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パーティー
パーティー5
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やっとダンスの場から離脱出来たソフィアは体の疲れをひしひしと感じていた。こんなに踊ったのは初めてだった。足はフラフラだし、喉もカラカラだ。
(さっき上の階にシャーロットが見えたから、そこに行って休まなきゃ)
最初の頃こそ楽しかったダンスだったが、途中から断りたかったが、断り方がわからないままずるずる居続けて踊ってしまっていた。なんせ、こんなにダンスを申し込まれたこともなかったものだから、スマートに断る方法など知ってるわけがなかった。相手に不快感を与えずどう断ればいいのか悩んだまま、足を止めることが出来なくてヘトヘトだった。
階段を上るのにも手摺りの存在が今日ほどありがたかったことはない。生まれたての子鹿とまではいかなくても、隠しきれないおぼつかない動き。やっと上りきったところで、ソフィアはシャーロットの水色のドレスを視界に捉えていた。彼女の青い目の色に合わせたドレスだ。シャーロットの隣にはダニエルが居て、二人は談笑していた。
(シャーロット夫妻に出会えたことは神様の思し召しだわ)
休息の地があることに安堵する。あそこに行けば緊張から解放されることにソフィアは感謝していた。いつだって孤立無援だった。父と出かけると、とにかく全員父やソフィアを疎ましがった。ほぼ初対面のソフィアの父から高圧的に寄付を求められれば誰でもそう感じる。ソフィアは肩身が狭くて、どこの会場でも隅にピッタリくっついていた。
「あら、ソフィア様」
階段を踏みしめて上がっていたので、声を掛けられて顔を上げた。知らない女性が見下ろしている。
「えっと……こういう場所には不慣れで……あなた様のお名前を──」
「知らなくて結構ですわ。この先も仲良くなることなどありえませんもの」
不躾な態度に戸惑うが、きっとソフィアの父を知っているのだろうと解釈した。なぜ、声を掛けてきたのか分からないが、そういうことならとソフィアは横を通り過ぎようとした。
「私、ヴィンセント様にはクリスティン様が最も相応しいと思っておりますのよ。ですから──」
行く手を阻むように見せられた掌《てのひら》を凝視したのは、なぜという疑問を感じたからだった。なぜ、この人は手を広げて見せたのだろう、と。その掌が、ソフィアの両肩を押すなどとは微塵も考えなかったのだ。
「えっ」
押された時も、自分に何が起きたのかソフィアは理解してなかった。踊り疲れた足でなかったら耐えられたかもしれないが、ソフィアの体は衝撃を吸収することなく、なされるがままにバランスを失い、階段を転がり落ちた。真後ろに倒れず、半ひねりで階段に倒れ込み、そのままゴロゴロと岩のように落ちていった。
「キャー! ソフィア様がよろめいて階段から落ちてしまったわ!」
遠くで叫ぶ声が聞こえたが、ソフィアは下の階までそのまま転がり落ち、言葉を発することができずにうめき声を上げた。
「ソフィア!」
バタバタと駆け下りてくる足音と、シャーロットの声を聞いて、ソフィアは暗闇に引っ張られるように気を失った。
「ああ、なんてことなの……」
ソフィアの意識がないことにシャーロットが慌てると、夫のダニエルがシャーロットの肩に手を置いた。
「意識を失っているようだ。ちょっとどいてくれるかなロッテ。ソフィアを運ぼう」
冷静なダニエルを仰ぎ、涙ぐんでいたシャーロットがギュッと目を瞑ってから、気持ちを奮い立たせるように見開いた。
「そうね。家に連れて帰りましょう。友達に医師の手配をお願いしてくるわ。先に馬車に行っていて」
ダニエルはソフィアの体をすくい上げてそのまま抱えた。シャーロットはソフィアの顔を覗き込んで「ああ、ソフィア。頭を打ってないといいけど……」とソフィアの頬に手を当てがった。
