……恋仲だったの」
「え」
「将来の約束を、していたの。私、セントラル・ヴェリテ学園に留学していたでしょう?あそこで出会って…最終学年に上がったら、お互い婚約する予定だったのよ。でもあとはご存知のとおり」
ああ。
憂いの表情を浮かべる彼女は、本当に彼を愛していたのだろう。
「安心して。…彼の元に行きたくても、できないわ」
「…はい」
今は。
最後にそんな言葉が続きそうなニュアンスに、私は口を閉ざした。
恐らく、今夜の夜会で何かが起こるのだろう。
ステファニー様の学生時代の繋がりで来たという随行者は、グランパス伯爵の他に白虎の獣人であるヤージェという方がいた。
知らぬ者はいない。長年、国際裁判長官を勤め上げられ、公平な判断を下してきた方だから。
その方が来たということは、法律の穴を突くのだろう。
あの、王と王妃が離婚できない法律を。
私も法律には精通している方だと自負しているが、その穴を突く場合、国際条約を持ってくる必要がある。
該当する条約はたったひとつだ。
すべての賓客を迎え入れたあと、現宰相補佐官のウルバン伯爵が嬉々として「パレードでは陛下とカタリナ様への声援が凄かった」と報告してきた。
バックスの言っていた通り、民も堕ちたのだろう。
……国を滅ぼすほどの力を持つ者の運命の番を不幸にしている国の命運など、風前の灯火でしかない。
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