「心配は後にして、医師の手配をお願いしておいで」
ダニエルの言葉に頷くと名残惜しそうにソフィアから手を離し、シャーロットが駆けていく。ダニエルはソフィアの様子を窺いながら外へと向けて歩き出した。途中、王室の侍女が寄ってきて部屋を用意出来るがどうするかと聞いてきた。
「ああ、お気持ちだけ頂いておくよ。ソフィアはこういう場には不慣れだから、目を覚ました時に王室の世話になったと知ったら萎縮してしまうからね」
王室の侍女は理解を示して道を開けた。
そこでまた歩みを進めると、次はヴィンセントが騒ぎを聞きつけ駆けつけてきた。
「ソフィアが階段から落ちたって?」
幾分、ヴィンセントから焦りを感じ取れ、ダニエルはホッとしていた。冷たい仕打ちをしてきたことは知っているが、人の心を失ったわけではないらしい。
「ああ。意識を失っているから家に連れて帰って医師に見せるよ」
「待ってくれ、連れて帰るということはロッテの家へ? 私の家に連れ帰ります」
ダニエルはヴィンセントの表情をまじまじと見つめた。
「ソフィアは怪我をしているかもしれない」
「もちろん、わかってます。さぁ、ソフィアをこちらに」
ダニエルが抱いていたソフィアを自分の方に寄越せとヴィンセントは要求してきた。ダニエルはさすがに渡すのを渋っていた。ヴィンセントがただ単に建前で家に連れ帰ろうとしているなら、渡すべきではないだろう。
「頭を打っている場合は体調が急変するかもしれないぞ。優しくしてやれないなら──」
探りを入れたダニエルにヴィンセントが焦れて、無理やりソフィアの体をダニエルから譲り受けた。
「私とて馬鹿じゃない。わかっていますよ」
本当にそうかと聞き返すのはさすがにしなかった。それにソフィアの顔を覗き込んで心配そうなヴィンセントを見ていたら、ダニエルの中でこれなら望みがあるかもしれないという気持ちが湧き上がっていた。
(本当に心配しているようだな。それなら、これを機に夫婦関係が改善するかもしれないしな)
妻のシャーロットが望むような仲睦まじい夫婦になる可能性を信じて、ダニエルはヴィンセントにソフィアを任せることにした。
(さっき上の階にシャーロットが見えたから、そこに行って休まなきゃ)
最初の頃こそ楽しかったダンスだったが、途中から断りたかったが、断り方がわからないままずるずる居続けて踊ってしまっていた。なんせ、こんなにダンスを申し込まれたこともなかったものだから、スマートに断る方法など知ってるわけがなかった。相手に不快感を与えずどう断ればいいのか悩んだまま、足を止めることが出来なくてヘトヘトだった。
階段を上るのにも手摺りの存在が今日ほどありがたかったことはない。生まれたての子鹿とまではいかなくても、隠しきれないおぼつかない動き。やっと上りきったところで、ソフィアはシャーロットの水色のドレスを視界に捉えていた。彼女の青い目の色に合わせたドレスだ。シャーロットの隣にはダニエルが居て、二人は談笑していた。
(シャーロット夫妻に出会えたことは神様の思し召しだわ)
休息の地があることに安堵する。あそこに行けば緊張から解放されることにソフィアは感謝していた。いつだって孤立無援だった。父と出かけると、とにかく全員父やソフィアを疎ましがった。ほぼ初対面のソフィアの父から高圧的に寄付を求められれば誰でもそう感じる。ソフィアは肩身が狭くて、どこの会場でも隅にピッタリくっついていた。
「あら、ソフィア様」
階段を踏みしめて上がっていたので、声を掛けられて顔を上げた。知らない女性が見下ろしている。
「えっと……こういう場所には不慣れで……あなた様のお名前を──」
「知らなくて結構ですわ。この先も仲良くなることなどありえませんもの」
不躾な態度に戸惑うが、きっとソフィアの父を知っているのだろうと解釈した。なぜ、声を掛けてきたのか分からないが、そういうことならとソフィアは横を通り過ぎようとした。
「私、ヴィンセント様にはクリスティン様が最も相応しいと思っておりますのよ。ですから──」
行く手を阻むように見せられた掌《てのひら》を凝視したのは、なぜという疑問を感じたからだった。なぜ、この人は手を広げて見せたのだろう、と。その掌が、ソフィアの両肩を押すなどとは微塵も考えなかったのだ。
「えっ」
押された時も、自分に何が起きたのかソフィアは理解してなかった。踊り疲れた足でなかったら耐えられたかもしれないが、ソフィアの体は衝撃を吸収することなく、なされるがままにバランスを失い、階段を転がり落ちた。真後ろに倒れず、半ひねりで階段に倒れ込み、そのままゴロゴロと岩のように落ちていった。
「キャー! ソフィア様がよろめいて階段から落ちてしまったわ!」
遠くで叫ぶ声が聞こえたが、ソフィアは下の階までそのまま転がり落ち、言葉を発することができずにうめき声を上げた。
「ソフィア!」
バタバタと駆け下りてくる足音と、シャーロットの声を聞いて、ソフィアは暗闇に引っ張られるように気を失った。
「ああ、なんてことなの……」
ソフィアの意識がないことにシャーロットが慌てると、夫のダニエルがシャーロットの肩に手を置いた。
「意識を失っているようだ。ちょっとどいてくれるかなロッテ。ソフィアを運ぼう」
冷静なダニエルを仰ぎ、涙ぐんでいたシャーロットがギュッと目を瞑ってから、気持ちを奮い立たせるように見開いた。
「そうね。家に連れて帰りましょう。友達に医師の手配をお願いしてくるわ。先に馬車に行っていて」
ダニエルはソフィアの体をすくい上げてそのまま抱えた。シャーロットはソフィアの顔を覗き込んで「ああ、ソフィア。頭を打ってないといいけど……」とソフィアの頬に手を当てがった。
「心配は後にして、医師の手配をお願いしておいで」
ダニエルの言葉に頷くと名残惜しそうにソフィアから手を離し、シャーロットが駆けていく。ダニエルはソフィアの様子を窺いながら外へと向けて歩き出した。途中、王室の侍女が寄ってきて部屋を用意出来るがどうするかと聞いてきた。
「ああ、お気持ちだけ頂いておくよ。ソフィアはこういう場には不慣れだから、目を覚ました時に王室の世話になったと知ったら萎縮してしまうからね」
王室の侍女は理解を示して道を開けた。
そこでまた歩みを進めると、次はヴィンセントが騒ぎを聞きつけ駆けつけてきた。
「ソフィアが階段から落ちたって?」
幾分、ヴィンセントから焦りを感じ取れ、ダニエルはホッとしていた。冷たい仕打ちをしてきたことは知っているが、人の心を失ったわけではないらしい。
「ああ。意識を失っているから家に連れて帰って医師に見せるよ」
「待ってくれ、連れて帰るということはロッテの家へ? 私の家に連れ帰ります」
ダニエルはヴィンセントの表情をまじまじと見つめた。
「ソフィアは怪我をしているかもしれない」
「もちろん、わかってます。さぁ、ソフィアをこちらに」
ダニエルが抱いていたソフィアを自分の方に寄越せとヴィンセントは要求してきた。ダニエルはさすがに渡すのを渋っていた。ヴィンセントがただ単に建前で家に連れ帰ろうとしているなら、渡すべきではないだろう。
「頭を打っている場合は体調が急変するかもしれないぞ。優しくしてやれないなら──」
探りを入れたダニエルにヴィンセントが焦れて、無理やりソフィアの体をダニエルから譲り受けた。
「私とて馬鹿じゃない。わかっていますよ」
本当にそうかと聞き返すのはさすがにしなかった。それにソフィアの顔を覗き込んで心配そうなヴィンセントを見ていたら、ダニエルの中でこれなら望みがあるかもしれないという気持ちが湧き上がっていた。
(本当に心配しているようだな。それなら、これを機に夫婦関係が改善するかもしれないしな)
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